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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第403話 樹皮の行き先

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 未開拓区域を出る頃には、ピコは自分から肩掛け鞄の中へ入っていた。


「疲れたの?」


「ピー」


 返事は元気だ。


 鞄を持ち上げてみる。


 大型ウサギを二体も食べたのだから、来た時よりかなり重くなっていてもおかしくない。


 だが、肩にかかる重さはほとんど変わらなかった。


「……あの二体、どこへ行ったんだろう」


「ピー?」


 鞄の口から、ピコが不思議そうに顔を出す。


「ピコのお腹の中にいるはずなんだけどね」


「ピー」


 体が大きく膨らんだ様子もない。


 食べたものを小さくして、体内のどこかへ保管しているのか。


 それとも、必要なものだけを吸収し、残りは別の何かへ変えているのか。


 大型ウサギを食べた直後、ピコは淡く光っていた。


 あの光とも関係があるのかもしれない。


「今度、もう少し調べようか」


「ピー!」


 ピコは調べられる意味を理解していないまま、元気よく返事をした。


 ◇


 戻る途中、俺はそのままリバーシ工房へは向かわなかった。


 肩掛け鞄には、採取した薬草とは別に、二種類の樹皮が入っている。


 紙の原料になる可能性を調べるなら、まず製材所で木の種類を確かめる必要がある。


 開拓区の端にある製材所では、何人もの職人が丸太を運び、板材へ加工していた。


 大きな丸太の近くでは、若い職人が刃のついた道具を使い、樹皮を剥がしている。


 俺が近づくと、作業を見ていた責任者らしい男が気づいた。


「リオン様。今日はどうされましたか?」


「少し、木について教えてほしいんだ」


「木、ですか?」


「森で拾った樹皮があるんだけど、何の木か分かるかな」


 肩掛け鞄から二種類の樹皮を取り出す。


 ピコも一緒に出てこようとしたので、片手で鞄の中へ戻した。


「ピコは、もう少し待っていてね」


「ピー……」


 責任者は最初の樹皮を手に取り、表面を指でなぞった。


「こちらはグラン樹ですね。硬く、乾燥させても反りにくい木です」


「建物に使っている木?」


「はい。柱や梁に使います。厚く切れば扉や丈夫な家具にも使えます」


 責任者は樹皮を曲げようとしたが、ほとんど形が変わらなかった。


「リバーシの盤も、この木から作っています」


「盤にも使っているんだ」


「盤は平らなまま長く使えなければなりません。

柔らかい木ですと、削りやすくても反ったり傷ついたりしますので」


 俺は森で《綻びの目》を使った時の表示を思い出す。


 樹脂が多く、繊維を分けるのが難しかった木だ。


 硬く反りにくい性質は、盤には向いている。


 しかし、樹皮から繊維を取り出すには向いていない可能性が高い。


「じゃあ、こっちは?」


 もう一種類の樹皮を渡す。


 責任者は内側の白っぽい部分を見ると、すぐに答えた。


「こちらはリナ樹です。グラン樹より柔らかく、成長も早い木ですね」


「何に使っているの?」


「小さな木箱や棚板、玩具などです。

リバーシの駒も、今はこの木から作っています」


「盤と駒は、違う木を使っていたんだね」


「必要な性質が違いますから」


「これはリバーシ工房の奴から聞いた話なんですが、盤には硬さと反りにくさが必要です。

一方、駒は同じ大きさに素早く削れることの方が重要です」


 駒の表面は滑らかに磨かれ、片面は黒く染められている。


「リナ樹は加工しやすく、大量に同じ形を作れます。

ただし、柱や大きな板にすると強度が足りません」


「だから、駒や木箱に使っているんだ」


「はい。建物でも、小さな棚や内側の仕切りには使いますが、建物を支える場所には使いません」


 同じ森の木でも、すべてを同じ用途に使っているわけではない。


 硬い木。


 柔らかい木。


 真っすぐ伸びる木。


 細くても成長が早い木。


 職人たちは性質を見て、使い分けていた。


「このリナ樹の樹皮は、普段どうしているの?」


「樹皮ですか?」


 責任者は、製材所の奥を指した。


 そこには、剥がされた樹皮が山のように積まれていた。


「乾かして焚きつけに使います。

家畜を飼っている者が、敷物として持っていくこともあります。

あとは、ぬかるみへ敷くこともありますね」


「全部使い切れている?」


「いえ。建築が増えてからは、余ることの方が多くなりました」


 樹皮の山へ近づく。


 グラン樹もリナ樹も、別の種類の木も、すべて同じ場所へ積まれていた。


 下の方は雨水を吸い、黒く変色している。


 泥や細かな木くずも混じっていた。


 《綻びの目》を使う。


 ≪樹種の混在:あり≫

 ≪水分による劣化:一部進行≫

 ≪利用可能な内皮:選別困難≫


 樹皮がないわけではない。


 むしろ、使い切れないほどある。


 だが、紙の原料として試すには、種類も状態も混ざりすぎていた。


「リオン様、この樹皮を何かにお使いになるのですか?」


「紙の原料にできないかと考えているんだ」


「紙に?」


 責任者だけでなく、近くにいた職人たちも手を止めた。


「紙は布や草から作るものではないのですか?」


「今は、そうだと思う。でも、木の内側にも繊維がある。

特にこのリナ樹の樹皮は、森で拾った時も細く裂きやすかった」


 責任者がリナ樹の樹皮を指で裂く。


 外側は硬いが、内側には細長い繊維が残っている。


「確かに、グラン樹よりは剥がれやすいですね」


「ただ、紙が作れると決まったわけじゃない。まずは試してみたいんだ」


「樹皮を分けて残せばよろしいでしょうか?」


「全部を分けなくていいよ」


 紙になるかどうかも分からない段階で、製材所の仕事を大きく増やすべきではない。


「まず、グラン樹とリナ樹。それから、ここで多く扱っている別の木を一種類。

それぞれ五束ずつ残してほしい」


「五束ずつですね」


「伐った日と木の種類が分かるようにして、泥の上には置かない。

できれば雨が当たらない場所で保管してほしい」


「外側の樹皮は剥がしますか?」


「今は、そのままでいいよ。どの状態で保管するのがいいかも、まだ分からないから」


 責任者はうなずいた。


「通常の作業を止めない範囲であれば、問題ありません」


「ありがとう。樹皮を分けるのに余分な時間がかかったら、それも記録しておいて」


「紙の材料だけでなく、集める手間も確認するのですね」


「安く作れなければ、学校では使えないからね」


 原料が無料でも、分別や運搬に多くの人手がかかれば、紙は安くならない。


 必要なのは、紙を作れるかどうかだけではない。


 どれほどの量を、どのくらいの手間で集められるかも重要だった。


「ところで、紙の作り方に詳しい職人を知っている?」


 責任者は首を横に振った。


「我々が分かるのは木のことだけです。

紙は領都の工房で作られているはずですが、詳しい製法までは知りません」


「やっぱり、専門の職人に聞く必要があるね」


 木の性質を知る者。


 紙を作る者。


 繊維を細かくする道具を作れる者。


 安い紙を作るには、一つの工房だけでは足りないかもしれない。


 俺はリナ樹の樹皮をもう一度見た。


 リバーシの駒を作るために切られた木。


 その樹皮は、これまでほとんど捨てられていた。


 だが、紙に使えるなら、リバーシを作るほど原料も増えることになる。


「ピー!」


 鞄の中から、ピコが急に飛び出した。


 そのまま、樹皮の山の近くへ着地する。


「ピコ、それは食べないでね」


「ピー」


 ピコは樹皮には興味を示さず、足元に落ちていた柔らかい葉を食べ始めた。


 ◇


 製材所を出た後、俺はリバーシ工房の使われていない小部屋へ戻った。


 ピコを抱き、領都の空き倉庫の裏へ残した魔力印を探す。


 固定された魔力は、すぐに見つかった。


「帰るよ、ピコ」


「ピー!」


 景色が歪む。


 次の瞬間、俺たちは空き倉庫の裏に立っていた。


 周囲に誰もいないことを確認してから、ピコを肩掛け鞄へ入れる。


「ギルドに着くまでは、今度こそ出ないでね」


「ピー」


 ◇


 冒険者ギルドへ戻ると、受付の女性が俺の肩掛け鞄を見た。


「お戻りになったのですね」


「うん。依頼の品と、調査した場所の記録を持ってきたよ」


「そちらの鞄には、先ほどのスライムが?」


「入っているよ」


「ピー!」


 鞄の中から返事が聞こえた。


 受付の女性は少しだけ身を引いたが、今度は声を上げなかった。


「今回は、鞄から出ないでくれているのですね」


「今のところは」


 採取した薬草を受付台へ置く。


 傷みは少なく、必要な量も満たしていた。


 続いて、森の中で書き加えた地図を渡す。


「ここに小さな水場があった。近くには大型ウサギの足跡も複数残っていたよ」


「実際に大型ウサギとは遭遇されましたか?」


「二体と遭遇して、どちらも倒した」


 受付の女性が記録用紙へ書き込む。


「討伐部位や素材はお持ちでしょうか」


「それが……ピコが食べたんだ」


 受付の女性の手が止まった。


「食べた?」


「二体とも」


「ピー!」


 鞄の中から、誇らしげな声が響く。


 近くにいた冒険者たちが一斉にこちらを見た。


「その大きさで二体も?」


「俺も驚いているよ」


 受付の女性は、記録用紙へ視線を戻した。


「大型ウサギ二体を討伐。討伐後、同行するスライムが……捕食」


 最後の言葉を書く前に、もう一度手が止まる。


「これでよろしいのでしょうか」


「起きたことは、その通りだよ」


「ピー」


 ピコは満足そうだった。


「今回は討伐依頼ではありませんので、部位の提出は必要ありません。

ただし、今後討伐依頼を受けられる場合は、証明部位を食べられないようお気をつけください」


「次からは、先に証明部位を取ることにするよ」


「ピー?」


「ピコにも覚えてもらわないとね」


 薬草と地図の内容に問題はなく、依頼は達成となった。


 受付の女性から、小さな袋に入った報酬を受け取る。


 領地の穀物取引で動く金額と比べれば、わずかなものだ。


 それでも、自分で森へ入り、依頼を果たして受け取った金には、別の嬉しさがあった。


「久しぶりの依頼、お疲れさまでした」


「ありがとう。いい気分転換になったよ」


「そちらのスライムにとっても、よい一日だったようですね」


「ピー!」


「ピコは、ほとんど食べていただけだけどね」


「ピー?」


 ◇


 屋敷へ戻ると、俺は机の上に二種類の樹皮を並べた。


 その隣には、冒険者ギルドから受け取った報酬がある。


 ピコは満腹になったのか、寝台の横の籠で丸くなっていた。


 大型ウサギを二体も食べたはずなのに、体の大きさはいつもと変わらない。


「やっぱり、どこに入っているんだろう」


「ピー……」


 眠そうな返事が返ってくる。


 俺は机の引き出しから、現在使われている紙を一枚取り出した。


 白く、表面も滑らかで、文字を書いてもにじみにくい。


 だが、高価だ。


 子どもたちが何度も書き間違えられるような値段ではない。


 その紙と、リナ樹の白っぽい内皮を見比べる。


 樹皮は余っている。


 建築やリバーシの生産が続く限り、これからも出てくる。


 だが、樹皮があるだけでは紙にはならない。


 まず知るべきなのは、今の紙がどのように作られているのか。


 どの工程に時間がかかり、なぜ高くなるのか。


 そして、木の樹皮を混ぜた時、どの工程で問題が起きるのか。


「次は、紙工房だね」


「ピー……」


 ピコは目を覚ますことなく、小さく鳴いた。


 安い紙作りは、森の木を切るところからではない。


 今ある紙の作り方を知るところから始めるべきだった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
南部の農業支援に時間がかかるのに、また人手が流出しそうな紙を作るのか。 思いついたものをどんどん手広く行うことが、悪手にならないと良いけど。
福嶋亮太の簡易鑑定でピコの謎が少しは解けるのかな
・・・・・・寝て起きたら別のものになってたらもう リオンくん「・・・・だれ?」(なに?ではない) 一読者の戯言です(´・ω・`)
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