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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第527話 使えるものは全部使う

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

「始め!」


 審判の声が響いた。


 来る。


 そう思った瞬間には、リゼットはもう動いていた。


 低い姿勢のまま、一気に距離を詰めてくる。


「速っ!」


 剣が来る。


 そう思って木剣を合わせようとした。


 でも、違った。


 リゼットは剣を振らず、そのまま肩からぶつかってきた。


「うわっ!」


 身体強化。


 足に力を入れて受ける。


 ドンッ!


 重い。


 半歩押される。


 その瞬間、リゼットの身体がさらに沈んだ。


 足払い。


 跳ぶ――いや。


《縮地》


 斜め後ろへ抜ける。


 景色が一瞬だけ流れ、次の瞬間には二歩以上離れていた。


「へぇ」


 リゼットが楽しそうに笑った。


「一回戦で見せた動きだね」


「見てたんですね」


「そりゃ見るだろ。次に戦うかもしれない相手なんだからな」


 答えながら、リゼットが左手を地面へ向けた。


 空気が震える。


 直後。


 地面すれすれを、横殴りの風魔法が走った。


 砂と細かな石を巻き上げながら、足元を薙ぎ払ってくる。


 跳べば、その後を狙われる。


 だったら。


 水魔法。


 地面の上へ薄い水膜を広げる。


 そこへリゼットの風魔法がぶつかった。


 バシャッ!


 水膜が砕かれ、無数の細かな水滴が宙へ舞い上がる。


 これなら使える。


 すぐに横から弱い風魔法を重ねた。


 舞い上がった水滴が一斉に方向を変え、リゼットの顔へ押し寄せる。


「おっと!」


 リゼットが目を細めた。


 その隙に踏み込み木剣を打ち込む。


 ガンッ!


 受けられた。


 かまわず押す。


 でも、リゼットは押し返してこない。


 木剣を斜めに滑らせ、俺の力だけを横へ逃がした。


「っ!」


 身体が前へ流れる。


 その先にリゼットの膝。


 腹を狙っている。


 まずい。


 もう一度《縮地》。


 今度は真後ろへ。


 膝が服の先をかすめた。


「便利だな、それ!」


「えぇ。結構便利ですよ」


 距離を取り直す。


 だけど、リゼットは止まらない。


 左右へ身体を揺らしながら追ってくる。


 歩幅も一定じゃない。


 急に大きく踏み込んだと思えば、次の一歩は短い。


 騎士とは全然違う。


 型がない。


 いや、違うな。


 型がないんじゃない。


 崩れた姿勢でも、そのまま次の攻撃へつなげられるんだ。


 魔物相手なら、いつも同じ足場で戦えるわけじゃない。


 相手の大きさも違う。


 倒れたところへ襲われることもある。


 綺麗な構えに戻るまで、相手が待ってくれるはずもない。


 だから、どんな体勢からでも戦える。


「考え事か?」


「っ!」


 もう目の前。


 横薙ぎの木剣。


 受ける。


 ガンッ!


 直後、リゼットの左手が動いた。


 三つの小さな火球が、時間差で飛んでくる。


 一つ目を身体を沈めてかわす。


 二つ目は右。


 三つ目は少し遅れて正面。


 避ける場所まで考えて撃ってる。


 二つ目をかわしたところで《縮地》。


 左へ抜ける。


 全部かわしたはずだった。


「そっちだ!」


「えっ?」


 リゼットがいた。


 移動先を読まれた。


 完全に見切られたわけじゃない。


 でも、三つの火球で逃げられる方向を減らして、俺が横へ《縮地》する可能性を絞ったんだ。


 木剣が迫る。


 間に合わない。


 身体強化。


 左腕で受ける。


「ぐっ!」


 鈍い衝撃。


 身体ごと弾かれ、地面を転がった。


「リオン!」


「ピー!」


 観客席からミラとピコの声が聞こえる。


 すぐに起き上がった。


 左腕が痛い。


 でも動く折れてはいないはず。


「《縮地》も、使えば絶対安全ってわけじゃないんだな」


 リオンの言葉にリゼットが木剣を肩へ乗せながら答える。


「一回戦で見せてもらったからな。移動そのものは追えなくても、どこへ行きたくなるかなら考えられる」


 なるほど、やっぱり簡単じゃない。


 だったら、《縮地》だけに頼る必要もない。


 使えるものは全部使う。


 今度は俺から仕掛ける。


 細く絞った火魔法を、リゼットの右側へ走らせる。


 直接当てるためじゃない。


 地面すれすれを走る火炎で、その周囲の空気だけを一気に温める。


 熱せられた空気が揺らぎ、リゼットの右側の景色がわずかに歪んだ。


 陽炎。


「面白いな!」


 リゼットが右へ動く。


 そう思った。


 でもリゼットは自分の風魔法を、俺が作った火炎へ叩き込んだ。


「え?」


 勢いを増した火炎が横へ大きく膨らむ。


 俺が次に踏み込もうとしていた場所まで熱気に包まれた。


 足が止まる。


 その反対側からリゼットが来た。


「もらった!」


 木剣。


 受ける。


 ガンッ!


「俺の火魔法を利用した?」


「使えるものは使うだろ!」


 笑っている。


 まったく同じことを考えてるじゃないか。


 木剣を弾いて離れる。


 その直後、リゼットが横薙ぎの火魔法を放った。


 細長い火炎が、腰の高さを走ってくる。


 普通に水魔法をぶつけて消しても意味がない。


 だったら。


 火炎の手前へ、水魔法で細かな水滴を大量に作る。


 霧のように薄く広げる。


 火炎がそこへ飛び込んだ。


 ジュワッ!


 一気に水滴が蒸発する。


 真っ白な蒸気が視界いっぱいに広がった。


「なっ?」


 すかさず風魔法を横から流し込む。


 蒸気がリゼット側へ押し寄せた。


「私の火魔法を使ったのか!」


「使えるものは使います!」


「言うじゃないか!」


 白い蒸気の向こうから笑い声が返ってくる。


 お互いの姿が見えない。


 ここで《縮地》を使って飛び込む。


 そう思うはず。


 だから行かない。


 蒸気の縁に沿うように、普通に右へ歩く。


 少しずつ蒸気が薄くなった。


 リゼットが木剣を構えている。


 視線は正面。


 俺が蒸気の中から飛び出してくるのを待っていた。


 目が合う。


「来ないのか?」


「前の試合でも同じこと聞かれました」


「食えないな!」


 リゼットが風魔法で蒸気を吹き散らした。


 視界が一気に開ける。


 ここだ。


 右手を前へ。


 水魔法を集める。


 ただし、大きな水球にはしない。


 細く絞る。


 さらに細く。


 一本の水流にする。


 狙うのは身体の中心じゃない。


 木剣を握る右肩。


 放つ。


 同時に、水流の後ろから風魔法を叩き込む。


 細く絞った水が、風圧に押されて一気に加速した。


 ピシッ!


「っ!?」


 水流がリゼットの右肩を直撃した。


「ぐっ!」


 リゼットの上体が大きく横へぶれる。


 初めてリゼットの顔から笑みが消えた。


 右肩を押さえ、一歩下がる。


「……今の」


「水魔法を細く絞って、風魔法で後ろから加速させました」


「水魔法で、こんな威力が出るのか」


「もっと威力を上げられますけど、危ないので抑えてます」


「……それで抑えてるのかよ」


 リゼットが右肩を回す。


 動く。


 でも、さっきまでとは目が違う。


 木剣を握り直した。


 俺の右手を見る。


 左手。


 足元。


 一回戦同様、相手の警戒する場所が増えている。


 ただし、ダリウスとは違った。


 警戒して動きが固くなったわけじゃない。


 むしろ笑みが戻る。


「なるほどな」


 リゼットが小さく息を吐いた。


「十五歳だからって手加減しなくて正解だった」


「最初からする気なかったですよね?」


「ないな」


 次の瞬間。


 さっきまでより速く踏み込んできた。


 今度は本気だ。


 木剣。


 受ける。


 すぐ離す。


 蹴り。


 上体を引いてかわす。


 リゼットの左手が地面へ向く。


 水魔法が勢いよく足元へ広がった。


 さっきのマルクス戦で見た。


 自分から濡れた地面へ踏み込み、滑る勢いまで攻撃に利用する。


 来る。


 リゼットが水膜へ踏み込んだ。


 足が滑る。


 でも、それが狙い。


 一気に速度を上げ、低い姿勢のまま迫ってくる。


 真正面から受ける?


 違う。


 ベルンハルト先生の動きを思い出す。


 ガイルの力を真正面から止めなかった。


 力の向きを変えた。


 止めなくていい。


 流せばいい。


 リゼットの剣先が迫る。


 俺は半歩だけ横へ動いた。


 木剣では受けない。


 左手をリゼットの腕へ軽く添える。


 同時に風魔法。


 吹き飛ばすほど強くする必要はない。


 進んでいる方向を、ほんの少しだけ横へずらす。


「なっ!」


 滑る勢いそのものが、リゼットの身体を横へ運んだ。


 止まれない。


 そのまま俺の横を抜ける。


 さすがにそれだけでは終わらない。


 リゼットは片足を強く地面につき、その足を軸に身体を回転させた。


 振り向きざまの木剣。


 速い。


《縮地》


 今度は後ろへ。


 剣先が目の前を横切った。


 ただし、離れすぎない。


 《縮地》を止めた瞬間、今度は普通の踏み込みで前へ出る。


 リゼットが振り返る。


「っ!」


 木剣同士がぶつかった。


 ガンッ!


 近い。


 互いの息が聞こえる距離。


「やるな!」


「そっちこそ!」


 押し合わない。


 お互いに剣を滑らせ、同時に距離を取る。


 観客席から大きな歓声が上がっている。


 でも、もうほとんど耳に入ってこない。


 目の前だけを見る。


 リゼットが笑った。


「楽しいな!」


「俺もです!」


 戦い方は似ている。


 でも、同じじゃない。


 リゼットは経験で動く。


 足場も、相手の魔法も、自分の体勢も関係ない。


 その瞬間に使えるものを、ほとんど反射的に使っている。


 全部を材料にして、その場で次の現象を作る。


 だったら最後までそれで行く。


 リゼットが左手を前へ突き出した。


 今までより大きな火魔法。


 火炎が正面いっぱいに広がる。


 その後ろに、リゼット自身の気配。


 炎を目隠しにして距離を詰めるつもりだ。


 水魔法。


 火炎の前へ、大量の水滴を霧状に広げる。


 ぶつかった瞬間。


 ジュワッ!


 濃い蒸気が一気に生まれた。


 すぐにリゼットの風魔法。


 蒸気が右へ流されていく。


 来る。


 蒸気が薄くなった場所から、リゼットが飛び出すつもりだ。


 でも見るのはリゼットじゃない。


 蒸気の流れ。


 風向き。


 白い幕の中で、視界が最も薄くなる場所。


 逆に、相手から俺が見えにくくなる場所。


 そこへ。


《縮地》


 横へ移動する。


 蒸気の外。


 一歩だけ前へ。


 直後。


 リゼットが白い蒸気を突き破って飛び出してきた。


「そこか!」


 木剣を振る。


 でも、そこに俺はいない。


「え?」


 リゼットの視線が横へ動く。


 一瞬遅れた。


 俺はすでに横。


 木剣を振る。


 それでもリゼットは反応した。


 剣を上げる。


 速い。


 普通なら受けられる。


 だったら、剣そのものを狙わない。


 木剣同士が触れる直前。


 リゼットの木剣の側面へ、小さな風魔法を当てる。


 ほんの少しでいい。


 剣先が外へ流れた。


「っ!」


 首元までの道が空く。


 身体強化。


 一歩踏み込む。


 俺の木剣が、リゼットの首筋で止まった。


「……」


 リゼットも動きを止める。


 審判が手を上げた。


「そこまで!」


 一瞬。


 会場が静かになった。


「勝者――リオン・ハル!」


 次の瞬間。


 大歓声が巻き起こった。


「わあああああっ!」


「学院代表が勝った!」


「A級冒険者に勝ったぞ!」


「今のどうなったんだ!?」


「リオン!」


「ピー! ピー!」


 ミラとピコの声が聞こえる。


 少し離れた選手用の観戦場所では、ガイルが両手を上げていた。


「よしっ!」


 相変わらず俺より嬉しそうだ。


 目の前。


 リゼットは首元で止まっている木剣を見た。


 それから俺を見る。


「……やるな」


「危なかったです」


「そうは見えなかったけどね」


「本当ですよ」


「フン。やっぱり食えない子供だな」


 リゼットが笑った。


 最初よりずっと楽しそうだ。


 俺も木剣を下ろす。


「ありがとうございました」


「ああ」


 リゼットが右手を出す。


 俺も握った。


「次も勝てよ」


「頑張ります」


「負けた相手がすぐ負けると腹立つからな」


「結構プレッシャーですね」


「勝ったんだから、そのくらい背負え」


「はい」


 手を離す。


 観客席からは、まだ歓声が続いている。


 二回戦。


 勝った。


 でも、それ以上に。


 今日の戦いで、また一つ。


 自分の戦い方が広がった気がした。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
おのれスチーム使いっ! ←
剣だけや魔法だけの戦いよりも剣と魔法を織り混ぜた方が断然面白いね~。だからか騎士より冒険者のなんでも利用するやり方が好きかも♪
おーがんばったw(´・ω・`) 水も使いようだなぁ
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