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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第391話 どこから買うか

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 父上への報告を終えた後、俺はピコを抱えて自室へ戻った。


「飼うなら、ちゃんと世話をするんだぞ」


 そう言われた以上、まずはピコが暮らす場所を決めなければならない。


「ピー」


 俺の腕の中で、ピコが小さく弾む。


「ピコは、どこで寝たい?」


「ピー!」


「聞き方を変えても、返事は同じですね」


 部屋の隅に立っていたミアが、少し困ったように笑った。


 俺たちは、窓から離れた壁際に浅い籠を置いた。


 中には柔らかな藁を敷き、その隣には水を入れた平たい器を置く。


 ピコを床へ下ろすと、淡い水色の体は迷うことなく水の器へ飛び込んだ。


「ピー!」


 水が周囲へ跳ねる。


「水の場所は気に入ったみたいだね」


「寝床は、こちらなのですが」


 ミアが籠を指す。


 俺は水の器からピコを持ち上げ、藁の上へ下ろした。


「ここがピコの寝る場所だよ」


「ピー」


 ピコは一度だけ体を揺らした。


 理解したようにも見える。


「それでは、少し離れてみましょう」


 俺とミアが数歩下がる。


 ピコは籠の中で動かなかった。


「分かってくれたのかな」


「そうかもしれません」


 さらに一歩下がった瞬間、ピコが籠から跳ね出した。


 そのまま俺の足元まで来る。


「ピー」


「やっぱり分かってなかったね」


「籠に入れば、リオン様が離れていくと覚えたのかもしれません」


 それでは、ますます寝床として使ってくれそうにない。


 ミアが用意した枯れ草を一本差し出した。


「こちらは食べるでしょうか」


 ピコはミアの手を見た後、俺の足の後ろへ隠れた。


「まだミアを怖がっているのかな」


「昨日までは野外で暮らしていた魔物ですから、仕方ございません」


 俺がミアから枯れ草を受け取り、ピコへ差し出す。


「これは食べられる?」


「ピー」


 ピコはすぐに体を伸ばし、枯れ草を取り込んだ。


「同じ物なのですが」


「渡す人が違うと駄目みたいだね」


「少しずつ慣れていただきます」


 その後、厨房に残っていた葉野菜も与えてみた。


 こちらもピコはきれいに取り込んだ。


 しかし、机の近くへ移動した時には、床に落ちていた紙の切れ端へ体を伸ばす。


「ピコ、それは食べ物じゃないよ」


「ピー?」


「昨日も紙を食べようとしたよね」


 紙を取り上げると、ピコは不満そうに体を縮めた。


「食べてよい物と、駄目な物を教える必要がございますね」


「俺がいない間に、部屋の物を全部食べたりしないかな」


「念のため、しばらくは一人にしない方がよろしいかと」


 今日は、これからエリアスと穀物の輸入先を検討する予定だった。


 ピコを籠へ戻してみる。


「俺は仕事へ行ってくるから、ここで待っていてね」


「ピー」


 俺が扉へ向かうと、背後から小さな音が続いた。


 振り返る。


 ピコが跳ねながらついてきていた。


「待っていてと言ったんだけど」


「ピー!」


「分かっていませんね」


 結局、ピコも執務室へ連れていくことになった。


 ◇


 執務室には、エリアスが大きな地図を広げていた。


 地図の中央にはハル領があり、その南に王都直轄がある。


 王都直轄領の東にはハーウェイ侯爵領、西にはフェルナー子爵領が記されていた。


「穀物の購入先として、四つの案を整理いたしました」


 エリアスは、机の上へ四枚の紙を並べる。


「第一が王都直轄領。第二がハーウェイ侯爵領。

第三がフェルナー子爵領。そして第四が、ローデン商会への完全委託でございます」


 俺は木箱を机の脇へ置いた。


「ピコ。紙には触らないでね」


「ピー」


 返事だけはよかった。


「どこが一番安い?」


「現時点では、フェルナー子爵領と思われます。

ただし、穀物そのものの価格だけでございます」


 馬車、御者、護衛、道中の食事、宿泊、輸送中に傷んだ穀物。


 購入先を決めるには、それらも含めなければならない。


「一袋を領都まで運び終えた時、結局いくらかかるのかを比べないと駄目だね」


「はい。価格のほか、品質、供給可能な量、到着までの日数、翌年以降も購入できるかを確認する必要がございます」


 まず、王都直轄領について確認する。


 ハル領の南に隣接しており、王国有数の大穀倉地帯でもある。


 距離が近く、街道も整えられている。


 供給できる量も、ほかの候補より多い。


「最も確実なのは、王都直轄領です」


「そうだろうね」


「リオン様から陛下へお願いすれば、通常よりよい条件で融通していただける可能性もございます」


 三つの魔法に関する研究や、王宮の結界の確認。


 俺はこれまでに、国王から高く評価されるだけの功績を積み重ねてきた。


 事情を説明すれば、陛下は助けてくださるかもしれない。


 だが、俺はすぐに首を横へ振った。


「今回は、陛下には頼りたくない」


「理由をお聞きしても?」


「頼めば、穀物は手に入ると思う。

でも、陛下からの信頼を、今回の取引で使ってしまいたくないんだ」


 食料価格の上昇は、放置できない問題だ。


 それでも、ハル領が今すぐ飢える状況ではない。


 ほかに手段があるうちから、国王の好意を使うべきではないと思った。


「もっと深刻な危機が起きた時に、本当に助けを求める必要があるかもしれない」


「王都直轄領は、最後の手段として残すということですね」


「うん。候補から外すわけじゃない。でも今回は、ほかを調べたい」


 次は、ハーウェイ侯爵領だった。


 王都直轄領の東側にあり、こちらも広大な穀倉地帯を持っている。


「ハーウェイ侯爵領なら、一番安心してお願いできると思う」


 領地の規模も大きく、供給量には余裕がある。


 ハーウェイ侯爵本人についても、面識はある。


 粗悪な穀物を送られたり、契約後に突然条件を変えられたりする心配は少ない。


「継続的な取引を考えるのであれば、最も安定した相手でしょう」


 エリアスの意見にも異論はなかった。


 ただし、問題もある。


「ミラとの縁談があるんだよね」


「はい」


 ハーウェイ侯爵家から、俺とミラとの縁談を意識した手紙が届いている。


 その状況で特別に安い価格を提示されれば、純粋な商取引とは見られないかもしれない。


「こちらから安くしてほしいとは言えないな」


「通常の取引として、相場に沿った条件を提示していただくべきでしょう」


「信頼できる相手だからこそ、好意に甘えない方がいいと思う」


 ハーウェイ侯爵領には、特別な値引きを求めず、正式な取引として条件を尋ねる。


 品質と継続性を重視するなら、ここが本命になりそうだった。


 俺は三枚目の紙へ目を移す。


「フェルナー子爵領は、どうして安くなるの?」


「農地が広い一方で、領内に大きな消費地がございません。

余剰穀物の多くを、商人を通して王都へ売っております」


 フェルナー子爵領から王都へ運ばれるまでには、複数の商人が間に入る。


 ハル領が直接まとまった量を購入すれば、フェルナー子爵領は確実な現金を得られる。


 ハル領も、仲介する商人へ支払う分を抑えられる。


「双方に利点があるということか」


「はい。ただし、実際の余剰量や保管状態は確認できておりません」


 穀物が安くても、古いものや十分に乾燥していないものでは困る。


 西側からハル領へ運ぶ経路によっては、輸送費が高くなる可能性もある。


 不作の年には、契約した量を出せないかもしれない。


「最初から大量に買う相手ではないね」


「少量を購入し、品質と輸送にかかる費用を確かめるのがよろしいかと」


「まず、見本を送ってもらおう。

売れる量と価格だけじゃなく、いつ収穫した穀物かも確認したい」


 そして最後が、ローデン商会への完全委託だった。


「必要な量と期限を伝えれば、ローデン商会が購入先の選定から輸送まで行います」


「一番簡単ではあるね」


 各地の相場も、信用できる穀物商人も、ローデン商会の方が詳しい。


 一つの領で量を揃えられなければ、複数の地域から集めることもできる。


「ただし、費用は最も高くなる可能性がございます」


「それだけじゃないね」


 リバーシの販売は、すでにローデン商会へ任せている。


 穀物の調達まで完全に依存すれば、ローデン商会なしでは領内の物資を動かせなくなる。


「全部を任せたら、俺たちには購入先との関係も、運んだ経験も残らない」


「では、ローデン商会は外しますか?」


「外さないよ」


 完全委託した場合の価格を出してもらえば、ほかの候補と比べる基準になる。


 商会へ頼むこと自体が悪いわけではない。


 任せきりにすることが問題なのだ。


「同じ量の穀物を、同じ期限までに領都へ運んでもらう場合の条件を出してもらおう。

産地と品質、それから輸送中に傷んだ時の負担も確認したい」


「承知いたしました」


 四つの候補を見直していると、木箱の中のピコが体を伸ばした。


 エリアスの紙の端へ近づいている。


「ピコ」


「ピー?」


「それは食べ物じゃないよ」


 俺が紙を遠ざけると、エリアスが小さく息を吐いた。


「輸入先より先に、ピコの食事を決める必要があるかもしれません」


「それは朝から考えているよ」


 話を戻そうとした時、エリアスが別の紙を差し出した。


「もう一つ、考えておくべき問題がございます」


「何?」


「安価な穀物を大量に輸入すれば、領都での販売価格は下がります。

しかし、南部の農家が穀物を売る価格も下がる可能性がございます」


 俺は紙へ伸ばしていた手を止めた。


 領民にとって、パンや穀物が安くなることは悪くない。


 だが、南部の農家の収入まで減れば、農業を続ける人はさらに少なくなる。


 食料不足を補うための輸入が、南部からの人口流出を加速させるかもしれないのだ。


「輸入する目的は、南部の穀物を安く買いたたくことじゃない」


「はい」


「領都と西の森で増えた需要を補う分だけにしよう。

価格を無理に下げるほどは買わない」


「購入量を決めるためにも、現在の不足量を調べる必要がございますね」


「お願いするよ」


 結局、この場で購入先を一つに決めることはしなかった。


 王都直轄領には、今回は頼らない。


 ハーウェイ侯爵領には、正式な取引として条件を問い合わせる。


 フェルナー子爵領には、価格や供給量に加えて見本を求める。


 ローデン商会には、完全委託した場合の条件を提示してもらう。


「三通の書状を用意いたします」


「同じ量を、同じ時期までに届けてもらう条件にしてほしい」


「比較できるようにするのですね」


「うん。領都へ届いた時の総額、日数、品質、次も同じ条件で買えるか。

それを揃えてから決めたい」


 安い場所から買えばよいわけではない。


 信頼できる相手へ、すべてを任せればよいわけでもない。


 今だけでなく、今後も続けられる方法を選ぶ必要があった。


 ◇


 夜、仕事を終えて自室へ戻ると、ピコは朝に用意した籠ではなく、俺の後ろをついて回っていた。


「もう寝る時間だよ」


「ピー」


 俺はピコを持ち上げ、藁を敷いた籠へ入れる。


「ここがピコの寝床だからね」


「ピー」


 今度こそ分かったように見えた。


 俺は着替えを済ませ、ベッドへ入る。


 灯りを消して目を閉じると、部屋の中から小さな音が聞こえてきた。


 ぺた、ぺた。


 床を何かが動いている。


「ピー……」


 寝台の横から、弱い声がした。


 身を起こして覗くと、ピコが床の上で小さく丸くなっていた。


「籠から出てきたの?」


「ピー」


 もう一度、ピコを籠へ戻す。


 しかし、俺がベッドへ戻ると、再びぺたぺたと音が近づいてきた。


「一人だと眠れないのかな」


「ピー……」


 仕方なく、籠を寝台のすぐ横まで移した。


「ここなら俺が見えるよ」


 ピコを藁の上へ下ろし、寝台から手を伸ばす。


 淡い水色の体も細く伸び、俺の指先へ触れた。


「ピー」


 それで安心したのか、ピコの体が藁の上へゆっくりと沈んでいく。


 王都直轄領には、まだ頼らない。


 ハーウェイ侯爵領、フェルナー子爵領、ローデン商会から条件が届いた後、購入先を決める。


 穀物をどこから運ぶかは、まだ決まっていない。


 だが、ピコが今夜からどこで眠るかだけは決まった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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拾いたての子ネッコであるw 農は国の基で食は人の基本 食えなくなったらどんな理窟も吹き飛びますからなー どこぞの軍師や提督ではありませんが「国民を飢えさせるものに国民を率いる資格はない」のですからし…
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