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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第355話 王宮からの協力要請

 王宮への回答書を送ってから、数日が過ぎた。


 その日も授業を終えたリオンは、いつものように王立研究所へ向かった。


 受付で名を告げると、担当の研究員が少し慌てた様子で立ち上がる。


「リオン君。今日は実験室ではなく、所長室へ行ってください」


「所長室ですか?」


「所長がお待ちです」


 普段であれば、浮遊魔法の実験を行っている時間だった。


 何か問題が起きたのだろうか。


 リオンは研究所の廊下を進み、所長室の扉を叩いた。


「入れ」


「失礼します」


 部屋へ入ると、ヴァイス所長は執務机の前に座っていた。


 机の上には、王宮の印が押された封筒が置かれている。


「来たか、ハル」


「はい」


「そこへ座れ」


 リオンが向かいの椅子へ腰を下ろすと、所長は封筒を持ち上げた。


「王宮から、我々の回答に対する返事が届いた」


「もう届いたのですか?」


「回答を送ってからの早さを考えれば、向こうも急いでいるのだろう」


 所長は中から書状を取り出し、リオンの前へ置いた。


 王宮から王立研究所へ宛てられた、正式な協力要請だった。


「三つの魔法について、王宮で確認を行いたいそうだ」


「王宮で?」


「ああ」


 所長が書状の一部を指で示す。


「転移魔法に対する防護結界の有効性。亜空間収納魔法に対する現在の検査方法の限界。

そして、今後これらの魔法をどのように管理するべきか」


「実際に王宮で試すのですか?」


「転移魔法については、その予定らしい」


 リオンは書状へ目を落とした。


 普通の壁なら、転移魔法で越えることができる。


 だが、防護結界があれば転移先に残した魔力印を感じ取れない。


 王宮は、その説明だけで安心するのではなく、実際の結界で確認したいのだろう。


「亜空間収納も、王宮の門で試すのでしょうか」


「詳しい手順は、現地で警備責任者と相談することになっている」


 所長は書状を机へ戻した。


「私と君の二人に、王宮への出頭ではなく、協力を求めると書かれている」


「出頭ではない……」


「気になっていたのか?」


 リオンは少し迷ってから頷いた。


「自分が使える魔法が、王宮へ武器や毒を持ち込めると報告したので」


「疑われているかもしれない、と?」


「少しだけ」


 所長は腕を組んだ。


「君を疑っているなら、研究方法や対策について意見を求める必要はない。

魔法を使わせないよう拘束すれば済む」


 あまりにも率直な言い方に、リオンは言葉を失った。


「だが、王宮はそうしなかった」


 所長は書状の末尾を指した。


「三魔法の安全な管理と利用について、リオン・ハル本人の意見も聞きたいとある」


「自分の意見を?」


「ああ。王宮は君を、調べるだけの対象とは見ていないということだ」


 リオンは改めて書状を見た。


 三つの魔法を使えるのは、今のところ自分だけだ。


 だが、自分は研究員でも、王宮の役人でもない。


 王立学院に通う学生にすぎない。


「自分に答えられるでしょうか」


「答えが分からないなら、分からないと言えばいい」


 所長は淡々と言った。


「国王が求めているのは、すべてを知っている者ではない。

実際に魔法を使い、その危険も理解している者の意見だ」


「はい」


「ただし、王宮へ行くには学院の許可が必要だ。

明日、学院長室へ行け」


「明日ですか?」


「すでに王宮から学院へも書状が送られている」


 話は、リオンが考えていた以上に進んでいた。


「王宮へ行く日は?」


「三日後だ」


「分かりました」


 リオンが立ち上がると、所長が呼び止めた。


「ハルよ」


「はい」


「王宮へ行ったからといって、できることを大きく見せる必要はない」


「分かっています」


「できないことも隠すな。分からないことを、できるかもしれないとも言うな」


 王宮への回答をまとめた時と同じだった。


 予想ではなく、確認できた事実だけを伝える。


「はい。できることと、できないことを話します」


 所長は満足そうに頷いた。


「それでいい」


 ◇


 翌日の放課後。


 リオンは学院長室へ呼ばれた。


 部屋には学院長とアデライン先生がいた。


 机の上には、王宮から届いた正式な書状が置かれている。


「内容は、すでにヴァイス所長から聞いているな?」


 学院長が尋ねた。


「はい。王宮で三つの魔法について確認を行うと聞きました」


「君には三日後の午後、王宮へ向かってもらう。ヴァイス所長が学院まで迎えに来る予定だ」


「授業はどうなりますか?」


「当日の午後は公欠とする」


 学院長が答えると、アデライン先生が続けた。


「ただし、午前の授業には出てもらいます」


「はい」


「王宮から呼ばれたからといって、学院の課題がなくなるわけではありませんからね」


「分かっています」


 いつも通りの言葉に、リオンは少しだけ安心した。


 学院長は書状を手に取った。


「王宮からは、三魔法の使用者としてだけではなく、王立研究所の研究協力者として出席するよう求められている」


「研究協力者……」


「君が研究所で行ったのは、魔法を見せただけではない。

研究員が再現できるように説明し、危険性についても回答をまとめた」


 学院長は穏やかな声で言った。


「王宮も、その点を評価しているのだろう」


「はい」


「緊張するのは当然だ。だが、君は以前にも陛下やアルフレッド殿下と話している」


 ローヴェル伯爵領を視察した時のことが、リオンの頭に浮かんだ。


 あの時は、自分の役割を特に考えないで同行した。


 今回は、自分が使う魔法について意見を求められている。


 同じ国王に会うのでも、意味はまったく違った。


「必要以上に構えなくていい」


 学院長が言った。


「聞かれたことに、君が分かる範囲で答えなさい」


「分かりました」


 リオンが学院長室を出ると、廊下の壁際にエドガーが立っていた。


「エドガー?」


「終わったか?」


「待ってくれてたの?」


「少し気になっただけだ」


 エドガーは学院長室の扉を見る。


「王宮へ行くことになったんだな」


「知ってたの?」


「詳しい内容は知らない。兄上から、父上が近いうちにリオンへ協力を求めるかもしれないと聞いていた」


 二人は並んで廊下を歩き始めた。


「自分は、疑われているわけではないってさ」


 リオンが言うと、エドガーは足を止めた。


「そんなことを気にしていたのか?」


「まぁね。王宮に武器や毒物を持ち込める報告をしたから」


「父上たちが警戒しているのはリオンではない」


 エドガーははっきりと言った。


「同じ魔法を、悪意のある人間が使えるようになった時のことだ」


「所長にも同じことを言われたよ」


「それに、リオンが危険なことを隠すつもりなら、最初から王宮への報告書に書かないだろう」


 リオンは少しだけ目を見開いた。


 自分では当然のことをしたつもりだった。


 だが王宮側から見れば、魔法の危険を自分から報告したことにも意味があるらしい。


「父上は、できる魔法を奪おうとしているわけではない」


 エドガーが続ける。


「どうすれば安全に使えるのかを知りたいんだと思う」


「自分に良い方法が考えられるかは分からないけどね」


「研究所でも、最初から答えが分かっていたわけではないだろう?」


「そうだね」


「なら、王宮でも同じだ。分からないところから考えればいい」


 エドガーはそれだけ言うと、再び歩き始めた。


「三日後、王宮で会うかもしれない」


「エドガーも同席するの?」


「まだ聞いていない。ただ、父上か兄上から呼ばれる可能性はある」


「そっか」


 階段の前で、エドガーは別の廊下へ向かった。


「リオン」


「ん?」


「王宮だからといって、いつもと違う答えを出そうとするな」


 リオンが返事をする前に、エドガーは背を向けた。


 その言葉は、ヴァイス所長や学院長に言われたことと、よく似ていた。


 ◇


 三日後。


 午前の授業を終えたリオンは、学院の正門前でヴァイス所長と合流した。


「準備はできているか?」


「はい」


 二人を乗せた馬車が、学院を出発する。


 窓の外を流れる王都の景色を見ながら、リオンは王宮で聞かれることを考えていた。


 浮遊魔法。


 転移魔法。


 亜空間収納魔法。


 使い方を説明するだけでは足りない。


 これから誰が使うのか。


 どこまで広めるのか。


 悪用された時、どう防ぐのか。


 研究所だけでは決められないことばかりだった。


 やがて馬車の速度が落ちた。


 窓の向こうに、王宮の高い門が見える。


 門の上には、王家の旗が掲げられていた。


 以前訪れた時と、門の姿は何も変わっていない。


 だが、今回はリオンの目に、その周囲を覆う防護結界の魔力が強く映った。


「行くぞ、リオン」


 ヴァイス所長が馬車を降りる。


「はい」


 リオンも後に続いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
所長と学院長どちらの3日後が正しいんや?
なんだかなあ 解せぬ  相談したらこうなった しっかりしてても、まだ子ども未成年ですよ 教師も学院長も所長も、エドガー君みたいにもっと気を使えよ(怒) リオン君に対して回りの大人達の態度や話し方が私は…
微妙にリオンが迷走してる気がする。結局、どこを目指してるのかがわからない。基本、ハル領が第一なのだろうが、そう言いながら興味に引きずられすぎな印象。
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