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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第365話 五年一学期期末試験初日

 六日が過ぎ、五年一学期の期末試験初日を迎えた。


 普段より早い時間だというのに、五年Sクラスの教室にはほとんどの生徒が揃っている。


 机の上には教科書やノートが広げられ、いつもの朝より会話も少なかった。


「北方戦争、停戦協定、復興税……」


 ガイルは席に座り、ナディアから渡された王国史の要点表を何度も読み返していた。


 その隣に立ったナディアが、紙をのぞき込む。


「北部で復興税が導入された理由は?」


「破壊された街道と砦を修復するため。

それから、戦争後の治安維持に必要な費用を補うためだ」


「王都からも援助はありましたが、それだけでは足りなかったからですね」


「分かっている」


「では、その前に結ばれたのは?」


「北方停戦協定」


「締結された年は?」


「もう試験前だぞ。新しい質問を増やすな」


「新しくありません。昨日も聞きました」


「昨日答えられなかった質問を、今日も出すなと言っている」


「今日こそ答えられるようにするためです」


 ガイルは諦めたように息を吐き、再び要点表へ目を落とした。


「もう一度、最初から頼む」


「はい。では、北方戦争が始まった原因からです」


 その言葉に、ガイルが顔を上げる。


「そこまで戻るのか?」


「出来事はつながっているのでしょう?」


「俺に教えた言葉を、俺に使うな」


 ナディアは気にする様子もなく、要点表の最初を指した。


 ◇


「最初に収入。それから固定費と変動費」


 少し離れた席では、ミラが自分のノートを見ながら呟いていた。


 ヴィクトルが隣から確認する。


「商品の損失が出ている場合は?」


「変動費に入れる」


「輸送用の荷車を購入した費用は?」


「固定費」


「借りた場合は?」


「使用した期間によって……変動費?」


「そうだ」


 ミラは安堵したように頷く。


「これなら何とかなりそう」


「問題文を読んだら、まず数字を分けろ。いきなり計算を始めるなよ」


「分かってる。でも、試験になると全部の数字が一度に目に入ってくるんだよね」


「なら、線を引いて分ければいい」


「問題用紙に書いてもいいの?」


「答案でなければ問題ない」


 ミラはノートへ大きく三本の線を引いた。


「収入、固定費、変動費。これを最初に書く」


「そうそう。それでいい」


「ヴィクトルも、魔力を急に押し込まないでね」


「筆記試験で魔力は使わない」


「魔法理論の問題で、実技の感覚を聞かれるかもしれないでしょ」


「それは覚えている」


「本当に?」


「俺をガイルと同じように扱わないでくれ」


「何か言ったか?」


 ガイルが振り返る。


「何も言っていない」


 ヴィクトルはすぐに否定した。


 ◇


 セレナはフィーネと貴族制度の確認をしていた。


「爵位が同じ場合は、その場での役職を優先するのですね」


「そうよ。ただし、王家の代理として出席している場合は別」


「やはり条件が多いです」


「順番だけを暗記しようとするから難しく感じるの。

誰を代表して、何のために出席しているのかを考えればいいわ」


 フィーネは説明をノートへ書き加える。


 そこへミラが顔を向けた。


「セレナ、今日はちゃんと寝た?」


「試験の日まで同じことを聞かないで」


「顔色は昨日よりいいね」


「昨日は早く休んでいたから問題ない」


 エドガーが答えると、セレナが鋭く振り向いた。


「どうしてエドガーが答えるのよ」


「事実を言っただけだ」


「私のことを聞かれたのだから、私が答えるわ」


「なら、先に答えればよかっただろう」


「今から答えようとしていたのよ」


「二人とも、試験前なのに元気だね」


 ミラが笑う。


「ミラは自分の計算を心配しなさい」


「ちゃんとやってるよ」


 教室にいつもの空気が戻りかけたところで、扉が開いた。


 アデライン先生が、問題用紙と答案用紙の束を抱えて入ってくる。


「そろそろ資料を片づけてください」


 一斉に教科書が閉じられた。


「本日は筆記試験です。午前と午後に分け、休憩を挟みながら行います」


 先生は問題用紙を教卓へ置く。


「問題が配られた後は、会話を禁止します。

答案を回収するまでは席を立たないように。不正行為が確認された場合は、本日の全科目を失格とします」


 ガイルが小さく息を吐いた。


「まだ始まっていないのに疲れた」


「話している余裕があるなら大丈夫です」


 ナディアが前を向いたまま答える。


「最後に一つだけ確認していいか?」


「もう始まります」


「北方停戦協定の年だけだ」


「昨日から何度も教えました」


「だから最後に確認したいんだ」


 アデライン先生がガイルを見る。


「ガイルさん」


「何も話していません」


 教室から小さな笑いが漏れた。


「では、始めます」


 ◇


 最初の科目は王国史だった。


 ガイルは配られた問題用紙を上から順に確認していく。


 前半の選択問題は、思っていたより答えられた。


 しかし、後半の記述問題を見た瞬間、手が止まる。


 北方戦争終結後、北部三領で復興税が導入された理由を、当時の状況を踏まえて説明せよ。


 ナディアと何度も確認した範囲だった。


 それでも、いざ答案へ書こうとすると、最初の言葉が出てこない。


 ガイルは年号と税の名称だけを書きかける。


 その時、ナディアの声が頭に浮かんだ。


『出来事の流れで覚えます。全部つながっていますから』


 ガイルは書きかけた言葉を消した。


 戦争によって街道と砦が破壊された。


 物流が滞り、北部の治安も悪化した。


 王都からの支援だけでは復旧費用が足りず、不足分を補うために復興税が導入された。


 一つずつ、順番に書いていく。


 答案を読み返すと、税の名前だけを覚えていた時より、はるかに長い答えになっていた。


 ガイルは隣を見ることなく、もう一度文章を確認した。


 ◇


 次の領地経営では、ミラが問題用紙を見た瞬間に眉を寄せた。


 倉庫を利用した物資輸送の収支を求める問題。


 商品の売上、輸送費、人件費、倉庫の維持費、荷傷みによる損失まで、一つの文章にまとめられている。


 数字が多い。


 いつものミラなら、目についた数字から計算を始めていた。


 だが、今日は問題用紙の余白へ先に三つの項目を書いた。


 収入。


 固定費。


 変動費。


 問題文へ線を引き、それぞれの数字を振り分ける。


 輸送費は変動費。


 倉庫維持費は固定費。


 商品の損失も変動費。


 数字を分け終えると、何を足し、何を引くべきかが見えてきた。


 計算を終え、最後の答えまで書いたミラは、思わず口元を緩める。


 だが、まだ試験中だったことを思い出し、慌てて表情を戻した。


 ◇


 午後の魔法理論。


 リオンは問題を順番に解いていった。


 基礎理論や魔力の性質については迷わない。


 最後に出たのは、簡単な魔法術式を学院指定の形式で完成させる問題だった。


 術式の内容そのものは、見た瞬間に理解できた。


 以前なら、自分が普段使っている矢印や略記号で書いただろう。


 その方が早く、自分には分かりやすい。


 リオンは最初の線を書きかけ、手を止めた。


『試験答案は、読む側に意味を推測させてはいけません』


 レティシアの言葉を思い出す。


 書きかけた線を消し、正式な記号へ直す。


 魔力の起点。


 循環。


 出力。


 終端。


 一つずつ向きを確認しながら書き込む。


 研究所で使っていた書き方より時間はかかった。


 それでも、完成した術式は、誰が見ても同じ流れとして読み取れるものになっていた。


 最後の記号を見直したところで、終了を知らせる鐘が鳴った。


 ◇


 その後も、休憩を挟みながら試験は続いた。


 古代語、行政、貴族制度。


 午前中には余裕のあった生徒たちも、最後の科目が終わる頃には、ほとんど言葉を発さなくなっていた。


「そこまでです。筆記具を置いてください」


 アデライン先生の声に、生徒たちが一斉に息を吐く。


 答案がすべて回収され、先生が教室を出た瞬間、ガイルが机へ突っ伏した。


「終わった……」


 隣のナディアが尋ねる。


「王国史はどうでしたか?」


「復興税が出た」


「答えられましたか?」


「戦争から順番に全部書いた」


「なら、以前よりはよいと思います」


 ガイルが顔だけをナディアへ向ける。


「もっと褒めてもいいだろう」


「答案が返ってからにします」


「少しくらい今褒めても、点数は変わらないぞ」


「では、最後まで座って受けられて偉かったです」


「子供に言う言葉ではないか?」


 その近くでは、ミラがヴィクトルへ身を乗り出していた。


「三つに分けたら、本当に解けたよ」


「だから最初からそう言っただろ」


「でも、最後の損失率を引く場所は合ってたかな」


「答え合わせはやめておけ」


「どうして?」


「間違っていたら、明日の試験まで気にすることになる」


 ミラは少し考える。


「ヴィクトルは気にならないの?」


「気になる」


「じゃあ、確認しようよ」


「だからこそ確認しないんだ」


 フィーネもセレナへ声をかける。


「代表者の立場を考える問題が出ました」


「理由から考えた?」


「はい。王家の代理として出席していたので、爵位より役目を優先しました」


「なら大丈夫よ」


 セレナは当然のように答えたが、その表情は少し満足そうだった。


 教室のあちこちで、問題についての会話が始まりかける。


 エドガーが鞄を閉じながら言った。


「終わった試験の答えを今確認しても、点は変わらない」


「間違えたかどうかくらい知りたい」


 ガイルが反論する。


「知って間違えていたら、今日中ずっと気にするだろう」


「気にするな」


「なら、明日の準備をした方がいい」


 ナディアが応用問題の資料をガイルの前へ置く。


「明日は応用試験と実技試験です」


「今日くらい休ませてくれ」


「少し休んでから始めます」


「帰らせる気はないのか?」


「ありません」


 ガイルが再び机へ突っ伏し、教室に笑いが起きた。


 リオンも、自分の答案の出来は気になっていた。


 正式術式記述に間違いがなかったか。


 行政の記述で必要な条件をすべて書けたか。


 考え始めれば、いくらでも不安は出てくる。


 だが、今日はもう終わった。


 明日は、今日とは異なる力を試される。


 リオンは応用試験の資料を鞄から取り出した。


 答案を書いたのは一人だった。


 けれど、そこに書いた答えへたどり着くまで、一人で学んでいたわけではない。


 五年一学期の期末試験初日が終わった。


 明日は、応用試験と実技試験だ。




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― 新着の感想 ―
ガイルは魔法理論は解けたんだろうか?リオンより余裕なの?
いろいろ動いてきたなぁ。とは思うけど、 リオン達6人の2回飛び組は、14歳?15歳? まだまだ、若いよねぇ。。。 この辺から、全科目80点キープではなく、 ちょっとずつ差がついてくるのかなぁ?
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