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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第374話 成長

 翌朝。


 俺は屋敷の裏手にある騎士団の訓練場へ向かった。


 まだ朝の空気は涼しい。


 訓練場では、すでに何人もの騎士が木剣を振っていた。


 掛け声と、木剣が打ち合う音が響いている。


「リオン様」


 俺に気づいた騎士たちが、次々と頭を下げる。


「久しぶり。今日は俺も参加していいかな?」


「もちろんです」


 答えたのは、騎士団長のノルだった。


 王都まで迎えに来てくれた時とは違い、今は騎士団の訓練着を身につけている。


「ちょうど基礎訓練が終わったところです」


「それなら、少し相手をしてくれない?」


 俺が言うと、近くにいた騎士たちがこちらを見る。


 ノルは少しだけ目を細めた。


「久しぶりですね」


「ああ。学院では仲間たちと模擬戦をやったりしてたけど、ノルとはしばらくやってないから」


「分かりました」


 ノルは木剣を一本、俺へ投げ渡した。


 受け取って軽く振る。


「始めますか?」


「ああ」


 俺たちは訓練場の中央で向かい合った。


 周囲の騎士たちが、自然と場所を空ける。


 ◇


 合図と同時に、俺は踏み込んだ。


 正面から振り下ろした木剣を、ノルが受ける。


 乾いた音が響いた。


 以前なら、打ち合った瞬間にこちらの腕が押し戻されていた。


 だが、今回は違う。


 ノルの木剣を押し込むことはできなかったものの、こちらも簡単には崩されなかった。


「力がつきましたね」


「分かる?」


「以前より、剣が重くなっています」


 ノルはそう言いながら、俺の木剣を横へ流した。


 体勢を崩される前に、一歩下がる。


 力は増している。


 だが、それだけでノルに勝てるほど甘くはない。


 俺は息を整えながら、足元へ魔力を流した。


 浮遊魔法。


 本来は体を浮かせる魔法だ。


 だが、完全に浮かぶ必要はない。


 体にかかる重さを一瞬だけ軽くすれば、同じ力で地面を蹴っても、より速く動ける。


 俺は体重を軽くし、右へ踏み出した。


「――っ」


 ノルの視線が動く。


 一気に間合いを詰め、横から木剣を振るう。


 受けられた。


 だが、そのまま逆側へ回り込む。


 浮遊魔法を使った足運びなら、方向を変える時の負担も小さい。


 前へ。


 横へ。


 再び後ろへ。


 俺は細かく位置を変えながら、木剣を打ち込んでいった。


 ノルは後退しながら、最小限の動きで受け流していく。


 それでも、いつもより余裕がない。


 俺の剣先がノルの肩近くを通り抜ける。


 周囲から小さな声が上がった。


「速くなりましたね」


 ノルが一歩下がる。


「学院で覚えたんだ」


「なるほど」


 ノルは短く答えた。


 驚いてはいる。


 だが、すぐにこちらの動きへ合わせてきた。


 俺が踏み込むたび、ノルは剣の角度をわずかに変え、攻撃を受け流す。


 速く動けば、その分だけ自分の体勢も崩れやすい。


 浮遊魔法で体を軽くしている間は、踏み込みの重さも弱くなる。


「速いだけでは、崩れません」


 ノルの木剣が俺の横腹を狙う。


 身をひねって避けた。


 木剣の先が服をかすめる。


 あと少し遅ければ、そこで終わっていた。


 俺は距離を取り直す。


 浮遊魔法による速さだけでは、ノルを押し切れない。


 なら、速さと重さを分けて使えばいい。


 ◇


 再び体を軽くする。


 俺が一直線に踏み込むと、ノルが木剣を構えた。


 これまでと同じ高速移動を受けるつもりなのだろう。


 俺は間合いへ入る直前、浮遊魔法を解除した。


 体に重さが戻る。


 足の裏が、強く地面を捉えた。


 そのまま深く踏み込み、腰を回す。


 成長した体の力を、すべて木剣へ乗せる。


「はっ!」


 振り下ろした木剣を、ノルが正面から受けた。


 激しい音が訓練場へ響く。


 ノルの体が押され、右足が一歩後ろへ下がった。


「団長が押されたぞ」


 騎士の誰かが声を漏らす。


 手応えはあった。


 だが、次の瞬間。


 木が裂ける音がした。


「え?」


 俺の木剣が、中央から折れていた。


 折れた剣先が地面へ落ちる。


 ノルの木剣は、俺の首元で止まっていた。


「武器を失いましたな」


 ノルが静かに言う。


 俺は手元に残った木剣を見る。


「当てることばかり考えて、木剣が耐えられるかまで考えてなかった」


「それも戦いの一部です」


「剣が折れたら、どれだけ強く打てても意味がないな」


「はい」


 負けは負けだった。


 だが、ノルは木剣を下ろすと、少し嬉しそうに笑った。


「以前なら、私を一歩下げることもできませんでした」


「今回は下がったよね?」


「一歩だけです」


「一歩でも十分だよ」


「そうですね」


 ノルは折れた木剣を拾う。


「体の使い方も変わりました。速さだけでなく、重さへ切り替えた判断もよかったと思います」


「でも、最後は折れた」


「次は、武器が耐えられる範囲で使えばよいのです」


「簡単に言うな」


「リオン様なら、すぐにできるようになります」


 ノルは折れた部分を確認しながら言った。


「また強くなりましたね」


 その声には、騎士団長としての評価だけではなく、俺の成長を喜ぶ気持ちが混じっていた。


「次は折らずに勝つよ」


「楽しみにしています」


 ◇


 訓練を終え、汗を拭いていると、訓練場の入口にレナードが現れた。


「リオン様」


「レナード。もう来ていたのか」


「はい。西の森へ向かう準備が整いました」


 レナードは訓練場へ目を向け、折れた木剣に気づく。


「何かあったのですか?」


「少し強く打ち込みすぎた」


「リオン様の木剣が折れました」


 ノルが補足する。


「それは……お怪我はありませんか?」


「大丈夫。負けただけだよ」


「リオン様の成長には驚かされます」


「木剣を折ったことを褒められても困るな」


 着替えを済ませ、俺はレナードとともに馬車へ乗った。


 ノルは騎士団の訓練と、領内の警備に関する仕事が残っている。


「西の森は任せました」


「ああ。また後で」


 馬車が屋敷を離れ、西の森へ向かう。


 ◇


 西の森へ続く道には、以前より多くの荷車が行き交っていた。


 領都へ運ばれる木材。


 食料や道具を積み、西の森へ向かう荷車。


 中には、小さな木箱をいくつも積んだものもある。


「あれは何を運んでいるんだ?」


「完成した品です」


「完成した品?」


「到着すれば分かります」


 レナードは、わずかに楽しそうな顔をした。


 西の森の入口へ近づくと、木を削る音が聞こえてきた。


 以前よりも人は増えている。


 仮役場や食事小屋の周囲も整備され、荷車が通る道と人が歩く場所が分けられていた。


 そして、その奥。


 以前は空き地だった場所に、大きな建物が建っていた。


 長い屋根。


 荷車が並べる広い入口。


 複数の窓からは、作業する人々の姿が見える。


 工房が建ったこと自体は、手紙で聞いていた。


 だが、もっと小さな作業小屋のようなものを想像していた。


 目の前の建物は、俺が思っていたものより、ずっと大きく立派だった。


「ここまで大きいとは思わなかった」


「注文が予想以上に増えましたので、作業を分けて行える広さが必要になりました」


 レナードが建物を見上げる。


「こちらが、リバーシ専用工房です」


 建物の中から、一定の間隔で木を切る音が聞こえる。


 半年前には、まだ可能性として話していただけだった。


 工房が完成したことは手紙で知っていた。


 それでも、あの時の話がここまで大きな形になっているとは思わなかった。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
頭も良く性格もいい只今成長中あと2、3年もしたら立派な好青年 北欧の王子様の勝手なイメージがw 楽しみだわー
リバーシの需要が減ったら、囲碁とか、将棋とか、 あとは、チェス、ダイヤモンドゲームとか、 ボードゲームは、いろいろできるから、それも大きいのですかね。 ぜひ、軍儀も!
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