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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第387話 土を育てる

 翌朝、俺たちは村長の家を出た。


「大変お世話になりました」


「いえ。またいつでもお越しください」


 村長と妻に見送られ、馬車へ乗り込む。


 次に向かうのは、南部でも収穫量が多い村だ。


 馬車が動き始めると、エリアスが昨日まとめた紙を取り出した。


「次の村は、農地の広さに対して収穫量が多くなっております」


「人が多いの?」


「前の村より若者は残っておりますが、収穫量の差を説明できるほどではありません」


「牛や馬は?」


「周辺の村と大きな違いはございません」


「農具も同じ?」


「記録を見る限りでは」


 人手も、牛馬も、農具も特別ではない。


 それでも収穫量が多い。


「何か理由があるはずだね」


「それを確かめるための視察です」


 馬車は畑の間を進んでいく。


 しばらくすると、道の先に次の村が見えてきた。


 ◇


「ようこそお越しくださいました」


 村の入口では、村長と数人の農民が待っていた。


 挨拶を済ませ、すぐに畑へ案内してもらう。


 小麦の穂はよく揃い、畑の端まで同じように育っている。


 前日に見た村の畑より、明らかに育ちがよかった。


「今年だけ、よく育っているのですか?」


「いえ。多少の違いはございますが、例年このくらいでございます」


「病気や虫の被害は?」


「今のところ、大きな被害は出ておりません」


 畑の横には水路が通っている。


 しかし、特別広いわけでも、水量が多いわけでもない。


 使っている鍬や鋤も、前の村で見たものと変わらなかった。


「水路や農具に、大きな違いはないね」


「はい」


 俺は意識を集中させ、畑を見た。


≪土壌状態:良好≫

≪保水力:安定≫

≪土壌の消耗:少ない≫


 作物だけではなく、土の状態がよい。


「この畑では、毎年小麦を作っているのですか?」


「いいえ」


 村長の隣にいた年配の農民が答えた。


「昨年は豆を植えておりました」


「その前は?」


「小麦です。その前には、一部の土地を休ませております」


「毎年、作るものを変えるのですか?」


「はい。昔から、そのようにしております」


 俺は畑の土を少し手に取った。


 柔らかく、細かくほぐれている。


「ほかにも、何かしていることはありますか?」


「家畜の糞を、藁や枯れ草と混ぜて畑へ入れます」


「そのまま入れるのですか?」


「いえ。しばらく寝かせてからでございます」


「どれくらい?」


「臭いが弱くなり、形が崩れるまでです。季節によって変わりますので、日数は決めておりません」


 長年の経験で、畑へ入れてもよい状態を見分けているらしい。


「収穫した後の茎や葉は?」


「燃料にする分を除いて、畑へ戻しております」


「どうして、そうするようになったのですか?」


 年配の農民は、少し考えた。


「土も、同じものばかり育てていると疲れるからです」


「土が疲れる?」


「祖父から、そう教わりました。

小麦の後に豆を植えたり、何も作らず休ませたりすると、次の小麦がよく育ちます」


「理由は分からない?」


「分かりません。ただ、昔からそうしてきました」


 前世でも、同じ作物を続けて育てると、土が痩せるという話は聞いたことがある。


 豆を育てた後の土地では、別の作物が育ちやすくなることも。


 だが、この世界でも同じように働くとは限らない。


「村のどの家でも同じ方法を使っているのですか?」


「おおよそは。ただ、入れる量や、土地を休ませる時期は家によって違います」


「畑ごとの収穫量は記録していますか?」


「村全体のおおよその量は残しておりますが、畑ごとには……」


 エリアスが俺を見る。


 昨夜話した記録が、ここでも必要になりそうだった。


「畑ごとに、何を育てて、どれだけ採れたかが分かれば、どの方法がよいか比べられるかもしれないね」


「昔から続けてきた方法では足りないのでしょうか」


 村長が不思議そうに尋ねた。


「この村では、うまくいっています。でも、ほかの村でも同じ結果になるかは分かりません」


「土が違うからですか?」


「それもあります。それに、何が一番効果を持っているのか、まだ分かっていません」


 家畜の糞と藁を入れたからなのか。


 豆を植えたからなのか。


 土地を休ませたからなのか。


 すべてを一緒に行っているだけでは、それぞれの効果を比べられない。


「条件を変えて、一つずつ試してみたいんです」


「私どもの畑で、ですか?」


「それは……」


 俺は言葉を止めた。


 農家の畑を借りて試せば、失敗した時にその家の収穫が減る。


 新しい方法を試すために、農家の暮らしを危険にさらすわけにはいかない。


「リオン様」


 村長が村の外れを指した。


「あちらにも、以前は畑だった土地がございます」


「今は使っていないのですか?」


「はい。ただ、あまりよい土地ではございません」


「見せてもらえますか?」


「もちろんでございます」


 村長の案内で、村の外れへ向かう。


 よく育った畑が途切れた先に、草のまばらな土地が広がっていた。


 地面は硬く、表面には雨水が流れた跡が残っている。


「以前は誰が使っていたのですか?」


「三年前まで、一軒の農家が使っておりました」


「今は?」


「家族全員が領都へ移りました。

土地を引き継ぐ者もおらず、領主家へ返されております」


「借りたい人はいないのですか?」


「何年作っても収穫が少なかった土地です。

ほかの畑を借りられるなら、誰もこちらを選びません」


 俺は土地の中央まで歩き、意識を集中させた。


≪耕作適性:あり≫

≪土壌の消耗:大≫

≪保水力:低下≫

≪土の硬化:進行≫


 農地として使えないわけではない。


 ただ、長く使われる中で、作物が育ちにくい状態になっている。


「以前は、何を作っていたのですか?」


「主に小麦でございます」


「豆や、ほかの作物は?」


「ほとんど作っていなかったと思います」


「家畜の糞や藁は入れていましたか?」


「家畜を持たない家でしたので、あまり使っておりませんでした」


 よく育つ畑との違いが、少しずつ見えてきた。


 同じ作物を続けて育てる。


 土へ戻すものが少ない。


 育ちが悪くなっても、生活のために使い続ける。


 その結果、さらに収穫が減っていったのだろう。


「この土地を、農業の試験に使えないかな」


「この土地を、でございますか?」


 村長が驚いた。


「もっとよい土地もございます」


「よい土地では駄目なんです」


「なぜでしょう?」


「最初から作物がよく育つ土地で成功しても、方法がよかったのか、土がよかったのか分かりません」


 俺は、硬くなった土を見下ろした。


「この土地をもう一度使えるようにできれば、同じような畑を持つ村でも役立つかもしれない」


「ですが、失敗すれば何も収穫できません」


「だから、農家の畑ではなく、領主家の土地で試したいんです」


 農家に新しい方法を試してもらい、失敗した時の損だけを農家に負わせることはできない。


「この土地を、リオン様ご自身が耕されるのでしょうか?」


「毎日俺が耕すわけではありません」


「それはそうでしょう」


 隣でエリアスが静かに頷いた。


「少しくらい否定してくれてもいいんだけど」


「学院へ通いながら南部で農作業をするのは、難しいと思います」


「分かっているよ」


 土地を管理する人。


 作業をする農家。


 記録をつける文官。


 実際に試すには、それぞれ必要になる。


「まず、この土地を同じ広さに分けよう」


「何を試されるのですか?」


「最初は、早く違いを確かめられる試験がいい」


 俺は、なるべく土の状態が似ている場所を《綻びの目》で確認した。


「四つの区画を作ります」


 一つ目は、今までどおりに耕す。


 二つ目は、固くなった土を深く耕してほぐす。


 三つ目は、十分に寝かせた家畜の糞と藁を土へ入れる。


 四つ目は、土を深くほぐしたうえで、同じものを入れる。


「そこへ、同じ数のジャガイモを、同じ日に植えます」


「小麦ではないのですか?」


 村長が尋ねた。


「最初の違いを見るなら、ジャガイモの方が分かりやすいと思います」


 地上に出る茎や葉だけではない。


 収穫した芋の数、大きさ、重さを区画ごとに比べられる。


「水や草取りの回数も、できる限り揃える。そのうえで、芽が出る速さや育ち方、収穫量を比べます」


「いつ頃、結果が分かるのでしょう」


「育ち方の違いなら、早ければ数週間で見えるかもしれません」


「それほど早く?」


「本当の結果は、収穫してからです。

でも、ジャガイモなら三か月ほどで最初の比較ができると思います」


 エリアスが紙へ書き留める。


「必要な人手と、かかった費用も記録するのですね」


「うん。収穫が増えても、それ以上に人手や金がかかるなら、ほかの農家には勧められない」


「先ほど話していた豆は使わないのでしょうか」


「豆は、別の場所で試したい」


 痩せた土地の端に、さらに小さな二つの区画を設ける。


 一方には豆を植える。


 もう一方には豆を植えず、同じように管理する。


「来年になったら、両方に小麦を植えます」


「豆を育てた土地と、育てなかった土地で、小麦の育ちを比べるのですね」


「そう。豆の効果は、今年中には分からないから」


「今年中に分かる試験と、来年以降に分かる試験を分けるわけですか」


「うん。早く確かめられることは早く確かめる。でも、一度の収穫だけで全部決めるつもりもない」


 ジャガイモの結果がよくても、たまたま天候がよかった可能性がある。


 別の土地で同じ結果になるとも限らない。


「まず、効果がありそうかを見る。その後も何年か続けて、本当に使える方法か確かめたい」


「短期的な食料不足には間に合いませんね」


「そこは輸入で補うしかない」


 この畑は、今すぐ領都の食料を増やすためのものではない。


 数年後、南部全体で収穫を増やせる方法を見つけるための畑だ。


「正式に使用するには、旦那様の許可が必要です」


「それは分かっているよ」


「ただし、調査予定地として確保し、ほかの者へ貸し出さないようにすることは可能です」


「なら、そうしておいて」


「先ほどまで、誰も借りたがらない土地でしたが」


「改善できたら、借りたい人が出るかもしれないからね」


 エリアスは、土地のおおよその広さを書き始めた。


 村長が、まだ信じられないような顔で尋ねる。


「本当に、このような土地で試されるのですか?」


「この土地だから、試したいんです」


 よい土地で、より多く作る方法だけでは足りない。


 痩せた土地を、もう一度使える土地に変える。


 それができれば、今は使われていない農地も、ハル領の食料を支える力になる。


「村長。この村で、土の扱いに詳しい農家を紹介してもらえますか?」


「先ほどの者であれば、長く畑を見ております」


「その人にも協力してもらいたい」


「承知いたしました」


「エリアスは、記録を担当できそうな文官を探して」


「まだ農業担当の文官は決まっておりません」


「最初の仕事にちょうどいいと思わない?」


「候補者が逃げ出さないことを願います」


「そんなに大変かな」


「リオン様が途中で試す区画を増やさなければ、大丈夫でしょう」


「気をつけるよ」


 エリアスは信用していないようだったが、その手は止まっていなかった。


 早ければ数週間で、最初の違いが見える。


 そして三か月後には、ジャガイモを掘り出して比べられる。


 作物を育てる前に、まず土を育てる。


 そのための試験農地を、俺は初めて手に入れようとしていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ジャガイモの試験収穫....!? 火星に1人取り残された植物学者マーク·トワニーがジャガイモを作っている絵が頭に浮かんだ(笑)
転生してても皆が農業に詳しいわけではないですからなぁ・・・ 特に農家以外では畑に関わることはほとんどないのが当たり前です ご先祖さんは試行錯誤の連続だったでしょうに頭が下がる農家です
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