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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第394話 畑に来た商人

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい

 翌朝、目を覚ますと、寝床の横に置いた籠の中でピコが小さく揺れていた。


「おはよう、ピコ」


「ピー」


 俺が手を伸ばすと、ピコも体の先を細く伸ばし、指先へ触れた。


 昨夜は慣れない場所だったためか、何度か籠から出ようとしていた。


 そのたびに籠へ戻していたが、最後には朝まで籠の中で眠ってくれたらしい。


「ちゃんと自分の場所で寝られたね」


「ピー!」


 褒められたことが分かったのか、ピコが籠の中で大きく弾んだ。


 顔を洗い、村長宅の外へ出る。


 まだ朝食前だったが、アーロンはすでに庭先で村長と話していた。


 手には、昨夜作り直した予定表がある。


「おはようございます、リオン様」


「おはよう。もう始めていたの?」


「昨日確認できなかったことがありましたので」


 アーロンは予定表の一番上を指した。


「村には荷車が二台あります。しかし、今日二台とも使用できるとは限りません」


「確認できた?」


「はい。一台は、家畜の餌を運ぶために使用するそうです」


 村長もうなずいた。


「餌を運ぶのが遅れますと、その後の家畜の世話にも影響が出ます。

試験畑へ回せるのは、一台だけになります」


「村にある数と、今日使える数は違ったね」


「はい」


 アーロンは予定表に引かれた線を指でなぞった。


「二台で一度に運ぶ予定でしたが、一台で往復する形に直しました」


「その分、時間も変わる?」


「堆肥置き場と畑の往復にかかる時間を、昨日村長から伺いました。

積み込みと下ろす時間も含め、午前中で終えられるように組み直しております」


「今度は大丈夫そう?」


「昨日よりは、現実に近い予定になったと思います」


 昨日までなら、必ず終わりますと言っていたかもしれない。


 言い切らなくなったのも、現場を見た成果なのだろう。


 少し離れた場所では、テオが腕を伸ばしていた。


「体は大丈夫?」


「問題ございません」


 答えは早かったが、鍬を振った腕には疲れが残っているようだった。


 ディルクが横から言う。


「朝起きた時は、腕が上がりにくいと言っておりました」


「ディルクさん」


「護衛中に動きが鈍くなれば困る。隠すことではない」


「……昨日より少し重く感じるだけです」


「今日は無理をしないでね」


「承知しました」


 そう答えたテオの顔には、今日も作業へ加わるつもりだと書いてあった。


 ◇


 朝食を終え、俺たちは試験畑へ向かった。


 昨日耕した一つ目と二つ目の区画には、すでに土を返した跡が残っている。


 三つ目と四つ目は、まだ硬い土のままだ。


 最初に、村の外れにある堆肥置き場へ向かう。


 寝かせた家畜の糞と藁が、いくつもの山になって積まれていた。


 新しく積まれたものは、まだ藁の形がはっきり残り、臭いも強い。


 一方、畑へ使う山は色が濃く、藁も崩れかけている。


 以前、この場所でピコと出会った。


 そのためか、ピコは堆肥の山を見るなり大きく弾んだ。


「ピー!」


 そのまま山へ向かって進もうとする。


「ピコ、今日は入ったら駄目だよ」


「ピー?」


「三つ目と四つ目へ、同じ量を入れないといけないからね。

ピコが食べたり動かしたりしたら、比べられなくなるんだ」


「ピー……」


 ピコは明らかに不満そうに体を縮めた。


「昨日みたいに、小石を運ぶ仕事はあるから」


「ピー!」


 立ち直るのも早かった。


 農民たちは同じ大きさの籠を用意していた。


 籠一杯を一つとして数え、三つ目と四つ目へ同じ回数だけ運ぶ。


 目分量だけで分けるより、条件を揃えやすい。


「まず、荷車へ積みましょう」


 アーロンは記録板を持ったまま、作業を始めようとした。


 だが、積み込みを担当する農民の人数を見て、記録板を地面へ置いた。


「私も運びます」


「手は大丈夫?」


 昨日できたまめの部分には、布が巻かれている。


「痛みはあります。しかし、作業できないほどではありません」


 アーロンは籠を持ち、堆肥をすくい始めた。


 昨日のように、記録だけをするとは言わなかった。


 テオもディルクへ確認する。


「周囲は俺が見る」


「お願いします」


 テオは剣をすぐ手に取れる場所へ置き、作業に加わった。


 昨日の反省があるのか、今日は最初から力任せには動かない。


 農民の持ち方を見て、籠を腰に近づけて運んでいる。


 俺も籠を持ち上げた。


 鍬とは違うが、こちらも腕だけで運ぼうとすると重い。


 何度か往復するうちに、肩と腰へ負担がたまっていく。


「堆肥を入れるだけでも、これだけ人手が必要なんだね」


「積み、運び、下ろし、その後で土へ混ぜます」


 農民が答えた。


「畑から遠い場所に堆肥を置けば、さらに時間がかかります」


 アーロンが、すぐに記録板へ手を伸ばした。


「堆肥置き場から畑までの距離も必要ですね」


「村によって違うだろうね」


「はい。使える荷車の数だけでは足りません。

畑までの距離と、一度に運べる量も記録します」


 記録する項目は、現場へ来るたびに増えていく。


 だが、すべてを農民に書かせれば続かない。


 どこまでを文官が確認し、どこからを農家の日常記録にするかも考えなければならなかった。


 ◇


 使える荷車は一台しかないため、堆肥置き場と畑を何度も往復した。


 三つ目と四つ目の区画へは、同じ数の籠を運ぶ。


「三つ目、十二杯です」


 アーロンが数える。


「四つ目も十二杯になりました」


 量を揃えた後、三つ目の区画では通常と同じ深さで土を返しながら、堆肥を混ぜていく。


 四つ目は、先に深い部分まで土をほぐさなければならない。


 昨日の二つ目と同じように、硬い土へ鍬を入れる。


 アーロンは昨日より姿勢がよくなっていた。


 それでも農民と比べれば遅い。


 テオも、最初から大きく土を返そうとはせず、一定の速さを保とうとしている。


「昨日より上手くなったんじゃない?」


 俺が言うと、テオは少し誇らしげに答えた。


「農民の方の動きを見て覚えました」


「まだ力が入りすぎています」


 すぐに農民から注意される。


「……もう少し覚える必要がありそうです」


 アーロンが横で笑った。


「私よりは速いですが」


「騎士ですから」


「農民の方より遅いではありませんか」


「アーロンよりは速いです」


「二人とも、話していると余計に疲れるよ」


 俺が止めると、近くでピコが弾んだ。


「ピー!」


 どちらを応援しているのかは分からなかった。


 四つ目の区画からも、小石がいくつも出てきた。


 ピコは昨日覚えたとおり、小石を体へ取り込み、畑の外へ運んでいく。


 最初はテオの足元へ持ってきていたが、今日は自分で石の山まで運べるようになっていた。


「ピー!」


「ちゃんと覚えているね」


 俺が褒めると、ピコはさらに張り切って石を探し始めた。


 ただし、大きな石まで取り込もうとしたため、それは止める。


「それは無理だよ」


「ピー……」


「小さい石だけお願い」


「ピー!」


 簡単な言葉なら、少しずつ理解しているようだった。


 ◇


 四つの区画の準備が整ったのは、昼が近くなった頃だった。


 最後に、芋を植える。


 用意された芋には、わずかに大きさの差があった。


「同じ数ならよいでしょうか」


 アーロンが尋ねる。


「一つの区画だけ大きい芋が多かったら、結果に影響するかもしれない」


「では、大きさも揃えますか?」


「完全に同じにはできないから、四つに均等に分けよう」


 大きいもの、中くらいのもの、小さいものを分け、それぞれの区画に偏らないよう配置する。


 植える数、間隔、深さも同じにした。


 村人が紐を張り、その線に沿って植える位置を決めていく。


 アーロンは、芋の数だけでなく、大きさを分けたことも記録した。


「同じ数というだけでは、同じ条件にはならないのですね」


「できるだけ違いを減らさないと、土の違いなのか、芋の違いなのか分からなくなるからね」


「水の量も揃えます」


「お願いします」


 すべての芋を植え終え、最初の水を与える。


 これで、ようやく四つの区画による試験が始まった。


 一つ目は、これまでどおり。


 二つ目は、土を深くほぐした。


 三つ目は、寝かせた糞と藁を混ぜた。


 四つ目は、土を深くほぐし、さらに寝かせた糞と藁も混ぜた。


 今後は、芽が出るまでの日数や、葉の育ち方、病気や害虫の有無を記録する。


 収穫の時には、芋の数、大きさ、重さを比べる。


 もちろん、作業に使った人数と時間も忘れてはいけない。


「村の方には、毎日細かく書いていただくのでしょうか」


 アーロンが尋ねた。


「それでは負担が大きすぎると思う」


「では、変化があった時だけ記録していただき、詳しい確認は私が行います」


「この村に長く滞在することになるよ?」


「農業担当を目指すなら、それくらいは必要なのでしょう」


 アーロンは、昨日より迷わず答えた。


 ◇


 村長宅へ戻り、少し遅い昼食を取った。


 食事を終えた頃、村の入口が騒がしくなる。


 ディルクが立ち上がり、テオもすぐに剣へ手を伸ばした。


「馬車が一台、こちらへ向かっております」


「村の馬車ではないの?」


「商会の印がついています」


 しばらくして、村長宅の前へ馬車が止まった。


 扉が開き、見覚えのある男が降りてくる。


 ローデン商会のハル領支店長、マリウス・デントだった。


「リオン様。突然の訪問をお許しください」


「マリウスさん。どうしてここへ?」


「穀物の輸入について、見積もりがまとまりましたので領主様の屋敷へ伺いました。

そこで、リオン様はこちらの村に滞在されていると、エリアス様から伺ったのです」


「それで、村まで来たのですか?」


「少しでも早くお伝えした方がよいかと考えました」


 対応が早い。


 穀物の不足が深刻になる前に動きたいハル家の事情を理解しているのだろう。


 マリウスは俺たちの服へ目を向けた。


 手足の泥は落としたものの、服にはまだ土がついている。


「農地をご覧になっているとは伺っておりましたが……自ら作業をなさっていたのですか?」


「見るだけでは、どのくらい人手と時間が必要なのか分からなかったので」


 マリウスは畑の方角へ目を向けた。


「作物を育てる方法だけでなく、そこへ必要な手間も比べておられるのですね」


「はい。穀物を買う時も、同じように考える必要があると思っています」


「でしたら、今回の見積もりも、価格だけでは判断しにくいかもしれません」


 ◇


 村長宅の一室を借り、マリウスと向かい合った。


 俺の隣にはアーロンが座り、記録板を用意している。


 マリウスは鞄から数枚の紙を取り出した。


「こちらが、ローデン商会へすべてお任せいただいた場合の条件でございます」


 内容は、穀物を買い付けるだけではなかった。


 必要量の確保。


 出荷前の品質確認。


 袋の準備。


 馬車と御者の手配。


 道中の護衛。


 領都までの輸送。


 さらに、途中で傷んだ穀物についても、一定の範囲まではローデン商会が負担する。


「ハル家には、指定した日に、指定した量を領都で受け取っていただきます」


「かなり多くのことを任せられるのですね」


「そのための完全委託でございます」


 当然、提示された金額は安くない。


 だが、購入価格だけではなく、輸送や護衛、損失の危険まで含まれている。


「購入先は、どこになりますか?」


 俺が尋ねると、マリウスは静かに首を横へ振った。


「申し訳ございませんが、仕入れ先と実際の仕入れ価格は、お伝えできません」


「どうしてですか?」


「どの領で穀物が余っているのか。どの商人なら約束した量を用意できるのか。

どの時期に購入すれば価格を抑えられるのか」


 マリウスは見積書へ指を置いた。


「それらの情報を集め、取引先との関係を築くことも、我々商人の仕事でございます」


 仕入れ先をすべて明らかにすれば、次からハル家が直接購入することもできる。


 ローデン商会が長い時間をかけて得た情報まで、取引価格の中に含まれているのだ。


 前世でも、仕入れ先や取引条件そのものが、会社の強みになることは多かった。


「仕入れ先を明かさないことにも、きちんと理由があるんですね」


「もちろん、商会の利益も必要でございます」


 マリウスは正直に答えた。


「ですが、情報を得るためにも、各地へ人を送り、関係を維持しなければなりません。

その費用も含まれております」


「分かりました。仕入れ先をすべて教えてほしいとは言いません」


「ありがとうございます」


「ただ、領民が口にするものだから、品質については確認したいです」


 俺は必要な項目を挙げた。


 何年に収穫された穀物なのか。


 一つの地域から集めるのか、複数の地域から集めるのか。


 乾燥状態や虫食いを、どのように確認するのか。


 領都へ届いた時に品質が悪かった場合、どうするのか。


 輸送中に傷んだ分を、誰が負担するのか。


 そして、翌年も同じ程度の量を確保できるのか。


「産地の名を伏せたままでも、それらは契約書へ明記できます」


「お願いします」


 アーロンが、俺たちの話を記録している。


 昨日までなら、提示された総額だけを比べようとしたかもしれない。


 だが、今日は何に人手と時間が必要なのかを自分から尋ねていた。


「マリウス様。一つの地域で必要量を確保できない場合は、どうされますか?」


「複数の地域から集めます」


「その場合、品質に差が出るのではありませんか?」


「ローデン商会の基準を満たすものだけを買い付けます。

ただし、産地による粒の大きさや色の差が、わずかに出る可能性はございます」


 アーロンはうなずき、紙へ書き加えた。


「もう一つ、別の条件でも見積もりをお願いできるかな?」


 俺が言うと、マリウスがこちらを見る。


「ハル家が購入先を決めて、ローデン商会には品質の確認と輸送だけをお願いする場合はどうなる?」


 マリウスは少しだけ考えた。


「可能でございます。

しかし、その場合、指定された購入先が必要量を用意できなかった責任は、ハル家にございます」


「ローデン商会は、代わりの穀物を用意しない?」


「輸送と検品のみの契約であれば、原則としては用意いたしません。

別の穀物を探す場合は、新たな依頼となります」


「検品で問題が見つかった場合は?」


「その穀物は運びません。ただし、代わりを探すには追加の時間と費用が必要です」


 完全委託より安くなる代わりに、ローデン商会が負う責任は小さくなる。


 安い方が、必ずしも得とは限らない。


「その条件でも、見積もりをお願いします」


「承知いたしました」


 マリウスは紙をまとめた後、少し声を落とした。


「一つだけ、商人として申し上げてもよろしいでしょうか」


「お願いします」


「最も安い穀物を、一度だけ買うことは、それほど難しくありません」


 マリウスは、机の上の見積書を見た。


「しかし、来年も同じ時期に、同じ量を買える相手を見つけることは、まったく別の仕事でございます」


 今年は余剰があっても、翌年に不作になれば売ってもらえない。


 安く買える相手が見つかっても、ほかの領から高い値段を提示されれば、そちらへ売るかもしれない。


 ローデン商会は複数の購入先を持つことで、一つの地域が不作でも、別の地域から集められる。


「価格だけではなく、買えなくなった時のこともお考えください」


「覚えておくよ」


 この場では、まだ正式な発注はしなかった。


 ハーウェイ侯爵領とフェルナー子爵領から、どのような条件が届くか分からない。


 ただし、急に穀物が必要になった場合、ローデン商会が何日で、どれほどの量を用意できるかだけは確認した。


 マリウスは最短の日数と、確実に用意できる量を別の紙へ書き残した。


「ご返答は、ほかの条件が届いてからで構いません」


「ありがとう」


 マリウスは見積書を机の上へ置いた。


 午前中まで、俺たちは同じ広さの区画へ、違う方法で芋を植えていた。


 見た目は同じでも、そこへかかった時間と人手は違っている。


 穀物の購入も同じだった。


 同じ一袋でも、書かれた価格だけでは比べられない。


 品質を確認する人。


 運ぶ馬車と御者。


 道中を守る護衛。


 途中で失われた分。


 そして、翌年も同じ量を買えるのか。


 畑で土に触れた後、今度は商人が積み重ねてきた経験を聞いた。


 南部の農業を支えるために必要なのは、畑の中の知識だけではなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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ハーウェイ侯爵領とフェルナー子爵領から、どのような条件が届くか分からない。 ← なんか依頼してたんだっけ?この記憶全くないや。
農奴っていうのも一定の合理性があるんだなぁと 安い労働力(購入費用除く)と熟練性の担保という意味で 歴史的に中世近世において職業固定があったのも至極当然
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