第497話 俺がいない間に
翌朝。
まだ空が薄暗いうちに目を覚ました。
「ピー……」
隣を見ると、ピコが丸くなって眠っている。
「まだ寝てていいよ」
「ピー……」
返事なのか寝言なのか分からない。
ピコはそのまま動かなかった。
俺は着替えを済ませ、静かに部屋を出る。
昨日ノルに頼んだ通り、今日は騎士団の朝稽古に参加する。
外へ出ると、冬の冷たい空気が顔に当たった。
「寒いな……」
息が白い。
騎士団の訓練場へ向かう。
近づくにつれて、掛け声が聞こえてきた。
「いち!」
「に!」
「もっと腰を落とせ!」
すでに始まっているらしい。
訓練場へ入る。
「……あれ?」
足が止まった。
人が多い。
以前もそれなりの人数がいた。
でも、明らかに増えている。
見覚えのない若い男たちも何人も混じり、木剣を振っていた。
その横では、以前からいる騎士たちが動きを確認している。
「リオン様」
声をかけられた。
「ノル」
「お早いですな」
「昨日お願いしたからね」
「早速いらっしゃるとは思っておりました」
「それより、人数増えた?」
俺は訓練場を見る。
「ずいぶん増えたように見えるんだけど」
「はい。旦那様とも相談し、ここ数か月で少しずつ増員しております」
「やっぱり」
「領都も西の森も、人が増えましたからな」
商人。
職人。
移住者。
荷車。
人や物の動きが増えれば、それだけ警備する場所も増える。
「西の森の巡回範囲も、以前とは比べものにならないほど広がっております。領都の夜間巡回も増やしました」
「街道も?」
「はい。行き交う荷車が増えておりますので」
「だから騎士団も増やしたんだ」
「そういうことです」
改めて訓練場を見る。
新人らしい者に、以前からいる騎士が木剣の握り方を教えている。
騎士が増えただけじゃない。
教える側も育っている。
「騎士団も大きくなったね」
「領地が大きく変わっておりますからな。こちらも、そのままというわけにはいきません」
「そっか」
俺が王都にいる間にも、ここは変わっていた。
「では、リオン様も始めますか?」
「お願いします」
◇
まずは走り込み。
その後に素振り。
基本の型。
久しぶりとはいえ、学院でも身体は動かしていた。
まったくついていけないわけではない。
それでも。
「はぁ……はぁ……」
寒かったはずなのに、いつの間にか汗をかいている。
「少し休まれますか?」
「まだ大丈夫」
「では、次へ参りましょう」
木剣を持つ。
向かいには、以前から騎士団にいる男が立った。
「お願いします」
「こちらこそ」
構える。
開始の合図と同時に、相手が前へ出た。
一歩下がる。
木剣を受ける。
返す。
今度はこちらから踏み込んだ。
何度か剣を交える。
身体は動く。
学院で訓練してきた分、昔よりは確実に強くなっている。
それでも、イレーナならどうだろう。
たぶん、今の踏み込みより速い。
俺が剣を振る前に、もう間合いへ入ってくる。
「リオン様」
「あ」
目の前の木剣が止まっていた。
「すみません」
「考え事ですか?」
「少し」
いけない。
今は目の前に集中しよう。
もう一度構える。
今度は最後まで相手を見る。
剣を受ける。
横へ動く。
距離を取る。
焦って前へ出ない。
できることを一つずつだ。
◇
稽古が終わる頃には、身体中が温まっていた。
「疲れた……」
訓練場の端で息を整える。
ノルが近づいてきた。
「久しぶりにしては、よく動けておりますな」
「まだまだだけどね」
「焦っておられますか?」
「……少しは」
ノルは俺を見てから、訓練場へ視線を戻した。
「稽古は積み重ねるものです。一度や二度で急に変わるものではありません」
「うん」
「明日も参加されるのでしょう?」
「そのつもり」
「では、また明朝お待ちしております」
「よろしく」
ノルはそれだけ言うと、新人たちの方へ戻っていった。
焦っても仕方がない。
今日一日でイレーナに追いつけるわけじゃない。
明日も、その次も、少しずつやるしかない。
「よし」
まずは朝食だ。
◇
朝食を終えて少し休んだ後、父上の執務室へ向かった。
扉を叩く。
「リオンです」
「入れ」
「失礼します」
中には、すでに父上がいた。
その向かいにはエリアスとレナード。
二人とも何冊かの帳面と資料を持っている。
「おはようございます、リオン様」
エリアスが頭を下げる。
「おはよう、エリアス」
「リオン様、お帰りなさいませ」
「ありがとう、レナード」
父上が俺を見る。
「朝から騎士団へ行ったそうだな」
「はい」
「ノルから聞いた」
「もうですか」
「屋敷の中の話だからな」
父上が椅子を示す。
「座れ」
「はい」
席につく。
「では始めてくれ」
「承知いたしました」
エリアスが一冊目の帳面を開いた。
「まず、夏に手配した穀物についてご報告いたします」
「お願いします」
「フェルナー領を含め、複数の仕入れ先から予定していた分はすべて到着しております」
「全部?」
「はい。一部は領都の市場へ流し、残りは備蓄へ回しております。入荷時期と仕入れ先も記録しております」
「値段は?」
「夏ほどの急な上昇は見られません」
「下がった?」
「多少は。ただ、以前の水準まで戻ったわけではございません」
「そっか」
人口は増え続けている。
食料を買ったからといって、昔と同じ価格まで戻るとは限らない。
「ですが、供給不足によって価格が上がり続ける状態は落ち着いております」
「それなら十分だと思う」
まずは急騰を止める。
その先は、領内の生産量と合わせて見ていけばいい。
「次に、南部の農業試験です」
待っていた。
「収穫、終わった?」
「はい」
エリアスが別の紙を広げる。
「アーロンから最終結果が届いております」
夏休みに始めた四つの試験区画。
従来通り。
深く耕した区画。
寝かせた糞と藁を使った区画。
そして、深く耕したうえで寝かせた糞と藁を使った区画。
「最も収穫量が多かったのは、四つ目の区画です」
「やっぱり」
夏の途中でも、四つ目が一番よく育っていた。
「次が三つ目。その次が二つ目。従来通りの区画が最も少ない結果となりました」
「じゃあ、四つ目を広げれば――」
言いかけて止まる。
「……いや。作業時間は?」
エリアスが少し笑った。
「アーロンも、そこを確認しております」
別の欄を指す。
「四つ目は最も収穫量が多かった一方で、土を深く耕すための作業時間も最も長くなっています」
「そうだよね」
収穫量だけを見る試験ではない。
何人で、どれくらいの時間を使って、どれだけ採れたのか。
そこまで記録してもらっていた。
「三つ目は?」
「四つ目ほど収穫量は多くありません。ただ、追加で必要になった作業は比較的少なく済んでいます」
「なるほど」
人手の少ない村で、全部の畑を深く耕せと言っても無理かもしれない。
収穫量だけなら四つ目。
使える人手まで考えれば、三つ目の方が合う村もある。
「アーロンは何て?」
「村ごとに分けた方がよいのではないか、と」
「村ごと?」
「はい。人手に余裕がある村では四つ目を試す。人手不足が深刻な村では、三つ目を中心にする。同じ南部でも条件は違いますから」
「……いいね」
グレイヴ領を思い出す。
一つの方法を全部の地域へ同じように当てはめても、うまくいくとは限らない。
「アーロン、そこまで考えるようになったんだ」
「かなり変わりました」
「今は領都に戻ってる?」
「戻ってはおります。ただ、以前より領都にいる時間は減りました」
「え?」
「次の作付けに向けて、南部の村を回っております」
「まだ現地へ?」
「どの村で、どの方法を試せそうか確認したいそうです」
「……すごいな」
最初に会った時のアーロンを思い出す。
農業経験はなかった。
畑のことも分からなかった。
それが今は、自分から村へ足を運んでいる。
「一度、本人からも話を聞きたいな」
「戻りましたら伝えておきます」
「お願い」
「それから、リナ樹を使った紙ですが」
「ああ。そっちも気になってた」
「まだ従来の紙と同じ品質ではありません。ただ、夜間学校や簡単な記録に使う分には十分だということで、少量ずつ使い始めております」
「値段は?」
「従来の紙よりかなり抑えられております。まだ製造量が少ないため、今後さらに確認が必要ですが」
「分かった。急いで広げなくていいよ」
「承知いたしました」
エリアスが資料を閉じる。
「私からの主な報告は以上です」
「ありがとう」
思っていた以上に進んでいる。
夏に始めたことが、ちゃんと次につながっていた。
「では、西の森についてご報告いたします」
今度はレナードが帳面を開いた。
「まず、子どもの学校ですが、現在は継続して学びに来る子どもが三十人前後まで増えております」
「三十人?」
夏は十人ほどだった。
「そんなに増えたの?」
「はい。大きかったのは、昼食を始めたことだと思います」
「ああ」
フィーネの案だ。
「始めたんだね」
「はい。フィーネ・ラウベル嬢の提案どおり、最初は週三日から始めました」
父上が頷く。
「私が許可した」
「そうだったんですね」
「送ってきたのはお前だろう」
「そうですけど、実際にどうなったかまでは聞いてなかったので」
レナードが続ける。
「昼食を始めてから、昼前後に来る子どもが少しずつ増えました。
食事を目的に来て、そのまま文字や計算を学んで帰る子もおります」
「それでいいと思う」
「食事が目的でも、ですか?」
「うん。学校へ来なかったら、学ぶきっかけもないから」
食べに来る。
そこで文字を見る。
数字を見る。
少しやってみる。
最初はそれでいい。
「弟や妹を連れてくる子どももおります。その子たちにも、提案どおり昼食を出しています」
「費用は?」
「一食当たりでは、当初の試算から大きく外れておりません。ただ、人数が増えましたので全体の費用は上がっております」
「食べた人数は記録してる?」
「毎回です。食材費、薪代、調理する者への賃金も残しております」
「学校へ来る回数は?」
「増えました。以前は週に一度程度だった子が、昼食のある日はほぼ来るようになった例もございます」
「身体の変化は?」
「そこは、まだ判断できません」
レナードが首を横に振る。
「以前より元気になったと話す親もおりますが、昼食だけが理由とは限りません」
「うん。それでいい」
分からないことまで成果にする必要はない。
「そのまま記録を続けてください」
「承知しました」
レナードが一枚めくる。
「それと、領都でも子ども向けの学校を始めました」
「領都でも?」
これは知らなかった。
「西の森で利用する子どもが増えているのを見て、領主様へご相談しました」
「私が許可した」
父上が答える。
「その後、エリアスとも話しまして、領都の夜間学校で使っている場所を昼間も使えるようにしました」
エリアスも頷く。
「領都にも、昼間なら教えることのできる者がおりましたので」
「教え方は?」
「西の森と同じ形です」
全員を決まった時間に集めない。
全員へ同じ内容を教えない。
文字が読めない子は文字から。
文字は読めるけれど計算が苦手なら計算から。
一人ずつ理解しているところを確認して、その続きから進める。
「給食も?」
「はい。こちらも小さく始めております」
「そこまで進めたんだ」
「西の森で一度試しておりますので、その結果を使えるところは使いました」
俺は少し驚いていた。
領都で子どもの学校を始めること自体は、夏にも考えていた。
でも、実際に始める時期までは決めていなかった。
西の森で結果が出た。
レナードが父上に話を上げた。
エリアスと連携して、領都へ広げた。
俺が細かく指示しなくても、そこまで進んでいた。
「領都の利用者は?」
「まだ西の森ほど多くはありません」
エリアスが答える。
「ですが、少しずつ増えております」
「そっか」
「夜間学校の方も、領都、西の森ともに利用者が増えております」
「そっちも?」
「はい」
これはレナードが答えた。
「西の森では以前から、読み書きや計算を覚えた者がリバーシ工房などで別の仕事を任される例がありました」
「うん」
夏にも見た。
文字を覚えたことで、数量確認や記録を任される。
計算ができるようになって、より責任のある仕事へ移る。
「そうした例が、さらに増えております」
「領都でも同じです」
エリアスが続けた。
「倉庫で荷物を運んでいた者が数量の記録を任されたり、商店で計算を任されるようになったりしております」
「給料が上がった人も?」
「おります」
なるほど。
周りからすれば分かりやすい。
学校へ行けば役に立ちます、と言葉で説明されるより、昨日まで同じ仕事をしていた人が文字や計算を覚えて仕事を変え、収入まで増えている。
「それを見て、学校に興味を持つ人が増えたんだ」
「そのようです」
教育が仕事につながる。
仕事につながった人を見て、また学ぶ人が増える。
その流れが西の森だけでなく、領都でもでき始めていた。
「次に住宅です」
レナードが別の資料を出した。
「長屋については、最初の二棟を建てた後、少しずつ増設しております」
「もう増やしたんだ」
「はい。ただ、それでも足りておりません」
「そんなに?」
「西の森へ移りたいという者が、想定以上に増えております。
単身者だけでなく、家族ごと移住を希望する者も少なくありません」
仕事がある。
店がある。
学校もある。
温泉もある。
そこで暮らしたいと思う人が増えている。
「建てる方が追いついてない?」
「はい。数棟ずつ増やすやり方では追いつかないと判断しております」
「それで?」
「住宅区域そのものを広げ、本格的に増設する方針です。こちらも領主様へご相談し、すでに準備を始めております」
父上が口を開く。
「ただし、家だけを増やすことは認めていない」
「井戸や排水も一緒に?」
「ああ。道路、厠、火災対策もだ」
「そうですよね」
夏に長屋を作る時にも確認した。
人が暮らすなら、建物だけを並べればいいわけじゃない。
「続いて、井戸用の揚水装置です」
「ポンプはどうなった?」
「使えるところまで来ております。ただ、かなり試行錯誤しました」
「やっぱり簡単じゃなかった?」
「はい」
レナードが図面を広げる。
「当初は、西の森の住宅区域で一台試す予定でした」
「そうだったね」
「ですが、図面を確認した職人から、最初の一台は工房に近い領都の井戸で組み上げた方が、問題が出た時に修正しやすいという提案がありました」
「なるほど」
「領主様へご相談し、先に領都で一台試すことにしました」
父上も頷いた。
これなら、変更した理由も分かる。
「最初はどうだった?」
「水は上がりませんでした」
「全然?」
「ほとんど」
「うわ……」
王都では動いた。
図面もある。
それでも、場所が変われば同じようにはいかない。
「木管の継ぎ目から空気が入っていた箇所がございました。そこを塞ぐと、今度は内部の革がうまく密着しませんでした」
「一つ直したら、次が出たんだ」
「はい。取っ手も最初は重すぎたそうです」
支点の位置。
革の厚み。
木管の継ぎ目。
弁の形。
職人たちが何度も調整した。
「現在は?」
「安定して水を汲み上げられております」
「よかった」
「子どもや高齢者でも使えるか確認しました。取っ手についても、最初よりかなり軽くなっています」
「そこまでやったんだ」
「領都で出た問題は、すべて職人が記録しております」
「じゃあ、西の森では?」
「現在、一台建設中です。領都で直した部分は最初から反映しております」
「なるほど」
同じ失敗をもう一度しなくていい。
「西の森でも問題なく使えることを確認できれば、他の村にも広げる予定です」
「いいと思う」
「それから、ポンプ専用の工房を西の森に建設しております」
「……専用工房?」
そこまでは聞いていなかった。
「誰が考えたの?」
レナードがエリアスを見る。
「ローデン商会から、私のところへ相談がございました」
エリアスが答えた。
「王都でも使われ、ハル領でも実用化できるのであれば、他領にも需要があるのではないかと」
「ヴィクトル?」
「届いた書状には、ヴィクトル様の名前もございました」
「やっぱり」
思わず笑う。
「レナードと相談し、西の森で製造できないか検討しました」
「木工の職人もいるから?」
「はい。すでにリバーシなどで部品を揃えて作る経験もあります」
レナードが続ける。
「ただ、一台作れればよいというものではありません。誰が作っても同じように使えるものにしなければ、外へは出せませんので」
「そうだね」
「そのため、領都で改良した部品の寸法や、組み立てる順番も揃える予定です」
問題を解決するために作ったポンプが、新しい産業になろうとしている。
「リバーシや街灯みたいに、王都や他領へ?」
「まずは国内を考えております」
エリアスが答える。
「ローデン商会の流通を使えば、ハル領だけで販売するより広く扱えます」
「そっか」
一つの道具から、また仕事が生まれるかもしれない。
「最後に、低価格の石鹸です」
レナードが次の資料を出す。
「現在はローデン商会から仕入れ、主に洗濯用として住民へ出しております」
「値段は?」
「領でまとめて購入し、今はほぼ仕入れ値で販売しております」
「売れてる?」
「少しずつですが増えております。西の森では特に、工房や宿、飲食店からの需要が増えています」
安いからといって、いきなり全員が使うわけではない。
でも、洗濯や仕事で使うところから少しずつ広がっている。
「仕入れについては、ローデン商会とこちらで調整しております」
エリアスが言う。
「それと、商会からもう一つ相談が来ております」
「何?」
「ハル領に新しい石鹸工房を建てられないか、と」
「……もう?」
思わず聞き返した。
「まだ検討段階です」
「びっくりした」
「王都だけでなく、他領へ販売する量まで考えると、今の工房だけでは足りなくなる可能性があるそうです」
「それでハル領に?」
「はい」
エリアスが続ける。
「将来的には国外への販売も考えているようです」
「国外……」
俺たちは、王都東地区で安く使える石鹸を作れないかと考えていただけだった。
それが今は、ハル領に工房を作って国外へ売る話まで出ている。
「話が大きくなるの早いね」
「ローデン商会は、商機を見つけるのが早いですから」
「それは知ってる」
ヴィクトルを思い出すと、納得できる。
「ただし」
父上が口を開く。
「これはまだ許可していない」
「ですよね」
「土地、人手、原料。王都の工房との関係もある。ローデン商会から正式な案が来てから判断する」
「分かりました」
俺は机の上に並んだ帳面や資料を見る。
南の村では農業試験の結果が出た。
アーロンは自分で次を考え、村を回っている。
西の森では子どもの学校が三十人ほどまで増え、その仕組みが領都にも広がった。
夜間学校で学んだ人たちは、新しい仕事を任されるようになっている。
長屋は増え、それ以上の速さで移住希望者が増えている。
ポンプは何度も失敗しながら改良され、今度は専用工房まで作ろうとしている。
石鹸も、すでに次の産業になる可能性が見え始めていた。
夏休みの最後、俺はエリアスとレナードに仕事を任せて王都へ戻った。
あの時に考えていたのは、自分がいなくても仕事が止まらない形を作ることだった。
でも、今目の前にあるのは、それより先だった。
レナードが西の森で結果を見て、父上へ相談する。
必要ならエリアスと連携して領都へ広げる。
職人たちは失敗した理由を記録して、次の一台へ反映する。
アーロンは試験結果から、次に何を確かめるべきかを考える。
俺が出した指示をこなしているだけじゃない。
それぞれが自分の持ち場で考え、必要な相手と話し、次へ進めている。
「リオン?」
父上に呼ばれた。
「あ、はい」
「どうした?」
「いえ」
エリアスとレナードを見る。
「二人とも、ありがとう」
二人が少し驚いた顔をした。
「急にどうされました?」
「俺が王都にいる間に、ここまで進めてくれていたから」
エリアスはいつもの落ち着いた表情に戻る。
「それが我々の仕事ですので」
「西の森は私にお任せくださいと申し上げましたから」
レナードも答えた。
「うん」
夏休みの最後に聞いた言葉だ。
その時より、今の方がずっと重く感じる。
「頼もしいなって思っただけ」
今度は声に出して言った。
エリアスとレナードが顔を見合わせる。
父上は何も言わなかった。
でも、その表情は少しだけ嬉しそうに見えた。
ハル領は、俺が考えたことをみんなが実行するだけの領地ではなくなっている。
それぞれが考え、それぞれの持ち場から次を作っている。
王都にいた数か月で、俺が思っていた以上に、みんなは先へ進んでいた。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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