表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
370/388

第359話 いつもの仲間ではない班

 五月も終わりに近づいたある朝。


 いつものように五年Sクラスの教室へ入ってきたアデライン先生は、教卓へ資料の束を置いた。


「今日は班ごとに、王都で起きた問題への対応を考えてもらいます」


 教室の空気が少し変わる。


 リオンがミラたちの方を見ると、アデライン先生は黒板へ名前を書き始めた。


「なお、今回は私が班を決めます」


「先生が決めるのですか?」


 セレナが尋ねる。


「ええ。普段一緒に行動している相手とは、できるだけ別の班にしました」


 教室のあちこちから、小さな声が上がった。


 黒板には四人ずつ、生徒の名前が並んでいく。


 リオンの名前の隣に書かれたのは、


 レティシア・オルブライト。


 フィーネ・ラウベル。


 オスカー・グランヴィル。


 の三人だった。


「リオンと別か」


 ガイルが残念そうに言った。


「同じ班なら、早く終わると思ったのに」


「その考えをやめてもらうための班分けです」


 アデライン先生に即座に返され、教室に笑いが起きた。


 リオンは指定された机へ移動した。


 オスカーとは以前にも話したことがある。


 レティシアは魔法コースの生徒で、授業中によく鋭い質問をしていた。


 フィーネは平民出身で、普段はあまり発言しないが、四年時の試験では上位に入っていたそうだ。


 同じ教室で二か月近く学んでいる。


 だが、四人で話すのは初めてだった。


「よろしく」


 リオンが言うと、レティシアが頷いた。


「王立研究所で何をしていたとしても、今日は同じ班員です。

すべて任せるつもりはありません」


「その方が助かるよ」


 フィーネは短く頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 全員が席につくと、アデライン先生が資料を配った。


「今回の課題は、王都東区にある共同給水塔の停止です」


 資料には、給水塔と周辺街区の地図が描かれていた。


「給水塔は今朝八時に停止しました。

貯水槽の水は残っていますが、すでに一部の街区では水が出にくくなっています」


 先生は黒板に条件を書き加える。


「管理技師が到着するのは四時間後。それまでの対応、優先して水を届ける場所、住民の混乱を防ぐ方法、完全復旧までの方針をまとめてください」


 最後に、生徒たちを見渡した。


「班員全員が説明できなければ、評価しません」


 ◇


「まず、給水塔が止まった原因を特定しましょう」


 課題が始まると、レティシアは真っ先に術式の資料を広げた。


「原因を取り除いて再起動できれば、臨時の給水は必要ありません」


「先に、水を配る方法を決めた方がいいと思います」


 フィーネが住民区画の地図を見ながら言った。


「原因がすぐに分かるとは限りません」


「ですが、給水塔が動けば問題は解決します」


「動かなければ、その間にも水は減ります」


 二人の視線がぶつかった。


 オスカーは警備兵の配置が書かれた資料を確認している。


「水を配るにしても、一か所に住民を集めるのは危険だ。

これだけの人数が集まれば、警備兵だけでは抑えられない」


「まず原因を調べて、その後で――」


 リオンが言いかけると、フィーネが顔を上げた。


「調べている間、水がなくなる家はどうするのですか?」


「資料には、各家庭に半日分の備蓄があると書いてあるよ」


「それは平均です」


 フィーネは東区の端にある一画を指した。


「この辺りは、職人や日雇いで働く人が多い場所です。

家が狭くて、大きな水樽を置けない家もあります」


 レティシアが資料を見る。


「ですが、備蓄があるものとして計算されています」


「計算の中には入っていても、全部の家にあるわけではありません」


 フィーネの口調は静かだったが、はっきりしていた。


「共同水場へ毎朝汲みに行く家なら、夕方まで待てません」


 リオンは地図を見直した。


 数字だけを見れば、夕方までは水が残る。


 だが、それは全員が同じ量を持っているという意味ではない。


「分かった」


 リオンは紙を一枚取り出した。


「給水塔の調査と、すぐに水が必要な人への対応は、同時に考えよう」


 レティシアは少し考えてから頷いた。


「それなら異論はありません」


 四人は資料を分けた。


 レティシアは給水塔の術式。


 フィーネは住民区画と水の使用量。


 オスカーは警備と運搬経路。


 リオンは、それぞれの情報を一枚の紙へまとめていった。


「ここを見てください」


 しばらくして、レティシアが術式記録を指した。


「給水塔には一か月前、給水量を増やす補助術式が追加されています」


「停止する直前は、魔力消費が増えているね」


 リオンが別の記録を確認する。


「給水管の振動も大きくなっている」


「故障ではないかもしれません」


 レティシアは術式図を二枚並べた。


「元の術式と補助術式が干渉して、安全装置が作動したのだと思います」


「では、壊れてはいないのですか?」


 フィーネが尋ねる。


「おそらく。ただし、無理に再起動すれば本当に壊れます」


「補助術式だけ止められないかな」


 リオンが聞く。


「可能です。ですが、給水量は以前の六割ほどになります」


「六割でも、止まったままよりはいい」


 フィーネがすぐに答えた。


 オスカーは地図に三つの印をつけた。


「不足分はここで配る。ただし、一か所に集めない方がいい」


「病院と孤児院には?」


「取りに来させず、直接運ぶ。年寄りだけで暮らしている家も優先した方がいいだろう」


「消火用の貯水槽は使えません」


 フィーネが言った。


「水が足りない時ほど、火事が起きたら危険です」


「その通りだ」


 オスカーが頷く。


 四人の案が少しずつ一つにつながっていった。


 補助術式を止め、元の術式だけで給水塔を再起動する。


 完全な修理は技師の到着を待つ。


 不足する地域には、三か所の臨時給水所を設ける。


 病院、孤児院、備蓄の少ない平民街を優先する。


 庭園など緊急性の高くない場所への給水は一時的に停止する。


「これで、まとまりそうだね」


 リオンが言うと、全員の視線が集まった。


「発表はリオンがするのですか?」


 フィーネが尋ねる。


「そのつもりだったけど」


「駄目です」


 レティシアが即座に言った。


「先生は全員が説明できなければ評価しないと言いました」


「そうだった」


「術式は私が説明します。警備と運搬はオスカー。住民への給水はフィーネが説明してください」


 フィーネの表情が固まった。


「私がですか?」


「そこは、フィーネが一番分かっているから」


 リオンが言った。


「でも、人前で話すのは……」


「資料に書かれていないことを教えてくれたのはフィーネだよ。

俺が説明するより、フィーネが話した方が伝わると思う」


 フィーネはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「分かりました」


 ◇


 四人の発表が終わると、アデライン先生は手元の報告書を見た。


「給水塔を六割で動かせる保証はありますか?」


「ありません」


 レティシアが答える。


「ですから、再起動の準備と同時に臨時給水も始めます」


「住民が一か所へ集まった場合は?」


「給水所を三か所に分けます」


 オスカーが地図を示す。


「区画ごとに利用時間を決め、警備兵と各区画の管理人を配置します」


「資料では、各家庭に水の備蓄があるとされています。

それでも平民街を優先する理由は?」


 今度はフィーネが顔を上げた。


「平均の数字だけでは、水を貯める場所がない家までは分からないからです」


 声は少し硬かった。


 それでも、最後まで言い切った。


 アデライン先生は最後にリオンを見る。


「ハル。あなたの役割は?」


「三人が見つけた問題を、同時に解決できる形にまとめました」


「自分で答えを出したのではなく?」


「自分だけでは、この案にはならなかったと思います」


 アデライン先生は報告書を閉じた。


「それなら、共同課題としては合格です」


 四人の間から、ほっとした息が漏れた。


 授業が終わり、資料を片づけていると、レティシアがリオンへ言った。


「もっと、自分の考えを押し通す人だと思っていました」


「どうして?」


「飛び級して、王立研究所にも通っているからです」


「俺も、レティシアは理論だけを優先する人だと思ってたよ」


「最初は、そうしようとしていました」


 レティシアはあっさり認めた。


「でも、塔を直すまで待てない人がいるなら、別の対応も必要です」


 フィーネも小さな声で言った。


「私は、貴族の人たちは平民街のことに興味がないと思っていました」


「知らないことは、考えようがない」


 オスカーが資料を束ねながら答えた。


「だから、知っている者が話す必要がある」


 その時、教室を出ようとしていたアデライン先生が振り返った。


「言い忘れていました」


 生徒たちが顔を上げる。


「次の総合課題も、今日と同じ班で取り組んでもらいます」


 教室のあちこちから声が上がった。


 レティシアはリオンを見る。


「次は、最初から役割を決めた方がよさそうですね」


「そうだね」


 フィーネは少し困ったような顔をしたが、帰ろうとはしなかった。


 同じ教室で学んでいても、話さなければ分からないことがある。


 いつもの仲間ではない三人との課題は、これからも続くらしい。


 リオンは、それも悪くないと思った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも何かを感じて頂けたら評価とブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ