第528話 十五歳の四強
新連載スタート!
《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした
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選手用の待機場所へ戻ると、ガイルがすぐに近づいてきた。
「勝ったな!」
「うん。何とかね」
「見てたぞ! 最後、うまく入ったな!」
「リゼットさんが強かったから、かなり危なかったよ」
「次は俺だ!」
ガイルが木の大剣を肩に担ぐ。
「分かってる?」
「何がだ?」
「相手、王宮騎士だよ」
「だから楽しみなんだろ!」
ガイルらしい。
第二回戦第二試合。
ガイル・ベイルン。
グレゴール・バイス。
王立学院代表と王宮騎士。
ガイルが通路へ向かう。
「じゃあ行ってくる!」
「頑張って」
「勝ってくる!」
迷いがない。
その背中を見送り、俺も選手用の観戦場所へ移動した。
◇
ガイルとグレゴールが試合場の中央へ進む。
二人で王族席へ向かって礼をして、それぞれの位置へ戻った。
グレゴールは一回戦でも見た。
派手じゃない。
でも、相手の動きに付き合わず、自分の間合いを守る。
王宮騎士らしい堅実な戦い方だった。
対するガイルはいつも通り。
大剣を両手で握り、早く始まらないかと待っている。
審判が二人を見る。
「両者、準備は?」
「ああ」
「いつでも!」
「始め!」
先に動いたのはガイルだった。
「行くぞ!」
真正面から距離を詰め、大剣を横薙ぎに振る。
グレゴールは受けない。
後ろに下がり、剣先をかわす。
大剣が空を切った直後、グレゴールの木剣がガイルの肩へ入った。
バシッ!
「おっ!」
当たった。
でもガイルは止まらない。
今度は斜め上から大剣を振り下ろす。
グレゴールが木剣を合わせ、力を横へ流した。
そのままガイルの脇へ回る。
木剣が太腿へ。
「ぐっ!」
また入った。
上手い。
ガイルの大剣を真正面から受けず、振り終わりだけを狙っている。
ガイルが追う。
グレゴールは下がりながら、時々踏み込んで一撃を入れる。
肩。
腕。
脇腹。
全部浅い。
でも確実に当てている。
「ガイル……」
さすがに少し心配になる。
観客席からもざわめきが広がっていた。
「王宮騎士の方が上じゃないか?」
「学生じゃ厳しいだろ」
「さっきのリオンが特別だったのか?」
そんな声も聞こえてくる。
でも、ガイルを見る。
表情は変わっていない。
むしろ楽しそうだ。
「ははっ!」
グレゴールの木剣を大剣で受け止める。
「さすが王宮騎士だな!」
「随分余裕だな」
「強いからな!」
「さすがはベイルン家の嫡男だな」
二人の剣が離れる。
ガイルが一歩前へ出た。
「これなら手加減しなくていいな!」
グレゴールの表情が少し変わった。
「……随分なことを言ってくれる」
「行くぞ!」
ガイルが踏み込む。
今度はさっきまでより速い。
横薙ぎ。
グレゴールが受け流そうとする。
でも。
「っ!」
流し切れない。
木剣ごと身体が横へ押され、吹き飛ばされる。
すぐに体勢を戻す。
そこをガイルが追う。
大剣が勢いよく振り下ろされる。
グレゴールさんがかわし、そのまま木剣を返した。
肩へ入る。
でもガイルは、その瞬間に身体をわずかにひねっていた。
木剣を浅く受け、そのまま前へ出る。
「なっ!」
深く入る攻撃は大剣で防ぐ。
避け切れない攻撃は、身体をずらして浅く受ける。
ただ力任せに突っ込んでいるわけじゃない。
それでも前へ出ることだけはやめない。
グレゴールが下がる。
また木剣がガイルの腕へ入った。
ガイルは止まらない。
さらに一歩。
「……っ!」
グレゴールの顔から、少しずつ余裕が消えていく。
やっぱり無茶苦茶だ。
でも、これがガイルだ。
分かっていても止められない。
◇
「ほう」
王族専用席。
国王が試合場を見ていた。
「グレゴールもよく対応しているが、ベイルン家の少年は止まらんな」
「普通なら、あれだけ剣を当てられれば一度は距離を取りたくなるところです」
アルフレッド第一王子が答える。
「それでも前へ出るか」
「はい。それに、ただ無理に進んでいるわけでもありません。
深く入る攻撃だけはきちんと防いでいます」
「十五歳だったな?」
「はい」
国王が少し目を細めた。
「王立学院は随分と面白い生徒を二人も出してきたものだ」
その横では、エドガーとセレナが特に驚いた様子もなく試合を見ている。
アルフレッドが二人を見る。
「随分落ち着いているな」
「ガイルなら、このくらいはやると思っていましたから」
エドガーが答える。
「ええ」
セレナも頷く。
「むしろ、ここで止まる方が意外です」
「随分な信頼だな」
国王が笑った。
◇
試合場。
グレゴールが一度距離を取った。
呼吸が少し乱れている。
ガイルも無傷じゃない。
肩や腕には何度も木剣が入っている。
でも、大剣を握る力は落ちていない。
「来ないのか?」
ガイルが聞く。
「……行くさ」
グレゴールが木剣を構え直した。
踏み込む。
速い。
ガイルの右側。
大剣を振りにくい場所へ入る。
木剣が脇腹を狙う。
ガイルが大剣を下げて受け止めた。
ガンッ!
グレゴールがすぐに離れる。
その瞬間、ガイルが大剣を高く持ち上げた。
上段。
「っ!」
グレゴールも気づいた。
下がる。
でも、その先は試合場の端に近い。
横へ逃げようにも、ガイルはもう目の前まで来ている。
グレゴールが木剣を両手で構えた。
「いくぞ!」
ガイルが大剣を振り下ろす。
ブンッ!
空気を切る音。
グレゴールが木剣を上げた。
ガンッ!
二本の木剣がぶつかる。
その直後。
バキッ!
「え?」
グレゴールの木剣が中央から折れた。
観客席が一瞬静まる。
ガイルの大剣は止まらない。
折れた木剣を押し切り、そのままグレゴールの肩口へ叩き込まれた。
ドンッ!
「ぐっ!」
グレゴールの身体が沈む。
折れた木剣が手から落ち、そのまま片膝をついた。
ガイルはそこで大剣を止めた。
追撃はしない。
審判がすぐに二人の間へ入った。
「そこまで!」
一瞬の静寂。
「勝者、ガイル・ベイルン!」
次の瞬間、会場が揺れた。
「わああああああっ!」
「折ったぞ!」
「王宮騎士の剣を折った!」
「学院生だろ!?」
「まだ十五歳だぞ!」
観客席が一気に騒がしくなる。
「ガイルさん!」
ナディアが立ち上がっている。
満面の笑みで拍手していた。
「勝ちました!」
ガイルが気づき、大きく手を上げる。
「おう!」
ミラたちも拍手している。
「ピー! ピー!」
ピコも嬉しそうだ。
俺も思わず笑った。
「本当に勝ったな」
これでガイルと準決勝だ。
◇
王族専用席。
国王が少し驚いた顔で試合場を見ている。
王妃殿下も、わずかに目を見開いていた。
「……グレゴールの剣を折ったか」
「受け方が悪かったわけではありません」
アルフレッド第一王子が答える。
「真正面から受けて、あれです」
「十五歳であの力か」
国王の視線がガイルへ向く。
それから、選手用の観戦場所にいる俺へ移った。
「リオンに続いて、ガイルも十五歳か」
「はい」
エドガーが答える。
「王立学院の代表二人が揃って四強入り。それも二人とも十五歳です」
「前代未聞だな」
国王が呟いた。
その言葉を聞いたわけじゃない。
でも、観客席でも同じことに気づいた人たちがいたらしい。
「待てよ!」
「どうした?」
「リオンも残ってるだろ!」
「ああ!」
「じゃあ、学院代表が二人とも勝ち残ってるぞ!?」
「二人とも十五歳だぞ!」
「ってことは……」
一瞬、声が途切れる。
「どっちかは必ず決勝に行くってことか!」
また大きなどよめきと歓声が広がった。
「すげえ!」
「十五歳が決勝に行くぞ!」
「こんなの聞いたことない!」
会場中が騒いでいる。
俺も改めて気づいた。
次は俺とガイルが戦う。
どちらが勝っても、十五歳が決勝へ行く。
試合場から戻ってくるガイルと目が合った。
ニヤニヤしている。
あれは絶対、楽しみにしてる顔だ。
◇
第二回戦第三試合。
アルベルト・グランツ。
王宮騎士団第三隊隊長。
対するのは王宮魔術士、エリオット・バーンズ。
一回戦で多彩な魔法を見せたエリオットは、開始直後から距離を取った。
前方へ大きな火球を放ち、その脇から鋭い風刃を走らせる。
アルベルトが避けた先には、続けて複数の水弾。
間を空けない。
近づけさせないつもりだ。
でも、アルベルトは慌てなかった。
火球が放たれる直前。
エリオットの肩がわずかに動く。
その時には、もう半歩横へ。
風刃を放とうと手が上がった時には、進路を変えている。
水弾も同じ。
視線が向いた時には、もうそこからいなくなっていた。
「……すごい」
魔法を見てから避けてるんじゃない。
魔法を使う人を見てる。
手。
肩。
視線。
身体の向き。
発動前の動きから、次に来る魔法を読んでるんだ。
少しずつ距離が縮まる。
十歩。
八歩。
五歩。
「くっ!」
エリオットが大きな火球を放った。
アルベルトが難なく避ける。
そして、次の魔法が放たれるより早く一気に懐へ踏み込んだ。
「なっ!」
木剣が首元で止まる。
「そこまで! 勝者、アルベルト・グランツ!」
やっぱり強い。
派手じゃない。
でも、相手にやりたいことをやらせない。
◇
第二回戦最後。
ディート・ハーゲン。
傭兵。
ミレーヌ・アスター。
王宮魔術士。
ミレーヌは一回戦と同じように、距離を保ちながら魔法を連続で放つ。
火球がディートの進路を塞ぎ、横から風刃が飛ぶ。
さらに水弾。
ディートはかわす。
でも、全部じゃない。
「っ!」
火球が服をかすめ、肩口が少し焦げる。
それでも進む。
水弾が身体へ当たり、一歩よろめいた。
それでも止まらない。
「無理だ!」
観客席から声が飛ぶ。
そう見える。
でも、よく見ると少しずつ距離が縮まっている。
一歩。
また一歩。
ミレーヌが大きな風魔法を放った。
ディートの身体が後ろへ押される。
でも倒れず地面を踏みしめる。
その直後、ミレーヌさんの手が止まった。
ほんの一瞬。
強い魔法を放った直後、次の魔法へつなぐまでのわずかな間。
ディートはそれを待っていた。
一気に踏み込む。
「え?」
ミレーヌが手を上げる。
でも遅い。
木剣が肩へ入った。
バシッ!
「っ!」
体勢が崩れる。
そのまま首元へ木剣。
「そこまで! 勝者、ディート・ハーゲン!」
「やっぱりあの人も強いな」
いつの間にか俺の隣へ戻ってきていたガイルが言う。
「うん」
派手な魔法はない。
圧倒的な力もない。
でも、相手の癖や隙を見つけるまで待てる。
そして、一度見つけた隙を逃さない。
強い。
これで四人。
◇
休憩に入る前。
選手用の掲示板へ、次の組み合わせが貼り出された。
■準決勝 第一試合
リオン・ハル(王立学院代表)VSガイル・ベイルン(王立学院代表)
■準決勝 第二試合
アルベルト・グランツ(王宮騎士団第三隊隊長)VSディート・ハーゲン(傭兵)
「来たな!」
隣でガイルが言った。
「うん」
「やっとリオンとやれる!」
「朝は何度もやってるけどね」
「違うだろ!」
「まあね」
確かに違う。
朝の訓練では何度も戦った。
何度も負けた。
たまに良いところまで行った。
でも、全部練習だった。
次は違う。
勝った方が決勝。
負けた方は終わり。
ガイルが拳を出してきた。
「手加減するなよ!」
俺も拳を出し、軽くぶつける。
「ガイルもね」
「当たり前だ!」
ガイルが笑う。
俺も笑った。
何度も戦ってきた。
でも、勝つためにガイルと戦うのは、これが初めてだった。
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