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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第361話 フィーネの仕事

 翌日の放課後。


 リオンが教室で荷物をまとめていると、フィーネが数枚の紙を持って近づいてきた。


「リオン君。昨日の続きなのですが」


「もうまとめたの?」


「まだ途中です。確認していただきたいところがあります」


 紙には、『王都公共設備と魔力供給』の旧版と最新版で、内容が変わった箇所が整理されていた。


 章とページだけではない。


 変更された理由や、旧版を読む時の注意点まで短く書かれている。


「これ、昨日の夜に作ったの?」


「家へ戻ってから、書き写した内容を整理しました」


「ずいぶん分かりやすいね」


「旧版を使う人が、どこを確認すればいいのか分からなければ意味がありませんから」


 フィーネはそう言って、最新版の参考書を開いた。


「ここの説明ですが、旧版の内容が間違いというわけではないのですよね?」


「うん。当時の給水塔なら問題なかったと思う。

補助術式を後から追加するようになって、注意が必要になったんだ」


「では、『誤り』ではなく、『現在の設備には説明が不足している』とした方がよさそうですね」


「その方が正確だと思う」


 二人が机へ資料を広げていると、近くを通った男子生徒が足を止めた。


「それ、ハルの本じゃないか?」


「うん。そうだよ」


 男子生徒は、フィーネが持っている旧版と見比べた。


「古い本を書き写すより、ハルに新しい本を買ってもらえば早いんじゃないか?」


 悪意のある言い方ではなかった。


 だからこそ、フィーネの表情が固くなったことに、その生徒は気づかなかった。


「買ってもらうつもりはありません」


「でも、ハルなら一冊くらい――」


「俺が本を見せたんだ」


 リオンが口を挟んだ。


「旧版と最新版で変わった場所を一緒に調べてる」


「そうなのか?」


「この一覧を作っているのはフィーネだよ。俺は最新版を持っているだけ」


 男子生徒は、机に置かれた紙を手に取った。


「これを全部?」


「まだ途中です」


 フィーネが答える。


「旧版のままでも使える部分と、最新版を確認した方がいい部分を分けています」


「へえ……」


 男子生徒は一覧へ目を通した。


「これなら、旧版しか借りられなくても困らないな」


「そのために作っています」


 フィーネの声は、先ほどより落ち着いていた。


 男子生徒は一覧を机へ戻す。


「悪かった。勘違いした」


「いえ」


 それだけ言うと、男子生徒は自分の席へ戻っていった。


 リオンは何も付け加えなかった。


 フィーネが本を買えない理由を、代わりに説明する必要はない。


 彼女が何をしているのか。それだけ伝われば十分だった。


「続けようか」


「はい」


 二人が作業へ戻ると、レティシアとオスカーも近づいてきた。


「昨日、図書室で何か調べていたそうですね」


 レティシアが差分表を見る。


「旧版と最新版の変更点か」


 オスカーも紙をのぞき込んだ。


「図書室へ置いてもらえないか相談するつもりです」


 フィーネが説明した。


「ですが、魔法術式の部分に間違いがないか、私たちだけでは判断できないところがあります」


「それで私に確認してほしいのですね」


 レティシアは紙を受け取った。


「分かりました。術式に関する箇所は確認します」


「俺は何をすればいい?」


 オスカーが尋ねる。


 フィーネは少し考え、別の紙を差し出した。


「この本には、給水所の警備についても新しい項目が追加されています。

実際に使える内容か見てください」


「任せろ」


 リオンは三人を見た。


 昨日は、フィーネと二人で始めた作業だった。


 今は、共同課題で組んだ四人の仕事になっている。


 フィーネは助けてもらうために二人を呼んだのではない。


 必要な確認を、得意な相手へ任せたのだ。


 ◇


 数日後。


 四人は完成した差分表を持って、学院図書室の司書を訪ねた。


「旧版の参考書を借りる生徒のために、こちらを本の近くへ置いていただけないでしょうか」


 フィーネが紙を差し出す。


 司書は眼鏡を上げ、差分表を読み始めた。


「これは、あなたたちが作ったのですか?」


「はい」


「内容の確認は?」


「魔法術式については、レティシアさんが最新版と照合しました。

警備と運搬についてはオスカー君が確認しています」


「リオン君は?」


「全体の形式を整えてくれました」


 フィーネは自分の役割も説明した。


「私は旧版と最新版を読み比べて、変更された箇所を抜き出しました」


 司書は最後のページまで読み終えると、紙を机へ置いた。


「よくできています。ただし、このまま学院の正式な資料として置くことはできません」


 フィーネの顔に、わずかに失望が浮かぶ。


「内容を担当教師に確認してもらう必要があります」


「確認が取れれば、置いていただけますか?」


「まずは、この一冊だけ試してみましょう」


 司書は差分表をもう一度手に取った。


「古い本を処分せずに使い続けられるなら、図書室としても助かります」


「ありがとうございます」


 フィーネは深く頭を下げた。


「ほかにも改訂された本があります。

次に調べる本を教えていただけますか?」


「もう次の本を?」


「一冊だけでは、同じ問題が残りますから」


 司書は少し驚いたあと、棚の一覧を取り出した。


「それなら、改訂版が出ている本を確認しておきます」


「お願いします」


 図書室を出ると、レティシアがフィーネへ言った。


「最初から、ほかの本も調べるつもりだったのですか?」


「必要なら」


「大変ですよ」


「旧版を書き写すよりは、同じ一覧を皆で使える方が早いです」


 フィーネにとっては、それだけのことらしい。


 だが、リオンはその背中を見ながら、前の人生で会社を経営していた頃を思い出していた。


 与えられたものが足りなくても、それを言い訳にしない。


 使えるものを探し、自分で覚え、必要な形へ作り直す。


 しかも、自分だけが使えればいいとは考えず、同じ問題を抱える者にも届く方法を考える。


 こういう人がチームに一人いるだけで、仕事の質は大きく変わる。


 指示を待つのではなく、足りないものを見つけ、自分から動ける人。


 フィーネのような人と一緒に働けたら、きっと良い仕事ができるだろう。


「リオン君?」


 前を歩いていたフィーネが振り返った。


「どうかしましたか?」


「いや。次の本も手伝おうと思って」


「無理をしなくても大丈夫です」


「俺も必要な本を調べたいんだ。一緒にやった方が早いだろう?」


 フィーネは少しだけ考えたあと、頷いた。


「では、お願いします」


 一つの仕事を終えたばかりなのに、フィーネはもう次の仕事へ進もうとしている。


 リオンは、フィーネ・ラウベルという同級生を、もっと知りたいと思った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
そういえば、じゃがバターで定期的に収入があるんでしたっけ?
フィーネは何歳か年上の平民の女性ですね。主人公は45歳の年まで生きてきたMindを持っていても、結構、今の若さの心も持っているように思えます。好奇心が好きとか愛とかまで進まない事を願っています。
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