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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第19章 グレイヴ伯爵&五年冬休み編

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第501話 婚約してほしい

 翌朝。


 食堂には父上、母上、俺、そしてミラが揃っていた。


 ピコもいつものように俺の椅子の近くにいる。


「昨日はよく眠れた?」


 母上がミラに聞く。


「はい。とてもよく眠れました」


「西の森も楽しめた?」


「すごく楽しかったです。温泉も気持ちよくて」


 ミラが嬉しそうに答える。


「ハーウェイ領にも欲しくなりました」


 父上が少し笑った。


「それはリオンでも簡単には用意できんな」


「昨日も同じことを言われました」


「そりゃそうだよ」


 俺が言うと、ミラがこちらを見る。


「でも、少しくらい期待してもいいでしょ?」


「掘って出てくれればね」


「じゃあ、帰ったら父上に相談してみようかな」


「本気?」


「冗談だよ」


 ミラが笑う。


 俺も笑ったけれど、朝からずっと頭の隅にあることは消えない。


 婚約の話。


 昨日、西の森で決めた。


 ミラが帰る前に、ちゃんと俺から話す。


「リオン」


「何?」


 母上が俺の手元を見る。


「パン、食べないの?」


「あ」


 いつの間にか細かくちぎっていた。


「食べます」


 母上は何も言わず、少しだけ笑った。


 たぶん気づかれている。


 ◇


 朝食が終わった。


 ミラが母上との話を終えたところで声をかける。


「ミラ」


「何?」


「少し話せる?」


 ミラが俺を見る。


「うん」


「庭を歩かない?」


「いいよ」


 ◇


 冬の庭へ出た。


 木々の葉は落ち、花もほとんど咲いていない。


 それでも今日はよく晴れている。


 少し離れたところにミアとミラの侍女がいる。


 こちらの会話までは聞こえない距離だ。


 ミラと並んで庭を歩く。


 昨日はちゃんと話そうと決めていたのに、いざ本人を前にすると、どこから始めればいいのか迷う。


「リオン」


「うん?」


「婚約の話でしょ?」


 思わず足が止まった。


「……分かってた?」


「分かるよ。朝から変だったし」


「そんなに?」


「パンを粉々にしてた」


「あれ見てたんだ」


「見えるよ」


 ミラが笑う。


「それに、このために来たところもあるから」


「婚約の話をするために?」


「うん。もちろん、ハル領を見てみたかったのもあるけどね」


 俺もミラの方を向く。


「じゃあ、ちゃんと話そう」


「うん」


 深く息を吸った。


「まず、謝りたい」


「何を?」


「ずっと待たせたこと」


 ミラは黙って俺を見る。


「父上から婚約の話を聞いた時から、ずっと考えてた。ミラがどう思ってるのかも、自分がどうしたいのかも」


「うん」


「付き合い始めてからも、婚約のことをちゃんと話さなかった」


 ミラが少しだけ頬を膨らませる。


「ちょっと長かったね」


「ごめん」


「怒ってないよ」


 ミラの表情が柔らかくなる。


「私も、ちゃんとリオンから聞きたかったから」


「俺から?」


「家同士で決まったからじゃなくて、リオンがどうしたいのかを聞きたかった」


 その言葉で、少し肩の力が抜けた。


「俺も同じだったのかもしれない」


「同じ?」


「ミラと婚約するなら、自分で決めたかった」


 父上や母上が勧めたからでも、ハーウェイ侯爵家との関係のためでもない。


「俺自身がミラと一緒にいたいと思って、その上で話したかった」


「それで?」


「昨日、ようやく分かった」


「西の森で?」


「うん」


 学校で子どもたちと話していたミラ。


 ここで暮らす人たちの話を聞いていた姿。


 温泉から出て楽しそうに笑っていた顔。


 夕方の西の森を並んで見たこと。


「ミラがハル領にいるのが、すごく自然に見えた」


「自然?」


「これからも、ああいうふうに一緒にいられたらいいなって思った」


 ミラが少し照れたように笑う。


「……うん」


「ただ、一つだけ気になってる」


「何?」


「俺と一緒にいれば、ずっと穏やかに暮らせるとは限らない」


 ミラが俺を見る。


「今回みたいに急に別の領地へ行くこともあるかもしれない。卒業したあと、俺が何を任されるかも分からない」


「うん」


「ハル領だって、これから何が起きるか分からない」


 俺は少し迷ってから続ける。


「ミラに苦労させることになるかもしれない」


「リオン」


「何?」


「私が侯爵家の娘だから?」


「それもある」



「楽な暮らししかできないと思ってる?」


「そうじゃないよ」


「じゃあ、何を心配してるの?」


 すぐには答えられなかった。


「……ミラに後悔してほしくない」


 たぶん、それが一番近い。


 ミラが少しだけ目を細めた。


「昨日ね」


「うん」


「西の森を見て、やっぱり思ったんだ」


 ミラは俺から目を逸らさなかった。


「私、リオンの隣にいたい」


「……うん」


「ハル領だからじゃないよ。昨日見た西の森は好きだけど、ハル領が豊かだから一緒にいたいわけじゃない」


「じゃあ?」


「リオンがどこで何をすることになっても、一緒に考えたい」


 思わずミラを見る。


「大変な場所かもしれないよ」


「だったら、どうすれば少しでもよくなるか考えればいいでしょ?」


「そんな簡単じゃないかもしれない」


「簡単じゃなくてもいいよ」


 ミラは迷わなかった。


「リオンだって昨日言ってたじゃない」


「何を?」


「西の森は、リオン一人で作ったわけじゃないって」


「うん」


「だったら、これからも一人で全部背負わなくていいでしょ?」


 言葉が出てこなかった。


「エリアスさんも、レナードさんも、ノルさんもいる」


 ミラが少し笑う。


「私もいるよ」


 胸の奥に、その言葉が残った。


 俺はずっと、自分の問題は自分で何とかしなければいけないと思っていたのかもしれない。


 領地のことも。


 将来のことも。


 でも、昨日見たハル領は違った。


 俺がいなくても、みんなが自分で考えて動いていた。


 そして。


 これからはミラもいる。


「ありがとう」


「急にどうしたの?」


「なんか、少し楽になった」


「じゃあ、ちゃんと頼ってね」


「努力する」


「うん。それならいい」


 ミラが笑った。


 ここまで聞けば、もう迷う理由はなかった。


「ミラ」


「うん」


「俺はミラが好きだ」


 ミラの目が少し大きくなる。


 すぐに、その表情が嬉しそうなものへ変わった。


「私も好きだよ」


「これから先も、一緒にいたい」


「うん」


 ミラを見る。


「俺と婚約してほしい」


 ミラはしばらく俺を見つめていた。


 やがて少しだけ困ったように笑う。


「……遅いよ」


「ごめん」


「ずっと待ってたんだからね」


「うん」


「でも」


 ミラが一歩近づいた。


「嬉しい」


 笑っているのに、目元が少し赤い。


「私も、リオンと婚約したい」


 胸の奥につかえていたものが、ようやくなくなった気がした。


 俺はミラへ手を差し出す。


 ミラはその手を見てから、自分の手を重ねた。


 握る。


 温かい。


「これで婚約者?」


「両家にはこれから話さないといけないけど」


「リオン」


「何?」


「今くらいは、細かいこと言わなくていいでしょ」


「……そうだね」


 握った手に少し力を込める。


「じゃあ、今はこれでいい」


「うん」


 ミラも握り返してくれた。


 俺たちはしばらく、そのまま庭を歩いた。


 ◇


 その後、俺とミラは父上の執務室へ向かった。


 扉を叩く。


「リオンです」


「入れ」


 中へ入ると、父上だけでなく母上もいた。


「二人揃ってどうした?」


 父上が聞く。


「話があります」


「そうか。座れ」


 俺とミラが並んで座る。


 母上はすでに少し嬉しそうだった。


 俺は姿勢を正す。


「父上、母上。ミラと婚約について話しました」


 二人が黙って聞いている。


「俺は、ミラと婚約したいです」


 父上がミラを見る。


「ミラ嬢は?」


 ミラも姿勢を正した。


「私も、リオンと婚約したいと思っています」


「そうか」


 父上が短く答える。


 それから、少しだけ笑った。


「なら、ハーウェイ侯爵家と正式に話を進めよう」


「はい」


「ありがとうございます」


 ミラが頭を下げる。


「礼を言うのはこちらだ」


 父上が答えた。


「リオンのことをよろしく頼む」


「はい」


「父上」


「何だ?」


「俺の方が頼まれる側なんですか?」


「お前だからな」


「どういう意味ですか」


 母上が笑った。


「私も同じ気持ちよ」


「母上まで?」


「ミラさん」


「はい」


「これからも、リオンをよろしくね」


 ミラが笑う。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


「俺はそんなに心配される側ですか?」


「自覚がないのか?」


 父上に言われる。


「……少しはあります」


「ならいい」


 父上が頷く。


「ハーウェイ侯爵家には、こちらから書状を出す。細かい話は両家で詰めることになるだろう」


「分かりました」


「まずは二人の意思が決まった。それで十分だ」


「はい」


 ◇


 執務室を出る。


 廊下を歩き始めたところで、ミラが小さく息を吐いた。


「今日は昨日より緊張した」


「そんなに?」


「自分で婚約したいって言ったんだよ?」


「俺も言ったけど」


「リオンは自分の家でしょ」


「それはそうか」


 ミラが笑う。


 少し歩くと、手が触れた。


 今度は迷わず、俺から握る。


 ミラも自然に握り返してくれた。


「ねえ、リオン」


「何?」


「嬉しい?」


「もちろん」


「私も」


 それだけ言って、ミラは前を向いた。


 これから先、何があるかは分からない。


 ハル領にいるのか。


 別の場所へ行くのか。


 どんな仕事をすることになるのか。


 まだ決まっていないことはいくらでもある。


 それでも。


 その先をミラと一緒に歩きたい。


 今は、それを自分の意思ではっきりと言える。


 ずっと先延ばしにしていた婚約の話は、ようやく俺たち二人の答えになった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
遅いwww
めで鯛<*))>=<2人が結婚する頃にはハル家は伯爵くらいにはなってそうだ。
お幸せに!
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