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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第402話 紙になる木

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

俺はピコを地面へ下ろし、改めて未開拓区域の森を見た。


 開拓地の近くとはいえ、ここから先には整えられた道がない。


 木の根が地面から盛り上がり、低い草や茂みが進む方向を遮っている。


「ピコ。俺から離れないでね」


「ピー!」


 ピコは元気よく返事をすると、俺の足元を一度回った。


 今度は、返事をした直後に森へ飛び込むことはなかった。


「分かってくれたみたいだね」


「ピー」


 俺は依頼書と地図を取り出した。


 今回採取するのは、傷薬に使われる薬草だ。


 未開拓区域の外縁部に生えていることは確認されているものの、正確な場所までは分かっていない。


 周辺にいる魔物。


 水場や通れそうな場所。


 それらも見つけた範囲で記録する必要がある。


 方角を確かめ、地図に描かれた川の位置を目印にして森へ入った。


 ◇


 森の中へ進むと、ピコは俺のすぐ近くを跳ねながらついてきた。


 時折立ち止まり、地面に落ちている柔らかそうな葉へ体を伸ばす。


 葉が淡い青色の体へ沈み、そのまま見えなくなった。


「ピコ。何でも食べたら駄目だよ」


「ピー」


「食べてから返事をしても遅いんだけど」


「ピー?」


 ピコには、叱られている理由が分からないらしい。


 少し進むと、低い草の間に、依頼書へ描かれていたものとよく似た葉を見つけた。


 俺はその場へしゃがみ込む。


 細長い葉の中央に、薄い赤色の筋が入っている。


 傷薬に使う薬草の特徴と一致していた。


 だが、周囲には形のよく似た別の草も生えている。


「これは……違うな」


 葉の裏側を確認する。


 薬草の方には細かな毛があるが、こちらにはない。


 念のため、《綻びの目》を使った。


 ≪薬効成分:なし≫

 ≪摂取時の刺激:あり≫


「やっぱり違うね」


「ピー!」


 ピコが、その草へ近づこうとする。


「これは食べたら駄目だよ」


 俺はピコを抱き上げ、少し離れた場所へ移した。


 それから本物の薬草を確認する。


 生えているものをすべて採るのではなく、葉や茎の一部だけを切り取った。


 根まで抜けば、次に来た時には残っていない。


 採取した薬草を専用の袋へ入れ、生えていた位置を地図へ書き加える。


 ピコは俺の作業を見ていたが、やがて近くに落ちていた別の葉を食べ始めた。


「それは食べても大丈夫なの?」


「ピー」


「自信がありそうだね……」


 ◇


 薬草を探しながら、さらに森の奥へ進む。


 周囲には、太い木が何本も並んでいた。


 人の背丈よりも太い幹。


 真っすぐに伸びた木。


 途中で枝分かれした木。


 風に倒されたまま、苔に覆われている木もある。


 これだけの木があれば、住宅や工房を建てるための木材には困らないだろう。


 西の森では、今も新しい建物が増え続けている。


 住宅。


 宿。


 食堂。


 リバーシ。


 それらのため、多くの木が伐られ、製材されている。


 俺は木々を見上げながら、西の森の学校で使うことにした木板を思い出した。


 子どもたちが文字や計算を学ぶため、課題を書いた木板を用意する。


 文字を書く練習にも、繰り返し使える板を使う。


 今の紙は高価だ。


 十人ほどの小さな学校でも、一人に何枚も渡すことは難しい。


 木板なら、書いたものを消して何度でも使える。


 だが、消してしまえば、前に何を書いたのかは残らない。


 子どもがどこで間違えたのか。


 以前より、どれほど書けるようになったのか。


 後から確かめることはできない。


 西の森だけでなく、領都や南部の村にも学校を広げるなら、さらに多くの教材が必要になる。


 学ぶのは子どもだけではない。


 夜間学校では大人も学んでいる。


 農業でも、試験畑や収穫量の記録を始めた。


 倉庫の出入りや、穀物を運ぶためにかかった費用も残していかなければならない。


 学ぶ人が増えれば、書くものも増える。


「次は、紙か……」


「ピー?」


 近くで葉を食べていたピコが、こちらを向いた。


「みんなが、もっと気軽に字を書くために必要なものだよ」


「ピー」


 意味は分かっていないだろう。


 ピコは再び葉を食べ始めた。


 前世では、紙が木から作られていた。


 木を細かく砕き、繊維を取り出して、水の中へ散らす。


 それを薄く広げ、乾燥させる。


 大まかなことは知っている。


 だが、どんな木でも紙になるわけではないはずだ。


 どの部分を使うのか。


 どうやって繊維をほぐすのか。


 どのくらい煮て、どれほど叩くのか。


 俺は製紙工場で働いていたわけではない。


 知識だけで、すぐに同じものを作れるとは思えなかった。


 それでも、最初に使う原料なら思いつく。


 住宅やリバーシ工房のために製材される木は、先に樹皮を剥がされる。


 使われるのは、主に内側の木材だ。


 剥がした樹皮の一部は薪や焚きつけに使われているが、すべてが利用されているとは限らない。


「紙を作るために、新しく木を伐る必要はないのかもしれない」


 すでに建築のために伐った木。


 そこから出る樹皮を使えばいい。


 紙に使えるのが樹皮の内側にある繊維なら、捨てられているものが原料になるかもしれない。


 少し先に、風で倒れたらしい木があった。


 幹の一部から樹皮が剥がれ、内側が見えている。


 俺は地面に落ちていた樹皮を拾った。


 表面は硬く、土や苔がついている。


 硬い外側を少し剥ぐと、内側には細い繊維が重なるように伸びていた。


 指で裂こうとする。


 だが、繊維同士が固くつながっており、簡単には分かれない。


 《綻びの目》で確認する。


 ≪樹脂分:多≫

 ≪繊維の分離:困難≫

 ≪紙原料としての利用:要検証≫


「この木は難しそうだな」


「ピー?」


「これで紙を作れないか、考えているんだよ」


 ピコが樹皮へ体を伸ばした。


「食べ物じゃないよ」


「ピー」


 ピコはすぐに興味をなくし、近くの草へ移動した。


 別の木も探してみる。


 少し離れた場所に、折れた枝と一緒に樹皮が落ちていた。


 先ほどのものより薄く、内側が白っぽい。


 指で引っ張ると、細長い繊維に分かれた。


 こちらも《綻びの目》で確認する。


 ≪外皮の混入:多≫

 ≪繊維の損傷:少≫

 ≪加工方法:未確立≫


 すぐ紙になるとは分からない。


 だが、先ほどの樹皮より繊維を分けやすい。


 樹種によって、性質が違うことは確かだった。


 俺は二種類の樹皮を少しずつ採取する。


 後でどの木のものか確認できるように、葉の形や幹の特徴も記録した。


 薬草とは別の袋へ入れる。


「まずは、製材所にどれだけ樹皮が残っているか確認しないとね」


「ピー」


「紙の作り方も、今の職人に聞いた方がいい」


 俺の知識だけで始めるのではなく、現在の製法を知ることが先だ。


 そのうえで、学校や記録に使える安価な紙を作れないかを考える。


 ◇


 樹皮を袋へ入れ、再び薬草を探し始める。


 しばらく進んだ時、ピコが突然動きを止めた。


「ピー……」


 それまで食べていた葉を落とし、俺の足元へ戻ってくる。


「どうしたの?」


 森の奥から、枝が折れる音が聞こえた。


 俺は腰の剣へ手を伸ばす。


 茂みが揺れた。


 次の瞬間、大きな影が飛び出してくる。


 ウサギだった。


 ただし、俺が前世で知っていたものより、はるかに大きい。


 体は中型の犬ほどもあり、後ろ脚は太い。


 前歯も長く、口元から突き出している。


 大型ウサギは地面へ着地すると、すぐにこちらへ向きを変えた。


 茂みの奥から、もう一体が姿を見せる。


「二体か」


「ピー!」


 ピコが俺の足へ体を寄せた。


「ピコ、後ろにいて」


「ピー」


 俺は剣を抜いた。


 一体目の大型ウサギが、強い後ろ脚で地面を蹴る。


 一瞬で距離を詰め、俺の胸元へ飛びかかってきた。


 体を横へずらす。


 大型ウサギの前歯が、目の前を通り過ぎる。


 すれ違う瞬間、剣を振った。


 刃が大型ウサギの脇腹を捉える。


 地面へ落ちた大型ウサギは、二度ほど脚を動かした後、動かなくなった。


 二体目が横から迫ってくる。


 俺は左手を向け、風魔法を放った。


 突風を受けた大型ウサギの体が傾く。


 地面へ着く前に踏み込み、剣を振り下ろした。


 森の中が静かになる。


 遠くで鳥が羽ばたく音だけが聞こえた。


「久しぶりだったけど、体は動いたな」


「ピー!」


 ピコが俺の足元から出てくる。


「もう大丈夫だよ」


 剣についた血を拭い、鞘へ戻す。


 今回の依頼は調査と採取だ。


 倒した魔物の種類と数、現れた場所も記録しておく必要がある。


 俺が地図を取り出そうとすると、ピコが倒れた大型ウサギへ近づいていった。


「ピコ?」


「ピー」


 ピコは大型ウサギの体へ触れた。


 淡い青色の体が広がり、大型ウサギをゆっくりと包み込んでいく。


「食べるの?」


「ピー!」


 止める間もなく、大型ウサギの体がピコの中へ沈んでいった。


 透明な体の内側で影が小さくなり、やがて完全に見えなくなる。


 ピコの体が、ほんの少し大きく膨らんだ。


「全部食べた……」


「ピー」


 満足そうな声だった。


 ピコはもう一体の大型ウサギへ向かう。


「まだ食べるの?」


「ピー!」


 こちらも同じように、体を広げて包み込んだ。


 二体目まで完全に取り込んだ直後だった。


 ピコの体が、淡く光った。


 青い体の内側に白い光が灯り、呼吸するように明るくなる。


「ピコ?」


「ピー」


 光は数秒ほどで弱まり、やがて消えた。


 ピコ自身は苦しそうではない。


 むしろ、いつもより元気に弾んでいる。


 俺はすぐに《綻びの目》を使った。


 ≪体内魔力:微量・増加≫

 ≪取込状態:安定≫

 ≪身体状態:異常なし≫


「魔物を食べて、魔力も取り込んだのか?」


「ピー?」


 ピコは体を傾ける。


 先日、俺が指先から流した魔力も、ピコは取り込んでいた。


 大型ウサギの体内に残っていた魔力まで、食べ物と一緒に吸収したのかもしれない。


 ただ、今の確認だけでは断定できない。


「体に悪くはなさそうだけど、食べすぎたら駄目だからね」


「ピー」


 ピコは満足そうに俺の足へ体を寄せた。


 魔物の素材を持ち帰るつもりだったわけではない。


 依頼にも討伐品の提出は含まれていない。


 だが、魔物を倒した証拠がなくなってしまった。


「次からは、記録するまで待ってもらわないといけないな」


「ピー?」


「食べる前に教えてってことだよ」


「ピー!」


 返事だけは良かった。


 ◇


 その後、必要な量の薬草を採取した。


 途中で小さな水場を見つけ、地図へ位置を書き加える。


 大型ウサギの足跡も残っていたため、その周辺には複数が生息している可能性があると記録した。


 森の奥へ進めば、まだ調べられることはある。


 だが、今日は久しぶりの冒険だ。


 ピコも連れている。


 目的を達成した以上、必要のない危険を冒す理由はなかった。


「そろそろ戻ろうか」


「ピー!」


 俺は採取した薬草の袋を確認する。


 その隣には、二種類の樹皮を入れた袋がある。


 薬草は、依頼を達成するために持ち帰るもの。


 樹皮は、領地で新しい試験を始めるためのものだ。


 学校を作るだけでは、教育は広がらない。


 教師。


 教材。


 記録。


 そして、誰もが失敗を恐れず、何度でも文字を書ける安価な紙。


 西の森で建物を増やすために使われている木が、今度は領民の学びを支えるかもしれない。


「この樹皮から紙が作れるといいね」


「ピー!」


 ピコは樹皮の袋ではなく、俺の腰につけた食事の袋へ体を伸ばした。


「大型ウサギを二体も食べたよね?」


「ピー?」


 ピコは何も食べていないような顔で、もう一度袋へ近づいた。


 初めての冒険で分かったことは多い。


 森にある薬草。


 紙の原料になるかもしれない樹皮。


 そして、ピコには思っていた以上に食欲があることだった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
食欲・・・色々と怖い想像が((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル 植物 食う 動物 (死体は)食う 鉱物 (今のとこ)食わない
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