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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第400話 離れていても届くもの

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 子どもたちの学校について話し終えた頃には、日が傾き始めていた。


 俺はレナードやマルタたちに見送られ、夜間学校を後にした。


 教室を開く時間。


 子どもごとの課題。


 進み具合を残す木札。


 準備することは多い。


 それでも、まず十人から始める形は決まった。


 後はレナードたちに任せ、実際に始まってから問題を確認すればいい。


 俺はリバーシ工房へ戻った。


 職人たちへ声をかけた後、人目を避けて使われていない小部屋へ入る。


 領都の自室には、出発前に転移用の魔力印を残してある。


 ここへ来た時と同じように、その印をたどれば戻れるはずだ。


 扉を閉め、目を閉じる。


 自分の魔力を整え、遠く離れた領都へ意識を伸ばした。


 自室。


 寝台と机の間。


 誰も立たないよう、壁際へ残した魔力印。


 しばらく探すと、動かない自分の魔力を感じ取ることができた。


「……あれ?」


 固定された魔力印のすぐ近くに、もう一つ小さな反応があった。


 同じ、俺の魔力だ。


 だが、魔力印とは違い、わずかに動いている。


 壁際から少し離れ、また戻る。


 小さな範囲を行ったり来たりしていた。


「ピコか?」


 朝に確認した、ピコの体内にある魔力。


 西の森から領都まで離れているのに、かすかに感じ取ることができる。


 ただし、ピコの魔力だけを探していたら、見つけられなかったかもしれない。


 強く残した転移用の印があり、そのすぐ近くにいたから気づけたのだろう。


 俺は固定された魔力印へ意識を戻した。


 ピコの魔力を追うわけにはいかない。


 転移先にするのは、あくまで自室へ残した印だ。


 「よし、行くか」

 

 景色が歪んだ。


 次の瞬間、足の裏に自室の床の感触が戻ってくる。


「ピー!」


 目を開けた直後、淡い青色の体が足元へ飛び込んできた。


「ピコ」


「ピー! ピー!」


 ピコは何度も弾みながら、俺の靴へ体を押しつけている。


 籠の中には、朝に置いた葉が残っていた。


 空腹で出てきたわけではなさそうだ。


 しかも、ピコがいたのは、転移用の印を残した場所のすぐそばだった。


「俺が帰ってくるのが分かったの?」


「ピー!」


「本当かな……」


 俺はピコを抱き上げた。


 腕の中へ収まると、ピコは満足そうに丸くなる。


 体内にある俺の魔力も、朝より少しだけはっきりと感じられた。


 俺が転移のために魔力を動かしたことで、ピコも何かを感じたのだろうか。


 それとも、偶然この場所にいただけなのか。


 もう一度転移して確かめれば、何か分かるかもしれない。


 だが、朝にも決めたばかりだ。


「今日は、これ以上調べないよ」


「ピー?」


「面白そうだからって、何度も試すのは危ないからね」


 ピコは意味が分からないまま、俺の腕へ体を沈ませた。


 二学期が始まり、学院へ戻ってから安全な確認方法を考えよう。


 俺はピコを抱いたまま、部屋の中を見回した。


 机の上に、朝にはなかった封書が置かれている。


「何だろう」


「ピー?」


 封書の上には、エリアスからの短い書き置きが添えられていた。


『南部の村より、アーロンの最初の報告が届きました。お戻りになりましたら、ご確認ください』


「アーロンからだ」


「ピー!」


 自分の名前を呼ばれたわけでもないのに、ピコが元気よく鳴いた。


「最初の報告が届いたみたいだね」


 俺は机の前の椅子に座り、ピコを膝へ乗せた。


 封を開け、中から数枚の紙を取り出す。


 紙の端には、乾いた泥の跡がついていた。


 俺が南部の村から戻った翌日、エリアスはアーロンが収穫まで村へ残ることを認めていた。


 ただし、条件がある。


 領都で担当していた仕事を、ほかの文官へ引き継ぐこと。


 一週間ごとに報告を送ること。


 試験畑だけでなく、村の仕事も学ぶこと。


 費用が発生する取り組みや、新しい仕組みを勝手に始めないこと。


 問題が起きた場合は、すぐに領都へ知らせること。


 今回届いたのが、最初の定期報告だった。


 以前、領都でアーロンが作っていた書類に比べると、文字が少し乱れている。


 だが、内容は短く整理されていた。


 植え付けから六日目。


 四つの区画すべてで、まだ芽は出ていない。


 毎朝、同じ時刻に土の湿り気を確認。


 三日目に雨が降ったため、その日は水やりを行わなかった。


 深く耕した区画では、ほかの区画より雨水が早く土へ染み込んだ。


 堆肥を入れた区画では、表面の乾きがやや遅かった。


 ただし、ジャガイモの成長にどのような違いが出るかは、現時点では判断できない。


「ちゃんと、まだ分からないと書いてある」


「ピー?」


「悪いことじゃないよ」


 小さな違いを見つけても、すぐに成果だと決めつけていない。


 村での数日間はアーロンの考え方に影響を与えたらしい。


 報告は、試験畑のことだけではなかった。


 区画の境を示す杭が、雨で一本傾いたこと。


 翌朝、ほかの杭も確認し、すべて深く打ち直したこと。


 水やりに使う桶の一つから水が漏れ、村人と一緒に修理したこと。


 畑へ向かう前に、家畜の餌やりを手伝ったこと。


 水路へ流れ込んだ草を取り除いたこと。


 雨が降り出す前に、村人たちが干していた豆を倉庫へ運んだこと。


 アーロンは、そのすべてにかかった人数と時間を記していた。


「畑に残ったのに、畑以外の仕事も多いんだね」


 農家が一日に行う仕事は、畑を耕すことだけではない。


 家畜を世話し、水路を守り、道具を直し、収穫物を運ぶ。


 そのどれか一つが滞っても、農業を続けることは難しくなる。


 ページをめくると、アーロン自身の考えが書かれていた。


『畑だけを見ていても、農家の負担は分からないと気づきました』


『家畜の世話、水路の管理、道具の修理、収穫物の運搬も、畑を続けるために必要な仕事です』


『畑で作業した時間だけを記録しても、農家が一日にどれだけ働いているかは分かりません』


 俺は、その部分をもう一度読んだ。


 領都にいた頃のアーロンは、畑へ人や道具を増やすことを真っ先に考えていた。


 だが、一つの仕事だけを軽くしても、別の仕事が増えれば、農家全体の負担は減らない。


 実際に村へ残ったからこそ、見えてきたことなのだろう。


「まだ数日だけど、残った意味はあったみたいだね」


「ピー」


 さらに読み進めると、記録方法についても書かれていた。


 最初の二日間は、土の状態や作業内容を細かく書きすぎたため、記録だけで時間がかかった。


 そのため、毎日確認する項目と、変化があった時だけ書く項目に分けたらしい。


 毎日記録するのは、


 土の湿り気。


 天気。


 水やりの有無。


 病気や虫の有無。


 作業した人数と時間。


 それ以外は、変化が起きた時だけ詳しく残す。


『すべてを書くことが、正しい記録ではありませんでした』


『後から比べるために必要なことを、同じ形で残す方が大切だと考えます』


「報告書が短い理由は、これか」


 明日、エリアスだけでなく、ニルスとエルナにも見てもらおう。


 ニルスには、土や農作業について助言してもらう。


 エルナには、記録項目が多すぎないかを確認してもらう。


 ただし、二人からの助言をそのまますべてアーロンへ送れば、今度は記録に追われることになる。


 三人の意見を整理し、必要なものだけを伝えるべきだ。


 現地へ入り込もうとするアーロン。


 農業の知識を持つニルス。


 記録を整えることが得意なエルナ。


 一人だけを農業担当に選ぶのではなく、それぞれの役割を分ける形が少しずつ見えてきた。


 報告書の最後には、本文から少し離れた場所に小さな文字が書かれていた。


『なお、畑から運び出した小石の量については、まだピコに勝てておりません』


 思わず笑ってしまった。


「ピー?」


 ピコが自分の名前に反応し、膝の上で体を伸ばした。


「アーロンが、まだピコに勝てないって」


「ピー!」


 ピコが誇らしげに大きく弾む。


「嬉しそうだね」


「ピー!」


 どうやら、自分が褒められていることは分かったらしい。


 ◇


 その夜。


 自室の机には、アーロンから届いた泥のついた報告書が置かれていた。


 寝台の横では、ピコが籠の中に収まっている。


 ピコの中にある魔力が、何を意味するのか。


「ピー」


 籠から出てきたピコが、机の脚へ体を伸ばしている。


「これはアーロンからの大事な報告だから、乗ったら駄目だよ」


「ピー?」


「食べ物でも、小石でもないからね」


「ピー」


 ピコは諦めたように机から離れ、俺の足元へ戻ってきた。


 俺はピコを抱き上げる。


 すると、腕の中にある自分の魔力が、ほんの少しだけ強く感じられた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
いつも面白く読ませていただいています。 今回はリオンやアーロンのような領主(の息子)や役人が日本いたらなあ、と、つくづく思ってしまいました。この作品に登場する人々は領民の事を考えてくれる素晴らしい人た…
外付けブースターとはスライムやりおる まー分業は悪くないんですが最初の洗い出しはそのほうがいいかな? 人的リソースの割り振り的にゼータクな使い方になってるのかなってないのか?
アーロンは若いのに見所があるかな 燃え尽き症候群にならなきゃいいけどw 人外好きなあたしゃピコがかわゆーてしゃあないですw
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