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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第390話 発展の裏側

新連載はじめました

「元日本最強の探索者、今はダンジョン救助員です」という物語です。

https://ncode.syosetu.com/n8731mn/1から読めますので、ぜひ読んでみて下さい。

 南部の視察から領都へ戻った翌朝、俺はエリアスを伴い、父上の執務室を訪れた。


 部屋には父上だけでなく、母上もいる。


 机の上には、エリアスが昨夜のうちにまとめた三つの村の記録が並べられていた。


「ピー」


 俺の腕の中で、ピコが小さく鳴く。


 父上の視線が、書類ではなく淡い水色のスライムへ向いた。


「リオン。それは何だ?」


「南部の村で出会ったスライムです。

俺についてきたので、領都まで連れてきました」


「ピー」


 ピコは挨拶をするように体を伸ばした。


「お前は南部の農業を調べに行ったはずだが」


「倉庫の床下を調べる時には役に立ちました」


「それは後で聞く」


 父上が額へ手を当てる。


 母上は少し楽しそうにピコを眺めていたが、何も言わず、俺たちへ席を勧めた。


 ピコを膝の上へ下ろし、俺は父上の向かいに座った。


「では、報告します」


「ああ」


「今回、南部で状況の異なる三つの村を見てきました」


 俺は最初の村から説明を始めた。


「一つ目の村には、まだ耕せる土地が残っています。

水もあり、農地として使うことに大きな問題はありませんでした」


「ならば、なぜ使われていない?」


「耕す人が足りないからです」


 父上の表情がわずかに険しくなる。


「今ある畑を維持するだけでも、人手に余裕がありません。

若い者の多くは、領都や西の森へ移ろうとしています」


「止めるよう頼まれたのではないか?」


「村長からは、そう頼まれました」


「どう答えた?」


「移る人を村へ縛りつけることはできないと答えました」


 父上はすぐには何も言わなかった。


 代わりに、母上が口を開く。


「領都や西の森へ移ることを禁じれば、村に残る人々の不満も大きくなるでしょうね」


「はい。それに、領都や西の森には実際に仕事があります。

以前より高い収入を得られるなら、移りたいと考えるのは当然です」


「続けろ」


「一つ目の村では、農家自身も、一年の収入や支出を正確には把握していませんでした。

何をどれだけ作り、家で使い、種に残し、売り、どれだけ費用がかかったのか。

その記録がありません」


 エリアスが、机の上から一枚の紙を父上へ差し出した。


「いくつかの農家を選び、簡単な記録を試していただく予定です」


 父上は紙へ目を通し、頷いた。


「二つ目の村では、収穫量の差に土の扱い方が関係している可能性が見つかりました」


「土の扱い方?」


「同じ作物ばかりを続けて植えず、豆を育てたり、土地を休ませたりしていました。

また、家畜の糞と藁を十分に寝かせてから畑へ入れています」


「それで収穫が増えるのか?」


「まだ断定はできません。そのため、使われていない農地を四つに分け、条件を変えて試験を行います」


 父上へ、試験内容を記した紙を渡す。


 一つ目は、これまでどおりに耕す。


 二つ目は、硬くなった土を深くほぐす。


 三つ目は、寝かせた家畜の糞と藁を入れる。


 四つ目は、その両方を行う。


 同じ日に同じ数の芋を植え、水や草取りの条件を揃える。


「三か月ほどで、最初の収穫を比べられる見込みです。

豆の効果については、別の区画を使い、翌年まで確認します」


「結果が出るまで時間がかかるな」


「はい。だから、今すぐ必要な食料は別の方法で補う必要があります」


「三つ目の村は?」


「畑そのものには、大きな問題はありませんでした」


 父上が眉を寄せる。


「それでも、記録上の収穫量は少なかったのだろう?」


「村が報告していたのは、畑で刈り取った量ではなく、乾燥や選別を終えて共同倉庫へ納めた量でした」


「その途中で減っていたのか」


「はい」


 若い人が減ったことで、刈り取った後の乾燥や運搬に手が回らなくなっていた。


 雨が降りそうでも、すべての穀物を屋根の下へ運べない。


 乾燥場所を空けるため、十分に乾く前に袋へ入れることもある。


 さらに共同倉庫の点検も後回しになっていた。


「倉庫には、床下の湿気と鼠の侵入がありました。

床の隙間から落ちた穀物も、長い間そのままになっていました」


「そこで、そのスライムが役に立ったの?」


 母上がピコへ目を向けた。


「はい。倉庫に問題があることは分かりました。

ただ、どの場所に被害が集中しているかまでは分かりませんでした。

ピコが床下へ入り、場所を知らせてくれました」


「ピー!」


 自分の話だと分かったのか、ピコが膝の上で弾む。


「勝手に入っただけですが」


 エリアスが付け加えた。


「それでも見つかったからよかったよ」


「次も無事に戻ってくるとは限りません」


「分かっているよ」


 父上が机を指先で軽く叩いた。


「三つの村で、問題の表れ方が違ったということか」


「はい。一つ目は、畑を耕す人が足りない。

二つ目は、土の扱い方によって収穫量に差が出ている。

三つ目は、収穫後の作業と保管に問題がありました」


「だが、共通する問題もあるのだろう?」


「若い人が減っていることです」


 部屋の空気が少し重くなった。


 南部から領都や西の森へ人が移っている。


 それ自体は、領内に新しい仕事が増えた結果だ。


 悪いことではない。


 むしろ、領民が以前より多くの選択肢を持てるようになった証拠でもある。


「領都や西の森の発展を止めるつもりはありません」


 俺は父上を見ながら続けた。


「ですが、食べる人が増えている場所へ南部の人が移り、その南部では作る人が減っています」


「このまま続けば、どうなる?」


「今ある畑を維持できなくなる可能性があります。

収穫期の作業が遅れ、倉庫や水路の管理にも手が回らなくなる。

領都へ届く穀物が減れば、食料の価格はさらに上がります」


「領外から買えばいいのではないか?」


「当面は、その必要があります」


 父上がこちらを見る。


「当面は、か」


「領外から買えば、すぐに不足を補えます。ただ、輸送費がかかります。

相手の領で不作になれば、価格が上がるかもしれません。

道が使えなくなれば、運び込めないこともあります」


「輸入だけに頼るのは危険ということね」


 母上の言葉に、俺は頷いた。


「はい。輸入は必要です。

でも、南部の生産を立て直すことも同時に進めなければなりません」


「何から始める?」


 父上に問われ、俺は用意していた紙を机へ置いた。


「まず、短期の対策です。

領外から少量の穀物を購入するため、価格と輸送経路を調べます。

それと、三つ目の村の倉庫を修繕します」


「購入先は決まっているのか?」


「まだです。安いだけでなく、継続して買える量と、運ぶのにかかる日数も確認します」


「分かった。続けろ」


「南部の村ごとに、どの時期に、どの作業で、何人ほど不足しているかも調べます。

近隣の村同士で一時的に人手を融通できるか確認したいです」


「領都へ移った者を、収穫期だけ戻すのか?」


「希望者がいれば、それも考えられます。

ただ、戻ってもらうなら、日当や食事、移動の方法が必要です」


「強制はしないのね」


 母上に尋ねられ、俺は頷いた。


「はい。村へ残ることも、収穫期に戻ることも、本人が選べる形にします」


「それだけで人は農村へ残ると思うか?」


 父上の問いに、俺は首を横に振った。


「思いません」


 領都や西の森より収入が低く、生活も不便なままなら、農業を選ぶ人は増えない。


「中期的には、土壌改善の試験、倉庫や乾燥場所の整備、農具や家畜の不足調査を進めます。

農家が収入と支出を把握できる記録も必要です」


「長期では?」


「農業を専門に担当する文官を育てます。

それから、農村で暮らす家族への支援と、農業を始める人への支援を分けて考えたいです」


 父上は黙ったまま、俺の話を聞いている。


「農村で暮らす家族には、学校や子育て、生活環境を整える支援が必要です。

農業を選ぶ人には、土地や農具、家畜、記録、販売先の支援が必要です」


「農家だけを優遇すれば、ほかの村人から不満が出るでしょう」


 母上が言った。


「はい。だから、暮らしへの支援は農村の家族全体へ行います。

そのうえで、農業へ必要なものは、生産を始める人へ別に支援します」


「ずいぶん多いな」


 父上が書類を机へ置いた。


「人も金も限られている。すべてを同時には進められないぞ」


「分かっています」


「本当に分かっているのか?」


「……優先順位をつけます」


 父上はしばらく俺を見た後、エリアスへ視線を移した。


「少量輸入の調査を始めろ。倉庫の緊急修繕と、試験農地の使用も認める」


「承知いたしました」


「南部の人口と、収穫期の人手不足も調べさせる。

農業を担当する文官の候補についても選定を始めろ」


「はい」


「ただし、費用と担当者をまとめた計画を出してから動かすこと。リオン」


「はい」


「考えたことを、その場ですべて始めようとするな」


「気をつけます」


「毎回そう言っている気がするがな」


 報告を終え、俺が書類をまとめようとすると、父上がピコへ視線を向けた。


「それで、そのスライムはどうするつもりだ?」


「領都へ戻るまで、一緒に来ることにしていました」


「もう領都へ戻っているぞ」


「ピー」


 ピコが俺の膝から机の上へ移ろうとする。


 書類へ触れる前に抱き上げた。


「本人は残るつもりみたいです」


「本人と言っていいのかしら」


 母上が小さな器へ水を入れ、床へ置いた。


 ピコはしばらく母上を警戒していたが、水に気づくと、俺の腕から下りて器へ近づいた。


「ピー!」


 水へ体の一部を入れ、うれしそうに揺れる。


「人を襲う様子はなさそうね」


「今のところは、ですが」


 エリアスが答えた。


 父上は呆れたように息を吐く。


「飼うなら、ちゃんと世話をするんだぞ」


「ありがとうございます、父上」


「ピー!」


 ピコが大きく弾んだ。


「ピコも喜んでいます」


 領都と西の森が発展したことで、ハル領は豊かになり始めている。


 だが、その発展によって、南部から人が減り、領の食料を支える仕組みが弱くなっていた。


 発展した場所だけを見るのでは足りない。


 その裏側で生まれた綻びも、同時に直していかなければならなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ピコは、ミアにおしつ、、、 任せよう。(提案)
食糧は領内である程度賄えないと広域凶作からの飢饉で詰みますな 農村の優遇はこれを領民に理解させるところからでしょうか? 食うものがないというのは中世ならあるあるで満足に食える方が稀 まあこの世界ではど…
エリアスさんは優秀な文官だけどピコのこと偶然ですとか伝わってませんよとか勝手に入っただけですとか 魔物だからと、ひとくくりに考えてほしくないな 地球でも野生のエルザ、ムツゴロウさんのどんべい、鴨川のシ…
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