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ハズレスキル「綻びの目」で領地を立て直します  作者: コバチ
第4章 西の森開拓開始

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第41話 冒険者ギルド

 翌朝、俺はノルとミアを連れて、ハル領に新しくできた冒険者ギルドへ向かった。


 場所は領都の外れ、街道へ出やすい一角だった。

 もともとは空き倉庫だった建物を改装したらしく、石と木を組み合わせた外観はまだ新しい。入口の上には、剣と盾を組み合わせた簡素な看板が掲げられていた。


 ただ、変わったのはギルドだけじゃない。


 その周囲にも、木組みを立てかけた建設途中の建物がいくつか見える。

 荷を運ぶ人足。

 木材を削る音。

 資材の山。

 街道沿いの空気そのものが、前より少し忙しくなっていた。


「……増えてるな」


 思わず呟くと、ミアが周囲を見回した。


「本当ですね。前はこんな建物、なかったです」


「宿屋とか、冒険者向けの店かも」


 護衛。

 輸送。

 調査。

 冒険者が集まれば、それを相手に商売する人間も集まる。


 ギルドが一つできただけで、町の空気まで少し変わり始めているのがわかった。


「じゃあ、行こうか」


 扉を押して中へ入る。


 小さいギルドだが、思ったより人がいた。

 依頼板の前で紙を見ている男。

 護衛帰りらしい、埃っぽい外套の女。

 魔物素材らしき牙や皮を持ち込んでいる若い冒険者。

 受付前では、輸送依頼の報酬について商人と誰かが話している。


 人はまだそこまで多くない。

 でも、ちゃんと“回っている”感じがあった。


 その中で、ひときわ強い視線が一つ、こっちに向いた。


 壁際の机にもたれていた、髭面のベテラン冒険者だ。

 日に焼けた顔。

 太い腕。

 右頬に古い傷。


 いかにも、という感じの男だった。


「……おいおい」


 男は俺を見るなり、露骨に眉をひそめた。


「ここはおまえみたいな綺麗な格好したガキが来る場所じゃないぞ?」


 空気が少しだけ止まる。


 ノルが一歩前へ出かけたが、俺は軽く手で制した。


「そう見えるよね。ごめん」


 男の眉がぴくりと動く。


「……は?」


「でも、登録に来たのは本当なんだ。邪魔するつもりはないし、できれば変な空気にもしたくない」


 そこで一度、男の目を見る。


「この領で冒険者にちゃんと働いてもらうのって、これからすごく大事だと思ってる。だから入口で揉めるの、もったいないでしょ」


 男はしばらく黙っていた。

 怒るでもなく、ただ少し拍子抜けしたような顔をしている。


「……変なガキだな」


「よく言われる」


「いや、褒めてねえぞ」


「知ってる」


 周りから小さく笑いが漏れる。


 男は鼻を鳴らして椅子へ深く座り直した。


「まあいい。好きにしろ」


「ありがとう」


「礼を言われる筋合いはねえよ」


 そのやり取りを見ていた受付の女性が、小さく口元を緩めた。


「ご用件を伺ってもよろしいですか?」


 年の頃は三十前後だろうか。

 落ち着いた声と、無駄のない手つき。

 ただ座っているだけなのに、かなり仕事ができそうな空気がある。


「冒険者登録をしたいんだ」


「ご本人様が、ですか?」


「うん」


 受付の女性は俺の顔を一度見て、それからノルへ視線を向けた。

 確認するような目だったが、ノルは淡々と答える。


「ハル子爵家ご子息、リオン様です。今回は西の森の調査参加を見据えて、正式な登録を希望されています」


 受付の女性は表情を変えずに頷いた。


「承知しました。……ですが、年齢を考えると、こちらとしても最低限の確認は必要です」


「確認?」


「はい。登録自体は可能です。ですが、実地に出るとなれば、危険の見極めができること、ある程度の自衛ができることを見せていただきたい」


 妥当だ。

 むしろ、そういう手順がある方が安心できる。


「わかった。何をすればいい?」


 受付の女性はすぐに立ち上がった。


「裏手に簡易訓練場があります。そちらで確認しましょう」


 ◇


 ギルドの裏手には、柵で囲まれた小さな空き地があった。


 木製の的。

 踏み込みの線。

 簡単な訓練用の木剣。

 設立して間がないにしては、必要なものは揃っている。


 さっきの髭の男も、面白がってついてきた。

 他にも何人かが見物に来ている。


 受付の女性が言う。


「私一人では判断が偏るので、確認役をもう一人立てます」


 彼女が視線を向けると、髭の男が面倒そうに頭を掻いた。


「俺かよ」


「ガロンさん、こういう時に一番目が厳しいでしょう?」


「褒めてねえな、それ」


「褒めてません」


 周りからまた小さく笑いが漏れた。


 ガロンと呼ばれた男は俺の前へ来ると、腕を組んだ。


「じゃあ坊ちゃん。口だけじゃねえってとこを見せてみろ」


「何を見ればいい?」


「魔法と体の動きだな。森に入る気があるなら、せめて足手まといにならねえかどうかは見ねえと話にならん」


「わかった」


 俺は的の前に立つ。


 何を見せるか。


 火だけでもいい。

 でも、せっかくなら今の自分の特長を見せた方がいい。


 火と風。

 あの熱線まがいの形だ。


 ただし、学院入試の時みたいな出しすぎはしない。

 制御優先。

 細く、短く、狙って。


 指先へ集中する。

 火を灯す。

 そこへ風を重ね、熱を絞る。


 細い赤線のような光が一瞬走った。


 ジュッ


 乾いた焼け音がして、木の的の表面に細く深い焦げ跡が刻まれる。


 周囲の空気が少しだけ変わった。


「……ほう」


 ガロンが低く言う。


 受付の女性も、さっきより明らかに真剣な目になっていた。


「火属性と風属性の併用ですか」


「まだ安定してないけどね」


「今ので“まだ”ですか」


 その言い方に、少しだけ笑いそうになる。


 次は体術だ。


 木剣を借りて、構える。


 剣術としてはまだ未熟だ。

 ここで見せるべきは、技じゃない。動きの質だ。


 身体強化。

 ただし全身を無理に底上げするんじゃなくて、踏み込みと軸だけに寄せる。


 息を整える。

 重心。

 足裏。

 一歩目だけ、速く。


 地を蹴る。


 ダッ


 自分でも少し驚くくらい前へ出た。

 木剣の先が、さっきよりかなり短い時間で的の前へ届く。


 ガロンの目がわずかに見開かれる。


「素人の動きだが……速いな」


「剣はまだ練習中」


「それは見りゃわかる」


 でも、声の調子は最初と違っていた。


 受付の女性が軽く息を吐く。


「十分です」


「もういいのか?」


「ええ。少なくとも、“登録不可”にする理由はありません」


 それから彼女は建物の中へ戻り、すぐに小さな金属札を持ってきた。


「リオン様。こちらが冒険者証です」


 受け取る。


 片面にギルドの印。

 もう片面には等級。


「G級……」


「八段階の最下位です」


「妥当だね」


「ええ。経験実績はこれからですので」


 それも当然だった。


 だが、最下位でも構わない。

 大事なのは肩書きじゃなくて、ここからちゃんと入れることだ。


 受付の女性は続ける。


「なお、西の森の調査については、こちらにも話が来ています」


「もう?」


「ええ。子爵家からの依頼ですので。今回は大人数ではなく、まずは入口周辺と地形確認が中心になる予定です」


「今回は自分とノルの二人で行く」


 そう言うと、受付の女性が少しだけ目を瞬かせた。


「二人で、ですか?」


「うん。まずは様子見だし、入口付近の確認が中心なら人数を増やしすぎない方が動きやすい」


 ノルが静かに続ける。


「問題ありません。私は元々冒険者です。森の初動確認程度なら対応できます」


 ガロンが片眉を上げた。


「ほう。何級だった」


「B級です」


 その一言で、周囲の空気が少し変わった。


 さっきまでただの護衛と思っていた冒険者たちの視線が、わずかに鋭くなる。


「……なるほどな」


 ガロンは小さく鼻を鳴らした。


「それなら坊ちゃんの面倒を見る役としては十分か」


 ノルは何も言わなかったが、少しだけ目が細くなった。

 あれはたぶん、気を悪くしたというより、余計な誇示をしない時の顔だ。


 受付の女性が言う。


「出発はどうしますか」


 ノルが俺を見る。

 俺は少しだけ考えてから答えた。


「今日のうちに入口までは見たい」


「承知しました」


「地図はありますか?」


「簡易のものなら。奥へ入るほど精度は落ちますが、入口周辺の既知範囲なら問題ありません」


 やっぱりちゃんとしてるな、と素直に思った。


 まだできたばかりの小ギルドなのに、


登録の確認をする

外部依頼を整理している

調査範囲を絞る

記録もある


 ここまで回せている。


 もしかしたら、このハル領の冒険者ギルドの上の人間はかなり有能なのかもしれない。


 その時、ガロンが腕を組んだまま口を開いた。


「坊ちゃん」


「何?」


「最初に言ったことは取り消さねえが、少なくとも泣きながら逃げる口じゃなさそうだな」


「それは褒めてる?」


「半分だけな」


 少しだけ笑う。


「じゃあ半分ありがとう」


「変な返しするな、おまえ」


 周りにいた冒険者たちから、また小さく笑いが漏れた。


 ミアが少しだけ不安そうにこっちを見る。


「本当に今日から行くんですか?」


「今日は入口まで。様子を見るだけ」


「でも……」


「大丈夫。ノルもいる」


 そう言うと、ミアは少しだけ渋い顔をしながらも頷いた。


「……絶対に無理はしないでくださいね」


「うん」


 冒険者証をしまい、ギルドの扉を押し開ける。


 外の光は明るい。

 ハル領の空気も、昨日までとはまた少し違って見えた。


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