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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第19章 グレイヴ伯爵&五年冬休み編

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第502話 次に来る時は

 昼食の席には、父上、母上、俺、ミラが揃っていた。


 朝も同じ四人だった。


 食べているものも、それほど変わらない。


 それなのに、俺には少し違って感じられた。


 今朝、俺はミラに婚約してほしいと伝えた。


 ミラも、俺と婚約したいと言ってくれた。


 まだ正式な婚約者ではない。


 両家で話すことも残っている。


 それでも、俺たち二人の答えはもう決まっている。


「ミラさん、これ好きだったでしょう?」


 母上が料理の皿をミラの方へ寄せた。


「あ、ありがとうございます」


「昨日よく食べてたから。遠慮しないで」


「はい」


 ミラが笑って皿を受け取る。


 二泊三日しかいなかったのに、母上はもうミラの好みを覚えていた。


 ミラの方も、昨日よりずっと自然に母上と話している。


「どうしたの?」


 ミラが俺を見る。


「何が?」


「こっち見てたから」


「馴染んでるなと思って」


「私が?」


「うん」


 ミラが母上を見る。


「エマ様がよくしてくださるから」


「あら。だったら、また来てちょうだい」


「はい。ぜひ」


 母上が嬉しそうに笑った。


 俺もなんだか嬉しくなった。


 ◇


 昼食を終えると、出発の準備が始まった。


 ミラの荷物が客室から運び出される。


 馬車や馬の状態、帰路の食料を護衛たちが確認していた。


 三日前。


 俺はここでミラが来るのを待っていた。


 今日は帰るのを見送る。


 同じ場所なのに、随分違って感じる。


「リオン」


「父上」


 父上が封をした書状を持っていた。


「ハーウェイ侯爵への書状だ」


「婚約の?」


「ああ」


 父上が近くにいたハーウェイ家の護衛責任者を呼ぶ。


「こちらをハーウェイ侯爵へお渡し願いたい」


「確かにお預かりいたします」


 男が両手で受け取った。


「リオンとミラ嬢、双方から婚約の意思を確認した。ハル家として正式に話を進めたい旨を書いてある」


「承知いたしました」


 横で聞いていたミラが、書状を見ている。


「どうしたの?」


「ううん」


 ミラが小さく笑った。


「なんか、実感が出てきた」


「婚約の?」


「そう」


 俺も同じだった。


 庭で二人だけで決めたことが、これから両家の話になっていく。


「ミラ嬢」


「はい」


 父上がミラを見る。


「父君と母君にもよろしく伝えてほしい」


「はい。必ず」


「三日間、こちらも楽しかった」


「私もです。ありがとうございました」


 ミラが頭を下げる。


 母上もこちらへ来た。


「もう帰っちゃうのね」


「はい」


「三日なんてあっという間ね」


「私もそう思います」


「次はもう少しゆっくり来られるといいわね」


 ミラが一瞬、俺を見る。


「はい」


 その表情が少し嬉しそうだった。


 ◇


 荷物を積んでいる間、ミラはミアのところへ向かった。


「ミアさん」


「はい」


「三日間、ありがとうございました」


「いえ。私はそれほど何もしておりません」


「そんなことないよ。部屋のことも、色々準備してくれたでしょう?」


「それは私の仕事ですから」


「それでも」


 ミラが笑う。


「リオンのことも、いつも助けてもらってるし」


「リオン様は私がお仕えする方ですので」


「うん」


 ミラが少し考える。


「また来た時も、よろしくお願いします」


 ミアの表情が柔らかくなった。


「はい。お待ちしております」


「ありがとう」


 三日前より、二人の距離が少し近くなったように見えた。


 レナードにも声をかける。


「昨日はありがとうございました。学校も温泉も、とても楽しかったです」


「そう言っていただければ何よりでございます」


「学校給食のこと、フィーネにも話しておきます」


「よろしくお伝えください」


「はい」


「また西の森へお越しください」


「もちろんです」


 ミラが笑う。


 ノルやエリアスにも挨拶を済ませる。


 ノルはハーウェイ家の護衛たちと帰路の警護について確認していた。


 領境までは、ハル家の騎士も数名同行するらしい。


 ◇


「ミラ様、出発の準備が整いました」


 護衛責任者が声をかける。


「分かりました」


 いよいよか。


 父上と母上。


 エリアス。


 レナード。


 ノル。


 ミア。


 みんなが屋敷の前に出てきた。


 ミラはもう一度、父上と母上へ頭を下げる。


「三日間、本当にありがとうございました」


「こちらこそ」


 父上が答える。


「気をつけて帰りなさい」


「はい」


 母上も笑う。


「またね、ミラさん」


「はい。また伺います」


 ミラが俺を見る。


 少しだけ離れた場所へ歩いた。


 完全に二人きりではないけれど、周囲の人たちは少し距離を取ってくれている。


「三日って早かったね」


 ミラが屋敷を見る。


「早かった」


「もう少しいたかったな」


「俺も。もう少しいてほしかった」


 ミラがこちらを見る。


 少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。


「そっか」


「うん」


「じゃあ、もっと長くしてもらえばよかった」


「ハーウェイ侯爵に心配されない?」


「父上なら心配するかも」


「じゃあ三日でよかったのかな」


「そこは引き止めてよ」


「次はね」


「次?」


「次に来た時は、もう少し長くいればいいよ」


 自然に出た言葉だった。


 もう、次にミラが来ることを前提にしている。


 ミラもそれに気づいたのか、少し笑った。


「ねえ、リオン」


「何?」


「次にここへ来る時は、婚約者として来られるかな」


 少し照れたような顔をしている。


「来てもらいたい」


 ミラが目を丸くした。


 それから、嬉しそうに笑う。


「……うん」


「父上も書状を託したし、俺もちゃんと話を進めるよ」


「うん」


「じゃあ」


「待ってるね」


「うん」


 今度は、待たせたくない。


 俺から手を差し出す。


 ミラが握ってくれた。


「帰り、気をつけて」


「リオンもね」


「俺?」


「また無茶して、冒険者の依頼を何件も受けたりしないように」


「訓練は続けるけどね」


「それは止めないよ」


 少しの間、手を握ったままでいる。


「学院で会おう」


「うん。またね、リオン」


「またね、ミラ」


 手を離した。


 ミラが馬車へ乗る。


 侍女も続いて乗り込み、扉が閉じた。


 御者が手綱を握り、護衛騎士たちも馬へ乗る。


 馬車がゆっくりと動き始めた。


 窓が開く。


「リオン!」


 ミラが手を振っている。


 俺も手を上げた。


「気をつけて!」


「うん!」


 馬車が少しずつ離れていく。


 やがて街道の向こうへ小さくなり、見えなくなった。


「……行っちゃったな」


「そうですね」


 隣にいたミアが答える。


「三日前より、屋敷が静かに感じます」


「俺もそう思う」


 母上がこちらを見る。


「また来てもらえばいいでしょう?」


「そうですね」


 次に来る時は。


 今とは少し違う関係で迎えられるかもしれない。


 そう思うと、寂しいだけではなかった。


 ◇


 その日の夕方。


 自分の部屋で本を読んでいると、扉が叩かれた。


「リオン様」


 ミアだ。


「はい?」


「旦那様がお呼びです」


「父上が?」


「王都から書状が届いたそうです」


 王都。


 その言葉を聞いて、すぐにグレイヴ伯爵のことが浮かんだ。


「分かった。すぐ行く」


 ◇


 父上の執務室へ入る。


「来たか」


「はい」


 机には一通の書状が置かれていた。


「王都からですか?」


「ああ。司法院からだ」


「グレイヴ伯爵の件ですね」


「そうだ」


 父上から書状を受け取り、目を通す。


 グレイヴ伯爵は今も王都で司法院の手続き下にある。


 関係者への聴取。


 伯爵家の帳簿。


 王宮から出された支援金の記録。


 それらの照合が続いている。


「まだ時間がかかりそうですね」


「伯爵一人から話を聞けば終わる件ではないからな」


「そうですね」


「三学期が始まった後、お前にも追加で確認を行う可能性があるそうだ」


「俺にも?」


「現地を見た人間の一人だからな」


「分かりました」


 もう一度、書状へ目を戻す。


 最後の部分で手が止まった。


「父上」


「そこか」


「はい」


 司法院が伯爵家の帳簿と、王宮から出された支援金の記録を照合した結果。


 一部について、現地調査で確認された実態と食い違う点が見つかったらしい。


 まだ、それだけで誰かの罪が決まったわけではない。


 ただ、司法院が調査すべきものが、また一つ増えた。


 書状にはこう記されていた。


 ――王宮支援金の一部について、伯爵家帳簿と現地調査結果に齟齬あり。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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グレイブ伯爵みたいな私利私欲に走るやつは簡単に国を裏切りそう、そんな所を他所の国に目をつけられて入り込まれて悪事の片棒を担ぎそうだよね~この際とことん膿は出した方が良き。
何のために不正をしてまで金が要るのやら? 身分費用なら他でも同じような事例はあると思われるし、個人の贅沢というなら国に目を付けられる要因にもなる 奢侈贅沢で改易の憂き目を見た大名なんていくらでもいます…
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