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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第19章 グレイヴ伯爵&五年冬休み編

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第498話 反応するより先に

 翌朝。


 昨日に続いて、俺は騎士団の朝稽古へ参加した。


 走り込み。


 素振り。


 基本の型。


 昨日より少し身体が重い。


 久しぶりに本格的な稽古をしたせいだろう。


「リオン様、足が少し遅れておりますな」


「やっぱり?」


「昨日の疲れでしょう。無理に力を入れると、余計に動きが鈍くなります」


「分かった」


 一度息を整える。


 疲れている時ほど、力任せに動こうとしてしまう。


 それでは速くならない。


 もう一度、木剣を構えた。


 ◇


 朝稽古が終わった。


 他の騎士たちが片付けを始める中、俺はノルのところへ向かった。


「ノル」


「はい」


「一つ聞いてもいい?」


「何でしょう?」


 少し考えてから口を開く。


「もし、相手がこっちの動きをかなり正確に読んでくるとしたら、どうやって戦う?」


 ノルが俺を見る。


「動きを、ですか?」


「うん。剣を振るのか、避けるのか、魔法を使うのか。こっちが動く前に、それを読んでくるような相手」


「随分と厄介な相手ですな」


「うん、厄介だった」


 イレーナの顔が浮かぶ。


 剣を抜こうとする前に入られた。


 魔法を使おうとした時には、もう動きを潰されていた。


 何をしても一手先を取られた。


「ノルならどうする?」


 ノルは少し考えた。


「読まれても反応が間に合わない速さで動くか、分かっていても受けきれない力で押すしかないでしょうな」


「……なるほど」


「何をするか分かっていても、身体が追いつかなければ止められません」


「力の方は?」


「剣が来ると分かっていても、受ければ剣ごと吹き飛ばされるのであれば、先が読めてもどうしようもありませんからな」


「確かに」


 ものすごく単純だ。


 でも、その通りだった。


 俺は相手に次の行動を読ませない方法ばかり考えていた。


 でも、読まれてもいい。


 相手が何をするか分かっていても、反応する前に攻撃が届けばいい。


 もしくは、分かっていても止められないくらい強ければいい。


「力と速さか」


「両方あれば言うことはありませんな」


「それはそうだね」


 今の俺が、イレーナを力で圧倒する。


 それは現実的じゃない。


 だったら。


「速度……」


 ノルが俺を見る。


「何か思いつきましたか?」


「まだ何も。ただ、今の俺なら力より速さの方が試せることがありそうだなって」


「そうですか」


「単純に走るのを速くすればいいのかな」


「それだけではないでしょうな」


「違う?」


「相手との間合いを詰める一歩。剣を振り始めるまでの動き。そういうものを短くするだけでも、相手から見れば速くなります」


「ああ」


 確かに。


 百メートルを速く走る必要はない。


 戦う時に必要なのは数歩。


 場合によっては一歩だけだ。


「最初の一歩か」


「剣を振る前に大きく構えれば、その分だけ相手には分かりやすくなります。踏み込んでから剣を振るのであれば、それも二つの動きになります」


「踏み込みと攻撃を一緒にする?」


「そういうやり方もある、ということです」


「なるほど」


 脚力だけの話じゃない。


 動作そのものを減らす。


「ありがとう。ちょっと試してみる」


「何をされるおつもりです?」


「魔物相手に実戦で試してみる」


「冒険者の仕事ですか」


「うん。できるだけ動きの速い魔物を探してみるよ」


「お気をつけください」


「分かった」


 ◇


 朝食を終える。


「ピコ」


「ピー?」


 テーブルの横で跳ねていたピコを呼ぶ。


「今日は出かけるよ」


「ピー!」


「久しぶりに冒険者の仕事をしよう」


「ピー!」


 随分と元気がいい。


 ピコを連れて屋敷を出た。


 昨日、エリアスとレナードからハル領の状況を聞いた。


 領都。


 西の森。


 南部の農村。


 見に行きたいところはいくらでもある。


 でも、必要なことはそれぞれの担当者が進めてくれている。


 なら、任せよう。


 今の俺は、自分に必要なことをやる。


 ◇


 冒険者ギルドへ入る。


 朝ということもあって、中にはそれなりに人がいた。


 依頼板を見ている冒険者。


 受付で報告をしている者。


 装備を確認している者。


「ピー!」


「こっちだよ」


 ピコを連れて受付へ向かう。


「こんにちは」


「あら、リオンさん」


 受付の女性が俺を見る。


「お久しぶりです」


「お久しぶりです。今日は依頼ですか?」


「はい。ちょっと探している依頼があるんですけど」


「どんなものです?」


「動きの速い魔物を討伐する依頼ってありますか?」


 受付の女性が少し首を傾げた。


「速い魔物、ですか?」


「はい」


「危険度が高いものではなく?」


「強さより速さです。できれば、こっちの攻撃を避けるくらい素早い魔物がいいです」


「珍しい探し方ですね」


「練習したいことがあって」


「なるほど」


 受付の女性が依頼書を確認する。


「リオンさんなら受けられる依頼はいくつもありますが……近いところですと、《角兎》ですね」


「ああ、角兎」


 夏休みに王都でも討伐した。


 普通の兎より一回り大きく、額に一本の角がある魔物だ。


「角兎なら数も出ていますし、細かく跳ねて方向を変えるので、狙いをつけるのは少し面倒ですね」


「ちょうどいいです」


「B級のリオンさんが角兎ですか?」


「今日は倒すことより、試したいことがあるので」


「分かりました」


 依頼書を渡される。


「討伐証明は角です」


「はい。それは覚えてます」


「ピー!」


 足元でピコが跳ねた。


 俺はピコを見る。


「今回は先に角を取るからね」


「ピー!」


 夏休みには、討伐証明まで丸ごと食べられた。


 同じ失敗はしない。


「行こう」


「ピー!」


 ◇


 森へ入って一時間ほど。


 草むらの向こうに目的の魔物を見つけた。


 灰色がかった毛。


 額から伸びた一本の角。


《角兎》だ。


「いた」


「ピー!」


「ピコは少し離れてて」


「ピー!」


 剣を抜く。


 角兎がこちらに気づいた。


 次の瞬間、横へ跳ぶ。


「速い」


 以前にも見ているけれど、改めて意識して見ると動きが鋭い。


 まずは普通に踏み込む。


「っ!」


 剣を振る。


 空振り。


 角兎は剣が届く前に反対側へ跳んでいる。


「これなら練習になるな」


 もう一度構える。


 今度は身体強化を使う。


 脚へ魔力を多めに流した。


「行く!」


 一気に踏み込む。


 さっきより速い。


 距離も一瞬で縮まった。


 でも。


「うわっ」


 身体が前へ流れた。


 剣を振る前に姿勢が崩れる。


 角兎はすでに離れていた。


「違うな」


「ピー?」


「速く近づくだけじゃ駄目だ」


 ノルの言葉を思い出す。


 踏み込む。


 それから剣を振る。


 二つの動きをしている。


 それだけ相手に反応する時間を与えている。


「もう一回」


 踏み込みと同時に剣を動かす。


 身体強化。


 前へ出る。


 振る。


 剣先が角兎のすぐ横を通った。


「惜しい」


 さっきより近い。


 でも、まだ避けられる。


 何度も試す。


 身体強化を脚に寄せすぎると、上半身の動きが遅れる。


 全身へ均等に流せば、最初の一歩が遅くなる。


 踏み込む瞬間に脚へ強く流し、その動きのまま攻撃へつなげる。


 頭で考えるのは簡単だ。


 実際にやると難しい。


 何度目かの踏み込み。


「っ!」


 剣が届いた。


 角兎が地面へ倒れる。


「……よし」


「ピー!」


 ピコが勢いよく跳ねてくる。


「待って」


「ピー?」


 俺は倒した角兎のそばへしゃがみ、討伐証明になる角を根元から切り取った。


「これでいいよ」


「ピー!」


 次の瞬間。


 ピコの身体が大きく広がった。


 角兎を包み込む。


「おお……」


 そのまま丸ごと飲み込んだ。


 あっという間に角兎の姿が消える。


 ピコは何事もなかったように元の大きさへ戻った。


「ピー!」


「今回はちゃんと角を取ったから大丈夫だね」


「ピー!」


 革袋へ角をしまう。


 夏休みの時よりは、俺も学習している。


 ◇


 その日は角兎の討伐を終えたあと、ギルドへ戻ってもう一件依頼を受けた。


 翌日は《疾風狼》。


 細身の狼型魔物で、獲物へ飛びかかる瞬間の加速が速い。


 その次は《跳躍蜥蜴》。


 岩場に棲む蜥蜴型の魔物で、太い後ろ脚を使って一気に距離を詰めてくる。


 角兎とは動き方がまるで違った。


 角兎は細かく方向を変える。


 疾風狼は走り始めると一気に間合いへ入ってくる。


 跳躍蜥蜴は止まっている時間が長い代わりに、飛び出した瞬間が速い。


 それぞれ討伐証明になる部位も違った。


 角兎は角。


 疾風狼は右の牙。


 跳躍蜥蜴は尾の先端。


 倒したら、まず証明部位を回収する。


 その後は。


「ピコ、いいよ」


「ピー!」


 ピコが残った魔物を食べる。


 最初の日には毎回その光景に目を向けていたけれど、何度も繰り返すうちに俺も慣れてしまった。


 ◇


 それから四日間。


 朝は騎士団の稽古へ参加した。


 朝食を終えるとピコを連れて冒険者ギルドへ向かい、できるだけ動きの速い魔物が対象になっている依頼を選ぶ。


 一件終わって時間があれば、近場の別の依頼も受けた。


 同じエリアの依頼があれば複数の依頼を同時に受けたりした。


 四日間でこなした討伐依頼は十一件。


 討伐した魔物の数は、それよりずっと多い。


 もちろん、数をこなすことが目的じゃない。


 毎回、試すことを変えた。


 最初は、とにかく速く踏み込もうとして姿勢を崩した。


 次は身体強化の魔力を流す場所を変えた。


 脚へ寄せる量。


 切り替えるタイミング。


 踏み込みから剣を振るまでの動作。


 少しずつ無駄を減らしていく。


 四日目。


 跳躍蜥蜴が地面を蹴ろうとした瞬間だった。


「今!」


 俺も同時に地面を蹴る。


 踏み込みと剣を振る動きを分けない。


 身体が前へ出るのと同時に剣を走らせる。


 跳躍蜥蜴が飛び退く。


 その前に。


 剣先が届いた。


「……できた」


「ピー!」


 倒れた跳躍蜥蜴を見る。


 偶然じゃない。


 今日はこれで三度目だ。


 相手がこちらの攻撃に反応して動き出す前に、剣を届かせることができた。


 少しずつ。


 本当に少しずつだけど。


 最初の日より速くなっている。


 討伐証明の尾の先端を切り取る。


「ピコ」


「ピー!」


 あとはピコが丸ごと飲み込んだ。


「相変わらずよく食べるな」


「ピー!」


 ◇


 ギルドへ戻る。


 討伐証明を受付へ出した。


「確認します」


 受付の女性が一つずつ見ていく。


「今日も全部達成ですね」


「ありがとうございます」


「それにしても」


「はい?」


「この四日で十一件ですよ」


「そんなにやってました?」


「こちらが聞きたいです」


 受付の女性が少し呆れた顔をする。


「討伐自体は問題なくできていますけど、詰め込みすぎないでくださいね」


「気をつけます」


 討伐証明の清算を受け取る。


「行こう、ピコ」


「ピー!」


 ギルドを出た。


 冬の空は、少しずつ暗くなり始めている。


 四日間。


 相当数の魔物と戦った。


 少しは速くなった。


 でも、イレーナを思い出す。


「……まだだな」


「ピー?」


「イレーナなら、まだ間に合うと思う」


 俺が動く。


 あの人なら、その瞬間に対応するかもしれない。


 たった四日で追いつけるとは思っていない。


 でも、方向は見えた。


 あとは繰り返すしかない。


 ◇


 屋敷へ戻る。


 玄関へ入ったところで、ミアに声をかけられた。


「リオン様」


「はい?」


「旦那様がお呼びです」


「父上が?」


「はい。お戻りになりましたら、執務室へ来るようにと」


「分かりました」


 ピコを連れて、そのまま執務室へ向かう。


 扉を叩いた。


「リオンです」


「入れ」


「失礼します」


 父上は机に向かっていた。


「戻ったか」


「はい」


「今日も冒険者の仕事か?」


「そうです」


「随分と続けているな」


「試したいことがあって」


「そうか」


 父上はそれ以上聞かなかった。


 代わりに、机の上に置いてあった一通の書状を持ち上げる。


「リオン。ハーウェイ家から返事が届いたぞ」


「ミラの?」


「ああ」


 思わず父上の机へ近づく。


「日程、決まりました?」


「こちらから出した二つの候補のうち、早い方で問題ないそうだ」


「早い方……」


 頭の中で日付を確認する。


「三日後ですね」


「ああ。そこから二泊三日だ」


「分かりました」


 あと三日。


 思っていたより近い。


「随分嬉しそうだな」


「そう見えます?」


「見える」


「……楽しみではあります」


 以前なら、たぶん誤魔化していた。


 でも、もう付き合っている。


 会えるのが楽しみなのは普通だ。


「それと」


 父上がもう一通、こちらへ差し出した。


「これはお前宛てだ」


「ミラから?」


「そうだ」


 受け取る。


 封にはミラの名前が書かれている。


「ありがとうございます」


「返事は自分で書け」


「もちろんです」


 父上が少し笑った。


「ミラ嬢が来る前に、必要なものがあれば母上にも相談しておけ」


「分かりました」


「それから」


「はい?」


「話すのだろう?」


 一瞬だけ何のことか分からなかった。


 すぐに気づく。


 婚約のことだ。


「……はい」


「なら、それも忘れるな」


「分かっています」


 楽しみにしているだけではいけない。


 ミラが来たら、ちゃんと話さなければならないことがある。


「失礼します」


 父上の執務室を出た。


 ◇


 自分の部屋へ戻る。


「ピー!」


 ピコが先に中へ跳ねていく。


 椅子へ座り、ミラの手紙を開いた。


 ハーウェイ家との確認が終わり、三日後にハル領へ向かうこと。


 二泊三日で滞在すること。


 そして最後に、ハル領へ行くのを楽しみにしていると書かれていた。


「……そっか」


「ピー?」


「ミラも楽しみにしてるって」


「ピー!」


 もう一度、日付を見る。


「あと三日か」


 気づけば、自分から日数を数えている。


 少し前の俺なら、こんなことはなかった気がする。


 四日前まで、俺はイレーナに負けたことばかり考えていた。


 グレイヴ領をどうすればいいのか分からなかったことも、頭から離れなかった。


 今だって忘れたわけじゃない。


 イレーナにはまだ届かない。


 速さを意識して四日間戦ったくらいで、急に強くなれるわけでもない。


 でも、何を試せばいいのかは見えてきた。


 朝は稽古をする。


 実戦で試す。


 うまくいかなければ、どこが遅かったのかを考える。


 そして、また試す。


 ハル領のことは父上やエリアスたちが進めてくれている。


 ミラが来る日も決まった。


「明日もやろう」


「ピー!」


 焦る必要はない。


 少しずつでも、相手が反応するより先に動けるようになればいい。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ミラ成分、はよーーー
パパスキルは伏線だった(´・ω・`) あとは遠近とモノの組み合わせ? 読むだけなら魔法や投擲と近接の組み合わせ 避けられないように組み立てるとかその状況に追い込む 未來視だとバタフライ使って飽和に追…
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