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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第19章 グレイヴ伯爵&五年冬休み編

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第491話 恐怖では動かない

 翌朝。


 俺たちは約束の時間より少し早く、西門へ着いた。


「六時五十五分」


 エドガーが言った。


「これなら文句ないでしょ」


「昨日あれだけ言われたからな」


「俺が遅刻するみたいに言わないでよ」


「ピー!」


「ピコまで何なの?」


 門の向こうを見る。


 イレーナたちは、もう来ていた。


「……早い」


 昨日より人数が多い。


 イレーナを含めて七人。


 大柄な男。


 弓を背負った女。


 短剣を腰に差した小柄な男。


 大きな荷物を背負った若い男もいる。


 服装も装備も統一されていない。


 騎士団みたいには見えなかった。


「……」


「どうした?」


 エドガーが聞く。


「いや、何でもない」


 イレーナが俺たちを見る。


「六時五十五分か」


「早いでしょ?」


「普通だ」


「五分前ですよ?」


「遅れるよりはマシだな」


 イレーナがこちらを見る。


「行くぞ」


 ◇


 西門を出て、一時間ほど歩いた。


 向かっているのは、西部の中でもハル領との境から少し離れた農村らしい。


 イレーナが先頭。


 その少し後ろを俺とエドガー。


 護衛たちも同行している。


 昨日かなりやられた二人だけど、朝には問題なく動けるところまで回復していた。


 さらにその前後を、イレーナの部下たちが歩いている。


 しばらく進んだ時だった。


「止まれ」


 イレーナが言った。


 俺たちが足を止める。


 少し遅れて、林の奥から音が聞こえた。


 ガサッ。


 木々の間から、狼に似た魔物が三頭飛び出してくる。


 護衛が剣へ手を伸ばす。


 俺も構えようとした。


「そのままでいい」


 イレーナが言った。


「え?」


 イレーナは動かない。


 代わりに部下が三人前へ出た。


 大柄な男が正面から一頭を切りつけ、その横を抜けようとした魔物へ矢が刺さる。


 三頭目が逃げようとした先には、すでに短剣の男が回り込んでいた。


 数十秒もかからなかった。


「終わった」


 大柄な男が剣についた汚れを落とす。


「行くぞ」


 それだけ言って進むイレーナ。


「……強いね」


 俺が小声で言う。


「ああ」


 エドガーも頷いた。


「昨日はイレーナさんだけがおかしいのかと思ってた」


「俺も」


「聞こえてるぞ」


 前を歩くイレーナが言った。


「褒めてるんですよ」


「黙ってついてこい」


 振り返りもしない。


 でも、俺が気になったのは強さだけじゃなかった。


 部下たちは誰もイレーナさんに聞かなかった。


 誰が前に出るのか。


 誰が横へ回るのか。


 どう攻撃するのか。


 全部、自分たちで判断していた。


 しかも仲間の動きまで分かっている。


 昨日のイレーナさんみたいに、一人で全部倒せるほど強いわけじゃない。


 でも、集団になるとかなり強い。


「みんな、かなり訓練してる様だな」


 エドガーがイレーナに聞く。


「ああ」


「イレーナさんが細かく指示してるわけじゃないんですね」


俺も会話に加わる。


「当たり前だ」


「ですよね」


 それは俺にも分かる。


 全部を一人で決めていたら、組織なんて大きくならない。


 意外と組織の考え方は、俺と近いのかもしれない。


 ◇


 さらに街道を進む。


 イレーナが突然、右側を見た。


「……?」


 俺もそっちを見る。


 何もない。


 少ししてガラガラと車輪の音が聞こえた。


 脇道から荷馬車が出てくる。


「……」


 今、音が聞こえる前に見てなかったか?


 偶然かな。


 そのまま歩く。


 しばらくして、前から歩いてきた若い女が道の端へ寄ろうとした。


「そこは踏むな」


 イレーナが言った。


 女が足を止める。


「はい」


 次の瞬間。


 女が踏もうとしていた場所の土が崩れた。


「うわ」


 浅い穴ができる。


「……」


 まただ。


 イレーナは何事もなかったように歩き続ける。


 俺はイレーナを見る。


 昨日のことを思い出す。


 俺が剣を振る前に避けていた。


 水と風の魔法は、撃つ前に止められた。


 さっきの荷馬車。


 そして、今の崩れる道。


 反応が速いだけじゃない。


 起こってから動いているんじゃない。


 起こる前から知っている。


 先の出来事が分かっていると考えれば、全部説明できる。


「……イレーナさん」


「何だ」


「未来が見えてるんですか?」


 イレーナの足が止まった。


「……」


「昨日からおかしいと思ってたんです。俺が攻撃する前に避けてたし、魔法も撃つ前に止めました」


 イレーナは何も言わない。


「さっきも荷馬車が来る前に見てた。道が崩れるのも分かっ――」


 イレーナがゆっくり振り返った。


「おしゃべりな坊やには、お仕置きが必要だね」


「……え?」


 昨日殴られた腹や肩の痛みが、一気に蘇った。


 反射的に一歩下がる。


「いや、今のは忘れてください」


「リオン」


 エドガーが呆れたように言う。


「何?」


「言いたいことはわかるが、本人に言うもんじゃないぞ」


「それはそうだけど」


 イレーナがエドガーを見る。


「王子様の方は話が分かるね」


「ありがとう」


「なんで普通に受け取るの?」


「褒められたんだからいいだろ」


「俺との差がひどくない?」


「ピー!」


「ピコまでそっち?」


 イレーナはもう歩き出していた。


「……結局、未来が見えるのかな?」


「リオン!」


「分かってるよ。もう聞かないって」


 イレーナは答えなかった。


 でも、否定もしなかった。


 ◇


 さらに進むと、道の先で荷馬車が止まっていた。


 片方の車輪が大きな溝にはまっている。


 御者と二人の男が何とか動かそうとしていた。


「困ったな……」


「押しても動かねえ」


 イレーナの部下の一人が近づく。


 イレーナは何も言っていない。


「荷物を半分降ろせ」


 男が荷台を見る。


「二人、後ろから押してくれ。そっちは後ろの馬車を止めて」


「分かった」


 すぐに全員が動いた。


 一人が荷物を降ろす。


 一人が後ろから来た荷馬車を誘導する。


 別の男が車輪の周りの土を掘る。


 俺たちが手を出す前に作業が進んでいく。


 数分後。


「せーの!」


 車輪が溝から抜けた。


「助かったよ!」


 御者が何度も頭を下げる。


「気をつけて行け」


「ああ!」


 荷馬車が離れていく。


「指示しなくていいんですか?」


 俺が聞く。


「あいつの仕事だ」


 イレーナが答える。


「ちゃんと任せてるんですね」


「任せたなら、最後までやらせる」


「それは分かります」


「なら聞くな」


「確認しただけですよ」


 エドガーが笑った。


「リオン、今日はよく怒られるな」


「誰のせいだと思ってるの?」


「僕ではないだろ」



「そういえば」


 イレーナが突然言った。


「はい?」


「お前、ガザルを捕まえたらしいな」


「ガザル?」


 名前を聞いて、一瞬考える。


「《灰狼の牙》の?」


「そうだ」


「知ってるんですか?」


「知ってる」


 少し間があった。


「あいつらは嫌いだった」


「即答ですね」


「ああ」


 イレーナの声が少しだけ低くなる。


「弱い奴から奪う。人をさらう。部下は脅して従わせる」


「……」


「部下まで信用してなかったみたいですね」


「だから恐怖で縛った」


 イレーナが言った。


「あれを組織とは呼ばない」


「じゃあ、何なんです?」


「群れてるだけだ」


 短い。


 でも、すごく納得できた。


「怖がらせれば人は動く」


 イレーナが続ける。


「でも、背中は預けてくれない」


 前を歩く部下たちを見る。


 さっきの戦闘。


 誰も指示を待っていなかった。


 でも、好き勝手に動いていたわけでもない。


 仲間がいることを前提に、自分の役割を果たしていた。


「でも」


 俺が言う。


「イレーナさんも結構怖いですよね」


 前を歩いていた大柄な男が振り返る。


「怒らせると相当怖いぞ」


「おい」


 イレーナが男を見る。


「何か言ったか?」


「何も」


「言ってたじゃないですか」


「リオン」


 男が小声で言う。


「余計なこと言うな」


「やっぱり怖がってるじゃないですか」


「恐怖だけで動かしてないと言っただけだ」


 イレーナが言った。


「なるほど」


 それなら分かる。


 怖い上司と。


 恐怖でしか人を動かせない上司は同じじゃない。


「ガザルは部下まで使い捨てにしてた」


 イレーナが言った。


「そういう奴は嫌いだ」


 そして俺を見る。


「だから、あいつを潰した件だけは評価してる」


「だけ?」


「今のところはな」


「一つ増えたじゃないか」


 エドガーが言う。


「昨日よりは評価上がったのかな」


「昨日よりはな」


「微妙だなあ」


「ピー!」


「ピコは嬉しそうだね」


 しばらく歩く。


 俺は前を進む部下たちを見ながら、もう一つ聞いてみた。


「イレーナさん」


「今度は何だ」


「部下の人たちを信用してるんですね」


 イレーナが少しだけ振り返る。


「部下を信用できないなら、一人でやればいい」


「……」


「命を預ける相手を選んだのは私だ」


 そう言って、すぐ前を向く。


「選んだ後で疑うくらいなら、最初から選ばない」


 格好いい。


 思わずそう思った。


 ただ、本人に言ったらまた何か言われそうだから、黙っておく。


「リオン」


 隣のエドガーが小声で言う。


「何?」


「今、何か言おうとしただろ」


「言わない」


「成長したな」


「昨日殴られたからね」


 ◇


 昼前。


 イレーナが街道を外れた。


「こっちだ」


「道、かなり悪くないですか?」


「ああ」


 進むほど道は狭くなる。


 荷馬車が一台通れるかどうか。


 周囲の畑も、少しずつ使われていない場所が増えていく。


「どこへ行くんですか?」


 俺が聞く。


「昨日、お前たちが見た町はまだマシだ」


「え?」


 エドガーも反応した。


「まだマシ?」


「ああ」


 丘を越える。


 その先に、小さな村が見えた。


 壊れた家。


 使われなくなった畑。


 傾いた柵。


 人の姿も少ない。


「ここは?」


 イレーナが村を見る。


「王都には、本当の状況がほとんど伝わっていない村だ」


「報告では、どうなってるんです?」


「回復傾向」


「……これで?」


 イレーナが俺を見る。


「だから連れてきた」



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
まあ・・・45年分の地球の常識と独身おっさんお独りライフ突き抜けてたから対人経験値はあまり高くないというのはミラさん相手の対処でわかってます 見かけが中学生だから違和感はないだろうけど、そろそろお友達…
更新のテンポが良いため日々読ませていただいいますが、主人公のKYな発言の連発が気になります。45年生きた前世という設定上、まるで中学生かのようなKYさの描写が読んでいてイライラします。
西部の街に移動するあたりから、リオンの性格が崩壊し始めている。おちゃらけキャラだとは登場人物一覧には書いていなかったはず。 強力ライバル登場。学生とはいえ、最高の剣術を誇った2人が一蹴される強敵。よく…
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