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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第507話 一人では作れない

新連載スタート!

《剣聖》になった弟に家を追い出された俺のスキルは《会員》でした

(https://ncode.syosetu.com/n6087ms/)からご覧いただけます。

お手すきの際に是非!

 翌日の午後。


 研究コースの時間になっても、俺は昨日使った試作装置を眺めていた。


 接合部は外れかけたままになっている。


 机の上の紙には、昨日分かったことを書き出してあった。


 一定の高低差をつければ、水は自然に循環する。


 離れた場所まで熱を運ぶこともできた。


 ただし、火力を上げると内部の圧力が上昇する。


 接合部の強度も足りない。


 管の太さや曲げ方も、これで正しいのか分からない。


「……ここから先は、俺だけじゃ駄目だな」


 思わず呟いた。


「何がですか?」


 近くを通ったクラリッサ先生が足を止める。


「この装置です」


 壊れた接合部分を指差した。


「考え方は試せます。問題を探すこともできます。

でも、俺は金属加工の職人じゃありません」


「なるほど」


「水が漏れない接合とか、熱に耐える容器とか。

そういうところを素人の俺が一から試すより、知っている人に聞いた方がいいと思って」


 クラリッサ先生が頷く。


「職人に相談するつもりですか?」


「はい。卒業研究で外の人に相談しても大丈夫でしょうか?」


「構いません。ただし、作業をすべて任せるのではありませんよ」


「もちろんです」


「何を自分で考えて、どこから職人の知識を借りたのか。そこも記録してください」


「分かりました」


 それなら、次は探す相手だ。


 剣を作る鍛冶屋ではない。


 必要なのは、水を入れる金属容器を作れる人。


 熱に耐える釜を作れる人。


 短い管や注ぎ口を加工できて、それを容器へ取り付けられる人。


 そう考えると、大鍋や湯沸かし用の容器、酒造用の釜なんかを作っている工房が近そうだ。


「ピコ。今日は少し寄り道して帰ろうか」


「ピィ!」


 机の端に座っていたピコが元気よく鳴いた。


 ◇


 授業が終わると、俺はピコを連れて王都へ出た。


 学院で聞いた職人街へ向かい、まず一軒目の工房に入る。


 壁には剣や槍の穂先が並んでいた。


 持ってきた設計図を広げる。


「こういう容器と管を作りたいんですが」


 職人はしばらく図面を見たあと、首を振った。


「うちは武器が中心だ。こういう仕事なら別を当たってくれ」


「分かりました。ありがとうございます」


 次の工房は、大鍋や釜を扱っていた。


「容器なら作れる」


 職人はそう言ったものの、図面の管を指差した。


「だが、こんな細い管を何本も作るのは難しいな」


「短いものなら作れますか?」


「それならできなくもない。ただ、いくつもつないだら水が漏れるぞ」


「なるほど……」


 一つの工房ですべてできる必要はない。


 でも、今一番困っているのが、その接合部分だ。


 もう少し探してみよう。


 それから何軒か回ったところで、細い通りに入った。


 店先には鍋や釜。


 奥には大きな金属容器や、注ぎ口のついたもの、用途の分からない特注品まで並んでいる。


 さらに奥を見ると、若い職人が短い金属管のような部品を容器へ取り付けていた。


「……ここかな」


「ピィ」


 ピコも同意するように鳴く。


 看板には《ベルン金工房》と書かれていた。


 中へ入る。


「すみません」


「何だ?」


 奥から出てきたのは、五十歳くらいの男だった。


 太い腕。


 短く刈った髪。


 エプロンには黒い煤がいくつもついている。


「相談したいものがあります」


「注文か?」


「まだ、作ってもらえるかどうかも分からなくて」


「見せてみろ」


 作業台の端を借りて設計図を広げた。


 昨日の試作を元に描き直したものだ。


 下に炉。


 その上に水を入れた容器。


 上側から伸びる管。


 少し離れたところに別の容器。


 そこから下側へ戻る管。


 昨日壊れた接合部分には×印をつけてある。


 男は黙って図面を見る。


 少しして、眉を寄せた。


「……何だ、これは?」


「温めた水を管の中で回して、離れた場所を暖める装置です」


「離れた場所を?」


「はい」


「そっちには火を置かずに?」


「そのつもりです」


 男が顔を上げる。


「……は?」


「えっと」


「暖めたいなら、その部屋で火を焚けばいいだろ」


「それだと、部屋ごとに暖炉と煙突が必要になります」


「当たり前だ」


「その当たり前を変えられないかなと思って」


 男が俺を見る。


 さっきまでとは、少し目が変わった。


「実際に作ったのか?」


「小さいものなら」


 設計図の×印を指差す。


「水を温めて循環させるところまではいきました。でも火を強くしたら、ここから熱湯が噴き出しました」


「そりゃそうだ」


「やっぱりですか」


 男は図面へ顔を近づけた。


「まず、このつなぎ方じゃ弱い」


「はい」


「この管も細すぎる。作れなくはないが、曲げるならもっと緩くしろ」


「なるほど」


「ここもだ。この形じゃ継ぎ目に負担がかかる」


 次々に指が動く。


 さすがに見るところが違う。


「それと」


 男が俺を見る。


「これ、全部閉じたまま火にかけたのか?」


「はい」


「よくそれだけで済んだな」


「やっぱり危なかったですか」


「危ないに決まってる」


 昨日、《綻びの目》が警告してくれなかったらどうなっていたのか。


 あまり考えたくない。


「中の圧力を逃がす方法を考えているんです」


「だったら全部閉じるな」


「え?」


 男が図面の一番上へ線を引く。


 その先に、小さな容器のようなものを描いた。


「一番高いところに、こういう逃げる場所を作れ」


「逃げる場所?」


「水でも空気でも、上に逃がせるようにしとけ。全部閉じ込めるから無理がかかる」


「なるほど……」


 圧力が上がるなら、上がり続けないように逃げ道を作る。


 言われてみれば単純なことだ。


「それ、試してみてもいいですか?」


「俺は作るとは言ってないぞ」


「あ」


 男は鼻を鳴らした。


 それから工房の奥へ顔を向ける。


「ルッツ!」


「はい」


 さっき短い管を加工していた若い職人が顔を上げた。


 二十代前半くらいだろうか。


「こっち来い」


 ルッツと呼ばれた青年が手を拭きながら近づいてくる。


「何です?」


「お前がやれ」


「俺がですか?」


「そうだ。しばらくこいつに付き合え。細かい加工はお前の方が向いてる」


 ルッツが俺を見る。


 次に設計図を見る。


「……分かりました」


「こいつを好きに使え」


 そう言って、男は俺を見る。


「ただし、材料代とこいつの手間賃はもらうぞ」


「もちろんです」


「ならいい」


 男は自分の胸を軽く叩いた。


「オスカー・ベルン。この工房の親方だ」


「リオン・ハルです。よろしくお願いします」


「ルッツさんも、よろしくお願いします」


「はい」


 ルッツはまだ少し戸惑っている。


 当然だろう。


 いきなり知らない学生の、見たこともない装置を手伝えと言われたんだから。


 その日は、図面を見ながら話をするだけで終わった。


 容器の形。


 管の太さ。


 接合方法。


 曲げる角度。


 圧力を逃がす場所。


 気づけば外はかなり暗くなっていた。


「今日はありがとうございました」


「明日も来るんですか?」


 ルッツが聞く。


「来てもいいですか?」


「親方がいいなら」


「好きにしろ!」


 奥からオスカーの声が飛んでくる。


「じゃあ、また明日」


「はい」


 俺はピコを連れて工房を出た。


 ◇


 翌日の放課後。


 またベルン金工房へ行った。


 新しく加工してもらった部品をつなぎ、火を入れる。


 失敗した。


 その次の日も行った。


 また形を変えた。


 今度は別のところから水が漏れた。


 さらに次の日。


 管の位置を変える。


 今度は水の流れが悪くなった。


 放課後になるたびに工房へ通った。


 管を太くする。


 接合部分を変える。


 容器の位置を変える。


 上には、圧力を逃がすための小さな容器もつけた。


 それでも、思った通りにはいかない。


「漏れてます」


「また?」


「ここです」


 ルッツが接合部分を指差す。


「じゃあ、そこを変えよう」


 別の日。


「今度は流れませんね」


「本当だ……」


 《綻びの目》。


《循環効率:低下》

《曲部:流動阻害》


「この曲がりかな」


「俺もそこだと思います」


 最初は言われた作業だけをしていたルッツも、少しずつ自分から意見を言うようになっていた。


「リオン様。この管、もう少し太くしませんか?」


「どうして?」


「ここまで細いと、水の流れが悪くなると思います」


 《綻びの目》でも確認する。


《循環効率:低下》


「……本当だ」


「なら、こっちの方がいいです」


「やってみよう」


 ◇


 工房へ通い始めて五日目。


 研究コースが終わると、俺は急いで荷物をまとめた。


「じゃあ、工房行ってくる」


 ピコも当然のように俺の肩へ飛び乗った。


 ミラがこちらを見る。


「今日も?」


「うん。昨日の接合、もう一回試したくて」


 ヴィクトルが呆れたように言った。


「何日目だ?」


「今日で五日目かな」


「すっかりのめり込んでるな」


「ちょっと面白くなってきて」


「見れば分かる」


「じゃあ、また明日」


「行ってらっしゃい」


 ミラに見送られ、そのまま教室を出た。


 ◇


「……あいつ、本当に馬鹿だな」


 リオンが出ていった扉を見ながら、ヴィクトルが言った。


「え?」


 ミラが振り向く。


「婚約するって決まったばっかりなのに、毎日お前を置いて工房だぞ」


 ミラは少し笑った。


「でも、楽しそうだから」


「少しくらい文句言ってもいいんじゃないか?」


「言いたくなったら言うよ」


「……ならいいけどさ」


 ヴィクトルはもう一度、リオンが出ていった扉を見た。


 ◇


 それから数日後。


「明日も来ていいですか?」


 作業を終えたところで、俺はルッツに聞いた。


「明日は工房、休みですよ」


「ああ、そうか。じゃあ次の授業のあとで」


「……」


「どうしました?」


「俺は来ます」


「え?」


「次は、この接合を変えてみたいんです」


「でも、休みですよね?」


「分かってます」


「休みの日まで頼むつもりはないですよ」


 ルッツが図面を見る。


「俺がやりたいんです。ここまでやったら、ちゃんと動くところを見たいので」


 完全に巻き込んでしまったらしい。


 でも、その言葉は少し嬉しかった。


「じゃあ、明日もお願いします」


「はい」


 ◇


 翌朝。


 休みの工房には、俺とルッツ、それからピコだけがいた。


「じゃあ、火を入れます」


「お願いします」


 新しく作り直した装置に火を入れる。


 水が温まっていく。


 しばらく待つ。


 管も少しずつ暖かくなった。


「今回はいけるかも」


「まだ分かりませんよ」


「そうですね」


 さらに待つ。


 すると。


「あ」


 接合部から一滴。


 水が落ちた。


「……漏れましたね」


「漏れましたね」


 二人でしゃがみ込む。


「ここ、もう少し締めます?」


「いや、締めるだけだと別のところに負担がかかるかも」


「じゃあ形から変えますか」


「やってみましょう」


 作り直す。


 また試す。


 今度は水がうまく流れない。


 さらに作り直す。


 気づけば、かなり時間が経っていた。


「お疲れ様です」


 聞き慣れた声がした。


「ん?」


 振り返る。


「ミラ?」


 工房の入口にミラが立っていた。


 両手には包みと、蓋のついた容器を持っている。


「何してるの?」


「お昼を持ってきたの」


「お昼?」


「まだ食べてないでしょ?」


 俺はルッツを見る。


 ルッツも俺を見る。


「……食べてないですね」


「ですね」


 ミラが少し呆れたように笑った。


「やっぱり」


「あ、そうだ」


 俺はルッツを手で示す。


「ミラ、紹介するね。こっちはルッツさん。この工房の職人で、ずっと研究を手伝ってもらってる」


「ルッツです」


 ルッツが姿勢を正す。


「こちらはミラ・ハーウェイ。学院の同級生で、婚約することになってる」


「初めまして」


 ミラが笑う。


「いつもリオンがお世話になっています」


「い、いえ。こちらこそ」


 ルッツが少し緊張している。


 ミラは気にした様子もなく、工房の中を見回した。


 図面。


 金属管。


 容器。


 何度も作り直した部品。


「すごいね」


「失敗ばっかりだけどね」


「でも、リオン、また私たちが見たことないものを作ろうとしてるんでしょ?」


「まあ……そうなるのかな」


「じゃあ、応援してるよ」


 その言葉を聞いて、少し申し訳なくなった。


「ごめん、ミラ」


「何が?」


「せっかく婚約することになったのに。本当は休みの日くらい、ミラと出かけたりしたいんだけど……」


「いいよ」


「でも」


「リオンは、リオンのやりたいようにやればいいよ」


 ミラが工房の中を見る。


「私が邪魔じゃなければ、こうして私が会いに来ればいいんだし」


「邪魔なわけないよ」


「じゃあ、問題ないでしょ?」


 そう言って笑う。


「それに、私も見たいから」


「何を?」


「リオンが今度は何を作るのか」


「……ありがとう」


「うん。だから、まずお昼食べよう」


 ミラが包みを作業台へ置く。


「サンドイッチとスープ。近くのお店で作ってもらったの」


「ありがとう」


 ルッツが少し離れようとした。


「あ、俺は向こうで――」


「ルッツさんも一緒にどうぞ」


「え?」


「多めに作ってもらったから、十分ありますよ」


「いいんですか?」


「もちろんです」


 ルッツは少し戸惑ったあと、小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 三人で作業台を囲む。


 ピコにも少しだけ分けた。


 温かいスープを飲んで、ようやく自分が思った以上に腹を空かせていたことに気づく。


 食事を終えると、ルッツが立ち上がった。


「じゃあ、続きをやりましょう」


「うん」


 俺も立つ。


「もうやるの?」


 ミラが笑う。


「うん、今面白いところなんだ」


「そうなんだ、頑張ってね」


 ミラに見送られ、俺とルッツはまた図面の前へ戻った。


 工房の隅には、何度も作り直された試作品が置かれている。


 まだ一度も、思った通りには動いていない。


 それでも、不思議と諦める気にはならなかった。


 俺一人では、ここから先へ進めなかった。


 でも、一人で作る必要もない。


 いつの間にか、ルッツまで本気になっている。


 なら、もう少し先まで行ける。


そんな気がした。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
だってリオンだもん…。ミラさん想定内ですよねwきっとこの温水式は将来ハル家の部屋を暖めてくれると思います(夫婦の寝室とか~?)
ここでは普通、婚約の記念に皆さん何を贈るのでしょうね。指輪をもらった時のミラの反応が楽しみ。
旋盤があれば? こっちの方が作りやすい・・・動力か(´・ω・`) 暖房用なら鉛管の方が加工しやすいけど金属としての値段や他の需要が解らない こっちで鉛管が使われたのも安さと加工難度が低かったからだし …
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