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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第366話 五年一学期期末試験二日目・応用試験

 期末試験二日目。


 五年Sクラスの教室には、昨日より少しだけ軽い空気が流れていた。


 共通科目の筆記試験を終えたことで、机の上に積まれている教科書も少ない。


「今日は年号を思い出す試験じゃない。昨日よりはやりやすいな」


 ガイルが椅子の背にもたれながら言うと、隣のナディアが手元の資料を閉じた。


「その場で考える方が得意なのは知っています。ただ、条件は最後まで読んでくださいね」


「昨日から俺にだけ厳しくないか?」


「昨日まで教えていたからです」


「もう少し信じてもいいだろう」


「信じていますよ」


 ナディアは落ち着いた声で答える。


「だから、途中で決めつけなければ大丈夫だと言っているんです」


「それは信じていない者への言い方だ」


「ガイルは問題文を半分読んだところで、答えを決めそうだもんね」


 少し離れた席から、ミラが笑いながら言った。


「ミラまで言うのか」


「昨日の王国史でも、最初は税の名前だけ書こうとしてたんじゃない?」


「どうして分かる?」


「当たったんだ」


 ミラの笑みが深くなる。


「だが、最後は全部書いた」


「ナディアに教えてもらったおかげでしょ?」


「俺が覚えたからだ」


「教わったことを覚えたんですよね」


 ナディアが付け加える。


「二人とも、試験前に俺の自信を削るのはやめてくれ」


 ガイルはそう言いながらも、もう一度机の上の注意事項へ目を落とした。


 以前なら気にしなかった細かな条件を、今日は確認している。


 ナディアはそれを見ても、何も言わなかった。


 ◇


 少し離れた席では、レティシアが何度も教室の時計へ目を向けていた。


「始まる前から時間を気にしてるの?」


 リオンが声をかける。


「確認しているだけです」


「一つの案を考えすぎないように?」


 レティシアは一瞬だけ黙った。


「分かっています。今日は時間切れになりません」


「最初に必要なことを書いて、細かいところは後から考えればいいよ」


「その方法も理解しています」


「なら大丈夫だね」


「あなたより先に答案を完成させます」


「競争ではないと思うけど」


「私にとっては競争です」


 レティシアはきっぱりと言った。


「それに、教えてもらったからといって、そのまま負けるつもりはありません」


「教えた側としては、使ってもらえれば十分だよ」


「そういう余裕が気に入らないのです」


「余裕があるわけじゃないんだけどな」


 リオンも、応用試験に絶対の自信があるわけではない。


 前世や研究所での経験があるため、複数の条件を整理することには慣れている。


 だが、試験では現実と違い、問題文に書かれた情報だけで判断しなければならない。


 自分なら確認できることでも、勝手に条件を付け足せば減点される。


「リオンも、書かれていないことまで考えすぎない方がいいよ」


 ミラがこちらを見て言った。


「この前、アデライン先生にも言われてたでしょ」


「覚えてるよ」


「ならいいけど。リオンも意外と考えすぎるからね」


「ミラに言われるとは思わなかった」


「どういう意味?」


「何でもないよ」


 リオンが笑ってごまかしたところで、教室の扉が開いた。


 アデライン先生が問題用紙と答案用紙の束を持って入ってくる。


「資料を片づけてください。これから応用試験を始めます」


 一斉に机の上から教科書やノートが消えた。


 先ほどまで軽口を交わしていた生徒たちの表情も変わる。


「本日の試験では、知識だけではなく、与えられた条件から優先順位を決める力を確認します」


 アデライン先生は教室をゆっくり見渡した。


「答えは一つとは限りません。ただし、理由のない判断は評価されません。

書かれていない条件を勝手に加えず、反対に、書かれている条件を都合よく無視しないこと」


 ガイルが小さく息を吐く。


「やはり昨日より難しそうだな」


「試験前は、やりやすいと言っていましたよ」


 ナディアが前を向いたまま返す。


「まだ始まっていない。撤回するには早い」


「終わってから聞きますね」


「そこまでです」


 アデライン先生の声に、二人は口を閉じた。


 問題用紙が配られていく。


「始めてください」


 ◇


 課題は、地方を巡る治療団に、予想を大きく上回る住民が集まった場合の対応を考えるものだった。


 人員も、薬も、診療できる時間も限られている。


 全員を同じように診ることはできない。


 誰を先に診るのか。


 待っている者へ何を伝えるのか。


 その日に診られなかった者を、どうするのか。


 問題文を読み終えたリオンは、すぐに答案を書き始めた。


 最初に状況を分け、必要な対応を並べていく。


 だが、数行書いたところで筆が止まった。


 症状の重い者から順に診る。


 それは間違っていない。


 しかし、それだけで十分だろうか。


 遠い村から来た者もいる。


 高齢者や、小さな子供を連れた者もいるかもしれない。


 一度帰れば、再び治療団のもとへ来ることが難しい者もいる。


 以前の共同課題で、フィーネが言っていた。


 平均的な家庭だけを考えてはいけない。


 リオンは書きかけた答案を見直した。


 すでに書いた案を消す必要はない。


 だが、もう一つ別の視点が必要だった。


 問題文へ戻り、書かれている条件を読み直す。


 書かれていない事情を勝手に決めるのではなく、確認すべき項目として加える。


 リオンは新しい一文を書き足し、その先へ進んだ。


 ◇


 レティシアは、問題用紙の余白へ細かな配置を書き込んでいた。


 どこへ人を置けば、最も早く住民を振り分けられるのか。


 一つの案を書き、問題点に気づいて消す。


 別の案へ移り、また手が止まる。


 もっと効率の良い形があるはずだ。


 そう考えたところで、ふと時計が目に入った。


 思っていた以上に時間が進んでいる。


 答案用紙には、まだ十分な量が書かれていない。


『最初に必要な項目だけ書いて、残った時間で詳しくすればいいよ』


 試験前のリオンの言葉が浮かぶ。


 レティシアは小さく息を吐き、余白に書いていた配置図から手を離した。


 まずは判断の基準を書く。


 次に、最初に行うこと。


 その後で、残った問題への対応を加える。


 一つずつ答案を埋めてから、最後に配置へ戻ればよい。


 完全な案を頭の中で作ってから書く必要はない。


 レティシアは筆を動かし始めた。


 少しすると、空白だった答案が次々と文字で埋まっていく。


 時計を見た時にも、今度は慌てなかった。


 まだ時間は残っている。


 ◇


 ガイルは最初の数行を書いたところで、完全に動きを止めていた。


 重症者から診ればいい。


 初めはそれで十分だと思った。


 だが、問題を最後まで読むと、考えるべきことが次々と増えていく。


 すぐに治療しなければ危険な者。


 今は動けても、放置すれば悪化する者。


 軽症でも、遠くから来ていて再び訪れるのが難しい者。


 全員を一度に並べれば、混乱するかもしれない。


 では、誰が順番を決めるのか。


 ガイルは眉間にしわを寄せ、問題文と答案を何度も見比べた。


 ナディアの言葉どおり、途中で答えを決めず、最後まで条件を読んだ。


 その結果、簡単だと思っていた問題が、まったく簡単ではなくなった。


 それでも、以前のように最初の思いつきだけを書くことはしなかった。


 分からない条件を分け、一つずつ自分なりの判断を書いていく。


 筆の進みは速くない。


 だが、最後まで止まったままでもなかった。


 ◇


 フィーネは問題文を何度も読み返しながら、静かに答案を書いていた。


 ヴィクトルは一度書いた数字を確認し、別の欄へ何かを書き加える。


 オスカーは人の動きを考えているのか、問題用紙の端に短い線を何本も引いていた。


 セレナは迷いなく書き進めていたが、一度だけ筆を止め、書いた文を最初から読み直した。


 エドガーも、周囲の協力をどう使うか考えているようだった。


 ミラは書いては首を傾げ、もう一度問題文へ戻る。


 同じ課題を読んでいても、最初に目を向ける場所は一人ずつ違っていた。


 誰かの答案を見ることはできない。


 教え合うことも、相談することもできない。


 静かな教室には、紙をめくる音と、筆が答案を走る音だけが続いた。


 ◇


「そこまでです。筆記具を置いてください」


 アデライン先生の声に、全員が手を止める。


 あと一行書きたそうな顔をした生徒もいたが、誰も筆を動かさなかった。


 答案が回収され、応用試験は終了となった。


 教室を出たところで、ガイルが大きく息を吐いた。


「重症者から診ればいいと思ったのに、途中から分からなくなった」


「今日中に診なければ悪化する方もいます」


 フィーネが答える。


「薬を最初に使いすぎれば、後から来た人に足りなくなるかもしれない」


 ヴィクトルも続いた。


「待っている人に何も説明しなかったら、順番を変えた時に揉めそうだよな」


 ミラが言う。


「入口も混乱するかもしれない」


 オスカーも短く付け加えた。


 ガイルは四人を順番に見た。


「皆、そこまで考えたのか?」


「同じことを書いたわけではないと思うよ」


 リオンが答える。


「何を先に見るかで、答えは変わるから」


「リオンは何を先にした?」


「それはまだ言わない」


「なぜだ?」


「答え合わせを始めると、午後の試験まで気になるだろう?」


「それはそうだが……」


 ガイルは納得しきれない顔をする。


 ナディアが小さく笑った。


「試験前は、昨日よりやりやすいと言っていましたね」


「あれは撤回する」


「その場で考える方が得意なのでは?」


「考えることが多すぎた」


「条件を最後まで読んだ結果ですね」


「ナディアの言うとおりにしたら難しくなった」


「最初の思いつきだけで答えるよりはよかったでしょう?」


 ガイルは少し考えたあと、渋々頷いた。


「それは、そうかもしれない」


「なら、信じていて正解でした」


「最初からそう言ってくれ」


「言いましたよ」


 二人のやり取りに、周囲から笑いが起きた。


 レティシアは教室の時計を見上げる。


「午後の開始まで、それほど時間はありません」


「答案は最後まで書けた?」


 リオンが尋ねる。


「当然です」


 レティシアは胸を張った。


「細かな部分まで、すべて書き切りました」


「最初に必要なことから書いたんだね」


「あなたに言われたからではありません。自分で判断したのです」


「そういうことにしておくよ」


「何ですか、その言い方は」


 レティシアが不満そうに睨む。


 だが、時間切れにならなかったことには満足しているようだった。


 午前の応用試験が終わっただけだった。


 試験二日目は、まだ半分残っている。


 午後には、実技試験が待っていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。

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ヒロイン増えすぎワラタwww
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