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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第17章 王立学院五年 夏休み

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第379話 領地の優先順位

今回は「45歳社長、~」初の企画を行います。

題して「あなたの考えるヒロインは誰?」です。

一番下まで進んで投票をお願いします。

 温泉を出て屋敷へ戻った頃には、空が夕焼けに染まり始めていた。


「お帰りなさいませ、リオン様」


 玄関で待っていたミアが、俺の顔を見るなり小さく笑う。


「ずいぶん、すっきりしたお顔ですね」


「西の森の温泉に入ってきたんだ」


「やはり、そうでしたか」


「分かってたの?」


「はい。帰りが遅くなるという連絡を受けておりましたので」


 レナードが馬車を待たせると伝えた時、屋敷にも知らせを送っていたらしい。


「少しだけ入るつもりだったんだけどね」


「温泉へ入られたリオン様が、少しだけで済むとは思っておりませんでした」


 ミアはそう言いながら、俺の上着を受け取った。


 反論できない。


「旦那様と奥様は、食堂でお待ちです」


「分かった。着替えたらすぐに行くよ」


 部屋へ戻り、簡単に着替えてから食堂へ向かった。


 ◇


「お帰りなさい、リオン」


 食堂へ入ると、母上が穏やかに迎えてくれた。


 父上もすでに席についている。


「ただいま戻りました」


「西の森はどうでしたか?」


「かなり変わっていました。

リバーシ工房も動いていますし、家族で暮らす人も増えています」


 席につくと、温かい料理が運ばれてくる。


 母上は俺の顔をじっと見た。


「少し日に焼けましたね」


「ずっと外を歩いていたからだと思います」


「学院のお休みで帰ってきたのですから、毎日働かなくてもよいのですよ」


「今日は温泉にも入りました」


 休んだことを伝えたつもりだったが、父上が小さく笑った。


「温泉へ入る直前まで、排水路の話をしていたそうだな」


「もう聞いたのですか?」


「レナードから、簡単な報告が届いている」


「仕事の話をしてから温泉に入ったので、休んではいます」


「それを休みと言ってよいのかしら」


 母上が困ったように笑う。


「ですが、久しぶりの温泉は気持ちよかったです」


「その顔を見れば分かる」


 父上も笑った。


 その後は、学院での生活や期末試験の話をしながら食事を進めた。


 食事を終える頃、父上が俺を見る。


「西の森で考えたことがあるのだろう?」


「はい。いくつか相談したいことがあります」


「では、執務室で聞こう」


 ◇


 夕食後、俺は父上の執務室へ向かった。


 母上も学校の話をもう少し聞きたいと言い、そのまま一緒に来ている。


 机の上には、領都と西の森から届いた報告書が積まれていた。


「まず、今回見たことから話してくれ」


「分かりました」


 俺は、西の森の状況を順番に報告した。


 リバーシ工房が本格的に動き始めたこと。


 夜間学校で読み書きや計算を学んだ者たちが、検品や記録の仕事を任されていること。


 家族を呼び、住宅区画で定住を始めた者が増えていること。


 温泉を中心に飲食店や宿ができ、商人や冒険者、旅人も集まっていること。


「西の森全体のうち、人の手が入っているのは一割ほどです」


「その一割の進捗は?」


「当初の計画に対して、六割ほどだとレナードが話していました」


 主要な道、井戸、管理所、共同宿舎、温泉、工房は整っている。


 だが、住宅や倉庫、荷車置き場、宿泊施設などはまだ足りない。


「現在の人員なら、当初の計画は一年ほどで整えられるそうです。

ただ、移住や出店を希望する者が想定より増えています」


「計画の完成前に、次の区画が必要になる可能性があるか」


「はい」


 父上は机の上の報告書へ目を向けた。


「書面でも人が増えていることは分かっていた。

だが、実際にどう暮らしているかまでは見えないな」


「西の森は、もう森の仕事をする人だけの場所ではありません」


 俺は住宅区画で出会ったトーマの家族についても話した。


 夫婦が同じ場所で働き、娘と三人で暮らしている。


 母親は夜間学校へ通い、将来は記録の仕事を任されたいと考えている。


「それで、相談というのは?」


「まず、子どもたちの学校についてです」


 ◇


 俺は、住宅区画で見た子どもたちの状況を説明した。


 日中、年長の子が幼い弟や妹の面倒を見ている。


 子どもを一人にできず、働きたくても仕事に出られない親もいる。


 文字や計算を学びたい子どももいるが、夜間学校は時間が遅く、幼い子には通いにくい。


「西の森の夜間学校を、昼間は子どもの学校として使いたいと思っています」


「夜は大人が使い、昼は子どもが使うのね」


 母上が確認する。


「はい。最初は週に数日、午前中だけでもいいと思っています」


「何を教えるつもりだ?」


「自分の名前を読み書きすること。数を数えること。

簡単な足し算や引き算。それから、危険や避難を示す札の意味です」


 父上は少し考える。


「学校が必要なのは、西の森だけではないだろう」


「自分もそう思っています」


 領都にも、すでに夜間学校はある。


 ただし、教える内容も教師によってばらつきがある。


 読み書きを中心に教える日もあれば、仕事で使う計算を教える日もある。


 決まったカリキュラムと呼べるものは、まだ作られていない。


「領都の夜間学校も、まだ仕組みが整っていません」


「確かにな」


「だから、いきなり領都でも子どもの学校を始めるのではなく、まず西の森で小さく始めたいです」


「西の森を試す場所にするのか」


「はい。教える内容や時間、必要な教師の数。それから、子どもたちを年齢でどう分けるかも確かめます」


 西の森には、夜間学校の建物がある。


 学んだ者の中から、教師の候補を探すこともできる。


 子どもの人数も、領都ほど多くない。


「そこでうまくいった方法を、領都の夜間学校にも取り入れたいと思っています」


「領都では、大人向けの授業も整理するのですね」


「はい。子ども向けだけではなく、大人向けも含めて、何をどの順番で教えるかを考えられます」


 西の森で作った仕組みを、そのまま領都へ持っていくわけではない。


 人数も必要とされる仕事も違う。


 それでも、最初の形を作ることはできる。


「将来的には、西の森や領都だけではなく、ハル領の他の集落でも、子どもが学べる場所を作りたいです」


 この世界では、幼い頃から文字や計算を学べるのは、貴族か裕福な商人の子どもがほとんどだ。


 前世では、家の裕福さにかかわらず、多くの子どもが学校へ通っていた。


 すぐに同じものを作ることはできない。


 だが、少しずつ近づけることはできるはずだ。


「幼い子と、文字を学ぶ年齢の子を、同じように教えるのは難しいのではありませんか?」


 母上が尋ねる。


「自分もそう思います」


 文字や計算を学ぶ子どもと、まだ長く座っていられない幼い子どもでは、必要な対応が違う。


「学ぶ子どもたちと、見守りが必要な幼い子どもは、分けた方がいいと思います」


「教える者とは別に、幼い子を見る者も必要ですね」


「はい。その人たちへの報酬も必要になります」


 父上がさらに尋ねる。


「子どもを学校へ通わせたくない親もいるだろう。

家の仕事を手伝わせたい者もいる」


「最初は希望する家庭から始めます」


「無理に通わせることはしないのだな」


「はい。ただ、通わせた家庭でどんな変化があったかは、他の住民にも伝えたいです」


 文字が読めるようになった。


 数字を数えられるようになった。


 危険を示す札が理解できるようになった。


 そうした成果が見えれば、学校へ行かせたいと考える親も増えるかもしれない。


「働く親のためだけに作るのではありません」


 俺は付け加える。


「子どもが安全に過ごし、学べることが一番です。

その結果として、働ける親が増えるのが良いと思っています」


 母上は静かに頷いた。


「その順番なら、私も賛成です」


 ◇


「もう一つは、西の森の排水設備です」


 俺は、温泉周辺の状況を説明した。


 現時点では悪臭もなく、水があふれているわけでもない。


 だが、飲食店ごとに排水方法が異なり、油や細かな食べかすが溝へ流れ込んでいる。


 そのため、排水溝を掃除する回数も増えている。


「今は、排水路を広げ、飲食店の処理方法を揃えれば対応できます」


「具体的には?」


「温泉の湯と飲食店の排水を分けます。

食べかすは籠で受け止め、油は別に集める。

細かな汚れは、一度水を溜めて底へ沈めてから流します」


「店ごとに、違うやり方をさせないということか」


「はい。水を流す方向も統一します」


 父上は報告書を一枚手に取った。


「それだけで足りるのか?」


「今は足ります」


 俺は一度言葉を区切った。


「でも、西の森を今後さらに成長させるなら、いずれ領都並みの排水設備が必要になると思います」


 父上と母上が、そろって俺を見る。


「領都並みか」


「住宅、工房、宿、飲食店が増えれば、小さな溝を広げるだけでは限界が来ます」


 西の森は、まだ全体の一割しか開拓されていない。


 その一割も、現在は六割までしか整っていない。


 それでも排水量は増え始めている。


「領都でも、問題が起きてから排水路を作ったわけではありません」


 人や建物が増える前に、将来必要になると判断して工事を行った。


「西の森も、同じように考える必要があります」


「すぐに大規模な工事を始めるのか?」


「いいえ。今は、現在の排水路の改善を優先します」


 ただし、将来の主要な排水路をどこへ通すのかは、今から考えておく。


 建物が増えた後で地面を掘り返せば、店や住宅を移すことになるかもしれない。


「将来、水路を通す場所には建物を建てない。そのための計画だけは、今から始めたいです」


「なるほど」


 父上は椅子の背へ身体を預けた。


「学校と排水。どちらも必要なことは分かった」


「はい」


「だが、資金も人手も無限ではない」


 父上の視線が、まっすぐこちらへ向けられる。


「お前なら、何を優先する?」


 ◇


 俺は少し考えた。


 必要な事業を並べるだけでは、領地は動かせない。


 どれから始めるかを決めなければならない。


「自分なら、費用と期間、それから領への効果で判断します」


「うん」


「まず、西の森の排水改善を最優先にします」


「学校ではないのですね」


 母上が尋ねる。


「はい。排水は、すでに掃除の回数が増えています。

大きな問題が起きてはいませんが、今なら少ない費用と短い期間で改善できます」


 悪臭や汚染が起きてからでは、店を止めなければならなくなるかもしれない。


 住民の健康にも関わる。


「今の賑わいを止めず、さらに店や住宅を増やすためにも、先に排水を整えるべきです」


 父上が頷く。


「次は?」


「西の森で、子どもの学校を試験的に始めます」


 既存の夜間学校を使えるため、新しい建物を建てる必要はない。


 教師候補と見守り役が見つかれば、比較的短い期間で始められる。


「西の森で始めている間に、領都でも子どもの人数や教師候補を調べます」


 父上は、机を指で軽く叩きながら考えている。


「本格的な排水設備はどうする?」


「長期計画として、設計だけは始めます」


 すぐに工事を始めれば、費用も人手も大きくなる。


 現在の開拓速度や人口増加が、今後どう変わるかも分からない。


「今すぐ必要な部分だけ改善して、街がどこまで広がるかを見ながら段階的に作ります」


「費用が大きいから、ただ後回しにするのではないのだな」


「はい。将来必要になることが分かっているなら、今から場所と計画だけは決めておきます」


 父上はしばらく黙っていた。


 やがて、静かに頷く。


「よいだろう」


「ありがとうございます」


「排水については、レナードに現地の調査を続けさせる。

費用はエリアスにも確認させよう」


「はい」


「学校については、西の森の子どもの人数と教師候補を調べる。

領都も、夜間学校の現状を整理させる」


「お願いします」


「最終的な許可は、報告を見てから出す」


 父上は領主だ。


 俺が案を出しても、最後に決めるのは父上になる。


 その手順を飛ばさないことも大切だった。


 ◇


 話がまとまり、俺は執務室を出ようとした。


「リオン」


 父上に呼び止められ、振り返る。


「何ですか、父上?」


「お前には、感謝している」


 突然の言葉に、すぐには返事ができなかった。


「学院の休みのたびに戻り、領内を歩いてくれた」


「自分の家に帰ってきているだけです」


「帰ってきて休むだけでも、誰も責めはしない」


 父上は机の上の報告書へ目を向ける。


「だが、お前は領都や西の森へ足を運び、そこで働く者たちと話してきた」


 西の森開拓。


 夜間学校。


 街灯。


 温泉。


 リバーシ。


 俺が学院の休みの間に関わってきたものは多い。


「そのことで、領地の形だけが変わったわけではない」


 父上は続ける。


「そこで働く者たちも変わった」


「働く人たちが?」


「ああ」


 以前のエリアスは、与えられた仕事を正確にこなすことを重視していた。


 今は、領都が将来どう広がるかを考え、必要な対策を先に進めるようになった。


 レナードも、目の前の作業だけではなく、西の森全体の人と物の流れを見るようになった。


 ノルも、騎士団の訓練と警備だけではなく、住民の安全を街づくりへ反映している。


 誰かに指示されるのを待つのではなく、自分の仕事を良くしようとしている。


「お前が、すべてを動かしているわけではない」


「はい」


「だが、お前が先を考える姿を見せたことで、皆も自分の役目の中で先を考えるようになった」


 今回、領内を見て回って、俺も同じことを感じていた。


 エリアスは、俺が何も言わなくても新住宅区画の問題を把握していた。


 レナードは工房や住宅区画を整え、西の森を前へ進めていた。


 俺がいない間も、領地は止まっていなかった。


「自分も、今日それを感じました」


「そうか」


「俺がいなくても、みんなが領地を前へ進めてくれていました」


 父上は、穏やかに笑った。


「それが、お前がこの領にもたらした一番大きな変化かもしれないな」


 仕組みや建物は、いずれ古くなる。


 だが、自分で考え、改善する人が増えれば、領地はその先も変わり続けられる。


「だからこそ、帰ってきた時くらいは少し休め」


 父上の声が、急に父親らしいものへ戻った。


「明日は、予定を入れるな」


「明日は……」


 返事をしようとした瞬間、領都で確認しておきたいことが頭に浮かんだ。


 父上が、俺の顔を見て目を細める。


「何か思い出した顔をしているな」


「午前中だけ、確認したいことがあります」


「午前中で終わるのか?」


「たぶん」


「たぶん、か」


 父上は呆れたように息を吐いた。


 隣では、母上が笑っている。


「午後は休みます」


「その言葉は覚えておこう」


「はい」


 明日の予定を考えながら、俺は父上の執務室をあとにした。




 いつも、ありがとうございます。


 【45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する】の登場人物ランキングを開催します!!


 今回は「あなたの考えるヒロインは誰?」です。


 投票方法は、いいねボタンと感想欄です。


 良かったら、1番好きな登場人物のリアクションを押してくださいね。


 セレナ:グッドマーク


 フィーネ:にこにこ顔


 ミア:泣き顔


 ミラ:ビックリ顔


 ナディア:泣き笑い顔


 是非、キャラ名を感想欄に書いて教えてください。    


 教えてくれたら、とっっても嬉しいです。


※絵文字を入力できないため、分かりにくくて申し訳ありません。


 結果は、来週の更新で発表します。


 投票、お待ちしております(*´︶`*)


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― 新着の感想 ―
うーん、ナディアかなあ?でも、ガイルとくっついちゃう?かもだけどね。昔はセレナが押しだったんですがねえ
2026/08/09 19:04 アルテイシア
うーん・・・どうしても家の事情が絡んでくるでしょう 相手の家の人数にもよるだろうし・・・どう頑張っても跡継ぎ惣領なら嫁さんにはできない 今の状況(主に魔法面で)なら陞爵の上で王家傍流、いるならエドガー…
ミラ、かなぁ。 ただ、ストーリー上、定まらない感じで進むのはどうかなぁ。とは思うので、決めた方向にまっすぐ進んでほしいとは思います。
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