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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第417話 父上は気づいていた

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 王都へ戻る日の朝。


 いつもより少し早く目が覚めた。


 窓の外は、まだ朝の光が柔らかい。


「ピー?」


 ベッドの横から声がする。


「おはよう、ピコ」


「ピー!」


 ピコが元気よく跳ねた。


「今日は王都へ行く日だよ」


「ピー!」


 やはり、どこまで分かっているのかは怪しい。


 俺は着替えを済ませると、机の上を確認した。


 持っていくものは、すでにほとんど亜空間収納へ入れてある。


 服。


 本。


 領地で受け取った資料。


 学院で使うもの。


 見た目だけなら、これから長い距離を移動する人間には見えないだろう。


「ピコも忘れ物ない?」


「ピー?」


「……そもそも何も持ってないか」


「ピー!」


 朝食を食べるため、ピコと一緒に部屋を出た。


 ◇


 食堂には、父上と母上がすでに座っていた。


 ミアもいる。


「おはようございます」


「おはよう、リオン」


 母上がこちらを見る。


「今日、王都へ戻るのですよね」


「はい」


「忘れ物はありませんか?」


「大丈夫です」


 そう答えると、母上の視線が俺の周囲を動いた。


「……荷物がありませんけれど」


「先にまとめてあります」


「そうなのですね」


 母上は少し不思議そうだったが、それ以上は聞かなかった。


 父上は何も言わずに食事を続けている。


 俺の足元ではピコが跳ねていた。


「ピー!」


「ピコも今日から王都ですね」


 ミアが笑う。


「ピコ、王都は初めてでしょう?」


「ピー!」


「分かっているんでしょうか」


「たぶん、分かってないと思う」


「ピー!」


 なぜか抗議するように跳ねた。


 母上が口元を緩める。


「王都には人がたくさんいますから、迷子にならないようにしてくださいね」


「ピー!」


「俺から離れないように言っておきます」


 食事を終えた後、母上とミアに改めて挨拶をした。


「それでは、行ってきます」


「身体には気をつけてくださいね」


「はい」


 母上は俺を見た後、足元のピコへ視線を下げる。


「ピコも、リオンをよろしくお願いしますね」


「ピー!」


「任せてるみたいですね」


 ミアが笑った。


「リオン様も、学院で頑張ってください」


「ありがとう」


「ピコも元気でね」


「ピー!」


 俺は二人に頭を下げた。


 あとは自室へ戻り、王立学院の寮へ移動するだけだ。


 そう思って廊下へ出ようとした時だった。


「リオン」


 父上に呼び止められた。


「はい?」


 振り返る。


 父上が椅子から立ち上がった。


「少し話がある」


「分かりました」


 ◇


 父上と二人で執務室へ入った。


 ピコも当然のようについてくる。


「ピー!」


 父上は机の前まで歩くと、こちらを振り返った。


「リオン」


「はい」


「お前、魔法で王都へ帰るんだろう?」


「……」


 一瞬、言葉が出なかった。


「父上もご存じだったんですか?」


「知っていたわけではない」


 父上はあっさり答える。


「なら、どうして……」


「馬車を用意しろとも言わない。護衛も必要ないと言う。王都へ戻るというのに荷物も持っていない」


「……」


「それだけではない」


 父上は腕を組んだ。


「以前、屋敷にいたはずのお前が、気づいた時にはいなくなっていたという話も聞いている」


「ああ……」


「馬車も警護もつけず、部屋にいたはずのお前が突然いなくなる。そんな話を聞いていれば、何かあることくらいは分かる」


「そこまで気づかれていたんですね」


「お前は、こちらが想像していないことを突然やるからな」


「そんなつもりはないのですが……」


「自覚がないなら、なおさら困る」


 父上が小さく息を吐いた。


「それで?」


「それで、とは?」


「何の魔法だ?」


 やはり、そこは聞かれるか。


 俺は少し考えた。


 ここまで察しているなら、中途半端に隠し続ける意味もない。


「転移魔法です」


 父上の眉が動いた。


「転移?」


「はい」


「ここから王都までか?」


「はい。学院の寮の自室に、俺の魔力を残してあります。その魔力をたどれば移動できます」


 父上が黙る。


「……どれくらいかかる」


「一瞬です」


「一瞬?」


「はい」


 父上はしばらく俺を見ていた。


「それで、馬車がいらないのか」


「はい」


「護衛も」


「はい」


「荷物は?」


「それは別の魔法です」


「……別の?」


 父上の顔が少し険しくなった。


「まだあるのか?」


「あります」


「何が使える」


「転移魔法のほかに、浮遊魔法と亜空間収納魔法です」


 父上が動きを止めた。


「……もう一度言え」


「浮遊魔法と、亜空間収納魔法です」


「三つか?」


「はい」


 父上がしばらく何も言わなかった。


 そして、ゆっくり椅子へ座った。


「リオン」


「はい」


「そんな魔法は聞いたこともないぞ」


「今は使える人がほとんどいないと思います」


「ほとんど?」


「少なくとも、普通に使われている魔法ではありません」


「それを、なぜお前が使える」


 俺は王立研究所でのことを簡単に説明した。


 福嶋亮太という人物が残した理論を知ったこと。


 その理論をもとに、実際に魔法を試したこと。


 その中で、浮遊魔法、転移魔法、亜空間収納魔法を使えるようになったこと。


「あることがきっかけで、その人が残した理論を知りました」


「それを読んで、使えるようになったのか?」


「はい。色々と苦労はしましたが」


 父上が額へ手を当てた。


「お前は本当に……」


「はい?」


「想像を超えることを、いともたやすくするな」


「いともたやすくではないですよ。結構大変でした」


「お前にとって大変だったかどうかの話ではない」


 父上が俺を見る。


「そんな魔法は聞いたこともないと言っているんだ」


「……そうですね」


「それを三つも使えるようになって、大変でしたで済ませるな」


 少し呆れたような声だった。


 俺も何と返せばいいのか分からない。


 すると、父上がふと俺の手元を見る。


「待て」


「はい?」


「王都へ持っていく荷物はどこにある」


「亜空間収納の中です」


「見せられるか?」


「もちろんです」


 俺は亜空間収納から鞄を一つ取り出した。


 何もなかった空間から突然鞄が現れる。


 父上が目を見開いた。


「これです」


「……」


「全部ここに入っています」


「どれくらい入る?」


「まだ限界までは試していません」


「……そうか」


 父上は鞄を見つめた後、俺を見る。


「便利だな」


「かなり便利です」


「そうだろうな」


 俺は鞄をもう一度亜空間収納へ戻した。


 父上はそれを無言で見ていた。


「馬車どころか、荷車までいらなくなるな」


「量によりますけどね」


「十分おかしい」


「そうですか?」


「そうだ」


 即答された。


 ◇


 父上は少し黙った後、表情を改めた。


「リオン」


「はい」


「使うなとは言わん」


 俺は少し意外に思った。


「いいんですか?」


「お前のことだから、人を困らせるために使うとは思っていない」


「もちろんです」


「なら、人に迷惑をかけず、自分や周りを危険にさらさない範囲なら、使えばいい」


「ありがとうございます」


「ただし」


 父上の声が強くなる。


「使い方だけは間違えるなよ」


「はい」


「便利な力ほど、使い方を間違えた時に大きな問題になる」


 俺は頷いた。


「気をつけます」


「それならいい」


 父上の表情が少し緩む。


「この件については、屋敷の者にも他言しないよう私から言っておく」


「ありがとうございます」


「転移魔法などと知れれば、利用しようと考える者も出てくるだろう」


「俺も、できるだけ知られないようにするつもりです」


「それがいい」


 父上が頷いた。


「ただ、必要な時には使え」


「必要な時?」


「急いで戻らなければならない時もあるだろう」


「……はい」


「便利なものを持っているのに、秘密だからという理由だけで使わないのも馬鹿らしい」


 父上らしい。


「人に迷惑をかけるな。悪用するな。そして、自分の身を守れ」


「分かりました」


「それだけ守れば、おまえが決めればいい」


「はい」


 ◇


 話を終え、俺は自室へ戻った。


 父上も一緒についてきた。


「本当に、この部屋から王都へ行くのか?」


「はい」


「一瞬で?」


「一瞬です」


 父上が少し呆れたように笑う。


「何日も馬車に揺られているのが馬鹿らしくなるな」


「全員が使えるわけではありませんから」


「分かっている」


「ピー!」


 ピコが俺の足元で跳ねる。


「ピコ、行くよ」


「ピー!」


 俺はピコを抱き上げた。


 一緒に転移するには、俺に触れていなければならない。


 念のため、しっかり腕の中へ収める。


「離れないでね」


「ピー!」


 父上がこちらを見る。


「それでは、父上」


「ああ」


「行ってきます」


「しっかり学んでこい」


「はい」


「それと」


「はい?」


「学院生活を楽しんでこい」


 昨日と同じ言葉だった。


「はい」


 俺は目を閉じた。


 王立学院。


 寮の自室。


 そこに残してある、自分の魔力。


 遠く離れた場所にある魔力の印を探す。


 ――あった。


 その魔力をたどる。


 腕の中のピコを確認する。


「行くよ」


「ピー!」


 次の瞬間。


 景色が切り替わった。


 ◇


「ピー……?」


 目を開ける。


 見慣れた机。


 見慣れたベッド。


 窓。


 本棚。


 王立学院の寮にある、俺の自室だった。


「着いたよ」


「ピー……?」


 俺の腕の中からピコが顔を出す。


 さっきまでいた屋敷とは、まったく違う部屋だ。


 ピコはしばらく動かなかった。


「びっくりした?」


「ピー?」


 やがて腕から降りると、部屋の中をゆっくり跳ね始めた。


 机の下へ行く。


 本棚を見る。


 ベッドの横まで行く。


 窓の近くまで跳ねていく。


「そこは危ないから、勝手に外へ出たら駄目だよ」


「ピー!」


 王都が初めてなら、この部屋だって初めてだ。


「そうだ」


 俺は部屋の隅を見る。


 これまでは何も置いていなかった場所だ。


「ピコの場所も作らないとね」


「ピー?」


 亜空間収納から、領地で用意してきた小さな敷物を取り出した。


 その横に、浅い器も置く。


「ここ、ピコの場所にしよう」


「ピー!」


 ピコがすぐに敷物の上へ跳ねる。


 一度沈み。


 もう一度跳ねる。


「気に入った?」


「ピー!」


「よかった」


 夏休みが始まる前、この部屋にピコはいなかった。


 当然だ。


 俺自身、ピコという存在すら知らなかった。


 それが今では、部屋の隅にピコの場所を作っている。


 不思議なものだ。


「せっかくだから、王都も見てみる?」


「ピー!」


 俺は窓を開けた。


 外には、久しぶりに見る王都の景色が広がっている。


 いくつもの建物。


 行き交う馬車。


 遠くに見える王城。


 領都とは比べものにならないほど多くの人。


 ピコが窓の近くまで跳ねてきた。


「ピー……」


 さっきまでとは違う、小さな声。


 驚いているらしい。


「すごいでしょ」


「ピー……」


「ここが王都だよ」


 ピコはしばらく窓の外を見ていた。


 そして。


「ピー!」


 大きく弾んだ。


 どうやら気に入ったらしい。


 夏休みが始まった時、俺は一人で王都からハル領へ戻った。


 領地へ戻って。


 色々な場所へ行って。


 色々な問題を見つけて。


 新しいことも始めた。


 そして、ピコと出会った。


 領地で始めた仕事は、父上やエリアスたちへ任せてきた。


 今度は、俺がここでやるべきことをやる。


「ピコ」


「ピー?」


「これから忙しくなるかもしれないよ」


「ピー!」


 心配はなさそうだ。


 窓の外では、王都がいつもどおり動いている。


 俺にとっては、戻ってきた場所。


 ピコにとっては、初めて見る世界。


 夏休み前とは少しだけ違う、この部屋で。


 俺とピコの王都での生活が始まった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
王立学院の寮は、室内でペット飼育可?リオン以外の学生がペットを飼っている描写は今までなかったよね。また仮に部屋でペット飼育可だとしても、連れこむ前に学院への申請も必要な気がする。
むっ、ぬぬぬっ 気付いていたのか! さすがガルドパパ あなたの息子はちょっと理屈(屁理屈)っぽいけど誇りに思って下さいw またガルドパパ視点があるといいな
一騒動開始(確信
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