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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第363話 婚約しても同じ教室で

 期末試験まで、あと一週間となった朝。


 五年Sクラスの教室へ入ってきたアデライン先生は、いつものように教卓へ資料を置いた。


 だが、授業を始める前に教室を見渡す。


「本日の朝、王家から正式な発表がありました」


 生徒たちの視線が集まる。


「第二王子エドガー・アルスレインと、ヴァレスト公爵家令嬢セレナ・ヴァレストの婚約が成立しました」


 一瞬、教室から音が消えた。


「えっ?」


 最初に声を上げたのはガイルだった。


 教室中の視線が、エドガーとセレナへ一斉に向けられる。


「本当か、エドガー?」


「先生が嘘の発表をすると思うか?」


 エドガーは落ち着いて答えたが、いつもより少しだけ姿勢が固い。


 セレナも前を向いたまま、周囲から集まる視線を受け止めていた。


「セレナも知っていたの?」


 ミラが尋ねる。


「当たり前でしょう。私たちの婚約なのよ」


「それはそうだけど……」


 ミラはエドガーとセレナを交互に見る。


「やっぱりね」


 その言葉に、セレナが眉を上げた。


「何がやっぱりなのよ」


「前から少し怪しいと思ってたの。二人で話している時、妙に息が合ってたから」


「どこを見ていたら、そんな結論になるの?」


「俺も、何となくそうかもしれないと思ってたよ」


 リオンが言うと、セレナが今度はそちらを向いた。


「リオンまで?」


「前にセレナが遅れてきた時から、二人の反応が少し違ったから」


「二人とも、勝手に人の様子を観察しすぎよ」


 セレナは呆れたように息を吐く。


 隣でエドガーが小さく笑った。


「完全には隠せていなかったということだな」


「エドガーは黙っていて」


「私も同じ立場だと思うが」


「今はエドガーの話をしていないわ」


 二人のやり取りを見て、ミラがリオンへ小声で言う。


「やっぱり、息が合ってるよね」


「聞こえているわよ」


 セレナに睨まれ、ミラは笑いながら口を閉じた。


「二人とも、おめでとう」


 クラウスが最初に祝福すると、ほかの生徒たちも続いた。


「おめでとう、エドガー」


「セレナも、おめでとう」


「二人が婚約するなんて驚いたよ」


「でも、似合っていると思う」


 普段と変わらない呼び方で、次々と声がかかる。


 フィーネも二人へ向き直った。


「セレナさん、エドガーさん。おめでとうございます」


「ありがとう、フィーネ」


 レティシアも腕を組みながら頷く。


「おめでとう。ただ、よく今日まで誰にも話さずにいられたわね」


「王家から発表されるまでは口外しないように言われていたの」


 セレナが答える。


「正式に決まったのは、いつなんだ?」


 オスカーが尋ねた。


「少し前だ」


 エドガーが答える。


「両家から婚約の話があり、私とセレナも同意した。

その後、王家と公爵家で発表の準備を進めていた」


「勝手に決められたわけではないのね」


 ミラの言葉に、セレナがすぐ反応する。


「当然よ。私が何も言わずに受け入れると思う?」


「思わない」


「ずいぶん早い返事ね」


「セレナだから」


 ミラが当然のように答えると、教室に笑いが起きた。


 ガイルはまだ納得できていないように、二人を見比べている。


「それで、どちらから婚約を申し込んだんだ?」


「ガイルさん!」


 ナディアが止めようとする。


「何だ? 気になるだろう」


「両家から話があったと、今説明していたではありませんか」


「では、先に同意したのは?」


「そこまで聞く必要がありますか?」


 ナディアの声が少し低くなる。


「ないかもしれない」


「ありません」


 ガイルは素直に引き下がった。


 アデライン先生は、生徒たちの会話が落ち着くのを待ってから口を開いた。


「改めて、おめでとうございます。お二人には、これから王家の行事なども増えるでしょう」


「ありがとうございます」


 エドガーとセレナが答える。


「ですが、期末試験まで一週間であることに変わりはありません」


 教室の空気が、再び重くなった。


「婚約したからといって、試験範囲が減ることもありません」


「それは私も分かっています」


 セレナが少し不満そうに言う。


「今日の放課後も王宮へ行かなければならないのよ。試験一週間前なのに」


「婚約発表の日ですから仕方がないでしょう」


「発表する日を決めた人に言ってほしいわ」


 さすがのアデライン先生も、わずかに口元を緩めた。


「王宮での予定を終えたあと、時間があれば勉強してください」


「言われなくても、そのつもりです」


 セレナはきっぱりと答えた。


 ◇


 休み時間になると、今度は別のクラスの生徒たちが教室の外へ集まり始めた。


 婚約発表を聞きつけ、二人の姿を見に来たらしい。


「本当にセレナとエドガーなんだ」


「いつ決まったのかな」


「王宮で暮らすことになるの?」


 扉の近くから、いくつもの声が聞こえてくる。


 セレナは教科書を開こうとしていたが、文字を読む前に顔を上げた。


「こんなんだと勉強できないじゃない」


「今日くらいは仕方がないよ」


 ミラが言う。


「私は今日くらいでも困るの。試験は待ってくれないもの」


 そこへ、廊下にいた生徒の一人が教室へ入ってきた。


「セレナ、これから王族になるんだよね?」


「将来的にはそうなるわ」


「だったら、試験の成績も今まで以上に注目されるんじゃない?」


 セレナの目つきがわずかに鋭くなった。


「婚約したからといって、試験の点が勝手に上がるわけではないわ」


「そうだけど……」


「それに、婚約したのは私一人ではないでしょう」


 セレナがエドガーを見る。


 エドガーは立ち上がり、教室の外に集まった生徒たちへ向いた。


「婚約について聞きたいことがあるなら、僕にも聞いてくれ。

セレナ一人で答える話ではない」


「エドガー、別に私一人でも答えられたわ」


「答えられることと、一人で答えるべきかは別だ」


「私が困っているように見えたの?」


「少し怒っているようには見えた」


「少しではないわ」


 セレナが言い切ると、エドガーが笑った。


 周囲にいた生徒たちも、それ以上質問を続けるのはやめたようだった。


 ◇


 放課後。


 王宮から迎えが来るまでの間、セレナとエドガーも勉強会へ参加していた。


 セレナはフィーネの隣で、貴族儀礼の問題を確認している。


「婚約発表の後、最初に挨拶する相手は誰になるのでしょうか?」


 フィーネが問題文を読み上げる。


「場所と出席者によるわ。王宮なら国王陛下が最初だけれど、公爵家で行うなら――」


 セレナは説明しながら、途中で手を止めた。


「今日の私に出す問題ではないでしょう」


「実際に経験した方が分かりやすいかと思いました」


「それはそうだけど」


 少し離れた席では、エドガーがガイルと王国史の問題を見ていた。


「ここで結ばれた条約は?」


「北方停戦条約」


「違う。北方停戦協定だ」


「ほとんど同じではないか」


「試験では別のものとして扱われる」


「婚約した途端、細かくなったな」


「僕の婚約と、ガイルの間違いは何の関係もない」


 いつものやり取りに、リオンは思わず笑った。


 やがて、王宮から迎えが来たと知らせが入る。


 セレナは教科書を閉じ、立ち上がった。


 そして教室の仲間たちを見回す。


「念のため言っておくけど、婚約が発表されたくらいで、急によそよそしくされても困るわ」


 ミラが首を傾げる。


「そんなことするつもりないけど?」


「ならいいわ。今までどおりでいてちょうだい」


「最初からそのつもりだよ」


 ミラの返事を聞き、セレナの表情がわずかに緩んだ。


 エドガーも鞄を持つ。


「僕も今までどおりで構わない」


「それなら、明日も応用問題を見てくれ」


 ガイルがすぐに言った。


「今までどおりというのは、何でも引き受けるという意味ではない」


「婚約した途端、冷たくなったな」


「だから婚約は関係ない」


 空間に笑いが広がる。


 王国にとって、第二王子と公爵令嬢の婚約は大きな出来事だった。


 けれど五年Sクラスでは、二人は変わらず、期末試験を一週間後に控えた同級生だった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
あれ?なんかあっさり過ぎていく。俺の勘違いだったのか。
ミラのリオンへの描写が入って来たのと、研究コースに入ったのでセレナルートは無くなったのかなと思ってました。 ただ気になるのは王に出来る範囲で条件を飲んで貰うというのがあるので、セレナを嫁にってのもある…
セレナはリオンのハーレム要員かと思ってた
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