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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第416話 任せて、戻る

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 翌日の午後。


 南の村を朝に出た俺たちは、領都の屋敷へ戻ってきた。


 馬車が玄関前で止まる。


「ピー!」


 扉が開くと同時に、ピコが勢いよく飛び降りた。


 そのまま石畳の上を何度か跳ねる。


「元気だね」


「ピー!」


 昨日は朝から畑を歩き回り、その後もずっと小石を集めていたはずなのに、疲れた様子はまったくない。


 俺も馬車から降り、ディルクとテオへ振り返った。


「二人とも、ありがとう」


「いえ。無事にお戻りいただければ、それで」


 ディルクが馬上から頭を下げる。


 その横で、テオが言った。


「次に南の村へ行く時は、もう少し上手く鍬を使えるようにしておきます」


「何を上達するつもりだ」


 すぐにディルクが呆れた声を出した。


「お前は騎士だぞ」


「騎士でも、畑仕事ができて困ることはありません」


「その前に剣を振れ」


「毎日振っております」


 真面目な顔で返すテオを見て、思わず笑ってしまった。


「まあ、また行くことがあったらよろしくね」


「はい!」


 俺は二人と別れ、ピコと一緒に屋敷へ入った。


「お帰りなさいませ、リオン様」


 玄関を入ったところで、エリアスとミアが待っていた。


「ただいま。ちょうどよかった。南の村の試験なんだけど、結構面白い結果が出たよ」


「その件も含めまして、領主様がお話ししたいことがあるそうです」


「父上が?」


「はい。レナードたちにも来てもらっております」


 レナードまで?


 俺は少し首を傾げた。


「何かあったの?」


「問題が起きたわけではございません」


 エリアスはそう言っただけで、廊下の奥へ視線を向ける。


「まずは執務室へ」


「分かった」


「ピー!」


 ピコも当然のようについてくる。


 ◇


 父上の執務室へ入ると、思っていたよりも多くの人が集まっていた。


 父上。


 エリアス。


 レナード。


 エルナ。


 それ以外にも、この夏に何度か顔を合わせた文官たちがいる。


「戻ったか、リオン」


「はい。ただいま戻りました」


 父上の前へ進む。


「これだけ集まっているということは、何かありましたか?」


「いや」


 父上は首を横に振った。


「お前が王都へ戻る前に、確認しておこうと思っただけだ」


「確認、ですか?」


「まず、南の村はどうだった?」


「はい」


 俺は簡単に説明した。


 まだ収穫時期ではないので、四つの区画から同じ数の株を試し掘りしたこと。


 寝かせた糞と藁を使った三つ目と四つ目の区画は、使っていない区画より発育がよかったこと。


 さらに、土を深く耕した四つ目が、今のところ最もよく育っていたこと。


「ただ、まだ途中経過です」


「収穫までは分からないか」


「はい。今よく育っていても、この後で差が縮まる可能性があります」


 父上が頷く。


「それで?」


「収穫までは、アーロンに試験を続けてもらうことにしました。

収穫量だけじゃなく、作業時間や傷んだ芋の数も残してもらいます」


「アーロンに任せたのか」


「はい」


 今度はエリアスが口を開いた。


「今後、アーロンから届く報告は私も確認いたします」


「頼んだよ」


「承知しております」


 父上が腕を組んだ。


「ならば、南の村についてはそれでよいな」


「はい。それと――」


 俺はそのまま話を続ける。


「西の森の学校の方は、どうなっているかな?」


「予定どおり進めております」


 レナードがすぐに答えた。


「夜間学校を昼間にも使えるよう、教師と子どもの人数を確認しております。

最初から大きく始めず、まずは今ある建物で始める方針に変更はございません」


「排水は?」


「急ぐ場所から手を入れております。将来、本格的に整備する際の邪魔にならない形で進めています」


「住居の方は――」


「リオン様」


 エリアスに呼ばれ、俺は言葉を止めた。


「はい?」


「その先は、我々へお任せください」


「え?」


 思わずエリアスを見る。


「もちろん、何も報告しないという意味ではございません」


 エリアスは静かに続けた。


「ですが、この夏にリオン様から示していただいた方針は、すでに担当する者たちへ共有しております」


 部屋にいる文官たちへ視線を向ける。


「状況が変われば、担当者が確認いたします。

必要であれば我々で相談し、それでも判断できない場合には、領主様へ判断を仰ぎます」


「でも……」


「西の森は、私にお任せください」


 レナードが言った。


「学校も、排水も、これから増える住居のことも、現場を見ながら進めます」


 別の文官も一歩前へ出る。


「紙の試作も、引き続きこちらで確認いたします。

費用と品質が安定するまでは、無理に規模を広げません」


「食料の契約と受け入れにつきましても、我々が責任を持って進めます」


 続けて別の文官が言う。


 エルナも頷いた。


「報告の形についても整えておきます。必要な情報が残るようにいたします」


 次々に声が上がる。


 俺が何かを言う前に、それぞれが自分の担当について答えていく。


 エリアスが俺を見た。


「リオン様」


「はい」


「この夏にリオン様が始められたことは、我々が責任を持って続けます」


「……」


「王都へ戻られた後、何か起きるたびにリオン様へ判断を求めるつもりもございません」


「でも、俺が始めたことも多いから」


「始めた者が、最後まで一人で抱えなければならないわけではございません」


 エリアスははっきりと言った。


「リオン様が道を示されたのであれば、その道を実際に進むのは我々の役目です」


 俺は何も言えなくなった。


 それは、分かっていたはずのことだった。


 南の村でも、アーロンへ試験を任せたばかりだ。


 俺が全部やらなければいけないわけではない。


 むしろ、俺がいなければ止まってしまうようでは困る。


「聞いたな、リオン」


 それまで黙っていた父上が口を開いた。


「はい」


「ならば、こちらは任せろ」


「ですが、父上。俺はいずれ――」


「この領地を継ぐ」


 父上が先に言った。


「分かっている」


 俺を見る。


「いずれは、お前がこの領地を背負うことになる」


「はい」


「だからこそ、今しかできないことをしてこい」


 今しかできないこと?


「今のお前は領主ではない」


 父上は言った。


「学院生だ」


「……はい」


「領地の仕事なら、学院を卒業してから嫌というほどできる」


 その言葉に、レナードが小さく笑った。


「私は笑い事ではないと思いますが」


「レナード?」


「いえ、何でもございません」


 父上は構わず続ける。


「だが、学院へ通える時間には限りがある」


 その声は、領主として命令している時よりも少し柔らかかった。


「勉強しろ」


「はい」


「それだけではない」


 俺は顔を上げる。


「友人とも過ごせ」


「友人……」


「学院でしか学べないことを学べ。王都にいるからこそ会える者と会え。見られるものを見ろ」


 父上は窓の外へ一度目を向けた。


「ハル領にはないものが、王都には山ほどあるだろう」


 それはそうだ。


 王立研究所もある。


 学院にも、領地では出会えない人たちがいる。


 王国各地から集まった学生もいる。


「学院を卒業する時になって」


 父上が再び俺を見る。


「領地のことばかり考えていたせいで、あれをしておけばよかったなどと言うな」


「父上……」


「領地はこちらで守る」


 父上がエリアスたちを見る。


 誰も迷わず頷いた。


「だからお前は、学院生活で思い残すことのないようにしろ」


 そして少し間を置く。


「王都でしかできないことに注力しろ。それが今のお前の仕事だ」


 俺は部屋にいる人たちを見回した。


 エリアス。


 レナード。


 エルナ。


 そして、この夏に一緒に仕事をした文官たち。


 俺がいなくても、続きを進めてくれる人がいる。


 いや。


 最初から、これは俺一人の仕事じゃなかった。


「……分かりました」


 俺は頭を下げた。


「皆さん、続きをお願いします」


「お任せください」


 エリアスが答える。


「次に戻られた時には、今より進んだ西の森をお見せします」


 レナードも続けた。


 他の文官たちも頷く。


 父上だけは、少しだけ眉を上げた。


「お前が頼むことではない」


「え?」


「我々の領地なのだからな」


「……はい」


 思わず笑ってしまった。


 ◇


 執務室を出た後、俺は自室へ戻った。


「ピー!」


 ピコが先に部屋へ入り、床の上を跳ねる。


 俺は椅子へ腰を下ろした。


「なんだか、一気にやることがなくなった感じがするな」


「ピー?」


「いや、なくなったわけじゃないか」


 仕事そのものは、何一つ終わっていない。


 学校も。


 排水も。


 紙も。


 南の村の試験も。


 これから結果が出るものばかりだ。


 でも、俺がずっと横についている必要はない。


「続きはみんなに任せるんだ」


「ピー」


 ピコが俺の足元へ寄ってくる。


 その姿を見て、ふと思った。


「そういえば……」


「ピー?」


「ピコにとっては、王都も初めてなんだよね」


「ピー?」


「もうすぐ一緒に行くんだよ。王都」


「ピー!」


 意味を分かっているのかは怪しい。


 それでも、ピコは楽しそうに大きく跳ねた。


 夏休みが始まった時には、こんなことになるなんて考えてもいなかった。


 領地へ戻ってきて。


 ピコと出会った。


 最初は、まさか一緒に暮らすことになるとも思っていなかった。


 それが今では、どこへ行くにも一緒だ。


「王都は人が多いよ」


「ピー」


「領都より、ずっと大きい」


「ピー!」


「学院もあるし、見たことのない建物もいっぱいある」


 ピコが俺の膝へ飛び乗った。


「楽しみ?」


「ピー!」


「俺も、ピコがどんな反応するか楽しみだよ」


 俺にとって王都は、戻る場所だ。


 だけど、ピコにとっては初めて見る場所になる。


 ハル領の外へ出るのも、おそらく初めてだ。


 この夏、領地で始めたことはたくさんある。


 その続きを任せられる人たちもいる。


 そして、夏休みが始まった時には想像もしていなかった出会いもあった。


「ピコ」


「ピー?」


「かわいいな」


「ピー!」


 ピコが膝の上で嬉しそうに弾んだ。


 父上が言ったように、領地の仕事なら、これからいくらでもできる。


 だったら今は、学院で学ぶ。


 友人たちと過ごす。


 そして、王都でしかできないことをやる。


 領地のことは、ここにいる皆へ任せよう。


 今度は、この夏に出会ったピコと一緒に、王都へ戻る番だった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
大きくなればなるほど一人では限界ありますからなー
元々ワンマンだったから、会社を裏切りで潰されたりしたんでしょうね。ここまで経験してやっと改善の兆しが見えるようになったと。
テイム?した魔物を連れて行くのはありなんだろうか・・・
感想一覧
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