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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第369話 順位の先にあるもの

 期末試験が終わってから数日後。


 五年Sクラスの教室前には、朝から人だかりができていた。


「結果が出たみたいだよ」


 ミラの声に、リオンたちも掲示板へ近づく。


 貼り出されているのは、期末試験の総合順位だった。


 掲示されるのは上位10位までのはずだが、今回は11人の名前が並んでいる。


 リオンは上から順に目を通した。


 1位 リオン・ハル 385点

 2位 セレナ・ヴァレスト 376点

 3位 エドガー・アルスレイン 371点

 4位 ナディア・セルヴァン 369点

 5位 フィーネ・ラウベル 361点

 6位 レティシア・オルブライト 360点

 7位 ヴィクトル・ローデン 353点

 8位 クラウス・レインフォード 350点

 9位 ミラ・ハーウェイ 349点

 10位 ガイル・ベイルン 348点

 10位 オスカー・グランヴィル 348点


「やっぱりリオンが1位だ」


 ミラが最初に声を上げた。


「おめでとう」


「ありがとう」


 リオンは自分の名前を確認し、静かに息を吐いた。


 筆記試験には、飛び級したことで十分に学べていない範囲もあった。


 1位になれたことには安心したが、どこで失点したのかはまだ分からない。


 隣では、セレナが自分の点数とリオンの点数を見比べていた。


「9点差ね」


「思ったより近かった?」


「反対よ。もう少し縮められると思っていたわ」


 セレナは悔しそうに眉を寄せたが、落ち込んではいなかった。


「次は、この差をもっと小さくするから」


「俺も次はもっと取るつもりだよ」


「そうでなくては困るわ」


 セレナは当然のように言った。


 その下では、フィーネが掲示板を見つめたまま動かなくなっている。


「フィーネ?」


 リオンが声をかけると、フィーネは自分の名前を指した。


「5位……ですよね?」


「うん。361点で5位だよ」


「間違いではありませんか?」


「掲示板が間違っていなければね」


 ミラが答える。


「すごいじゃん、フィーネ」


「ありがとうございます。でも……」


 フィーネはまだ信じられない様子だった。


 必要な参考書をすべて買うこともできず、図書室の本を書き写して勉強していた。


 それでも、Sクラスの中で5位に入った。


「見間違いではありません」


 隣からレティシアが言った。


「フィーネさんが361点。私は360点です」


 レティシアは自分が1点差で下にいることを、しっかり確認していた。


「レティシアさん……」


「気にする必要はありません。フィーネさんが高得点を取ったことと、私が失点したことは別です」


 そう言ってから、レティシアは掲示板へ視線を戻す。


「ただし、次は負けません」


「私も、次はもっと取れるようにします」


 フィーネが小さく答えると、レティシアは少し意外そうに彼女を見た。


 やがて、わずかに口元を緩める。


「その方がいいです」


 ◇


 掲示板の下の方では、ガイルが自分の名前を探していた。


「……あった」


 思わず漏れた声に、ナディアが振り返る。


「10位ですね」


「俺の名前が載っている」


「見れば分かります」


「分かっているが、載るとは思っていなかった」


 ガイルは嬉しそうに自分の名前を見上げた。


 だが、そのすぐ下にも10位と書かれている。


「オスカーと同点か」


「だから11人いるのですね」


 オスカーが自分の名前を確認しながら言った。


「348点で同じです」


「俺は実技で稼いだ気がする」


「僕は、そこまで極端な点数ではないと思います」


「点の取り方が違っても、合計は同じということか」


 ガイルは不思議そうに呟いた。


 少し離れたところでは、クラウスがミラへ声をかけている。


「1点差だったな」


「言わなくても分かってるよ」


 ミラは349点、クラウスは350点。


「橋があと少し耐えてたら、私の方が上だったのに」


「それを含めての試験だろ」


 ヴィクトルが横から言う。


「ヴィクトルは7位なんだから黙ってて」


「俺も筆記と実技でかなり失点している」


「それでも私より上でしょ」


 ミラは不満そうに頬を膨らませた。


「結果の話はあとにしましょう」


 アデライン先生の声が廊下へ響く。


 生徒たちは慌てて席に着いた。 


 ◇


 全員が席に着くと、アデライン先生は封筒の束を教卓へ置いた。


「先ほど皆さんが見たものは、総合点と順位だけです」


 教室を見渡しながら、先生は続ける。


「順位が高ければ、すべての分野で問題がないわけではありません。

反対に、順位が低くても、得意分野で高い評価を受けた者もいます」


 封筒の中には、個別の成績表が入っているらしい。


「筆記、応用、実技、専門。それぞれの点数と、担当教師からの所見を記載しています。

自分が何点取ったかだけではなく、どこで失点したのかも確認してください」


 アデライン先生は一度言葉を切った。


「そして、もう一つ」


 先ほどまで成績の話に浮ついていた教室が静かになる。


「皆さんは五年生です。学院では最上級学年にあたります」


 分かっているはずのことだが、改めて言葉にされると、その響きは少し違って聞こえた。


「これから夏休みに入り、2学期へ進みます。

しかし、皆さんに残された学院生活は、決して長くありません」


 アデライン先生の声は穏やかだった。


「卒業後に、どこへ所属するのか。どのような仕事をするのか。

それだけではなく、学院で学んだことを何のために使いたいのか。

そろそろ考え始めてください」


 教室の空気が変わった。


 ガイルは騎士になるつもりなのだろう。


 ヴィクトルには実家の商会がある。


 セレナとエドガーには、婚約後の立場もある。


 だが、それだけで卒業後のすべてが決まるわけではない。


 リオン自身も、王立研究所から評価されている。


 領地へ戻る道もあれば、王都で研究を続ける道もある。


 王宮から協力を求められることもあるかもしれない。


 だが、自分が何を選ぶかまでは、まだ決めていなかった。


「今すぐ答えを出す必要はありません」


 アデライン先生が言う。


「ただし、考えないまま卒業の日を迎えないようにしてください」


 それから、個別成績表が一人ずつ配られた。


 ◇


 リオンの成績は、


 筆記94点。

 応用97点。

 実技96点。

 専門98点。

 合計385点。


 専門試験の所見には、


『実際の材料の差を見落とさず、途中で設計を修正した判断を高く評価する』


 と書かれている。


 一方、筆記試験には、


『正式な術式記述に一部不足あり』


 とあった。


 やはり、飛び級したことで十分に学べていない範囲が残っている。


 1位という結果だけで、安心することはできない。


 リオンは成績表を折り畳み、封筒へ戻した。


 ◇


 昼休み。


 いつものメンバーは食堂で成績表を見せ合っていた。


「見ろ。実技99点だ」


 ガイルが得意げに成績表を見せる。



「専門も97点ですね」


 ナディアが言う。


「そうだ。騎士コースでは、ほとんど失点していない」


「筆記は75点です」


「先に高い方を見てくれ」


「応用は77点ですね」


「ナディアは、俺の低い点ばかり探していないか?」


「逆です」


 ナディアは成績表の所見を指した。


『以前よりも条件を丁寧に確認し、理由を示して回答できていた』


「ここまで取れたのは、試験前に勉強したからですよ」


「実技99点より、そちらを見るのか」


「実技が高いことは知っていましたから」


 ガイルはしばらく筆記75点を見つめた。


「もし、もう少し低かったら10位には入れなかったな」


「そういうことです」


「では、勉強した意味はあったのか」


「はい。最初からそう言っています」


 ナディアの返事に、周囲から笑いが起きた。


「私は実技76点でした」


 フィーネが自分の成績表を見せる。


「筆記と応用は95点なのに、随分差があるね」


 ミラが言う。


「実技は、体が考えについていきませんでした」


「私はこちらです」


 レティシアが応用84点を示した。


「試験中に細部を考えすぎました。必要なことを先に書いたつもりでしたが、それでも遅かったようです」


「でも実技は91点だね」


「リオンから1本取った試合ですから」


 レティシアは少し誇らしげに答えた。


「次は、応用でも負けません」


「私も、実技をこのままにするつもりはありません」


 フィーネが返す。


 今度は、レティシアもすぐに頷いた。


「では、次も競争ですね」


 ◇


「クラウスと私、1点しか違わないんだよ」


 ミラがまだ納得できない様子で言う。


「専門が91点だったからな」


 ヴィクトルが成績表を見る。


「橋の棒が外れなければ――」


「壊れた理由を見つけるところまでが試験だったんだろう」


「ヴィクトルは材料を減らしすぎて結び目がほどけたじゃん」


「だから専門は94点だった」


「それで私より上なのが納得できない」


「筆記と応用も俺の方が高い」


「細かく比べないでよ」


 また笑いが起きた。


 セレナは、リオンの成績表を見ていた。


「1位でも、筆記に指摘があるのね」


「正式な術式記述は、まだ抜けているところがあるから」


「なら、次はそこも埋めるのでしょう?」


「そのつもりだよ」


「そう」


 セレナは自分の成績表を閉じる。


「では私は、今より強くなったあなたに勝たなければならないのね」


「俺が今のままでいるより、その方がいい?」


「当然でしょう」


 セレナは迷わず答えた。


 ◇


「それより、先生が言っていた卒業後の話だけど」


 ミラがパンを持ったまま切り出した。


「私はまだ、あまり実感がないな」


「俺は騎士になる」


 ガイルがすぐに答える。


「それは皆知っているよ」


 クラウスが言う。


「どこで、何をする騎士になるかという話だろう」


「……そこまでは決めていない」


 ガイルが少しだけ考え込む。


 ヴィクトルにも、実家の商会へ戻る道がある。


 だが、研究コースで学んだことを、商会でどう生かすのかはまだ決まっていない。


 フィーネも、文官として働きたい気持ちはあるが、どこへ所属できるかまでは分からない。


 進む道が決まっているように見える者にも、まだ選ばなければならないことが残っていた。


「リオンは領へ戻るの?」


 ミラが尋ねる。


「まだ決めていないよ」


「意外だね」


「研究所で学びたいこともあるし。でも、領地でやりたいこともあるんだよ」


「どちらも選ぶという方法もありそうだけどな」


 ヴィクトルが言う。


「それをどう実現するかも考えないとね」


 リオンは答えながら、自分の成績表へ目を落とした。


 今回の試験では1位だった。


 だが、アデライン先生が口にした「卒業後」という言葉は、385点という数字よりも長く心に残っていた。


「まずは次の試験で、筆記80点を取る」


 ガイルが突然言った。


 ナディアがすぐに頷く。


「では、夏休み中から準備しましょう」


「もう次の試験の勉強を始めるのか?」


「80点を取るのでしょう?」


「言ったが、今日からとは言っていない」


「早い方がいいですよ」


 ガイルが困ったように周囲を見る。


 誰も助けようとはせず、再び笑いが起きた。


 五年生になっても、学院での日々はこれまでと変わらず続くと思っていた。


 けれど、その先にある道を選ぶ時期は、もう遠くなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
リオンの点、おかしすぎだわ。
夏休みに領地に戻ってクラスメイトの話をリオンから聞いたら、フィーネにはエリアス&レナードからスカウトがすっ飛んでいきそうだ。
「11人いる!」は良いSFです。リオン争奪編が本格的に始まる気がする。
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