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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第368話 それぞれの専門試験

 期末試験三日目。


 五年Sクラスの生徒たちは、それぞれが選んだ専門コースの試験場へ向かうことになっていた。


「今日が終われば、ようやく試験も終わりだな」


 廊下へ出たところで、ガイルが大きく伸びをする。


「その前に、今日の試験で合格点を取ってくださいね」


 ナディアが言うと、ガイルは不満そうに振り返った。


「昨日の実技試験には合格しているだろう」


「今日は騎士コースの試験ですよ」


「剣を使うなら問題ない」


「部隊を指揮する課題かもしれません」


「それでも昨日の応用試験よりは分かりやすい」


「同じことを昨日の朝にも言っていましたね」


 ガイルが言葉に詰まる。


 その横でクラウスが苦笑した。


「ガイル、そろそろ行かないと試験前に疲れるぞ」


「俺ではなく、ナディアが話を長くしているんだ」


「はいはい。騎士コースは向こうだよ」


 ミラに促され、ガイルとクラウスは廊下の右側へ曲がっていった。


 セレナ、レティシア、ナディアは魔法コースの試験会場へ向かう。


「あなたたちも、試験だからといって魔力を使い切らないでくださいね」


 ナディアが二人へ言う。


「それはセレナさんに言うべきでは?」


 レティシアが答えた。


「どういう意味かしら」


「昨日の模擬戦を見ていれば分かります」


「あなたこそ、リオンに一本取ったからといって、今日は張り切りすぎないことね」


「その心配は不要です」


 二人の間に静かな火花が散る。


「もう試験が始まっているみたいだね」


 ミラが小声で言うと、リオンも頷いた。


 エドガーとフィーネは文官系の試験会場へ向かう。


「では、終わったら教室で」


 エドガーが言った。


「お互い、最後まで気を抜かないようにしよう」


「エドガーもね」


 リオンが返す。


 仲間たちはそれぞれ別の廊下へ進んでいった。


 残ったリオン、ミラ、ヴィクトルの三人は、研究コースの実験室へ向かった。


 ◇


 実験室の机には、細い木の棒、短い板、革紐、膠が並べられていた。


 部屋の奥には、二つの台を離して置いた試験台がある。


「橋でも作るのかな」


 ミラが材料を見ながら言う。


「そうみたいだな」


 ヴィクトルは木の棒を一本持ち上げ、太さを確かめた。


「ただし、材料はそれほど多くない」


 やがてクラリッサ先生が、生徒たちの前へ立った。


「本日の課題を説明します」


 先生が試験台を示す。


「用意された材料だけを使い、二つの台の間へ橋を架けてください。途中へ支柱を置くことはできません」


 完成した橋には、少しずつ重りが載せられる。


 どれだけの重さに耐えられるかが、評価の一つになるという。


「ただし、丈夫なら何でもよいわけではありません」


 クラリッサ先生は材料の並んだ机へ目を向けた。


「使用した材料の量、橋そのものの重さ、完成までにかかった時間も評価します。

魔法による補強は禁止です」


 つまり、限られた材料で、軽くて強い橋を作る。


 課題そのものは単純だった。


「試験中に一度だけ、小さな重りを使った確認を認めます。

それ以上の試験はできません」


 最初から完成形を作る必要がある。


 生徒たちは一斉に材料へ手を伸ばした。


 ◇


 ミラは簡単な図を描くと、すぐに木の棒を組み始めた。


 一本ずつ膠で固めるのではなく、革紐で仮留めしながら形を作っていく。


「先に全部決めなくていいの?」


 リオンが尋ねる。


「組んでみないと分からないよ」


 ミラは橋の中央を指で軽く押した。


「ほら、ここだけ動きが大きい」


 木材がきしむ音や、革紐が引かれる感触を確かめ、斜めの棒を一本追加する。


 魔力の流れを見る時と同じように、わずかな変化から弱い場所を探しているらしい。


 一方、ヴィクトルはなかなか作り始めなかった。


 材料の本数と長さを確認し、紙へ短い数字を書き込んでいる。


「まだ設計を考えているの?」


 ミラが訊く。


「使わなくていい材料を決めている」


「全部使った方が強くなるんじゃない?」


「使えば使うほど重くなる。それに、同じ橋を何本も作るなら材料費も増える」


「今日は一本だけだよ」


「一本作る時から考えておかないと、実際には使えないだろう」


 ヴィクトルは必要だと判断した棒だけを手元へ集めた。


 太い板を重ねるのではなく、細い棒を三角形に組み合わせていく。


 使わない材料は、最初から机の端へよけていた。


 ◇


 リオンも設計図を描き、木材を組み始めた。


 前世で見た橋の構造を参考に、三角形を連ねた形にする。


 形だけなら、強度は出るはずだった。


 だが、用意されている木材は完全に同じではない。


 一本ごとに太さや硬さが少しずつ違う。


 途中まで組み上げたところで、リオンは橋を二つの台へ載せた。


 まだ重りは使わない。


 まず自分の目で左右を見比べる。


 形は大きく崩れていない。


 それでも、どこかに違和感があった。


 リオンは橋へ意識を集中させる。


 視界に文字が浮かんだ。


≪構造安定性:低≫

≪荷重集中:中央接合部≫

≪崩壊起点:左側下部≫


 左側の下部。


 表示された場所を確かめる。


 しかし、《綻びの目》は壊れる場所を示すだけで、どう直せばよいかまでは教えてくれない。


 リオンは左右の構造を見比べた。


 角度は同じつもりだった。


 だが、左側に使った木材は、反対側よりわずかに細い。


 接合部も、ほんの少しだけ内側へずれている。


 設計図が正しくても、実際の材料まで同じとは限らない。


 このまま補強材を追加すれば、壊れにくくはできる。


 しかし、それでは橋が重くなり、材料も余計に使うことになる。


 リオンは、一度取り付けた棒を外した。


「今からそこを外すの?」


 隣のミラが驚いた声を上げる。


「このまま足すより、組み直した方がいいと思う」


「時間は大丈夫?」


「たぶん」


「たぶんなの?」


 ミラに言われ、リオンは時間を確認する。


 余裕があるとは言えなかった。


 それでも、弱い部分へ材料を重ねるだけでは、根本的な解決にならない。


 リオンは細い木材を負担の少ない場所へ移し、中央へつながる棒の角度を変えた。


 左右の形をそろえ、接合部を膠だけでなく革紐でも固定する。


 再び橋を台へ載せた。


≪構造安定性:中≫

≪荷重集中:軽減≫

≪接合部耐久性:一部不足≫


 まだ足りない。


 表示された接合部を見ると、革紐の巻き方がほかより少ない。


 太い革紐へ交換するのではなく、余っていた短い紐を重ねて結ぶ。


 今度は、


≪構造安定性:高≫


 と表示された。


 リオンはそこで手を止めた。


 さらに棒を加えれば、もっと強くできるかもしれない。


 だが、今日の試験は、最も重い橋を作る課題ではない。


「そこまでです」


 クラリッサ先生の声が響いた。


 ◇


 完成した橋が、順番に試験台へ置かれていく。


 最初の生徒の橋は、一つ目の重りには耐えた。


 二つ目を載せた瞬間、中央から折れる。


 次の橋は非常に頑丈だった。


 重りをいくつ載せても崩れない。


 しかし、使われている材料もほかの橋の倍近い。


「丈夫ですね」


 クラリッサ先生が言う。


 作った生徒が安心した顔を見せる。


「ですが、これを運ぶために、別の橋が必要になりそうです」


 実験室に小さな笑いが起きた。


 やがて、ミラの橋が試される。


 一つ目、二つ目の重りには耐えた。


 三つ目を載せた時、橋がわずかに傾く。


「あ、そこじゃない」


 ミラが思わず声を上げた。


 だが、もう触ることはできない。


 さらに重りが追加されると、中央近くの棒が一本外れ、橋が崩れた。


「やっぱり、そっちに力が逃げたんだ」


 ミラは悔しそうに橋を見つめる。


「変化には気づけています」


 クラリッサ先生が言った。


「次は、それを作る前の設計図へ残せるようにしてください」


「はい」


 続いて、ヴィクトルの橋が置かれる。


 使われた材料は少なく、橋自体も軽い。


 重りを載せるたびに中央が少したわむが、なかなか崩れない。


「本当に、あの材料だけで耐えてる」


 ミラが驚く。


 最後は木材ではなく、一本の革紐がほどけたことで橋が崩れた。


「結び目か」


 ヴィクトルは自分の橋を見て息を吐いた。


「材料を一本残すより、紐を補強するべきだったな」


「材料の使い方は優秀です」


 クラリッサ先生が評価する。


「ただし、実際に人が渡る橋なら、壊れる直前まで耐えればよいわけではありません。

安全のための余裕も必要です」


「分かりました」


 ヴィクトルは余らせた木材を見ながら、すでに別の組み方を考えているようだった。


 ◇


 最後に、リオンの橋が試験台へ置かれた。


 一つ目の重り。


 橋は動かない。


 二つ目、三つ目と重ねられても、中央がわずかに沈むだけだった。


≪構造安定性:高≫

≪左側接合部:負荷上昇≫


 リオンには、負担が増している場所が見えている。


 次の重りが載せられる。


 革紐が強く張り、木材が小さくきしんだ。


 それでも橋は崩れない。


 さらに重りが追加される。


 実験室に用意されていた最後の重りが載せられた時も、橋は形を保っていた。


「全部耐えた……」


 ミラが呟く。


 クラリッサ先生は橋を確かめたあと、リオンへ向き直った。


「途中で一度、組み上げた部分を外しましたね」


「はい」


「理由を説明してください」


 リオンは《綻びの目》のことには触れず、自分が確認したことだけを話す。


「左側に使った木材が、反対側より少し細くなっていました。

それに、中央へつながる角度もわずかに違っていて、一か所へ負担が集まると思いました」


「設計図どおりに作らなかったのですか?」


「設計図どおりに作ることより、実際に使う材料へ合わせる方が必要だと考えました」


 クラリッサ先生は静かに頷いた。


「同じ設計でも、材料の状態が違えば、同じ強度になるとは限りません。

よく見ています」


「ありがとうございます」


「ただし、その橋も壊れないわけではありません」


「はい。左側の接合部には、かなり負担がかかっています」


 クラリッサ先生の目がわずかに細くなる。


「そこまで分かっていますか」


「木材のきしみ方が、左右で違っていたので」


 リオンはそう答えた。


 ◇


 すべての試験が終わったあとも、三人は自分たちの橋を囲んでいた。


「全部の重りに耐えるのは、少し反則じゃない?」


 ミラがリオンの橋を持ち上げる。


「反則はしてないよ」


「分かってるけど。私も、外れた一本をもう少し内側にしてたらなあ」


「ミラの橋は、作っている途中で弱い場所を見つけるのが早かったよ」


「見つけても、直す場所を間違えたら意味ないけどね」


 ミラはそう言いながらも、自分の橋を組み直し始めている。


 ヴィクトルも、ほどけた革紐を結び直していた。


「次は木材を一本減らして、その分だけ結び目を増やす」


「さらに減らすの?」


「今度は安全の余裕も残す。先生に言われたからな」


 試験は、もう終わっている。


 それでも三人とも、次に作るならどうするかを考えていた。


 同じ材料を渡され、同じ橋を作った。


 しかし、完成した橋は、形も、重さも、壊れ方も違っていた。


 試験が終わったあとまで改善点を探しているところだけは、三人とも同じだった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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