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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第405話 木からできた紙

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」も連載中です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 紙工房を訪れてから、五日が過ぎた。


 朝食を終えたところで、ベルトから試作が完成したという知らせが届いた。


「できたんだ」


「ピー?」


 足元にいたピコが、俺を見上げる。


「この前、水に浸していた樹皮が紙になったみたいだよ」


「ピー!」


「今日は水浴びをするわけじゃないからね」


「ピー?」


 ピコを肩掛け鞄へ入れ、俺は領都の紙工房へ向かった。


 ◇


「お待ちしておりました、リオン様」


 工房へ着くと、ベルトが入口まで迎えに来た。


 前に訪れた時より、表情が明るい。


「紙はできたの?」


「はい。こちらへどうぞ」


 作業場の奥にある机へ案内される。


 机の上には、数枚の紙が並べられていた。


 既存の紙よりも少し黄みがかっている。


 表面には細かな繊維が見え、厚さも一枚ごとにわずかな違いがあった。


「これが、リナ樹の樹皮だけで作った紙?」


「はい。麻布や縄の繊維は混ぜておりません」


 俺は一枚を手に取った。


 表面は少し粗い。


 だが、端をつまんで軽く引いても、簡単には破れなかった。


「ちゃんと紙になっているね」


「我々も驚きました。内皮を煮た後、思っていた以上に繊維がきれいにほぐれたのです」


 近くにいた職人たちも、どこか嬉しそうな顔をしている。


 古布や麻縄は、集まる量が安定しない。


 だが、リナ樹の樹皮は、西の森で駒や木箱を作るたびに出る。


 製材所で種類を分けて残してもらえば、これまでより原料を集めやすくなる。


「これまで、紙を作りたくても原料が足りず、注文を断ることもございました」


 ベルトが試作紙を見ながら言う。


「リナ樹の樹皮を安定して受け取れるのであれば、今より多くの紙を作れるようになります」


「職人のみんなにとっても、役に立ちそう?」


「もちろんです。新しい原料が見つかったのですから」


 安い紙を作ろうとすることに警戒していたベルトたちも、今はリナ樹の可能性を喜んでいる。


「実際に文字を書いてもいい?」


「そのために仕上げたものが、こちらです」


 ベルトが、試作紙の中から一枚を差し出した。


 俺は机の上に置き、ペンへインクをつける。


『リナ樹試作紙 第一号』


 ゆっくりと文字を書いた。


 ペン先が少し引っかかる。


 既存の紙よりも、インクがわずかに広がった。


 それでも文字は崩れず、十分に読むことができる。


「書ける……」


「上質紙ほど滑らかではございませんが、文字を残すことはできます」


「これなら、学校の練習用には使えそうだね」


 子どもたちが文字を書く。


 簡単な計算問題を解く。


 教師が短い教材を作る。


 文官が下書きに使う。


 王宮へ提出する文書には向かなくても、使い道はいくらでもある。


「ピー!」


 鞄から出てきたピコが、机の上の紙へ体を伸ばした。


「これは食べたら駄目だよ」


「ピー?」


「大型ウサギより作るのが大変なんだから」


「大型ウサギを食べるのでございますか?」


 ベルトが驚いた顔をする。


「その話は、また今度にしよう」


「ピー!」


 ピコだけが得意そうに弾んだ。


 ◇


「この紙なら、今までより安く作れそう?」


 俺が尋ねると、ベルトはすぐには答えなかった。


「原料については、これまでより入手しやすくなるでしょう」


「ほかに問題がある?」


「紙を作る手間は、あまり変わっておりません」


 作り方は、これまでの紙とほとんど同じだった。


「それに、今回はリナ樹の扱いが分からず、乾燥後に破れたものもございます」


 机の端には、穴の開いた紙や、厚さが偏った紙も置かれている。


「原料が増えても、今の人数で作れる枚数には限りがある?」


「はい。生産を増やすのであれば、職人だけでなく、釜や水槽、乾燥させる場所も必要になります」


 紙を作ることはできた。


 だが、紙ができたことと、領民が気軽に買える値段で大量に作れることは別だった。


「すぐに学校へ何百枚も届けるのは難しそうだね」


「申し訳ございません」


「謝らなくていいよ」


 これまで使われずに余っていた樹皮が、紙の原料になると分かった。


 それだけでも、大きな前進だ。


「まずは、同じ品質の紙を繰り返し作れるか確かめてほしい」


「承知しました」


「製材所から届く樹皮の状態も、毎回同じとは限らないからね」


 採った時期。


 乾燥の具合。


 内皮の厚さ。


 それによって、必要な作業も変わるかもしれない。


 急いで大量に作ろうとすれば、品質がばらばらになる。


「今まで通り、使った樹皮の量と作業時間、できた枚数を記録しておいて」


「同じ紙を作れる条件を探してまいります」


「お願いするよ」


 ◇


 屋敷へ戻った俺は、試作紙を自室の机へ置いた。


 前世では、紙を特別なものだと思ったことなどなかった。


 会議の資料。


 契約書の控え。


 手書きのメモ。


 書き間違えれば、新しい紙へ書き直す。


 必要がなくなれば、ためらいもなく捨てていた。


 だが、一枚の紙を作るために、これほど多くの手間が必要になる。


 原料を集め、洗い、煮て、叩き、すいて、乾かす。


 前世で当たり前に使っていた紙が、こんなにも作るのが難しいものだとは思わなかった。


「ピー」


 ピコが机の脚へ体を寄せる。


 俺は試作紙を持ち上げ、窓から差し込む光へ透かした。


 繊維の重なりにむらがある。


 色も白くない。


それでも、文字を書くことはできる。


 だが、領内の子どもたちへ何枚でも配れるようになるまでには、まだ遠い。


「すぐには難しくても、いつかは安く作れるようにしたいね」


「ピー!」


 誰もが、書き間違えることを惜しまなくてよい紙。


 誰もが、自分の学んだことを残せる紙。


 俺は少し黄みがかった最初の一枚を、破らないよう両手で持ち直した。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
今後の保存性も一考ですな 劣化が早かったりすると公文書や商業用の記録紙には使えない インクとの相性もあるでしょう 問題はいろいろ
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