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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第411話 住む場所が追いつかない

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 夏休みも、残りが少なくなってきた。


 俺は再び西の森を訪れ、役場でレナードと向かい合っていた。


「学校の手伝いを希望する者が、一人見つかっております」


 レナードが、机の上の報告書を開く。


「読み書きはできるの?」


「夜間学校を修了した者です。

まずはマルタの補助として、子どもたちの進み具合を記録してもらう予定です」


「それなら、マルタの負担も少し減りそうだね」


 学校を始めて一か月。


 生徒によって、学べる時間も読み書きの進み具合も違う。


 マルタ一人ですべてを見続けるのは難しかった。


 すぐに先生を増やすことはできなくても、記録や準備を手伝う者がいるだけで状況は変わる。


「飲食店の届け出は?」


「すでに三軒から出されております。

水場、排水、食材の保管場所を、担当者が開店前に確認いたしました」


「問題はなかった?」


「一軒だけ、油をそのまま排水へ流そうとしておりました。

受け皿を置くよう伝え、改善を確認してから木札を渡しております」


「最初に気づけてよかった」


 店が増えてから、すべてを確認するのでは遅い。


 だが、届け出を出した店をレナードが一軒ずつ見ていたら、別の仕事ができなくなってしまう。


「確認する人も決まったの?」


「はい。排水路の管理をしている者と、宿で長く働いていた者に任せております。

判断に迷った場合だけ、私へ報告するようにしました」


「それなら続けられそうだね」


 俺が学院へ戻った後も、仕事は続く。


 そのためには、俺やレナードがいなければ動かない仕組みにしてはいけない。


 学校。


 飲食店の届け出。


 排水。


 どれも完成したわけではない。


 それでも、担当する者が決まり、少しずつ俺の手を離れ始めていた。


「これなら、俺が学院へ戻った後も大丈夫そうだね」


「はい。定期的に領都へ報告を送るようにいたします」


 レナードが頷いた。


 打ち合わせを終え、俺は椅子から立ち上がった。


「少し町を歩いてから帰るよ」


「どちらをご覧になりますか?」


「今日は、普段あまり行かない場所を見てみたいかな。いつも温泉街の中心や学校ばかりだから」


「でしたら、私がご案内を――」


 その時、役場の扉が叩かれた。


 木材の搬入について、商人がレナードとの確認を求めているらしい。


「そっちを先に済ませて。近くを歩くだけだから」


「ですが、リオン様お一人では」


「ピコもいるし、この町の中なら大丈夫だよ」


「ピー」


 肩掛け鞄の中から、ピコが返事をした。


 レナードは少し迷ったものの、最後には頭を下げた。


「承知いたしました。何かございましたら、すぐに役場の者をお呼びください」


「分かった」


 俺は役場を出た。


 温泉街の中心には、今日も多くの人がいる。


 宿の前には馬車が止まり、飲食店からは料理の匂いが漂っていた。


 少し前までは森しかなかった場所に、これだけ多くの建物と人が集まっている。


 俺は大通りを外れ、宿泊区域と工房区域の間にある道へ入った。


 こちらは観光客が歩く場所ではない。


 荷車が通れる程度の道の両側に、倉庫や作業場が並んでいる。


 さらに奥へ進むと、見覚えのない細長い建物があった。


「こんな建物、あったかな」


 倉庫にも見えるが、壁には小さな戸口がいくつも並んでいる。


 建物の前には、洗った衣服が干されていた。


 水桶。


 鍋。


 人が暮らしている?


 俺は建物へ近づいた。


 戸口の一つが開き、中から作業着を着た男が出てくる。


 開いた戸の隙間から、中の様子が見えた。


 一つの建物を薄い板で区切り、いくつもの部屋に分けているようだ。


 一部屋は狭い。


 寝具と荷物を置けば、それだけでほとんど埋まってしまう。


 建物の端では、何人かが同じ場所で火を使っていた。


 そのすぐ近くには、乾いた木材が積まれている。


「この建物には、何人くらい住んでいるんですか?」


 俺が尋ねると、男は戸惑いながら答えた。


「なんだい、急に。三十人くらいじゃないか?」


「この建物だけで?」


「あぁ。宿より安いからな」


 男はどうやら俺のことは知らないらしい。最近、西の森に来たのかもしれない。


彼の話では、ここに住んでいる者の多くが、近くの工房や建築現場で働いているらしい。


 奥を見ると、同じような建物がさらに二棟並んでいた。


 浅く掘った溝へ、濁った水が流されている。


 溝は正式な排水路へつながっていない。


 厠も、建物の人数に対して明らかに少ない。


 俺が周囲を見渡した時、視界に文字が浮かんだ。


《居住人数:許容量超過》

《火災時延焼危険:高》

《排水処理能力:不足》


「やっぱり、このままにはできないな」


「ピー……」


 鞄の中のピコも、何かを感じたように小さく鳴いた。


 俺は近くにいた役場の職員を呼び止め、レナードを呼んでもらった。


 しばらくして、レナードが足早にやってくる。


「リオン様、お待たせいたしました」


 レナードは俺の隣に立ち、細長い建物を見た。


「……あ、また増えております」


「レナードは、この建物を知っていたの?」


「最初の一棟だけは把握しておりました。

近くの工房が、働き手を住まわせるために建てたものです」


「前に見た時は、一棟だけだったんだね」


「はい。火の扱いと汚水については、建物の持ち主へ注意いたしました。

しかし、その後に二棟も増えているとは……」


 レナードは険しい表情で、奥の建物を見つめた。


「建てるのを止められなかったの?」


「正式な住宅区域には、ほとんど空きがございません。

現在建設している住宅にも、すでに入居する者が決まっております」


「宿も高くなっているんだよね」


「はい。以前よりも、長期滞在の料金が上がっております」


 仕事はある。


 だが、働きに来た者が暮らす家がない。


 宿に泊まり続けるには金がかかる。


 だから、狭くても安い部屋に人が集まる。


「建物を取り壊せば、ここで暮らす者たちの行き先がなくなります」


「だから、強く止められなかったんだね」


「申し訳ございません」


「レナードが謝ることじゃないよ」


 西の森は、最初から無計画に作られたわけではない。


 住宅区域も、井戸も、排水路も計画的に用意していた。


 ただ、町へ人が集まる速さが、当初の計画を上回ったのだ。


「このままだと、ここはスラムになる」


「スラム、でございますか?」


 レナードが聞き慣れない言葉を繰り返した。


「住む家を借りられない人たちが集まって、正式な道路や排水のない場所に、安い家が次々と建っていく区域のことだよ」


「貧しい者たちが集まる場所、ということでしょうか」


「最初からそうとは限らないよ」


 ここに住んでいる者たちにも仕事はある。


 怠けているわけでも、犯罪を犯しているわけでもない。


「最初は、働いている人が安く住むための場所なんだ。

でも、人が増えても誰も管理しなければ、誰が住んでいるのか分からなくなる」


 俺は浅い排水溝を指した。


「井戸も厠も足りなくなる。病気が出れば広がりやすい。

火事が起きても、建物が近すぎて全部燃えるかもしれない」


「確かに、ここでは火を止めることも難しそうです」


「それに、一度たくさんの人が住み始めたら、後から道路や排水を作ろうとしても簡単には動かせない」


 建物を壊せば、そこには住民の生活がある。


 立ち退かせるにも、新しい住居が必要になる。


「まだ三棟だから、今なら間に合う」


「すぐに取り壊しますか?」


「いや、取り壊したら、住んでいる人たちは別の空き地に小屋を作るだけだよ」


 ここに住む人々を追い出しても、住宅不足は解決しない。


「まず、ここに誰が住んでいるのか調べよう」


「居住者の記録を作るのですか?」


「うん。建物の持ち主、部屋の数、住んでいる人数、働いている場所。

家賃を誰に払っているのかもだな。

全部確認してほしい」


「承知いたしました」


「新しく同じ建物を作るのは、いったん止めよう。

ただ、今住んでいる人は追い出さない」


 正式な住居を用意するまでの間に、最低限の安全を確保する。


 火を使う場所を一か所にまとめる。


 水桶を用意する。


 汚水を捨てる場所を決める。


 共同の厠を増やす。


 一つの部屋に住める人数も決めなければならない。


「それだけでも、すぐに手配いたします」


 レナードは頷いた。


「しかし、根本的には住宅を増やさなければなりません」


「将来の住宅区域を広げる計画はあるんだよね?」


「ございます。ただ、予定では来年から整備を始めることになっておりました」


「今から始めたら、家ができるまでどれくらいかかる?」


「道路と排水、井戸を整えたうえで住宅を建てますので、早くても数か月は必要です」


 それでは、その間に同じような建物がさらに増えてしまう。


 戸建て住宅を一軒ずつ建てれば、壁も屋根もそれぞれ必要になる。


 金だけでなく、職人と時間も足りない。


 俺は、目の前の細長い建物を見た。


 形そのものが悪いわけではない。


 問題は、何人住むのかも、水や排水をどうするのかも決めず、空いている場所へ勝手に建てたことだ。


「レナード。こちらで、似た形の建物を造ろう」


「この建物と同じものを、でございますか?」


「まったく同じじゃないよ。一つの建物を、いくつかの家に分けるんだ」


 俺は地面へしゃがみ、枝で簡単な図を描いた。


 細長い建物の中を、同じくらいの大きさに分けていく。


「隣の家と壁を共有すれば、一軒ずつ家を建てるより木材が少なくて済む。

屋根もまとめて作れるから、早く建てられる」


「なるほど……」


「こういう建物を、長屋と呼ぶんだ」


「長屋、でございますか」


 前世の江戸時代にあった長屋ほど、狭くする必要はない。


 ただ、今は立派な家を何十軒も建てるより、早く安全な部屋を用意することが大切だ。


「先に、住む人数を決める。建てる場所も役場で決める。

井戸と厠と排水を作って、建物同士の間も空ける」


「火が出た場合に、隣の建物へ燃え移らないようにするのですね」


「うん。一棟を長くしすぎるのも危険だから、いくつかに分けた方がいい」


「単身の作業員と家族では、必要な広さも違います」


「それなら、最初は二種類にしようか」


 一棟は、単身で働きに来た者たちのため。


 もう一棟は、夫婦や子どもと暮らす者たちのため。


 初めから大量には建てない。


 まず二棟を建て、必要な木材、工期、実際の住みやすさを確認する。


「ただし、長屋を最後まで住み続ける家にはしないよ」


「正式な住宅が完成するまでの住まいにするのですか?」


「うん。住宅区域の家が完成したら、希望する人から順番に移ってもらう」


「期限を決めて退去させるのでしょうか」


「期限が来たから追い出すのは駄目だよ。

次の住まいを用意してから移ってもらうんだ」


 長屋の入居者は、役場で記録する。


 家賃は宿より安くするが、無料にはしない。


 受け取った家賃の一部を、屋根や壁、井戸、厠の修繕に使う。


 安いからといって、壊れたまま放置すれば、長屋そのものが別のスラムになってしまう。


「将来は、もっときちんとした住宅地を作りたいんだけどね」


「現在の住宅区域より、さらに大きなものをですか?」


「住宅だけじゃなくて、学校や店、広場まで一緒に配置した場所かな」


 前世でいう団地だ。


 多くの家族が暮らし、必要な施設へ歩いて行ける住宅地。


 だが、それを今から計画して建てていたら、目の前の住宅不足には間に合わない。


「今は理想の町を考えるより、早く安全な住まいを用意する方が先だよ」


「承知いたしました。長屋を建てられる土地と、必要な費用を確認いたします」


「今日のうちに、この建物の人数も確認してね。

ほかにも同じような場所がないか調べてほしい」


「すぐに始めます、リオン様」


 俺は、もう一度三棟の建物を見た。


 西の森は、計画に沿って作られてきた。


 だが、町の成長が、その計画を追い越している。


 人が集まること自体は悪くない。


 新しい仕事が生まれ、この土地で暮らしたいと思う者が増えた証拠でもある。


 しかし、住む場所がなければ、町の外側に管理できない住居が増えていく。


 ここで暮らす者を追い出すのではなく、役場が把握できる場所へ、安全で安い住居を用意する。


 正式な住宅が完成するまで、人々の暮らしをつなぐ。


 町の成長が、新しい貧しさを生み出してしまう前に。



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― 新着の感想 ―
気をつけないと、仲が悪い貴族家の工作員が拠点にしますよ。
まあこうなりますわな そのうち周りから「ここに来れば何とかなる」から飽和して仕事にあぶれるものが出てスラムの形成が加速する 犯罪の温床になれば後は一直線 人間は食うためなら何でもするのが当たり前という…
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