第418話 ピコの従魔登録
「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。
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王都へ戻った翌朝。
夏休みが終わるまで、あと三日。
俺は寮の自室で机に向かいながら、残りの休みでやっておきたいことを考えていた。
学院から出されていた課題は、ハル領にいる間に一通り終わらせてある。
だから、残り三日を課題に追われる必要はない。
「久しぶりに冒険者としても動きたいし……」
「ピー?」
声に反応して、部屋の隅からピコが跳ねてくる。
「二学期が始まる前に、学院の準備もしておきたいんだよね」
「ピー!」
そう考えると、三日というのはそれほど長くない。
冒険者ギルドにも行きたい。
それから―。
俺は足元までやってきたピコを見る。
「その前に、ピコのことをちゃんとしておかないとね」
「ピー?」
ピコが身体を傾ける。
王都でこれから一緒に暮らすなら、確認しておかなければならないことがある。
一つは、従魔としての登録。
もう一つは、王立学院でピコと一緒に暮らしたり、行動したりしてもいいのかということだ。
寮の自室に置いていいのか。
学院の敷地内へ連れていっていいのか。
授業中はどうすればいいのか。
何も確認せずに二学期を迎えるわけにはいかない。
「……普通にピコの場所を作っちゃったけど、寮で一緒に暮らしていいのかも聞かないと駄目だよね」
「ピー?」
「ピコが悪いわけじゃないよ」
「ピー!」
とりあえず、午前中は冒険者ギルド。
午後から学院へ行って、アデライン先生に相談してみよう。
「まずはギルドだね」
「ピー!」
◇
以前、ハル領の領都にある冒険者ギルドへピコを連れていった時のことを思い出す。
あの時、受付の人から、
『このスライムは、あなたの従魔なのですか?』
と聞かれた。
そこで俺は初めて、《従魔》というものがあると知った。
魔物と契約し、一緒に行動する者。
アルスレイン王国ではほとんど見かけないが、他国では魔物を従魔として連れている冒険者もいるらしい。
ただ、あの時は従魔というものについて教えてもらっただけで、登録について詳しく聞いたわけではない。
王都にも冒険者ギルドはある。
そこで聞けば分かるだろう。
「ピコ。今日はここに入ってて」
「ピー?」
俺は肩掛け鞄を床へ置いた。
「まだ従魔としてどうすればいいか分からないからね。そのまま王都を歩くのはやめておこう」
「ピー……」
少し不満そうだ。
「王都は人も多いし、スライムが普通に歩いてたら驚く人もいると思うよ」
「ピー」
ピコが渋々といった様子で鞄へ入る。
上は完全には閉じず、顔を出せるくらい開けておいた。
「これなら外も見えるでしょ?」
「ピー!」
一気に元気になった。
「分かりやすいなあ」
「ピー!」
鞄を肩に掛け、俺は寮を出た。
◇
久しぶりの王都。
何台もの馬車が通り過ぎる。
道の両側には店が並び、朝から客を呼ぶ声が飛び交っている。
荷物を運ぶ商人。
剣を腰に差した冒険者。
「やっぱり、人が多いな」
「ピー……」
鞄の中からピコが顔を出し、忙しそうに周囲を見回している。
右を向く。
左を向く。
馬車が通れば、そちらを見る。
店から何か焼いている匂いが漂ってくると、鞄から身体を伸ばそうとする。
「ピコ、落ちるよ」
「ピー!」
「今日は見るだけだからね」
「ピー……」
不満そうな声が返ってきた。
俺は思わず笑う。
王都へ戻ってきたんだな。
領都の屋敷へ帰った時には、ハル領の景色に安心した。
今は今で、王都の騒がしさが懐かしい。
「ピコにとっては、全部初めてだもんね」
「ピー!」
しばらく歩き、王都の冒険者ギルドへ到着した。
◇
「ここが冒険者ギルドだよ」
「ピー?」
ピコが鞄の中から建物を見上げる。
ハル領の領都にあるギルドよりも、ずっと大きい。
入口からは次々と冒険者たちが出入りしていた。
俺も中へ入る。
広い一階にはいくつもの受付が並び、依頼掲示板の前には朝から人が集まっている。
剣士。
弓使い。
杖を持った魔法使い。
装備も年齢も様々だ。
「ピー……」
「人がいっぱいだね」
「ピー」
俺自身も王都のギルドへ来るのは久しぶりだ。
少し懐かしさを覚えながら、空いている受付へ向かった。
「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の女性が笑顔を向けてくる。
「従魔について聞きたいのですが」
「従魔、ですか?」
少し驚いた様子だった。
「はい。以前、領都のギルドで、そういうものがあると教えてもらったんです」
「なるほど。従魔について、どのようなことでしょうか?」
「実は、一緒に暮らしている魔物がいて」
「魔物を?」
受付の女性の視線が動く。
「ここにいます」
俺は肩掛け鞄を少し開いた。
「ピー!」
ピコが元気よく顔を出した。
「……スライム?」
「はい。ピコです」
「ピー!」
受付の女性が目を丸くした。
「王都でも、スライムを連れて来られる方は珍しいですね」
「やっぱり珍しいんですね」
「従魔そのものが珍しいですから」
受付の女性はピコをしばらく見たあと、俺へ視線を戻した。
「王都でそのスライムと一緒に行動されるのでしたら、従魔登録をされておくことをおすすめします」
「従魔登録?」
「はい」
やっぱり、そういう仕組みがあるのか。
「登録すると、どうなるんですか?」
「この魔物が野生の魔物ではなく、特定の方の管理下にある従魔であることをギルドが確認します」
なるほど。
「王都では衛兵から確認を受けることもございます。
その際、登録証があれば従魔であることを証明できます」
「それなら登録しておいた方がいいですね」
「そうですね。ただし、登録したからといって何をしてもよいわけではございません」
受付の女性の表情が少しだけ真面目になる。
「従魔が人へ危害を加えたり、物を壊したりした場合、基本的には主人にも責任が生じます」
「それは当然ですね」
ピコが誰かを襲うとは思えないけど、管理するのは俺だ。
「登録をお願いできますか?」
「もちろんです」
「お願いします」
◇
まず、俺自身の冒険者としての登録を確認された。
以前にも王都のギルドを利用しているので、それほど時間はかからなかった。
続いて、ピコについて確認していく。
「従魔のお名前は?」
「ピコです」
「ピー!」
自分の名前が聞こえたからか、鞄の中でピコが反応する。
受付の女性が笑った。
「自分の名前は分かっているようですね」
「かなり分かってると思います」
「種類はスライムで間違いありませんか?」
「はい」
その他にも、分かる範囲でいくつか質問に答える。
すべてを書き終えると、受付の女性が立ち上がった。
「では、最後に簡単な確認をさせていただきます」
「確認?」
「主人の指示に従えるかどうかです」
「分かりました」
ギルド内の少し広い場所へ移動する。
何人かの冒険者がこちらを見ていた。
「スライム?」
「従魔じゃないか?」
小さな声が聞こえる。
やっぱり珍しいらしい。
「ピコ、出ていいよ」
「ピー!」
待ってましたと言わんばかりに、ピコが鞄から飛び出した。
床へ着地すると、すぐに俺の足元へ寄ってくる。
「では、簡単な指示を出してみてください」
「はい」
何にしよう。
「ピコ。そこで待ってて」
「ピー」
俺が数歩離れる。
ピコはその場から動かなかった。
「おいで」
「ピー!」
すぐに跳ねてくる。
「今度は鞄に入って」
「ピー!」
ピコは床に置いた鞄へ自分から入り込んだ。
受付の女性が頷く。
「問題なさそうですね」
「よかった」
「かなり意思疎通ができているようですが、長く一緒にいらっしゃるのですか?」
「いえ。それほど長くはないです」
「そうなのですか?」
「俺も、ここまで言うことを聞いてくれるとは思っていませんでした」
「ピー!」
ピコが鞄から顔を出した。
「褒められたの分かってる?」
「ピー!」
どうやら分かっているらしい。
領地で出会ったばかりの頃と比べると、確かに意思疎通ができることは増えた。
石を運んでほしいと言えば運ぶ。
待っていてほしいと言えば待つ。
駄目と言えば、たいていは止まる。
……食べ物が絡んだ時は少し怪しいけど。
「それでは登録できます」
「ありがとうございます」
再び受付へ戻る。
少し待つと、必要な手続きが終わった。
「これでピコさんは、リオン様の従魔として登録されました」
「ピコさんなんですね」
「お名前が登録されていますので」
「ピー!」
本人は嬉しそうだ。
受付の女性から、従魔として登録されていることを示す登録証を受け取る。
「これを提示すればいいんですか?」
「はい。衛兵やギルド職員などから確認を求められた場合には、こちらをお見せください」
「分かりました」
「それから、一点だけ」
「はい?」
受付の女性がピコを見る。
「登録されている従魔でも、王都の大通りでは十分お気をつけください」
「大通り?」
「ピコさんは身体が小さいですから」
「ああ……」
「人混みで踏まれたり、馬車から見えなかったりする危険があります」
確かに。
登録しているかどうかとは関係ない。
「気をつけます」
「はい。それでしたら問題ございません」
「ありがとうございました」
「ピー!」
またピコの方が元気よく返事をした。
◇
ギルドを出る。
「これで登録は終わったよ」
「ピー!」
「ピコも王都で従魔ってことになったんだって」
「ピー!」
ピコが鞄から勢いよく出ようとする。
「あ、ちょっと待って」
「ピー?」
俺は慌てて押さえた。
目の前の大通りには大勢の人が歩いている。
馬車も次々と通っている。
さっき受付の人から注意されたばかりだ。
「……ごめん。ここはまだ鞄の中にいようか」
「ピー!?」
「せっかく登録したのにって言いたいんだよね」
「ピー!」
「でも、踏まれたら危ないから」
「ピー……」
明らかに不満そうに鞄の中へ沈んでいく。
「人が少ないところなら出してあげるよ」
「ピー」
「だから、もう少し我慢して」
「ピー……」
仕方ないとでも言うような返事だった。
俺は再び歩き始める。
まだ昼前だ。
予定していたよりも早く終わった。
「午前中の予定は終わったね」
「ピー?」
「でも、ピコのことでまだやることがあるんだよ」
「ピー?」
俺は王立学院の方角を見る。
「次は学院」
「ピー」
「寮で一緒に暮らしていいのか、ちゃんと確認しないとね」
「ピー……」
「そんな不安そうな声出さなくても大丈夫だよ」
「ピー?」
「まず聞いてみよう」
学院が始まるまで、あと三日。
久しぶりに冒険者としても活動したい。
二学期の準備もしておきたい。
そのためにも、まずはピコが王都で問題なく暮らせるようにしておかなければならない。
従魔登録は、これで終わった。
「午後はアデライン先生のところだね」
「ピー?」
寮で一緒に暮らしていいのか。
学院の中へ連れていってもいいのか。
昼食を食べたら、その二つを確認しに行くことにした。
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