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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第410話 豊かになった領地の財布

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 穀物の購入について話し合ってから、数日が過ぎた。


 俺は再び、父上の執務室を訪れていた。


 机の上には、今年これまでの収入と支出、それに年末までの見込みをまとめた帳簿が開かれている。


「今年の帳簿だけでよいのか?」


 父上が尋ねた。


「二年前のものも見せてもらえますか?」


「二年前?」


「今の数字だけを見ても、どれくらい変わったのか分かりませんから」


 父上がエリアスへ目を向ける。


「用意できるか?」


「少々お待ちください」


 エリアスが部屋を出て、しばらくして分厚い帳簿を抱えて戻ってきた。


 二年前と現在。


 二冊の帳簿が、机の上へ並べられる。


「まずは北部から見よう」


 俺は帳簿を開いた。


 二年前の北部は、野菜の生産が中心だった。


 青葉草も栽培されていたが、そのほとんどは領内で使われている。


「青葉草の出荷量が、かなり増えているね」


「王都を中心に、複数の領から注文が入っております」


 エリアスが答えた。


「じゃがバターだけでなく、肉料理にも使われているようです」


「栽培する農家も増えたのか?」


 父上が尋ねる。


「はい。生産する畑も広がっております」


 青葉草そのものの売上だけではない。


 選別する者。


 乾燥させる者。


 荷車で運ぶ者。


 新しい仕事が増えたことで、北部全体の収入も伸びている。


「次は東部ですね」


 エリアスが、別のページを開いた。


 数字の増え方は、北部よりも大きい。


「二年前は、青輝石も純石も、ほとんど収入になっていなかったんだよね」


「利用方法が分かっておりませんでしたから」


 現在は違う。


 青輝石は卓上灯や街灯に使われ、純石は街灯を動かすために必要とされている。


 石を掘る者だけでなく、選別する者や工房で加工する職人も増えた。


「王都からの街灯の注文も、この帳簿に入っているのか?」


「まだ一部です」


 エリアスが答えた。


「納品が終わっていない分は、収入としては記録しておりません」


「これから、さらに増える可能性があるということですね」


「ああ」


 父上の表情が緩む。


 南部のページを開くと、領外への穀物販売は減っていた。


「南部だけは、他領からの収入が落ちているな」


 父上が言う。


「生産量も減っているのか?」


「いえ、減っておりません」


 エリアスが首を横に振る。


「領内で消費される量が増えております」


「そうそう。南部が衰えたわけじゃないんだよね」


「どういうことだ?」


「以前は領内で食べ切れなかったから、他領へ売っていました。

今は、領内だけでほとんど消費しています」


 人口だけでなく、旅人や冒険者、作業員も増えている。


 穀物を食べる人数が増えたのだ。


「ただし、生産の増加が消費の増加に追いついていません」


「だから、穀物の価格が上がっているのだな」


「はい。なので、農業試験と領外からの購入が必要です」


 最後に、西部の帳簿を開く。


 二年前のページは、ほとんど空白だった。


 小さな集落と、わずかな林業。


 それ以外に、大きな収入はない。


 だが、現在の帳簿には多くの項目が並んでいた。


 木材。


 リバーシ。


 温泉。


 宿。


 飲食店。


 商人からの税。


 建築に関わる収入。


「二年前とは、同じ場所とは思えないな」


 父上が帳簿を見つめる。


「西部は、収入も増えています。ただ、支出も大きいですね」


 道路。


 排水。


 学校。


 警備。


 開拓に必要な費用は、まだ多い。


「西部は完成したわけではありません。成長の途中です」


「その成長を止めないためにも、金が必要というわけか」


「はい」


 俺は、人口の記録も確認した。


「二年前は、領全体でおよそ二万二千人」


「現在は、三万人を少し超えております」


 エリアスが答える。


「二年で八千人も増えたのか」


「特に、領都と西の森です」


 領民として登録されていない者もいる。


 冒険者。


 商人。


 旅人。


 短期間だけ働く作業員。


 実際にハル領で食事をして、品物を買っている人数は、記録された人口より多いはずだ。


 俺は別の紙を取り出した。


 小麦の価格。


 職人の賃金。


 各地域の生産量。


 工房の商品価格。


 商人が扱った品物の量。


 一つずつ数字を書き写していく。


「何を計算している?」


 父上が尋ねた。


「領内で、一年間にどれくらいの品物や仕事が生み出されているかです」


「税収ではないのか?」


「税収は、その一部です。領民や工房、店、商人が生み出したものを全部まとめて考えます」


 正確な数字を出すのは難しい。


 帳簿に残らない小さな取引も多い。


 それでも、全体の規模は推測できる。


 俺は計算を続けた。


今年はまだ終わっていない。


 そこで、現在までの実績に、街灯やリバーシの受注、今後見込まれる税収を加えて、一年分の規模を推測した。


 数字を書き、間違いがないか確かめ、別の紙に合計を書き直す。


 パソコンがあれば、数字を入れるだけでもっと早く計算できるんだけどな。


 そんなことを考えながら、ようやく答えを出した。


 前世の金額へ無理やり置き換えるなら、二年前のハル領の経済規模は年間百五十億円ほど。


 現在は、三百八十億円前後。


 物価も暮らし方も違う。


 正確な比較ではない。


 それでも、領地の経済が二年間で二倍以上になったことは間違いなかった。


「ずいぶん増えたな」


 父上が紙を覗き込む。


「はい。俺が思っていた以上です」


「王国内では、どのくらいの位置になる?」


 この国には、領地を持つ貴族が三十家いる。


 俺は、学院で学んだ各領の人口や産業を思い出した。


「二年前なら、二十五番目前後だったと思います」


「今は?」


「正確な数字は分かりません。ほかの領地も成長していますから」


「それでも、お前の予想を聞きたい」


 俺は少し考えた。


「十五番目から十七番目くらいでしょうか。おそらく、十六番目前後です」


「二十五番目から、十六番目か」


 父上は、二年前の帳簿へ目を落とした。


 港を持つ領地。


 大きな都市を持つ領地。


 広大な穀倉地帯や鉱山を持つ領地。


 そうした上位の領地には、まだ及ばない。


 それでも、没落寸前だったハル領は、王国の中ほどまで成長したことになる。


「これだけ収入が増えたのなら、道路や学校にも、さらに金を使えるのではないか?」


 父上が尋ねた。


「少し待ってください」


 俺は現在の帳簿をもう一度開いた。


「エリアス。穀物の購入代金を支払うのはいつかな?」


「最初の荷が出る前に一部を支払います。残りは、到着後です」


「倉庫の修繕費は?」


「今月中に半分。完成後に残りを支払います」


「街灯の材料費と職人の賃金は?」


「材料費はすでに一部を支払っています。賃金は月ごとです」


「王都から街灯の代金が入るのは?」


「納品し、確認を受けた後になります」


 俺は新しい紙へ、金が出ていく時期と、入ってくる時期を書き始めた。


 今月。


 翌月。


 その次の月。


 穀物の支払い。


 倉庫の修繕。


 工房の材料費。


 職人や作業員の賃金。


 道路と排水の工事費。


 その後に入る街灯の代金。


 リバーシの販売代金。


 秋に納められる税。


 書き込む項目が増えるにつれ、父上とエリアスは何も言わなくなった。


 二人の視線が、俺の手先と紙の上を行き来している。


 俺は月ごとに残る金額を計算した。


 一つの支払いが遅れた場合。


 街灯の納品が予定より遅れた場合。


 穀物の購入量が増えた場合。


 何度か数字を書き直す。


 パソコンがあれば、こんな計算はすぐに終わるんだけどな。


 ようやく最後の数字を書き終え、俺は紙を父上たちの方へ向けた。


「一年間では、収入の方が多いです」


「ならば、問題はないのではないか?」


「ここを見てください」


 俺は、秋の税と街灯の代金が入る前の時期を指した。


「この時期は、支払いが重なります」


「それでも、後から金は入るのだろう?」


「はい。でも、支払いを待ってもらえるとは限りません」


 父上が眉を寄せる。


「街灯を例にすると分かりやすいです」


 俺は、別の紙に簡単な流れを書いた。


「最初に石や材料を用意します。次に、職人へ賃金を払います。

その後、街灯を作って運びます」


「代金が入るのは、納品した後か」


「はい。金が入る前に、先に多くの金が出ていきます」


「そこへ、穀物や倉庫の支払いが重なる」


 エリアスが言った。


「その通り」


 一年間をまとめて見れば黒字でも、特定の時期だけ手元の現金が少なくなる。


「利益が出ていることと、今支払いに使える現金があることは別なんです」


 父上は、しばらく紙を見つめていた。


「今のままでは、金がなくなるのか?」


「すぐになくなるわけではありません。

ただ、新しい大きな事業を同時に始めると危険です」


「私は一年間の収入と支出は比べておりました」


 エリアスが、計算した紙へ目を落とす。


「しかし、金が入る時期と出ていく時期を、ここまで細かく並べたことはございませんでした」


「さすが、王立学院で一位になるだけはあるな」


 父上が感心したように言った。


「王立学院では、このような計算まで教えているのでしょうか」


「数字を、入る順番と出る順番に並べただけですよ」


 これは学院で学んだわけではない。


 前世で会社を経営し、支払いの時期に何度も頭を悩ませたから分かることだ。


「その『だけ』が、我々には見えていなかったのだ」


 父上は、もう一度紙を見た。


「現金が足りなくなった場合は、借りればよいのか?」


「借りること自体は、悪くありません」


「そうなのか?」


「借りた金で街灯を多く作り、返す金より多くの利益を得られるなら、領地の成長を早められます」


 借金を避けるために、利益の出る仕事を諦める必要はない。


「ただし、何の収入で返すのか、いつ返すのかを先に決める必要があります」


「返せる見込みがなければ、借りるべきではないということだな」


「はい。それに、支払いが遅れると信用を失います」


 商人が、材料を先払いでしか売らなくなる。


 金を借りる条件も悪くなる。


 職人たちも、賃金を払ってもらえないのではないかと不安になる。


「現金が少ないことより、ハル家は支払えないと思われる方が危険です」


「信用を失えば、今までどおりの取引ができなくなるのか」


「はい」


 ローデン商会が融通を利かせてくれるのも、ハル家との取引を信頼しているからだ。


 その信用は、守らなければならない。


「では、これから始めるものを選ばなければならないな」


 父上が言った。


「すべて止める必要はありません」


 穀物の購入。


 倉庫の修繕。


 排水の改善。


 受注済みの街灯。


 学校の運営。


 領民の生活や安全に必要なものと、すでに収入が見込めるものは進める。


 一方で、新しい道路や西の森の拡張工事は、支払いが集中しないよう時期を調整する。


 紙作りも試験は続けるが、すぐに大きな工房を建てる必要はない。


「大きな街灯の注文は、一部を先に支払ってもらう方法も考えたいです」


「完成していないものの代金を受け取るのか?」


「すべてではありません。材料を用意するための分だけです」


「注文する側にも、費用を先に負担してもらうのですね」


 エリアスが頷いた。


「ハル領だけが、すべて立て替える必要はありません」


 三人で話し合い、今後は年間の収支だけでなく、数か月先までの入金と支払いも確認することになった。


 通常の支払いを続けられるだけの現金は、必ず残す。


 大きな投資をする時は、金が戻ってくる時期まで確認する。


 金を借りる場合は、返済に使う収入を先に決める。


 机の上には、二年前と現在の帳簿が並んでいた。


 二年前のハル領には、使える金そのものがなかった。


 今は、使いたい場所が多すぎる。


 だが、豊かになったからといって、すべてを同時に始めてよいわけではない。


 必要な時に支払える現金を残す。


 信用を守りながら、次の成長へ進む。


 それもまた、領地を守るために必要な仕事だった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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いやキャッシュフロー考えずに自転車操業はあきませんよパパさんw インとアウトと手元の余剰 特に手元の余剰は厚めにしておかないと金融のフォローはないに等しい 資金ショートは不渡りですから一番の信用毀損
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