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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第20章 王立学院五年 三学期

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第505話 三学期が始まる

 翌朝。


 制服に着替えた俺は、机の上に置いてある鞄の中身をもう一度確認した。


 教科書。


 筆記具。


 そして昨日終わらせた冬休みの課題。


「……よし。全部ある」


「ピー」


 ベッドの上にいたピコが鳴いた。


「じゃあ、行こうか」


「ピー!」


 鞄を持って部屋を出る。


 今日から三学期。


 卒業式は三月中旬に行われる予定だから、王立学院で過ごす時間も残り一か月半ほどしかない。


 そう考えると、今までとは少し違った気持ちで廊下を歩いた。


 ◇


 教室へ入ると、すでに何人か来ていた。


「おう、リオン」


 最初に声をかけてきたのはヴィクトルだった。


「おはよう」


「宿題、持ってきたか?」


「昨日のことはもう忘れてよ」


「無理だな」


 ヴィクトルが笑う。


「リオン!」


 教室の奥から大きな声が聞こえる。


 ガイルだ。


「おはよう、ガイル」


「久しぶりだな!」


「久しぶり」


「ちゃんと剣術の訓練はしてきたか?」


 相変わらず元気だ。


 冬休み前と何も変わっていない。


 いや。


 気のせいかもしれないけど、また少し身体が大きくなったような気もする。


「ガイル、また大きくなった?」


「分からん!」


「やっぱり自分じゃ分からないか」


 話している間にも、次々とクラスメイトが入ってくる。


 クラウス。


 エドガー。


 セレナ。


 ナディア。


 フィーネ。


 毎日のように顔を合わせていた人たちなのに、しばらく離れていると少し懐かしい。


「おはよう、リオン」


「おはよう、セレナ」


「冬休みはどうだった?」


「かなり色々あったよ」


「グレイヴ領にも行ってたんでしょう?」


「うん」


「それだけで済む冬休みじゃないわね」


「まあね」


 詳しい話をし始めたら長くなる。


 まぁ、あとで話す機会もあるだろう。


「フィーネもおはよう」


「おはようございます」


 そこで、以前から気になっていたことを思い出した。


「そういえば、政務官試験の結果ってどうなったの?」


「あ」


 フィーネが少しだけ目を見開く。


「冬休みに入ってすぐ、家に知らせが届きました」


「本当?」


「はい」


 一度、小さく息を吸ったあと、フィーネが笑った。


「合格していました」


「本当!? おめでとう!」


「ありがとうございます」


 思ったより大きな声が出たらしい。


 近くにいたセレナたちもこちらを見る。


「フィーネ、受かったの?」


「はい」


「おめでとう」


「ありがとうございます」


 エドガーやナディアも祝福する。


 フィーネは少し照れくさそうにしながら、何度も頭を下げていた。


 王宮政務官。


 フィーネがずっと目指してきた仕事だ。


 五年Sクラスでも上位に入るまで努力して、その上で政務官試験まで突破した。


「すごいな」


「まだ実感がなくて」


「でも、合格は合格でしょ」


「はい」


 フィーネが嬉しそうに笑った。


 その時、教室の扉が開く。


「おはよう」


 ミラだ。


「おはよう、ミラ」


「おはよう、リオン」


 ミラと目が合う。


 ハル領では三日間一緒に過ごした。


 婚約の話までした。


 なのに、制服姿で学院の教室にいるミラを見ると、なんとなく違って見える。


 ミラも少し笑った。


「……何だ?」


 隣からヴィクトルの声。


「何?」


「いや、別に」


 ヴィクトルはニヤニヤしている。


 理由は分かっている。


 ヴィクトルには昨日、婚約の話をしたばかりだ。


「何かあったの?」


 セレナが俺とミラを交互に見る。


「どうして?」


「なんとなく」


 鋭いな。


「あとで話すよ」


「ふうん」


 セレナはまだ少し疑っていたけど、それ以上は聞いてこなかった。


 ◇


 始業の鐘が鳴る。


 少しして、アデライン先生が教室へ入ってきた。


「皆さん、おはようございます」


「おはようございます」


「今日から五年三学期です」


 先生が教卓へ資料を置く。


「すでに分かっていると思いますが、三学期は短いです。卒業式は三月中旬を予定しています」


 教室が少し静かになる。


 卒業。


 改めて先生の口から聞くと、やっぱり実感が湧いてくる。


「それまで通常の授業に加えて、いくつか予定があります。先に説明しておきます」


 アデライン先生が一枚目の資料を見る。


「まず、三月上旬に五年生最後の期末試験があります」


「最後か……」


 誰かが小さく呟いた。


 俺も同じことを思った。


 一年生の時から何度も受けてきた期末試験。


 それも次が最後になる。


「もちろん、卒業前だからといって簡単になるわけではありません」


「ですよね……」


 今度は別のところから声が聞こえた。


 先生が少し笑う。


「最後までしっかり勉強してください」


 セレナを見ると、ちょうど目が合った。


 フィーネも前を向いている。


 二学期の期末試験ではかなり点差が小さかった。


 最後の試験も簡単にはいかなそうだ。


「期末試験が終わった後には、五年生の卒業祝賀会も予定されています。舞踏会も行われます」


 教室の雰囲気が少し明るくなる。


「舞踏会か」


 ヴィクトルが小さく言った。


 俺は無意識にミラを見る。


 ミラもこっちを見た。


 正式な婚約が済んでいれば、一緒に踊ることになるんだろう。


 ……待て。


 踊る?


 前世を含めても、まともに踊った記憶なんてない。


 社交ダンスなんて当然やったことがない。


 不安しかない。


「そして、もう一つ」


 アデライン先生が教室を見渡した。


「今年は三年に一度の王都武闘大会が開催されます」


「うおおおおお!」


 突然、教室に大声が響いた。


 言うまでもない。


 ガイルだ。


「ガイル・ベイルン君」


「はい!」


「お静かに」


「すみません!」


 口では謝っているけど、顔はまったく反省していない。


 むしろものすごく嬉しそうだ。


 教室のあちこちから笑いが起こった。


「大会について知っている人も多いと思いますが、念のため説明します」


 アデライン先生が続ける。


「王都武闘大会は三年に一度、王家主催で行われる個人武闘大会です。

参加資格は十五歳以上、二十三歳未満。王国騎士団や各領の騎士団、冒険者をはじめ、王国各地から若い実力者が集まります」


 十五歳以上、二十三歳未満。


 俺たちは二回飛び級している。


 五年生ではあるけれど、出場者の中ではかなり若い方になるだろう。


「王立学院にも二名の出場枠が与えられています」


「二人か」


 今度はガイルも小声だった。


「王立学院から出場を希望する生徒が二名を超えた場合、学院内で代表決定戦を行います。出場は任意です」


 教室の空気が変わる。


 セレナ。


 クラウス。


 エドガー。


 ガイル。


 戦闘に自信のある生徒たちが、それぞれ少し反応している。


「なお、代表決定戦へ参加できるのは、本大会の年齢条件を満たした王立学院在籍者です。学年やクラスは問いません」


 つまり、王立学院全体から二人。


 簡単な話ではなさそうだ。


「参加希望者には後ほど申込用紙を配布します」


「先生!」


 ガイルが手を挙げた。


「何ですか?」


「俺、出ます!」


「申込用紙に書いて提出してください」


「はい!」


 また笑いが起こる。


「リオン」


 ガイルがすぐ俺を見る。


「何?」


「お前も出るだろ?」


「まだ決めてないよ」


「出よう!」


「なんでガイルが決めるの?」


「戦おう!」


「俺と戦いたいだけじゃない?」


「あぁ、そうだ!」


 やっぱりそうか。


 でも、少し興味はある。


 冬休み中、ノルと一緒にかなり訓練した。


 《縮地》も、まだ完成したとは言えないけど形にはなってきた。


 ノル以外の強い相手に、どこまで通用するのか。


 試してみたい気持ちはある。


 王国各地から若い実力者が集まる大会なら、相手には困らないだろう。


 出るかどうか、少し考えてみよう。


 ◇


 午前の授業が終わる。


 昼休みになると、いつものメンバーで食堂の一角へ集まった。


 俺。


 ミラ。


 ヴィクトル。


 エドガー。


 セレナ。


 ナディア。


 ガイル。


 クラウス。


 今日は政務官試験の合格祝いも兼ねて、フィーネにも一緒に来てもらった。


「改めて、おめでとう」


 セレナが言う。


「ありがとうございます」


 フィーネは朝よりも少し照れている。


「王宮政務官か」


 ガイルが感心したように言った。


「すごいな」


「ガイルさんにそう言われると、なんだか不思議です」


「なんでだ?」


「いえ、何でもないです」


「?」


 そのまま話題は自然と王都武闘大会へ移った。


「俺は絶対出るぞ!」


 ガイルがパンを食べながら言う。


「それはもう分かったよ」


 ヴィクトルが呆れたように返す。


「ヴィクトルは出ないのか?」


「俺?」


「おう!」


「今のところ考えてないな。正面から戦う大会は俺向きじゃない」


「剣も使えるじゃないか」


「使えるのと、王国中の強いやつと戦いたいのは別だろ」


「そうか?」


「そうだよ」


 ヴィクトルらしい。


「セレナは?」


 俺が聞く。


「出てみたいわね」


「やっぱり」


「せっかく参加できる年齢なんだもの。代表になれるかは別として、代表決定戦には興味があるわ」


「俺も少し興味はあるかな」


 エドガーも言う。


「クラウスは?」


 俺が聞くと、クラウスが少し笑った。


「俺も出るつもりだ」


「やっぱり」


 かなり激しい代表争いになりそうだ。


 そんな話をしていると、ヴィクトルが俺を見る。


「そういえばリオン」


「何?」


「あれ、話さなくていいのか?」


「あれ?」


 何のことかと思ったけど、すぐに分かった。


 ミラを見る。


 ミラもこちらを見ている。


「ああ」


「何?」


 セレナがすぐに反応した。


「実は」


 隠しておくようなことじゃない。


 父上からハーウェイ侯爵家へ書状も出している。


 向こうからも異存はないと返事が来ている。


「俺とミラ、婚約することになった」


 一瞬。


 みんなが止まった。


「おおおおお!」


 最初に声を上げたのは、やっぱりガイルだった。


「ガイル、声大きいよ」


「すまん! でも、おめでとう!」


「ありがとう」


「おめでとう、二人とも」


 エドガーが笑う。


「ありがとうございます」


 ミラも少し照れながら答えた。


「おめでとうございます」


「おめでとうございます」


 フィーネとナディアも続く。


 クラウスも笑いながら頷いた。


「ようやくか」


「クラウスまで?」


「見ていれば分かる」


「そんなに?」


 セレナは、なぜか納得したような顔をしていた。


「やっぱり」


「やっぱり?」


「朝から何か違うと思ったのよ」


「そんなに?」


「少しね」


 そういうものなのかな。


「まだ正式な手続きはこれからだけどね」


 ミラが言う。


「両親同士では話が進んでるの?」


「うん。両家とも反対はしてないよ」


「なら、ほとんど決まりじゃない」


 セレナが笑う。


「それで」


「何?」


「どっちから言ったの?」


 セレナが俺を見る。


「俺から」


「ちゃんと言ったの?」


「言ったよ」


「そこは俺も昨日確認した」


 ヴィクトルが口を挟む。


「ヴィクトルまで?」


「大事だろ」


「何が?」


「リオンがちゃんと言えたかどうか」


 みんなが笑う。


「そこまで信用ないの?」


「なにしろリオンだからな」


 ミラまで笑っている。


 まあ、仕方ないか。


 ずっと待たせてしまったのは事実だ。


「改めて、おめでとう」


 セレナが言う。


「ありがとう」


 ミラと二人で答えた。


 学院に戻ってきたんだな。


 みんなと話していると、そんな実感が少しずつ戻ってきた。


 ◇


 午後。


 俺とミラ、ヴィクトルは研究コースの教室へ向かった。


 教室へ入ると、暖炉にはすでに火が入っていた。


 それでも冬は寒い。


 特に暖炉から離れた席は、上着を着ていても少し冷える。


「皆さん、席についてください」


 クラリッサ先生が教室の前へ立つ。


「三学期の研究について説明します」


 生徒たちが静かになる。


「一学期は指定された課題に取り組み、二学期は数名ずつの班で自分たちの研究テーマを進めてもらいました」


 俺は隣にいるミラとヴィクトルを見る。


 東地区の衛生環境。


 ポンプ。


 安価な石鹸。


 三人で始めた研究は、想像していたよりずっと大きなものになった。


「三学期は卒業研究です」


 クラリッサ先生が黒板へ、


『卒業研究』


と書いた。


「今回は班ではありません。一人につき一つ、自分自身の研究テーマを決めてもらいます」


「一人か」


 ヴィクトルが小さく呟く。


「三人でやらないの、少し変な感じだね」


 ミラも言った。


「ずっと一緒だったからね」


 俺もそう思う。


 でも、最後だからこそ一人でやるというのも分かる気がした。


「研究内容は自由です。ただし、これまで研究コースで学んできたことを活かしてください」


 クラリッサ先生が続ける。


「成功することだけが目的ではありません」


 何人かが顔を上げた。


「何を解決したいのか。なぜその方法を選んだのか。どのような条件で試したのか。何が起きたのか。

そして、その結果から何が分かったのか。最後に一つの研究としてまとめてもらいます」


 なるほど。


「テーマは数日以内に提出してください。必要な材料や設備については、内容を確認した上で学院側でも可能な範囲で用意します」


 周囲の生徒たちが、それぞれ考え始める。


 俺も腕を組んだ。


 卒業研究。


 何をやろう。


 ポンプはすでに作った。


 石鹸も研究した。


 せっかく最後なら、今までと違うものをやってみたい。


「寒いな……」


 思わず声が漏れた。


 暖炉を見る。


 薪はかなり燃えている。


 炎も大きい。


 なのに、少し離れるだけで寒い。


 暖炉の近くに行けば暖かいけれど、当然そこに全員が集まるわけにもいかない。


 部屋に何か所も暖炉を置く?


 いや。


 その分、薪も必要になる。


 煙突も増やさないといけないし、火を管理する必要もある。


 何か別の方法はないだろうか。


 前世では、暖房があったから普通に暖かかった。


 俺自身、暖房設備の詳しい構造まで知っていたわけじゃない。


 でも、一つの場所で作った熱を別の場所へ運ぶ方法はあったはずだ。


 熱を運ぶ。


 どうやって?


 ふと、暖炉の近くに置かれていた水差しを見る。


 水。


 水なら温められる。


 その温めた水を別の場所まで運んだら?


 そこで熱を放出させる。


 冷えた水を戻して、また温める。


「……できるかな」


 紙を一枚取り出す。


 簡単な図を描いてみる。


 火。


 その上に水。


 そこから管を伸ばして、別の部屋へ。


 冷めた水をもう一度戻す。


 問題はいくらでもある。


 どうやって水を動かすのか。


 管は何で作るのか。


 途中で漏れないのか。


 水を熱くしすぎたらどうなるのか。


 何一つ分かっていない。


「リオン君」


 顔を上げる。


 クラリッサ先生が俺の机の横に立っていた。


「もう何か思いつきましたか?」


「まだ、できるかどうかも分からないんですけど」


「どんな研究です?」


 俺は暖炉を見る。


「火のない部屋を暖められないか、試してみたいです」


「火のない部屋を?」


「はい」


 クラリッサ先生が俺の描いた図を見る。


 少しだけ首を傾げた。


 当然だ。


 俺自身、まだどう作ればいいのか分かっていない。


 でも。


 卒業研究。


 最後なら、少しくらい難しいことに挑戦してもいいかもしれない。


 卒業前、三学期がここから始まる。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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書籍化おめでとうございます♪いずれなるんではないかと思ってました。漫画化もして欲しいなぁ。1話飛んでたんですね、新学期がいきなり始まったのであれ?とは思ってましたw
あ、作品情報にサラっと書籍化決定報告がw 今頃気が付いたw オメデトーゴザイマース(*´▽`*)
卒研は工房の範囲でやる方がいいだろうなぁ フィールドワークは時間的に・・・ 地獄見た記憶((((;゜Д゜)))) 大会は優勝賞品何が出るんだろうw 単純な賞金だけじゃないだろうし バトルジャンキーが…
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