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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第414話 四つの畑の違い

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 翌日の早朝。


 俺はピコを連れ、南の村へ向かう馬車へ乗り込んだ。


 ディルクとテオは、それぞれ馬に乗っている。


 ディルクが馬車の前方を進み、テオは後方から周囲を警戒していた。


「ピー」


 膝の上に載せたピコが、窓の外へ体を伸ばす。


「今日は、南の村に行くんだよ」


「ピー!」


「畑の芋は食べたら駄目だからね」


「ピー?」


 分かっていないような声が返ってきた。


「前にも言ったよね」


「ピー」


 今度は分かっているような返事だった。


 だが、信用してよいのかは分からない。


 馬車が領都を出る。


 窓の外には、夏の終わりが近づいた田畑が広がっていた。


 青々としていた作物の中にも、少しずつ色が変わり始めたものがある。


 南の村で始めた試験も、ようやく結果を確認できる時期へ近づいていた。


 途中で馬を休ませるため、街道沿いの木陰に馬車を止めた。


 ディルクとテオが周囲を確認してから、馬を木へつなぐ。


「異常はありません」


 ディルクが短く報告した。


「ありがとう」


 テオは馬へ水を飲ませながら、南の方角を見ていた。


「テオも、試験畑がどうなったか気になっていた?」


「はい」


 テオはすぐに答えた。


「あれだけ苦労して耕しましたので、少しは気になります」


「最初は、鍬を深く入れすぎていたよね」


「そのことは覚えております」


「農家の人に、最後まで続けられるならそれでもいいって言われてたね」


「……覚えております」


 テオの声が少し小さくなった。


 近くで聞いていたディルクが、わずかに口元を緩める。


「今回は鍬を振るために行くのではないぞ」


「承知しています。護衛として同行しております」


「わかっていればよい」


 ディルクはそう答えたが、テオが作業を手伝おうとすることまで止めるつもりはなさそうだった。


「ピー!」


 足元へ下ろしたピコが、街道脇の小石へ近づく。


 体の中へ取り込み、テオの足元まで運んでから吐き出した。


「なぜ、今から石を集めるのですか」


「前にテオが石を集めていたのを覚えてるんじゃないかな」


「ピー!」


 ピコは得意そうに弾んだ。


「畑に着いてからでよいのですが」


「ピー?」


「今は運ばなくてよいという意味です」


 テオが説明したが、ピコは次の石へ向かって跳ねていった。


 ◇


 午後、南の村へ着いた。


 村の入口では、アーロンと村長、それに試験畑を手伝った農民たちが待っていた。


「お待ちしておりました、リオン様」


「久しぶり、アーロン」


 アーロンは丈夫な作業着を身につけていた。


 手には記録板を持っている。


 だが、服の袖や靴にはすでに土がついていた。


 前回のように、汚れた場所を気にしている様子はない。


「報告書、読んだよ。かなり細かく書いてあったね」


「ありがとうございます」


「畑の違いも、よく見てる」


「違いがはっきりしてきましたので、見落とさないよう記録しております」


 そう答えながらも、アーロンは浮かれた様子を見せなかった。


「ただ、まだ収穫しておりません。どの方法がよかったかは、判断できないと考えております」


「うん。今日は、その前の確認だね」


 農民の一人が、テオに気づいた。


「あんた、前に一緒に鍬を振ってた騎士さんじゃないか」


「覚えておられたのですか」


「そりゃ覚えてるさ。最初から力を入れすぎて、すぐ息を切らしてたからな」


 周囲から笑いが起きた。


 テオは少し恥ずかしそうに姿勢を正す。


「今回は、同じ失敗はいたしません」


「また鍬を持つつもりなのか?」


「必要であれば、お手伝いします」


「テオ」


 ディルクが低い声で呼ぶ。


「護衛を優先いたします」


 テオがすぐに言い直した。


 農民たちは、さらに楽しそうに笑った。


 前回の作業で、少しは距離が縮まったらしい。


「それでは、畑へご案内いたします」


 アーロンを先頭に、俺たちは試験畑へ向かった。


 ピコは俺の肩掛け鞄から顔を出している。


「畑へ入ったら、勝手に芋を食べたら駄目だからね」


「ピー」


「返事だけはいいんだよな」


 ◇


 試験畑には、今も木の杭と紐が残されていた。


 同じ広さの四つの区画が、はっきりと分けられている。


 植えた芋の数。


 植えた間隔。


 土へ入れた深さ。


 与えた水の量。


 それらはすべて同じだ。


 違うのは、畑を耕す方法と、寝かせた家畜の糞と藁を入れたかどうかだけだった。


「まずは、一つ目の区画です」


 アーロンが、最も手前にある畑を示した。


「こちらは、堆肥を使わずに育てました」


 葉の大きさは、ほかの区画と比べて目立たない。


 だが、区画全体を見渡すと、育ち方がそろっている。


「大きく育ったものは少ないですが、極端に育ちの悪い株も多くありません」


 アーロンが説明する。


「この区画が、ほかを比べる時の基準になるんだね」


「はい」


 新しい方法だけを見ても、本当に効果があったのかは分からない。


 これまでどおりの方法で育てた芋と比べる必要がある。


 次に、二つ目の区画へ移った。


「こちらは、土を通常より深くほぐしました」


 テオが畑を見ながら言う。


「ここは、大きな石を取り除くのに時間がかかった場所ですね」


「覚えているんだ」


「私も掘り出しましたので」


 地上へ出ている葉を見る限り、一つ目との差はそれほど大きくない。


 一部の株は茎が太く見えるが、畑全体が明らかに大きく育っているわけではなかった。


「深く耕した意味はなかったのでしょうか」


 テオが尋ねる。


 農民が首を横に振った。


「それは、芋を掘ってみないと分からん」


「土の中ですか」


「芋が育つ場所は土の下だからな。葉だけを見ても、芋が大きくなっているかは分からんよ」


 俺も畑へ目を向けた。


「深いところまで土が柔らかくなったことで、芋が育ちやすくなっている可能性はある。

でも、変わっていない可能性もあるんだね」


「はい」


 アーロンが記録板を見ながら答える。


「この区画は、一つ目より耕す時間が大きく増えました。

収穫量がわずかに増えただけであれば、すべての畑で行うのは難しいと思います」


 作業時間は、前回すでに記録している。


 同じ人数で作業しても、深く土をほぐす区画は倍近い時間がかかった。


 芋が増えたとしても、その増えた分が手間に見合うとは限らない。


 三つ目の区画へ進む。


「こちらには、寝かせた家畜の糞と藁を入れております」


 一つ目と二つ目に比べ、葉の色が濃い。


 茂り方もよく、見た目では効果が出ているように思える。


「これが一番よく育っているように見えます」


 テオが言った。


「四つ目の方が、さらに大きく見える株もあります」


 アーロンが奥を示した。


「ただ、この区画は場所によって育ち方に差があります」


 近づいて見ると、確かに同じ区画の中でも葉の大きさが違っていた。


 よく茂っている場所もあれば、一つ目の区画とほとんど変わらない場所もある。


「糞と藁が、均等に混ざっていなかったのでしょうか」


「その可能性があります」


 アーロンが答える。


「同じ量を入れましたが、すべての場所へ同じように混ぜられたかまでは確認できておりません」


 寝かせた糞と藁は、すぐに用意できるものではない。


 家畜を飼う家から集める。


 藁と合わせる。


 そのまま畑へ入れず、使える状態になるまで寝かせる。


 効果があったとしても、領内のすべての村で十分な量を用意できるとは限らなかった。


 最後に、四つ目の区画へ向かう。


「こちらは土を深くほぐし、そのうえで寝かせた糞と藁を入れました」


 四つの中で、最も手間をかけた区画だ。


 葉は大きく、茎も太い。


 区画全体の茂り方も、ほかよりよく見えた。


「やはり、これが一番ではありませんか?」


 テオが畑を見ながら言った。


 アーロンは、すぐには頷かなかった。


「地上に出ている部分だけを見れば、そのように思えます」


「違うのですか?」


「分かりません。芋がどれだけ育っているかは、まだ土の中です」


「そうだったな」


 テオは二つ目の区画で聞いた話を思い出したように頷いた。


「それに、ここは準備に最も時間がかかっているよね」


 俺が言うと、アーロンが記録板を開いた。


「はい。深く土をほぐす時間に加え、糞と藁を運び、混ぜる時間も必要でした」


「収穫量が一番多くても、その手間に見合うかは別なんだ」


「そのように考えております」


 村人たちも、四つ目の区画を見つめていた。


「毎年これを全部の畑でやれと言われたら、かなり厳しいな」


 一人が言う。


 別の農民も頷いた。


「作物の世話は、この芋だけじゃない。ほかの畑もあるからな」


 収穫量だけを増やす方法なら、いくらでもあるのかもしれない。


 だが、村人の時間も体力も無限ではない。


 家畜の世話もある。


 水路の確認もある。


 別の作物の植え付けや草取りもある。


 芋の収穫量だけを見て、最も手間のかかる方法をすべての畑へ広げれば、ほかの仕事が回らなくなる可能性がある。


 ◇


「リオン様。こちらも見ていただけますか」


 アーロンが、四つ目の区画の端へ俺を案内した。


 同じ区画の中でも、そこだけ葉の色が薄い。


 茎も細く、周囲より育ちが悪かった。


「雨が降った後、この辺りには水が残ります」


 土を見ると、ほかよりわずかに低くなっている。


 今は乾いているが、水が流れた跡が残っていた。


「ほかの区画にも、同じような場所があるの?」


「はい。程度に違いはありますが、雨水が残りやすい端の部分では、育ちが悪くなる傾向がございます」


「それを報告書に書いていたんだね」


「はい」


 アーロンは区画の端へ立てた小さな木札を示した。


 水が残った日。


 乾くまでにかかった日数。


 周囲の株との違い。


 簡単な記録が残されていた。


「この芋も、ほかとは分けて収穫するつもりです」


「どうして?」


「土を深くほぐした場所で、水が残る影響が小さくなるかを確認したいからです」


 アーロンは四つの区画を見渡した。


「水が残る場所では、どの方法でも育たないのか。

それとも、深く土をほぐしたことで違いが出るのか。収穫して比べなければ分かりません」


「糞と藁を入れたことが、どんな影響を与えているかも分からないね」


「はい」


 育ちが悪いからと、途中で取り除いてしまえば、その答えは分からなくなる。


「この場所も、最後まで残して正解だったと思うよ」


「ありがとうございます」


 アーロンは小さく頭を下げた。


 ◇


 畑の端には、袋と木札が用意されていた。


 アーロンが一枚ずつ見せる。


「収穫した芋が混ざらないよう、区画ごとに分けます」


 木札には、区画番号と試した方法が書かれている。


 これから、


 収穫した芋の数。


 全体の重さ。


 食べられない状態だった芋の数。


 収穫にかかった人数と時間。


 それらを書き加える予定だ。


「水が残っていた場所の芋も、別の袋に入れます」


「かなり細かく分けるんだね」


「はい。ですが、記録が複雑になりすぎないよう、村の方々とも相談しました」


 アーロンが記録板を俺へ見せる。


 前回の作業で記録した、人数や時間。


 農作業経験の有無。


 途中で作業が止まった理由。


 使った農具。


 その中から、今後も必要なものだけが選ばれていた。


「農作業の経験があるかどうかは、今回は書かないんだ」


「はい。村の方々が行う通常の作業として比べますので、毎回記録する必要はないと判断しました」


「石を取り除いた時間は?」


「植え付け前の作業時間に含めております。

別の項目にすると、記録する方の負担が増えるためです」


 必要な記録を増やすだけではなく、減らすことも考えている。


「ちゃんと整理したんだね」


「実際に記録を続けると、細かく分けても使わない項目があると分かりました」


「エルナにも相談した?」


「はい。記録用紙については、手紙で何度か確認していただきました」


 以前のアーロンなら、決められた用紙へ抜けなく書くことを優先したかもしれない。


 だが今は、現地で使い続けられる形へ直している。


 俺が知っているのは、南の村へ来てからのアーロンだけだ。


 それでも、最初に鍬を差し出した時とは変わったことが分かる。


「そういえば、エリアスも報告書を読んでいたよ」


 俺が言うと、アーロンの表情が少し引き締まった。


「何か、不足がございましたか?」


「逆だよ」


「逆、ですか?」


「頼もしくなったって言ってた」


 アーロンが目を見開いた。


「エリアス様が、そのようなことを……」


「うん。報告書を何度も読み直してた」


「何度も、ですか」


「最初の頃は、その日にした仕事を順番に書くことが多かったけど、今は自分で違いを見つけて、理由まで考えているって」


 アーロンは、手にしていた記録板へ目を落とした。


「まだ、どの方法がよいかは分かっておりません」


「エリアスも、試験はまだ終わってないって言ってたよ」


「やはり、そうでしたか」


「でも、今までの働き方を評価してることは伝えておこうと思って」


 アーロンは、しばらく黙っていた。


 それから記録板を抱え直し、深く頭を下げた。


「収穫が終わるまで、気を抜かずに記録いたします」


「うん。エリアスも、それを期待していると思う」


「はい」


 顔を上げたアーロンは、少しだけ嬉しそうだった。


 ◇


 翌日の試し掘りに備え、袋と木札を畑の近くへ運ぶことになった。


 テオが、すぐに袋の束を持ち上げる。


「テオ」


 ディルクが呼び止めた。


「護衛はどうした」


「リオン様のすぐ近くにおります。周囲も確認しております」


「そういう問題ではない」


「ですが、袋を運ぶ間も剣は身につけています」


 テオは袋を持ったまま、周囲へ視線を向けた。


 言っていることは間違っていない。


 ディルクは小さく息を吐くと、木札の束を手に取った。


「ディルクも手伝うんだね」


「畑の周囲を確認するついでです」


「そういうことにしておくよ」


 俺も軽い袋を一つ持つ。


 その足元を、ピコが跳ねていく。


「ピー!」


 ピコは土の上にあった小石を取り込み、テオの足元へ置いた。


「今回は石を集めなくてもよいのですが」


「ピー!」


 次の小石を運んでくる。


「ピコ、今日は石を運ぶ仕事はないよ」


「ピー……」


 ピコが残念そうに縮む。


 少し考え、俺は畑の外にある石の山を指した。


「畑の中にある石だけ、あそこへ運んでくれる?」


「ピー!」


 ピコは勢いよく畑へ向かおうとした。


「ただし、芋には触らないでね」


「ピー!」


「本当に分かってるかな」


 ピコは小さな石を一つ取り込み、石の山へ運んだ。


 テオがそれを見ながら苦笑する。


「前より、石を運ぶのが速くなっているような気がします」


「ピコも慣れたのかもしれないね」


「ピー!」


 褒められたと分かったのか、ピコはさらに大きく弾んだ。


 ◇


 準備を終える頃には、日が西へ傾き始めていた。


 アーロンが四つの区画を見ながら言う。


「明日の朝、各区画から同じ数の株を選び、試し掘りを行いたいと考えております」


「全部を収穫する前に、育ち方を確認するんだね」


「はい。まだ早いようであれば、収穫日を延ばす必要があります」


「どの場所から掘るの?」


「区画の中央付近から、同じ数を選びます。

端の水が残りやすい場所については、別に一株ずつ掘る予定です」


 端と中央では、育つ条件が違う。


 無作為に掘れば、その違いが混ざってしまう。


「分かった。明日は、その方法で確認しよう」


「はい」


 四つの区画へ植えた芋の数は同じだ。


 植えた間隔も、深さも、水の量もそろえている。


 違うのは、土を耕した深さと、寝かせた糞と藁を入れたかどうかだけだった。


 地上から見れば、最も手間をかけた四つ目の区画が、一番よく育っているように見える。


 だが、俺たちが食べるのは葉ではない。


 土の中に、どれだけの芋が育っているのか。


 そして、その収穫量は、増えた手間に見合うものなのか。


 答えは、実際に掘ってみなければ分からない。


 翌朝、四つの区画の試し掘りを行うことになった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
牛に鋤を引っ張らせらのはまだ先か
どんなに能力があっても正しい方向に発揮してくれなきゃ害悪になることすらありますからな 計数が出来ても誤魔化す方向に行ったら横領とかw 民をして上と意を同うし、これと死すべくこれと生くべくして、危わざ…
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