表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
403/434

第392話 農業担当の条件

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 穀物の購入先について三通の書状を出してから、二日が過ぎた。


 まだ、どこからも返事は届いていない。


 その日の午前、俺が執務室で南部の記録を見直していると、エリアスが三人の文官を連れてきた。


「農業を担当する文官の候補として、三名を選びました」


 三人とも若い。


 緊張した様子で並ぶ彼らを、机の横に置いた水の器からピコが眺めている。


「ピー」


「ピコ。今は静かにしていてね」


「ピー」


 返事だけは素直だった。


「まず、自己紹介をお願いします」


 最初に前へ出たのは、三人の中で最も年上に見える男だった。


「ニルス・バウアーと申します。現在は、南部から集められた税と物資の記録を担当しております」


「南部の出身なの?」


「はい。農家に生まれ、十五歳まで家の畑を手伝っておりました」


 農業経験があるのは大きい。


 次に、細い体つきの女性が一歩前へ出る。


「エルナ・フォークと申します。領都の共同倉庫で、物資の出入りを記録しております」


「農作業の経験は?」


「ほとんどございません。ただ、穀物の袋数や保管期間の記録は担当しております」


 最後の青年は、ほかの二人よりわずかに若く見えた。


「アーロン・ケストナーと申します。

現在は領都の支出記録と、各部署から提出される報告書の整理を担当しております」


「農業の経験は?」


「ございません」


「農村に住んだことも?」


「ありません」


 答えに迷いがなかった。


 農業担当の候補としては、最も遠い位置にいるように見える。


「今日は、知っていることだけではなく、知らないことも正直に話してください」


「承知いたしました」


 三人の返事が重なった。


 俺は机の上に、一つ目の村の記録を広げた。


「この村には、まだ耕せる土地が残っています。

でも、使われていません。最初に何をしますか?」


 最初に答えたのはニルスだった。


「周囲の農家へ土地を割り当て、耕作させるべきだと思います」


「今ある畑を維持する人手も足りないとしたら?」


 ニルスの口が止まった。


「それは……各家の人数を確認する必要がございます」


 農業を知っているからこそ、土地があれば農家が耕すものだと考えたのかもしれない。


 次にエルナが答える。


「農地の広さ、村に残る働き手の数、農具と家畜の数を調べます」


「その中で、最初に何を確認する?」


「すべて必要な情報かと……」


「そうだね。でも、一度に全部を細かく調べたら、結果が出るまで時間がかかる」


 エルナは考え込んだ。


 最後に、アーロンが口を開く。


「領都で働く者を募集し、その村へ送ります」


「領都の人が、農業をできるの?」


「経験者を選びます」


「住む場所や農具は?」


「それも、村に用意させます」


「すでに人手が足りない村へ?」


 アーロンの表情が固まった。


「……考えが足りませんでした」


 言い訳はしなかった。


 俺は二つ目の村の記録を出した。


「この村では、畑によって収穫量に差がありました。

収穫を増やすには、何をしますか?」


「まずは、それぞれの畑の土壌や水の状態を確認するべきだと思います。特に、土が痩せていないかを調べる必要がございます」


 ニルスがすぐに答えた。


「実家でも、作物の育ちが悪い時は、まず土の状態を確認していました」


「土が痩せているか、どうやって判断する?」


「色や硬さ、作物の育ち方を見ます」


 農業経験があるだけに、ニルスの答えには具体性があった。


 しかし、彼が知っている方法が、南部すべての畑へ合うとは限らない。


 エルナは過去の収穫記録を集めるべきだと答えた。


「村には、畑ごとの記録が残っていないよ」


「では、これから記録を始めます」


「結果が分かるのは、少なくとも次の収穫の後だね」


「はい。それでも、必要だと思います」


 慎重だが、すぐに動ける対策までは出てこない。


 アーロンは少し考えてから答えた。


「収穫量の多い村の方法を、南部のほかの村でも行わせます」


「効果があると確かめる前に?」


「収穫量に差がある以上、効果はあるのではありませんか?」


「別の理由かもしれない。土地の状態や水の量が違う可能性もあるよ」


「……はい」


 アーロンは手元の紙へ何かを書き加えた。


 次に、三つ目の村の共同倉庫について尋ねる。


「古くなった倉庫で、穀物が失われていました。どうしますか?」


「建て替えるべきです」


 アーロンが最初に答えた。


「修繕ではなく?」


「新しい倉庫の方が、今後も長く使用できます」


「今、どれだけの穀物を失っているか分からなくても?」


 アーロンは黙った。


「床板と鼠の穴を塞げば、損失を減らせるかもしれない。

全部を建て替える前に、修繕でどれだけ変わるか確かめる方法もあるよ」


「私は、すぐに大きな対策を選びすぎていますね」


「そうだね」


 俺が認めると、アーロンは苦い表情をした。


 だが、反発はしなかった。


 三人の答えを聞き終えたところで、俺は《綻びの目》を使った。


 最初にニルスを見る。


≪柔軟性:低≫

≪現場意欲:低≫


 続いてエルナ。


≪判断速度:低≫

≪現場意識:低≫


 最後にアーロンへ意識を向ける。


≪農業知識:極めて低い≫

≪功名心:強≫

≪継続力:高≫


 三人とも特徴がある。


 ただ、最初から、すべてを備えた人物はいなかった。


「今の時点では、三人とも農業担当を一人で任せられる状態ではありません」


 三人の表情が固くなる。


「でも、一人で何でもできる人を探しているわけじゃないよ。

足りないことを学び、ほかの人の知識を使える人が必要なんだ」


 俺は一人ずつ顔を見る。


「どうして、この仕事を希望したのか聞かせてください」


 ニルスが最初に答えた。


「農家出身の知識を生かせると思いました」


「南部の村へ何度も行くことになる。それでも大丈夫?」


 ニルスはすぐに答えなかった。


「正直に申し上げます。

私は、畑仕事から離れるために読み書きを学び、文官になりました」


「畑に戻りたくない?」


「はい。知識をお伝えすることはできます。

しかし、長く村へ滞在する役目は……」


「分かりました」


 農家出身だからといって、農業を担当したいとは限らない。


 無理に任せても、続かないだろう。


 エルナは、領に必要な仕事だと思ったからだと答えた。


「ただ、私には人を動かす仕事より、集まった記録を整理する仕事の方が向いていると思っております」


「農家が使う記録の形を考える仕事は?」


「それでしたら、ぜひ担当させてください」


 自分の得意なことを分かっている。


 最後に、アーロンへ視線を向けた。


「アーロンは?」


「領に必要な仕事だと考えたためです」


「それだけ?」


 アーロンの目が一瞬揺れた。


 エリアスが厳しい目を向けている。


 しばらく黙った後、アーロンは頭を下げた。


「リオン様の近くで働きたいからです」


「俺の近くで?」


「はい」


 アーロンは顔を上げた。


「リオン様が始められた仕事は、これから領全体へ広がると思っております。

その仕事に最初から関わり、結果を残すことができれば、私も今より上の役目を目指せます」


 つまり、出世したいのだ。


「そのような理由で手を挙げたのですか」


 エリアスの声が低くなる。


「申し訳ございません。

しかし、嘘を申し上げるつもりはありません」


「出世したいこと自体は、悪くないと思う」


 俺が言うと、エリアスがこちらを見た。


「領のためになる仕事で結果を出して、その結果として上の役目に就くなら、問題はないよ」


 前世でも、昇進を望む社員は多かった。


 重要なのは、地位だけを欲しがるのか、その地位に必要な働きをする覚悟があるのかだ。


「ただし、農業担当という名前だけを得ても、出世はできないよ」


「承知しております」


「本当に?」


「必要なことは学びます」


 その時、水の器から出たピコが、机の下まで近づいてきた。


「ピー」


 アーロンが珍しそうに手を伸ばす。


 ピコは体を縮め、俺の椅子の後ろへ逃げた。


「急に触ったら怖がるよ」


「申し訳ございません」


 アーロンはすぐに手を引いた。


 少し考えた後、机の端に置いてあった乾いた葉を一枚取り、ピコから少し離れた床へ置いた。


 そのまま近づかずに待つ。


 しばらくすると、ピコが椅子の後ろから半分だけ体を出した。


「ピー」


 ゆっくり葉へ近づき、体の中へ取り込む。


 アーロンは手を伸ばさず、その様子を見ていた。


「一度注意された後は、やり方を変えられるようですね」


 エリアスが言った。


「同じ失敗を繰り返さないよう努めます」


 俺は三人へ、農業担当の仕事を改めて説明した。


 南部の村を回り、農家から直接話を聞く。


 畑や倉庫を、自分の目で確認する。


 暑い日も、雨の後も、現場へ行く。


 必要であれば、農作業も手伝う。


 そして、そこで得た情報を領都へ持ち帰り、記録として整理する。


「俺の近くで働くといっても、ずっと執務室で隣に座る仕事じゃないよ」


「農作業も行うのでしょうか?」


 アーロンが尋ねた。


「農民と同じだけ働けとは言わない。

でも、作業がどれだけ大変か知らずに、必要な人数や時間は決められないと思う」


 アーロンの視線が、自分の手へ落ちた。


「明日、二つ目の村で土壌試験を始める予定です」


 俺は三人へ伝えた。


「正式な担当を決める前に、一緒に来ませんか?」


 ニルスは、現在の仕事との調整が必要だと答えた。


 農業知識の助言は引き受けるが、継続的な現場担当になることには、まだ迷いがあるようだ。


 エルナは、試験で使う記録用紙を作りたいと申し出た。


「現場で何を記録するかが決まれば、農家でも使える形にいたします」


「お願いします」


 最後に、アーロンが一歩前へ出る。


「同行させてください」


「鍬も持ってもらうよ」


 アーロンは一瞬、口を閉じた。


 それでも逃げずに、深く頭を下げる。


「……承知いたしました」


「明日は、筆記具と汚れてもいい服を持ってきて」


「服、ですか?」


「村で鍬を借りるから」


 アーロンは、もう一度自分の手を見た。


「リオン様の近くで働くというのは、執務室で仕事をすることではないのですね」


「執務室で考える日もあるよ。

でも、考えるためには、先に現場を知らないといけない」


「分かりました」


「ピー!」


 足元でピコが大きく弾んだ。


 アーロンがピコを見る。


「ピコも同行するのでしょうか?」


「もちろん」


「スライムも農作業を?」


「少なくとも、アーロンより先に畑へ入ったことはあるよ」


 アーロンは、何も言い返せなかった。


 こうして、農業を何も知らない文官候補が、翌日初めて鍬を持つことになった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
一長三短 まあ育てるってそういうことですな 人の話は聞くものだが上下左右どっちに耳があるかも大事 自分より専門知識のある人間を指揮するなら聞く耳と信頼がないと続かない
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ