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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第511話 動く転移先

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

 翌朝。


 朝食前の鍛錬場へ行くと、ガイルはもう来ていた。


「遅いぞ、リオン!」


「約束の時間より前なんだけど」


「俺はもっと前からいる!」


「それはガイルが早すぎるんだよ」


 昨日も同じような話をした気がする。


「ピー!」


 俺の肩にいたピコが鳴く。


「ピコも来たか!」


「ピー!」


「じゃあ始めるぞ!」


「ちょっと待って。せめて準備運動くらいさせて」


 身体をほぐしてから、木剣を持つ。


 ガイルも木剣を構えた。


 昨日の訓練で分かったことがある。


 《縮地》は速い。


 でも、発動前の動きと進む方向を読まれれば、ガイルくらいの相手なら対応できる。


 だったら今日は、そこを変える。


「行くぞ!」


 ガイルが踏み込んできた。


 正面!


 俺も身体強化を使う。


 浮遊。


 風。


 三つの魔法を重ね――。


 《縮地》!


 一気に右へ抜ける。


 すぐに止まる。


 もう一度!


 今度は左。


「おっ!」


 ガイルが身体の向きを変える。


 追ってくる。


 速い。


「もう一回!」


 左から正面へ。


 《縮地》!


「そこだ!」


 ガイルの木剣が振られる。


 避ける。


 そのまま後ろへ――。


「うわっ!」


 足がもつれた。


 慌てて身体を立て直す。


「何してるんだ?」


「後ろにも使えないかと思って」


「使えないのか?」


「今のところは」


「じゃあ、もう一回やれ!」


「転びそうになったの見てたよね?」


「次は成功するかもしれないだろ!」


 そういう問題なのか?


 でも、ガイルの言うことにも一理ある。


 もう一度試す。


 正面。


 右。


 左。


 今度は完全に止まってから後ろへ。


 さっきよりはましだ。


 ただ、切り返すたびに一度身体を止める必要がある。


 そこでわずかな隙ができる。


「遅い!」


 ガイルが一気に間合いを詰めた。


「っ!」


 木剣を受ける。


 重い。


 身体強化を使っているのに、腕まで響く。


「やっぱり、その止まるところだな!」


「分かってるよ!」


「だったら止まらなきゃいい!」


「簡単に言うなよ!」


 でも。


 止まらずに方向を変えられたら。


 《縮地》そのものを途中で曲げるのは難しい。


 なら、一度目の《縮地》が終わる瞬間に、次の方向へ魔法を重ねる。


「……やってみるか」


「何を?」


「ちょっと離れて」


「分かった!」


 素直だな。


 距離を取り、息を整える。


 右へ《縮地》。


 終わる直前。


 身体を左へ向ける。


 もう一度――。


「っ!」


 景色が大きくぶれた。


 身体だけが先に持っていかれる。


 慌てて足をつく。


「危なっ」


「今の、途中で変わったぞ!」


「ほんの少しだけね」


「もう一回だ、リオン!」


 目を輝かせている。


 何で俺より楽しそうなんだ。


 何度か繰り返す。


 すぐにはうまくいかない。


 身体の向きと、風をかける方向。


 浮遊で軽くするタイミング。


 全部を少しずつ合わせる。


 十回ほど試したところで、ようやく右へ抜けた直後に斜め前へ進めた。


「おお!」


「今のは悪くない」


「もう一回やれ!」


「ガイル、そろそろ朝食の時間だよ」


「あと一回!」


 結局、あと三回やった。


 ◇


 朝食を済ませて教室へ行く。


 授業が始まってしばらくした頃。


「ガイル・ベイルン君」


「はい!」


 アデライン先生の声に、ガイルが勢いよく顔を上げた。


「起きていますか?」


「起きてます!」


「では、今説明したところを答えてください」


「……」


 教室が静かになる。


 ガイルが俺を見る。


 こっちを見るな。


「ガイル・ベイルン君?」


「……すみません。聞いてませんでした」


「正直なのは結構です」


 アデライン先生が小さく息を吐く。


「朝から訓練することを止めるつもりはありません。

ただし、授業中に眠るほどやらないように」


「はい!」


 また大きい。


 周囲から笑い声が上がる。


 俺も笑った。


 ただ、人のことは言えない。


 朝から《縮地》を何度も使ったせいで、俺も少し眠い。


 選考まであと八日。


 この生活を毎日続けたら、先に授業の方で倒れそうだ。


 ◇


 昼休み。


 いつものようにみんなで食事をしていた。


「参加届、出しましたか?」


 ナディアが聞く。


「俺は出したぞ!」


 ガイルが即答する。


「私も出した」


 セレナも続く。


「俺もだ」


 クラウスも出したらしい。


「リオンは?」


 ミラに聞かれる。


「今日出すよ」


「そっか」


 ミラが少しだけ心配そうに俺を見る。


「怪我だけはしないでね」


「気をつけるよ」


「怪我するくらいやらないと強くならないぞ!」


 ガイルが横から口を挟む。


「ガイルさん!」


 ナディアが珍しく強い声を出した。


「……はい」


 ガイルが急に小さくなる。


「怪我をした方がいいわけではありません」


「それは、まあ……そうだな」


「大会が終わったあとも学院生活は続くのですから」


「はい」


 何だろう。


 ガイルがナディアに注意されると妙に素直だ。


 ヴィクトルが笑いを堪えている。


「何だ?」


「いや、何でもない」


「変なやつだな」


 お前が言うのか。


 ミラも少し笑っていた。


「でも、本当に無茶はしないでね」


「うん」


 昨日、父上にも同じことを言われた。


 俺だって怪我をするつもりはない。


 代表選考に出る目的は、無茶をすることじゃない。


 自分が今どこまで戦えるのか。


 それを確かめることだ。

 

 ◇


 午後。


 研究コースの教室へ向かった。


 クラリッサ先生に、ベルン金工房での試作について報告する。


「以前問題になっていた圧力については、ある程度抑えられるようになりました」


「上に容器を設けたのですね」


「はい。完全に閉じないようにしました」


 図面を見せる。


「ただ、今度は別の問題が出ています」


「どんな?」


「離れた場所まで水は流れるようになったんですけど、十分な熱が届かないんです」


「なるほど」


 クラリッサ先生が図面を見る。


「つまり、安全にはなってきた。でも最初の目的は、まだ達成できていない」


「はい」


「では、順調ですね」


「……順調ですか?」


 思わず聞き返した。


「失敗してるんですけど」


「最初は何が問題なのかも分からなかったのでしょう?」


「はい」


「今は違います」


 クラリッサ先生が図面を指す。


「圧力については対策ができた。そして、次に解決しなければならない問題も分かっている」


「……」


「研究は、一度で正解を出すことではありません」


 確かに。


「分からなかったことが、一つずつ分かるようになっている。それなら前には進んでいます」


「なるほど」


 何となく、今やっていることが少し見えた気がした。


「ただし」


「はい」


「卒業まで時間は無限にはありません」


「……ですよね」


「そこは忘れないように」


「はい」


 やっぱり急ぐ必要はある。


 ◇


 授業が終わると、ピコを連れてベルン金工房へ向かった。


「こんにちは」


「ピー!」


「おう」


 奥からオスカーの声が返ってくる。


 作業台へ行くと、ルッツさんが新しい管を用意していた。


「昨日の形、直してみました」


「ありがとうございます」


 前より少し太い。


 配置も変わっている。


 曲がるところを一か所減らしてあった。


「早かったですね」


「気になったので」


 ルッツさんが少し笑う。


 最初にオスカーさんから俺の相手をするよう言われた時とは、かなり違う。


 今はルッツさん自身が、この試作をどうにかしたいと思ってくれている。


「試してみましょうか」


「はい。お願いします」


 水を入れる。


 接合部を確認する。


 問題ない。


 火を入れた。


 しばらくすると、温められた水が上の管を通っていく。


「前より速いですね」


「はい」


 反対側まで待つ。


 手を近づける。


「あ」


 昨日より明らかに温かい。


「来てますね」


「ですね」


 ルッツさんも嬉しそうだ。


 《綻びの目》。


 試作品を見る。


《循環速度:改善》

《熱損失:中》

《放熱面積:不足》


「……まだありますね」


「どうしましたか?」


「流れは良くなってます。熱も前より残ってます」


「じゃあ成功ですか?」


「でも、熱を外へ出すところが足りないみたいです」


「外へ?」


「はい」


 管を見る。


 熱い水がここまで来ても、この細い管だけで部屋全体を暖めるのは難しい。


 だったら。


「もっと、熱が空気に触れるところを増やせないかな」


「管を長くする?」


「それだと、また流れが悪くなるかもしれません」


「じゃあ……」


 二人で試作品を見る。


 ルッツさんが腕を組む。


「水が流れる場所を、もっと広くする?」


「広く?」


「ここだけ、管じゃなくて薄い容器みたいにするとか」


「……なるほど」


 それなら、水の通る場所を極端に長くせずに、空気へ触れる面を増やせる。


「それ、試してみたいです」


「作ってみます?」


「お願いします」


「形を考えます」


「俺も図面を考えてみます」


 また一つ。


 次にやることが見えた。


 まだ完成には遠い。


 でも、少しずつ形になっている。


 ◇


 その日の夕食後。


 ピコを連れて、学院の魔法練習場へ向かった。


 練習場の使用許可は取ってある。


 時間が遅いこともあって、周囲に人はいない。


 障害物がないことも確認した。


 今日ここへ来たことは、ガイルには言っていない。


 別に隠さなければならないわけじゃない。


 ただ、まだできるかどうかも分からないものを見せたくなかった。


 昨日、考えたこと。


 転移魔法を戦闘に使えないか。


 まずは、それが本当に可能なのか確認する。


「ピコ。少し離れてて」


「ピー?」


「危なくなったら、すぐやめるよ」


「ピー」


 ピコが練習場の端へ移動する。


 俺は足元から小さな石を拾った。


 手のひらに載せる。


 魔力を流す。


 石の中に、俺の魔力が残る。


「まずは普通に」


 石を地面へ置いた。


 十メートルほど離れる。


 目を閉じる。


 あるな。


 自分の魔力が分かる。


 転移。


 一瞬。


 景色が変わる。


 足元には石がある。


「ここまでは問題ない」


 以前にもやっている。


 次。


 石を拾う。


 今度は小さい丸めの石を拾い、前へ軽く転がした。


 ころころと地面を進んでいく。


 魔力を探す。


「……分かる」


 石の位置が動いている。


 その中にある俺の魔力も、一緒に動いている。


 以前ピコの中に残った魔力を感知した時と同じだ。


 問題は――。


 そこへ転移できるか。


「……」


 転がる石を見る。


 以前は、動いている魔力を転移先に使うのは危険だと判断した。


 位置が変わり続ける。


 転移した瞬間、何かに重なったらどうなるかも分からない。


 だから試さなかった。


 今日は、その危険を確かめるために来た。


 まず《浮遊》を使う。


 万が一、少し高い位置へ出ても身体を支えられるようにしておく。


 それから石を手に取った。


 ごく軽く、上へ放る。


 目の高さにも届かない。


 石の中にある魔力を捉える。


 転移――。


 何も起きない。


「駄目か」


 もう一回。


 失敗。


 三回目。


 失敗。


 四回目。


 また失敗。


 五回。


 六回。


 何度やっても転移できない。


「……何が違う?」


 置かれた石なら転移できる。


 動いている石だとできない。


 《綻びの目》。


 石を見る。


《転移先座標:変動》

《指定精度:不足》


「やっぱり位置か」


 転移しようとした時には、すでに石が別の場所にいる。


 今までは、魔力がある「場所」を転移先として捉えていた。


 その考え方だと、動く石には追いつけない。


「場所じゃなくて……」


 石の中にある魔力を見る。


 そこにある俺自身の魔力。


 転移したいのは、石があった場所じゃない。


 その魔力の近く。


「魔力そのものを追えばいいのか?」


 もう一度。


 石を軽く放る。


 中の魔力だけを意識する。


 転移。


 失敗。


「まだ駄目か」


 もう一度。


 失敗。


 さらにもう一度。


 失敗。


 十回を超えた。


 場所を見ない。


 石も見ない。


 ただ、自分の魔力だけを感じる。


 もう一度。


「……今」


 転移。


 一瞬だけ視界が消えた。


 でも、次の瞬間には元の場所にいた。


「今、少しだけ……」


 何かが違った。


 もう一度。


 石を放る。


 魔力を追う。


「今だ!」


 転移。


 また失敗。


 それでも、さっきまでとは違う。


 あと少し。


 そんな感覚がある。


 もう一回。


 さらにもう一回。


 投げる。


 捉える。


 転移。


 失敗。


 十五回を超えた頃。


 石を上へ放る。


 その中にある魔力だけを追い続ける。


 石が頂点へ近づく。


「……今」


 転移。


 景色が切り替わった。


「え?」


 視界のすぐ横を、石が落ちていく。


 地面に当たった。


 カツン。


「……」


 振り返る。


 さっきまで俺がいた場所は数メートル向こうだ。


「できた?」


「ピー!」


 ピコが鳴く。


 今。


 石が落ちる前だった。


 まだ空中を動いている石のところへ転移した。


 転移先そのものと身体が重なるわけじゃない。


 これまでの転移と同じだ。


 感知した自分の魔力を基準に、身体が入るだけの空間へ移っている。


 だから石は、俺の身体の中ではなくすぐ横にあった。


「……もう一回」


 石を拾う。


 今度は少し遠くへ。


 投げる。


 魔力を追う。


 転移。


 失敗。


「さすがに一回できただけじゃ駄目か」


 もう一度。


 失敗。


 三回目。


 転移。


 一瞬で景色が変わる。


 石が目の前を通り過ぎた。


「できた」


 もう一回。


 今度は少し速く。


 失敗。


 もう一度。


 失敗。


 投げる速度を少し落とす。


 転移。


 成功。


「……なるほど」


 少しずつ分かってきた。


 石がどこにあるのかを考えると遅れる。


 中にある自分の魔力だけを追い続ける。


 その感覚が途切れなければ、移動していても転移先にできる。


 もう一回。


 成功。


 もう一回。


 失敗。


 もう一回。


 成功。


 気づけば、何度やったのか分からなくなっていた。


「もっと速く」


 石を強く投げる。


 魔力を追う。


 転移。


 失敗。


 もう一度。


 転移。


 今度は成功。


 景色が切り替わる。


 石はまだ飛んでいる。


「よし」


 もう一度。


 転移。


 成功。


「これなら……」


 さらにもう一度。


 転移。


 成功。


 その次。


 転移。


「うっ……」


 着地した身体がふらついた。


 足に力が入らない。


 慌てて片膝をつく。


「ピー!?」


 ピコが飛んでくる。


「大丈夫」


 そう答えたけど。


「……気持ち悪い」


 視界が少し揺れている。


 魔力を使い過ぎたせいかもしれない。


 身体の感覚と、見えている景色が合わない。


 吐くほどじゃない。


 でも、このまま続けるのはまずい。


「ちょっとやりすぎたな」


「ピー……」


「大丈夫だって」


 その場に座り、しばらく休んだ。


 少しずつ視界が戻ってくる。


 短時間に何度も転移すると、身体への負担がある。


 これも覚えておかないといけない。


 転移できるからといって、何度でも連続で使えるわけじゃない。


 十分に休んでから立ち上がった。


「最後に、一回だけ試したい」


「ピー!」


「分かってる。これで終わりにするよ」


 今度は本当に一度だけ。


 石を持つ。


 目の前にガイルがいると考える。


 真正面へ投げる。


 相手なら当然、避ける。


 だったら石はその横を通り過ぎる。


 そこへ俺が飛ぶ。


 問題は、転移した先に相手がいる場合だ。


 感知した魔力のすぐ近くへ移る以上、位置を間違えれば接触する可能性もある。


 実戦で使うなら、石を相手へ直接ぶつけるんじゃない。


 身体一つ分以上、横を通す必要がある。


「……そこも練習しないとな」


 少し横へ狙いをずらす。


 投げた。


 石が低い軌道で前へ飛んでいく。


 まだ飛んでいる。


 中の魔力を捉える。


「……今」


 転移。


 一瞬だけ視界が消える。


 次の瞬間。


 さっきまで前へ飛んでいた石が、俺のすぐ横を通り過ぎていった。


「……」


 振り返る。


 元いた場所は、ずっと後ろだ。


 できた。


 飛んでいる石を転移先にできた。


「ピー!」


「うん」


 手を握る。


「これなら……使えるかもしれない」


 相手へ向けて石を投げる。


 相手が避ける。


 その横を石が通る。


 その瞬間、石の中に残した自分の魔力を捉える。


 そこへ転移する。


 相手が避けた直後、その真横へ出られる。


 《縮地》とは違う。


 真っすぐ駆け抜けるわけじゃない。


 途中を通らない。


 速く移動するんじゃない。


 本当に、距離そのものを飛び越える。


「……まだガイルには黙っておこう」


「ピー?」


「使えるかどうか、もう少し確かめたいから」


 それに。


 ガイルとの朝の訓練でやることは、まだたくさんある。


 《縮地》の発動を速くする。


 方向を変える。


 後ろへ使う。


 フェイントにも組み込む。


 こっちだって、まだ完成していない。


 石を拾い、掌の上で転がす。


 王都武闘大会の学院代表選考まで、あと八日。


 《縮地》を磨く。


 そして誰にも見せずに、こっちも磨く。


 俺の手の中には、まだ何の変哲もない小さな石があった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
転移ってわからないように使うのかな? さすがに、予選であっても使っちゃまずくない?
転移を晒したらまずいのでは?
熱放散は防げませんな 管の材質、配管の距離と構造、被覆や二重構造 整備性とのトレードオフ
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