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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第530話 異例の決勝

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

 ガイルとの試合を終え、選手用の待機場所へ戻った。


「いてて……」


 左肩に手を当てて回復魔法を使う。


 出場選手は大会中、他者からの治療は受けられないので自分で何とかするしかない。


 淡い光に包まれ、少しずつ痛みが引いていく。


 脇腹も腹も痛いが、全部を治すつもりはない。


 決勝が残っている以上、できるだけ魔力を残しておきたい。


「リオン!」


 後ろから声がした。


 振り返るとガイルが立っていた。


「ガイルは医務室に行かなくていいの?」


「もう行ったぞ!」


「戻ってくるの早くない?」


「もう一試合の準決勝を観たいからな!」


 右脚を見る。


 さっきよりは普通に立てている。


「回復魔法使ってる俺より回復早いんだね」


「そうか?リオンも決勝までには治せよ!」


「そんな早く治らないよ」


「ははは!」


 本当に元気だな。


 ただ、俺はガイルとの試合でかなり消耗した。


《縮地》、身体強化、回復魔法。


 それに火魔法、水魔法、風魔法も何度も使っている。


 身体だけじゃなく、魔力も万全とは言えない。


「次、始まるぞ!」


「うん」


 準決勝第二試合。


 アルベルト・グランツ。


 ディート・ハーゲン。


 勝った方が、決勝で俺と戦う。


 ガイルと一緒に選手用の観戦場所へ移動した。


 ◇


 二人が試合場へ出てくると、観客席から大きな歓声が上がった。


「アルベルトだ!」


「優勝候補だぞ!」


「でも傭兵の方も強い!」


 アルベルトは、ここまでほとんど危なげなく勝ち上がってきた。


 一回戦ではハーウェイ侯爵領騎士団のフェルナンドを圧倒した。


 二回戦では宮廷魔術師のエリオットを、魔法を使う前の動きから読んで倒した。


 対するディートは派手じゃない。


 カインとの試合でも、ミレーヌとの試合でも、多少の攻撃なら受けていた。


 その代わりに、攻撃をされながらも一番欲しい位置を取る。


 相手の動きを見て、待って、一度見つけた隙を逃さない。


「どっちが勝つと思う?」


 ガイルが聞いてきた。


「分からない」


「アルベルトじゃないのか?」


「剣だけなら、たぶんアルベルトさんの方が上だと思う」


「じゃあアルベルトだろ!」


「でも、ディートさんって、それだけで決まる相手じゃない気がする」


「そうか?」


「うん」


 二人が王族席へ礼をして、それぞれの位置へ戻る。


 アルベルトが木剣を構えた。


 ディートも構える。


「始め!」


 先に動いたのはアルベルトだった。


 素早く正面から踏み込み、木剣を振る。


 ディートが受ける。


 ガンッ!


 すぐに二撃目。


 今度はディートがかわす。


 三撃目。


 木剣同士がぶつかった。


「二人とも強いな!」


 ガイルが嬉しそうに言う。


「うん」


 明らかにアルベルトが押している。


 ディートは受け、かわしながら少しずつ下がっていく。


 木剣が肩をかすめた。


 続けて脇腹。


 バシッ!


「ぐっ!」


 まともに入った。


「アルベルトだ!」


「やっぱり強い!」


 観客席が沸く。


 それでもディートは倒れない。


 距離を取りながら、ずっとアルベルトを見ている。


「……」


 何か変だ。


「どうした?」


 ガイルが聞く。


「ディートさん、ずっとアルベルトさんの剣筋を見てる感じがする」


「戦ってるんだから当たり前だろ」


「うん。それに剣だけじゃなくて」


 足。


 肩。


 踏み込み。


 攻撃を受けた直後まで、アルベルトの動きから目を離していない。


 再びアルベルトが仕掛ける。


 右からの一撃を受ける。


 次はかわす。


 左へ回り込まれても対応する。


 最初より反応が早い。


「アルベルトさんの動きに慣れてきてる」


「戦いながらか?」


「たぶん」


 アルベルトも気づいたらしい。


 一度距離を取った。


 二人が向かい合う。


 そして、アルベルトが一気に踏み込んだ。


 さっきまでより速い。


 勝負を決めに来た。


 ディートがかわそうとする。


 間に合わない。


 バシッ!


「ぐっ!」


 木剣が肩へ入った。


「決まった!」


 観客席から声が上がる。


 でも、ディートは下がらなかった。


 打たれた勢いのまま、逆に一歩踏み込んだ。


「なっ!」


 アルベルトの懐へ入る。


 肩をぶつけて体勢を崩す。


 それでもアルベルトはすぐに踏ん張った。


 二人が同時に木剣を振る。


 一瞬、アルベルトの剣先はディートの首元まであと少し。


 でも、ディートの木剣はすでにアルベルトの首へ触れていた。


「そこまで!」


 審判が二人の間へ入る。


 一瞬の静寂。


「勝者――ディート・ハーゲン!」


 直後、大歓声が上がった。


「うわあああああっ!」


「傭兵が勝った!」


「アルベルトが負けたぞ!」


「優勝候補が!」


 ガイルも目を丸くしている。


「勝ったな……」


「うん」


 本当に紙一重だった。


 ほんの少し違えば、アルベルトが勝っていたと思う。


 アルベルトも自分の首元を確認してから、ディートを見る。


「……参った」


「紙一重だったな」


 ディートが答えた。


 二人が握手をする。


 観客席から大きな拍手が送られた。


 アルベルトも強かったが、勝ったのはディート。


 決勝の相手が決まった。


 ◇


「……あの人がリオンの決勝の相手なんだ」


 観客席。


 ミラが試合場から去っていくディートを見ていた。


「強かったですね」


 隣のフィーネも表情を引き締める。


「あれだけ攻められていたのに、最後は逆に勝ってしまいました」


「それより、リオンは大丈夫なのか?」


 クラウスが選手用の待機場所の方を見る。


「ガイルとの試合、かなり攻撃を受けてただろ」


「回復魔法を使っていましたけど、全部は治せていないと思います」


 ナディアが答えた。


 ミラの表情が少し曇る。


「左肩もかなり強く打たれてたよね……」


「でも、相手も同じじゃないかしら?」


 レティシアが言った。


「対戦相手もかなり攻撃を受けてたよ」


「確かに」


 オスカーが頷く。


「条件はそこまで変わらないか」


 クラウスは腕を組んだまま試合場を見る。


「ただ、あの傭兵はやりにくそうだな」


「どういうこと?」


 ミラが聞く。


「攻撃を当てても、それがあの人の狙いかもしれない」


「……ああ」


「カインとの試合もそうだった。

 今のアルベルトとの試合も、攻撃を受ける代わりに自分が有利になる場所へ入ってる」


「嫌な戦い方ですね」


 フィーネが呟く。


「リオンさんが一番嫌がりそうな相手かもしれません」


 ミラは少し黙った。


 それから、試合場を見て頷く。


「でも、リオンだってここまで全部違う相手に勝ってきたから」


「そうね」


 レティシアが笑う。


「きっと何か考えるはずよ。リオンのことだから」


「うん」


 ミラの膝の上でピコも体を動かした。


「ピー!」


「絶対勝ってほしいな」


 ミラはそう言って、選手用の通路へ視線を向けた。


 ◇


「アルベルトが負けたか……」


 王族専用席。


 国王が試合場を見ながら呟いた。


「最後まで内容では劣っていませんでした」


 アルフレッド第一王子が答える。


「ただ、最後の一手だけはハーゲンが上回りました」


「あの一撃を受けて、前へ出るとはな」


「普通なら一度距離を取る場面でしょう。それを逆に利用しました」


 国王がディートへ目を向ける。


「前回も前々回も、決勝に残ったのは王国の騎士だったが――」


「はい」


「今回は十五歳の学院生と傭兵か」


 国王が少し考える。


「騎士たちの力が落ちたのか?」


「私はそうは思いません」


 アルフレッドが答えた。


「グレゴールもアルベルトも十分な強さを見せています。

 今回は学院代表や冒険者、傭兵に、それ以上の実力者が集まったと見るべきでしょう」


「今大会が特殊ということか」


「はい」


 国王が試合場を見渡す。


「それは国にとって良いことなのか、悪いことなのか」


「両方ではないでしょうか」


「両方?」


「騎士団の外にも、これほどの実力者がいる。

 それ自体は王国にとって良いことだと思います」


 アルフレッドが続ける。


「一方で、王国を守る騎士たちが、この結果に満足していいわけでもありません」


「追われる立場にもなっていたということか」


「競い合う相手が増えたとも言えます」


 国王が少し笑った。


「それなら、悪い話ばかりでもないな」


 エドガーも頷く。


「強い者が騎士団の外にもいると分かったこと自体、王国には意味があると思います」


「そうだな」


 セレナも試合場から目を離さずに口を開く。


「陛下。今回の結果だけで、王宮騎士や各領の騎士が弱くなったと判断するのは早いかと思います」


「理由は?」


「アルベルトもグレゴールも、十分に強さを見せています。

 今回は、それ以上の相手がいただけではないでしょうか」


「お前もそう見るか」


「はい」


 国王はしばらく試合場を見たあと、小さく頷いた。


「確かに。今大会が特殊なのだろうな」


 少し間を置いて、国王が今度はエドガーとセレナを見る。


「では、決勝はどちらが勝つと思う?」


 エドガーが少し考える。


「簡単には言えません。リオンはガイルとの試合でかなり消耗しています」


「ハーゲンもアルベルトから何度か攻撃を受けているぞ」


「はい。どちらも万全ではありません」


 国王がセレナを見る。


「お前はどう見る?」


「私も、今の時点ではどちらが上とは言い切れません」


「ほう」


「ただ、リオンには戦いながら相手に合わせて戦い方を変える強さがあります」


「先ほども、試合の最中に身体強化の使い方を変えていたな」


「はい」


 セレナが頷く。


「一方で、ハーゲンという傭兵も、ここまで三人の全く違う相手に合わせて勝っています。

 そこはリオンにとって厄介だと思います」


 アルフレッドが二人を見る。


「つまり、どちらが先に相手へ適応するか」


「私はそう思います」


 エドガーが答えた。


 国王が小さく頷く。


「十五歳の学院生と、騎士団にも属していない傭兵か。

 どちらが勝っても、これまでとは違う結果になるな」

 

「はい。ただ、ここまでの試合を見る限り、どちらも決勝進出にふさわしいかと」


 アルフレッドの言葉に、国王が笑った。


「そうだな。肩書で勝敗が決まる大会ではない」


 そして再び試合場へ視線を戻した。


 ◇


 観客席もまだ騒がしい。


「決勝はリオンとディートか!」


「十五歳の学院生と傭兵だぞ!」


「どっちが勝つ?」


「俺はディートだな。経験が違う!」


「いや、リオンだろ! A級冒険者にも勝ったんだぞ!」


「でもディートは王宮騎士を倒して、アルベルトまで倒した!」


「リオン・ハルだって、王宮騎士を倒したガイルに勝ってるだろ!」


 あちこちで同じような話をしている。


 どちらが勝つのか予想する声や、観客同士で言い合う声、笑い声が重なり、決勝を待つ会場の熱がどんどん高まっていく。


 ◇


 俺は一度、待機場所へ戻った。


 椅子へ座り、左肩を動かす。


「まだちょっと痛いな……」


 もう一度、回復魔法を使う。


 試合中より少し丁寧に治すが、完全には戻らなそうだ。


 身体だけじゃなく、魔力も減っている。


 回復に使った分だけ、決勝で使える魔力は少なくなる。


 どこまで治すか、どこまで魔力を残すかを考えながら調整する。


 相手も万全じゃない。


 さっきの試合ではアルベルトから肩へまともに一撃を受け、それ以外にも何度か攻撃を受けている。


 決勝まで残れば、当然か。


 目を閉じて、これまでのディートの試合を思い返す。


 カイン、ミレーヌ、アルベルト。


 相手は全員違った。


 でも、一つだけ共通している。


 ディートは、ただ攻撃を受けることを怖がらないわけじゃない。


 受けてもいい攻撃と、絶対に受けてはいけない攻撃を分けている。


 致命的な攻撃は避ける。


 多少のダメージなら、その代わりに一番欲しい位置を取る。


 だから相手からすると、攻撃を当てたはずなのに、次の瞬間には自分が不利になっている。


 いかにも実戦的な戦いだ。


「……戦いにくそうだな」


 リゼットとも違う。


 ガイルとも違う。


 今まで戦ってきた相手の中で、一番実戦そのものに慣れている人かもしれない。


 ふぅ。と一息吐く。


 徐々に気持ちが昂ってきているのを感じる。


 ようやくここまで来たんだ。


 決勝もできることをやるしかない。


 さぁ、やるぞ!


 ◇


「決勝進出選手、準備をお願いします」


「はい」


 立ち上がり、木剣を持つ。


 肩を回してみる。


 さっきより痛みもなく動かせる。


 これだけ動けば十分だ。


 通路へ出ると、少し先にディートがいた。


 近くで見ると、向こうもかなり消耗している。


 服には土がつき、左肩を少し庇うように歩いていた。


「十五歳か」


 ディートが言った。


「はい」


「大したもんだ」


「ディートさんも三試合勝ってますよね」


「まあな」


「さっきの試合、見てました」


「俺もお前の試合を見てたよ。ガイル・ベイルン、強かったな」


「強いです。本当にぎりぎりでした」


「こっちも同じだ」


 ディートが左肩を軽く動かし、少し顔をしかめた。


「お互い万全じゃないですね」


「決勝まで来れば、そんなもんだろ」


「ですね」


 通路の先から、さらに大きな歓声が聞こえてくる。


 ディートが前を見る。


「行くか」


「はい」


 二人で試合場へ出た瞬間、今までで一番大きな歓声が押し寄せてきた。


「来たぞ!」


「決勝だ!」


「リオン!」


「ディート!」


「どっちが勝つんだ!」


 その中に、聞き慣れた声が混じった。


「リオン!」


 ミラだ。


 観客席を見ると立ち上がっている。


「絶対勝ってね!」


「リオンさん! 頑張ってください!」


 フィーネの声も聞こえた。


 クラウスやオスカー、レティシアもこちらへ向かって声を上げている。


「ピー! ピー!」


 もちろんピコも一緒だ。


 俺はそちらへ軽く手を上げた。


「聞こえたみたい」


 ミラが嬉しそうに笑う。


「良かったですね」


 フィーネも笑った。


 試合場の中央へ向かう。


 観客席のあちこちでは、まだ勝敗予想が続いていた。


「リオンだ!」


「いや、ディートだろ!」


「十五歳の優勝が見たい!」


「傭兵が優勝するところも見てみたい!」


「どっちが勝っても歴史に残るぞ!」


 その言葉が耳に入った。


 確かに、十五歳の学院生が優勝しても、傭兵が優勝しても、これまでとは全く違う決勝になる。


 どちらが勝っても、今日の試合は長く語られるかもしれない。


 俺とディートが並び、王族専用席へ向かって礼をする。


 それぞれの位置へ戻った。


 ディートが木剣を構える。


 低い。


 余計な力が入っていない。


 俺も木剣を構えた。


 身体は痛い。


 魔力も万全じゃない。


 それは向こうも同じだ。


 ここまで戦ってきた三試合の消耗も含めて、これが決勝だ。


 審判が俺たちを交互に見る。


「両者、準備はいいな?」


「はい」


「ああ」


 観客席の声が少しずつ遠くなる。


 目の前のディートだけを見る。


 審判が手を上げた。


「王都武闘大会、決勝戦――」


 一拍。


「始め!」



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
大会が始まる前はリオンとアルベルトの決勝かなと予測してたんですけど以外や以外の傭兵とはね~それにしても外部からの回復がだめとか過酷だね^^;決勝くらいはある程度の回復と休憩はさせて上げて欲しいような……
がんばれーw
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