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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第16章 王立学院五年 一学期

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第353話 初めての再現

 ヴァイス所長の名義で王宮へ報告書が送られてから、数日が過ぎた。


 報告されたのは、福嶋亮太の理論に記されていた三つの魔法。


 浮遊魔法、転移魔法、亜空間収納魔法。


 そして、福嶋亮太の記録と王国史の違いについてだった。


 王宮から返事はまだない。


 その間も、研究は続いていた。


「こんにちは」


「ハル君、ちょうどいいところに来た」


 放課後、王立研究所の実験室に入ったリオンは、すぐに研究員たちに囲まれた。


 学院から研究所へ通うことは、すでに日課になりつつある。


 実験台には、小さな金属片が置かれていた。


「君の言う通り、福嶋理論に風魔法を加えている。だが、どうしてもこうなる」


 研究員が金属片へ魔力を流す。


 金属片が台から飛び上がり、床を転がった。


「飛散。浮遊なし」


 記録係が淡々と告げる。


「風が強すぎるんだろう?」


 別の研究員が言った。


「弱くすると動かない」


「では、ちょうど中間にすればいい」


「それが分かれば苦労しない」


 リオンは拾われた金属片を見つめた。


「最初から風で浮かせようとしていませんか?」


「浮遊魔法なのだから、浮かせようとするだろう」


「自分は先に、金属片を軽くするような感覚を作っています」


「軽くする?」


「完全に重さを消すわけではありません。台に押しつけられている力を弱めてから、風で支えます」


 研究員たちは顔を見合わせた。


「同時にやるのではないのか?」


「自分は同時にしているつもりでした。でも、説明するなら二つに分けた方がいいと思います」


 リオンは紙を取り、簡単な図を描いた。


「まず、福嶋亮太の理論だけを使います。この時点では浮かせなくて構いません」


「動かなくてもいい?」


「はい。金属片が少し震えるくらいで止めます」


 リオンは次の図を指した。


「そのあと、弱い風を加えます。上へ飛ばすのではなく、落ちないように支えるだけです」


「上がり始めたら?」


「風を弱めます」


「上がっているのに弱めるのか?」


「強いままだと、さっきのように飛びます」


 細身の研究員が台の前へ出た。


「私が試そう」


 ヴァイス所長が頷く。


「工程を分けて記録しろ」


「はい。第一工程、福嶋理論による干渉を開始します」


 研究員が魔力を流す。


 金属片の周囲に淡い光が滲んだ。


 やがて、小さく震え始める。


「反応あり」


「そのままです」


 リオンが言った。


「強くしないでください」


 研究員は魔力を保ちながら、風魔法を重ねた。


 金属片の片側がわずかに持ち上がる。


「風を強くするな」


 所長の声が飛ぶ。


「はい」


 金属片の反対側も、ゆっくりと台から離れた。


 爪の厚さほどの高さだった。


「浮いている……」


 誰かが小さく呟いた。


「記録を続けろ」


「浮上確認。持続計測開始」


 ・・・。


 ・・・・・・。


 金属片が傾き、台へ落ちた。


 小さな音が、静まり返った実験室に響く。


「二秒です」


 記録係が言った。


 成功した研究員は、台の上を見つめたままだった。


「今のは……浮遊魔法で間違いないのか?」


 ヴァイス所長が答える。


「それを確かめるために、もう一度だ」


 二度目は失敗した。


 三度目も、金属片が傾いただけだった。


 四度目。


 金属片は再び、台からわずかに離れた。


「浮上確認!」


 今度は記録係の声にも力が入った。


 ヴァイス所長は記録用紙を受け取る。


「偶然ではないな」


 実験室の空気が、一気に緩んだ。


「できた……」


「ハル君の言った通りだった」


「まだ二秒だ」


 所長の一言で、研究員たちが姿勢を正す。


「対象は小さな金属片。術式と補助魔石も必要だ。これで完成したと思うな」


「はい」


「だが、初めて再現できたことは事実だ」


 ヴァイス所長はリオンが描いた図を見る。


「我々は、完成した魔法を一度に再現しようとしていた」


「自分も、説明するまでは分けて考えていませんでした」


「使えることと、伝えられることは違うということか」


「はい」


 その日から、浮遊魔法の実験は工程ごとに記録されるようになった。


 数日後には、最初に成功した研究員が三度に一度ほど金属片を浮かせられるようになった。


 別の研究員も、薄い木片を一秒だけ浮かせた。


 転移魔法と亜空間収納魔法は、まだ誰も成功していない。


 それでも、リオンにしか使えなかった魔法が、初めて他人の手で発動した。


 さらに数日後。


 実験中のリオンたちのもとへ、王宮から書状が届いた。


「報告書への返答です」


 研究員から封筒を受け取ったヴァイス所長は、その場で封を切った。


 書状を読み進める所長の顔が、次第に険しくなる。


「何と書かれているのですか?」


 リオンが尋ねた。


「三つの魔法に関する追加質問だ」


 所長は書状へ目を落とした。


「浮遊魔法で、人間や大型の荷を運ぶことは可能か」


 研究員たちの視線が、実験台の金属片へ集まる。


「転移魔法は、壁や防護結界を越えられるか。王宮内に魔力印を置かれた場合、発見できるか」


 所長は続けた。


「亜空間収納魔法に武器を入れ、検査を受けずに王都へ持ち込めるか」


 実験室から声が消えた。


「まだ、金属片を数秒浮かせられるようになっただけです」


 研究員の一人が言った。


「王宮は、その数秒の先を見ている」


 ヴァイス所長は書状を机に置いた。


「研究所が考えていたのは、どうすれば魔法を使えるかだ」


 所長の指が、書状の上を叩く。


「だが王宮が知りたいのは、その魔法が使われた時、何が起きるかだ」


 リオンは実験台を見た。


 そこには、初めて研究員が浮かせた小さな金属片が置かれている。


 研究所にとっては、ようやく得られた最初の一歩だった。


 だが王宮はすでに、その魔法が王国を変える可能性と、脅かす危険の両方を見始めていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
メイド・イン・アースなエンタメが指し示す可能性よ。
面白くなってきました 今更気づいたのはヴァイス所長はアインシュタインと同名のアルベルトだったw 研究員の人が少し出来るようになったことでリオン君が特別視されずに済めばいいけど… 福嶋亮太の魔法は誰でも…
それはそう そして王宮で何かあれば真っ先に疑われることになった
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