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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第516話 炎神

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

 小さな赤い光が、一瞬で俺の視界いっぱいに広がった。


「っ!」


 考えるより先に身体が動く。


 横へ跳んだ直後、さっきまで俺が立っていた場所を炎が飲み込んだ。


 ゴオッ――!


 赤。


 橙。


 その奥には、白に近い光まで混じっている。


 ひとつの炎の塊が飛んできたわけじゃない。


 幾重もの炎が地面を這うように広がり、冬の冷たい空気を押し退けていく。


 離れているのに、頬が熱い。


 観覧席から上がっていた歓声が、一瞬だけ途切れた。


 最前列の生徒たちが、反射的に身体を後ろへ引いている。


 試合場の外周に立っていた教師たちも、何人かが前へ出た。


 ……そりゃそうか。


 中にいる俺がこれだけ熱いんだから。


「いきなりそれ?」


「最初から全開で行くって言ったでしょう?」


「本当に最初からなんだ」


「当然よ」


 炎の向こうからセレナの声が届く。


 まだ姿は見えない。


 揺らめく赤だけが視界を埋めていた。


「ハル!」


 ベルンハルト先生の声が飛んでくる。


「はい!」


「続行できるか?」


「大丈夫です!」


 一拍。


「焼ける前に逃げるんだぞ!」


「はい!」


 審判としての確認。


 それだけだった。


 でもベルンハルト先生が途中で声をかけてくるくらいには、今の炎は危険に見えたらしい。


 やがて炎が左右へ割れていく。


 その向こうに、セレナが立っていた。


 茶金色の髪が火の光を受け、金色に近い色へ染まっている。


 右手は俺へ向けたまま。


 左手には木剣。


 その表情には、まだ余裕があった。


「次、行くわよ」


「ちょっと待って――」


「待たないわ」


 セレナの右手がわずかに動く。


 今度は正面じゃない。


 地面すれすれを、二つの炎が左右から走ってきた。


 その間を抜ける。


 そう判断して前へ踏み出した瞬間、目の前の地面まで赤く染まった。


「うわっ!」


 慌てて後ろへ下がる。


 直後。


 炎が壁のように立ち上がった。


 俺の背丈を超える高さまで伸び、そのまま横へ広がっていく。


「すご……」


 観覧席のどこかから、誰かの声が漏れた。


 さっきまで「セレナ様!」と叫んでいた生徒たちも、今はほとんど声を上げていない。


 左へ逃げれば炎が走り、右へ切り返せばその先にも火が立つ。


 前へ出ようとすれば、今度は正面そのものを焼かれた。


「……これ」


 ただ攻撃されているんじゃない。


 逃げる場所を、一つずつ消されている。


 セレナ自身は、ほとんど動いていない。


 試合場の中央近くに立ったまま。


 右手を動かすたびに、炎の方が俺を追い詰めてくる。


 赤い光が冬の試合場を走るたび、冷たい空気が消えていった。


 火力だけじゃない。


 俺がどこへ動くかまで見ている。


 試合場そのものを使って、俺の行き先を狭めているんだ。


「本気すぎない?」


「本気で来てほしいんでしょう?」


「そうだけど」


「なら問題ないわね」


「ないけど、やりすぎだよ」


「リオンにはこれくらい必要でしょ!」


 また炎。


 地面を蹴って避ける。


 次。


 さらに次。


 セレナの火は大きいだけじゃない。


 速い。


 しかも、俺がどこへ動くかを見て撃っている。


 右へ逃げれば、その先を塞ぐ。


 左へ切り返せば、そこへ火を置く。


 ただ魔法を連発しているわけじゃない。


 俺を動かしている。


「……厄介だな」


「聞こえてるわよ」


 セレナが少しだけ目を細めた。


「なら、次はもっと避けにくくするわ」


「いや、そんなにいらないって」


 右手が上がる。


 三つ。


 小さな火の玉が浮かんだ。


 さっきよりずっと小さい。


 でも、嫌な感じがする。


 一つ目が真っすぐ飛んでくる。


 横へ避ける。


 二つ目は、その先。


 身体を捻る。


 三つ目は、さらにその次の場所へ。


「っ!」


 木剣で受けるわけにはいかない。


 身体を沈める。


 炎が頭上を通り過ぎ、熱で髪が大きく揺れた。


 セレナは、その間もほとんど動いていない。


 遠い。


 たった十数メートル。


 なのに。


 今の俺には、その距離がとんでもなく遠く感じられた。


 近づけない。


 なら。


 炎と炎の間にある、ほんのわずかな隙を狙う。


 セレナの右手を見る。


 一発。


 次。


 さらに次。


 その間に、ごく短い空白がある。


 そこだ!


 地面を蹴る。


 《縮地》。


 景色が一気に後ろへ流れた。


「――っ!?」


 初めて、セレナの目が大きく開く。


 一気に距離が消える。


 目の前。


 入った!


 そのまま木剣を振る。


 狙うのは肩。


 だが。


 ガンッ!


「なっ!」


 止められた。


 セレナの左手にあった木剣が、俺の一撃をぎりぎりで受け止めていた。


 観覧席から大きなどよめきが上がる。


 さっきまで炎に圧倒されて静かだった分、今度は声が一気に戻ってきた。


「……危なかったわ」


 セレナが小さく息を吐く。


 本当にぎりぎりだった。


 読まれていたわけじゃない。


 見えてから反応した。


「剣もちゃんとやってたんだ」


「失礼ね」


 セレナの目が細くなる。


「誰と何年同じ学院にいると思ってるの?」


 セレナは右手も添え、両手で木剣を押し返してくる。


 近い。


 ここまで入れば、大きな炎は使いにくい。


 そう思った瞬間。


 セレナが右手を木剣から離した。


 その掌に、小さく凝縮された赤い光が灯る。


 拳より少し小さい。


 大きくない。


 でも。


 近すぎる!


「まずっ!」


「遅いわよ」


 赤い光が膨らむ。


 俺は反射的に横へ跳んだ。


 直後。


 短く、鋭い炎が弾けた。


 広がりは小さい。


 その代わり、近距離でも狙って撃てる。


 熱が背中を撫でる。


 そのまま距離を取った。


 さらに炎が追ってくる。


 一発。


 二発。


 三発。


 気づけば、また最初と同じ位置関係になっていた。


 俺は試合場の端。


 セレナは中央。


 その間には、揺れる熱気。


「……戻されちゃったか」


「そう簡単に近づかせると思った?」


「今のはかなり近かったよ」


「ええ」


 セレナは素直に頷く。


「驚いたわ」


「じゃあ次は――」


「でも!」


 右手に炎が灯る。


「同じことをもう一度させるほど、甘くないわよ!」


「……だよね」


 さっきの《縮地》。


 セレナは知らなかったから入れた。


 でも、二度目は警戒される。


 前。


 右。


 左。


 後ろ。


 どの方向へ出ても、その先を炎で埋められれば終わる。


 次の火が来る。


 右へ避け、そのまま大きく距離を取った。


 セレナは追ってこない。


 炎だけを飛ばしてくる。


 俺は避ける。


 また飛んでくる。


 それも避ける。


 無理に攻めない。


 しばらく、それを繰り返した。


「……」


 セレナがこちらを見る。


 また炎。


 俺は大きく横へ逃げた。


 これでいい。


 これだけ魔法を使っているんだ。


 しかも、かなりの威力がある。


 いくらセレナでも、魔力が無限にあるわけじゃない。


 だったら無理に近づく必要はない。


 俺は攻撃を避け続ける。


 撃たせて消耗させる。


 相手の得意な距離で、わざわざ勝負を続ける必要はない。


 攻めて勝てないなら。


 待てばいい!


 もう一発。


 炎をかわす。


 さらに一発。


 距離を取る。


 観覧席からは、もう歓声よりどよめきの方が多くなっていた。


 セレナが炎を放つたびに、その光が生徒たちの顔を赤く照らす。


 試合場の外周では、教師たちがさっきより前に出ている。


 いつでも止められるようにしているんだろう。


 でもベルンハルト先生はまだ止めない。


 俺にも続行できる余裕がある。


 セレナも炎を制御できている。


 危険だけど暴走はしていない。


 そこがまた厄介だった。


 その時。


「リオン」


「何?」


 セレナが右手に炎を浮かべたまま、こちらを見ていた。


「あなた」


「うん?」


「私の魔力がなくなるのを待ってるでしょう?」


「……」


 まあ、セレナなら分かるか。


 黙った俺を見て、セレナが小さく笑う。


 さっきまでの強気な笑みとは少し違う。


 答え合わせが終わったみたいな顔だ。


「やっぱり」


「……そう見える?」


「ええ」


 セレナが右手を軽く振る。


 炎が消えた。


 一瞬。


 試合場に冬の空気が戻ってくる。


 そう思った。


 でも次の瞬間には、また新しい炎が指先に灯っていた。


 呼吸は乱れていない。


 さっきからこれだけ魔法を使っているのに。


 疲労らしいものが、ほとんど見えない。


「言っておくけど」


「何?」


「時間稼ぎは無駄よ」


 あっさり言った。


「……随分自信あるね」


「あるわ」


「そんなに持つの?」


「少なくとも、あなたが逃げ回っている間に尽きるほど少なくはないわよ」


「それは困るな」


「なら、別の方法を考えなさい」


 炎が増える。


 一つ。


 二つ。


 三つ。


 セレナの周囲に、小さな赤い光が次々と浮かんでいく。


 冬の淡い日差しの中、そこだけ別の季節みたいだった。


 茶金色の髪が炎を映して揺れている。


 「セレナ様、美しい…」


 観客の方からそんな声が聞こえてくる。


 しかし、向き合っている俺からしたら、どうしようもなく厄介だった。


 頬を一筋の汗が流れた。


 真冬なのに。


 炎の熱のせい?


 たぶん、それだけじゃない。


「さあ」


 セレナが左手の木剣を少し持ち上げる。


「次はどうするの?」


 俺は答えなかった。


 木剣を握り直す。


 距離を詰めても剣で止められる。


 離れれば炎が飛んでくる。


 待っても、魔力切れは期待できない。


 腰には、小石がある。


 でも。


 使うか?


 いや、こんなたくさんの人がいる場所で使うのはまずいか?


「リオン」


 またセレナに呼ばれた。


「何?」


 炎の向こうで、セレナが少しだけ目を細めている。


「あなた、まだ全部は見せていないでしょう?」


「……」


 何も答えなかった。


 セレナの口元が、わずかに上がる。


「このまま逃げ続けて終わるつもり?」


「ずいぶん言うね」


「だって」


 セレナは炎を一つ、指先で小さく揺らした。


「あなたがそれで終わるとは思ってないもの」


「……買いかぶりじゃない?」


「そうだったら、がっかりね」


 さらりと言う。


 余裕だ。


 完全に。


 セレナの周囲では、炎が静かに揺れている。


 呼吸も乱れていない。


 こちらが何をするのか、むしろ待っている感じだ。


 俺は頬を伝う汗を、袖で拭った。


 腰の小袋へ、一瞬だけ視線を落とす。


 中には、自分の魔力を残した小石がある。


 俺はもう一度、正面を見る。


 セレナと目が合った。


 炎が、二人の間で静かに揺れている。


 ……さて。


 どうする?



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
リオンみたいなタイプには魔力で防護壁張って転移邪魔されたら詰みだろうなぁ・・・ お城には入れなかったし、どの程度かにもよるだろうけど まあ知ってればのお話 魔力を目印にするならそれごと焼き払えばいい…
リオンは魔法も使えますよね。何故、出ないのでしょうか?風魔法も確か使えるのに、そして、以前はセレナと肩を並べたくらい強かったし、結構威力ある筈ですが、
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