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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第15章 王立学院三年 三学期

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第336話 昼休みの決意

短編で「元最強探索者、ダンジョン救助員になる(https://ncode.syosetu.com/n5300ml/)」を書きました。

 翌朝、リオンはいつも通り教室にいた。  


 朝の授業が始まる前から、あちこちで昨日見たコースの話が続いていた。  


 そんな声を聞きながら、リオンは席に着いていた。


 机の上には、今日の教材が並んでいる。  


 授業の準備はできている。  


 けれど、頭の奥には、昨夜自室で紙に書いた言葉が残っていた。  


 足りないものを、形にする。  


 文官。  


 研究。  


 騎士。


 魔法。


 どれも大事だ。


 だが、自分が一番学びたいものは、もう見え始めていた。


「リオン」  


 隣からミラが小さく声をかけてきた。


「今日、少し静かだね」


「そうかな」


「うん。何か決めた顔してる」  


 リオンは少しだけ笑った。


「顔に出てる?」


「出てる。たぶん」


「たぶんなんだ」


「でも、昨日の夜ずっと考えてたんでしょ?」  


 ミラは、からかうというより、自然にそう聞いてきた。  


 リオンは少し迷ってから頷いた。


「うん。少しね」


「そっか」  


 ミラはそれ以上、急かさなかった。  


 ただ、前を向きながら小さく笑った。


「昼に聞くね」


「分かった」  


 リオンは頷いた。  


 やがてベルンハルト先生が教室に入り、午前の授業が始まった。  


 授業はいつも通り進んだ。  


 昨日の見学の話題に触れる生徒もいたが、ベルンハルト先生はそれを軽く受け止めるだけで、すぐに通常の内容へ戻した。


「見学で何を感じたかは、それぞれ違うだろう。

 だが、感じただけで終わらせるな。

 次に何を学ぶかへつなげろ」  


 その言葉に、リオンは静かに頷いた。  


 次に何を学ぶか、か。  


 ◇  


 午前の授業が終わると、生徒たちは一斉に席を立った。  


 リオンたちも、いつものように食堂へ向かった。  


 昨日と同じ場所には、すでにガイルとクラウスがいた。  


 ガイルはまだ騎士コースの話をしている。


「昨日の打ち込み、もう一度見たいな。

 あれは見てるだけで腕が動きそうになる」


「まだ言っているのか」  


 クラウスが淡々と言った。


「言うだろ。あれを見て何も思わない方がおかしい」


「思うことはあった。ただ、お前ほど声には出さない」


「お前は何でも静かすぎるんだよ」


「お前は何でも声に出しすぎる」  


 ミラが二人を見て笑った。


「騎士コース組、もう息が合ってるね」


「合っているのか、これは?」  


 クラウスが首を傾げる。


「合ってるんじゃない?」  


 ミラは楽しそうに言った。  


 そこへ、セレナとナディアが並んでやって来た。  


 セレナはいつも通り背筋を伸ばしている。


 ナディアは柔らかく微笑み、リオンたちに軽く会釈した。


「お待たせしました」


「全員そろった?」  


 ミラが周囲を見回す。  


 少し遅れて、エドガーとヴィクトルもやって来た。  


 エドガーは昼食を手に、いつも通り落ち着いた足取りだった。


 ヴィクトルは何か考えているような顔をしていたが、昨日よりは表情がはっきりしている。


「これでそろったわね」  


 セレナが言った。  


 しばらくは、いつものように昼食を取りながら、軽い話が続いた。  


 ガイルは騎士コースの訓練の話をし、クラウスがそれを時折訂正する。  


 ナディアはそれを見て、くすりと笑う。


「ミラさん、まだ実験のことを考えているんですか?」


「ちょっとね。光って、置き方だけでけっこう変わるんだなって」


「昨日からずっとそれを言っているな」  


 ヴィクトルが言う。


「だって面白かったんだもの」  


 ミラは素直に答えた。  


 その言葉に、リオンは少しだけ笑った。  


 会話が一段落したところで、ミラがリオンを見た。


「それで、リオンは決めたの?」  


 その一言で、周囲の視線が自然とリオンに集まった。  


 リオンは手にしていた杯を置いた。


「うん。決めた」  


 ガイルが身を乗り出す。


「どこだ?」  


 リオンは、少しだけ間を置いてから言った。


「僕は、研究コースに進む」  


 場が一瞬静かになった。  


 最初に反応したのはガイルだった。


「研究コースか。騎士コースじゃないのは残念だな」


「騎士コースも大事だと思ってるよ」  


 リオンは苦笑した。


「でも、僕が一番学びたいことは研究コースに近いと思った」  


 クラウスが静かに口を開く。


「昨日言っていた、足りないものを形にするという話か」


「うん」  


 リオンは頷いた。


「ハル領には、まだ足りないものが多い。暗い場所もある。

 記録が曖昧な場所もある。 人に頼りきっている判断もある。

 壊れてから慌てて直す癖もある」  


 リオンは、そこで一度言葉を切った。


「そういうものを見つけて、試して、使える形にしたい。

 研究コースなら、それを学べると思った」  


 エドガーが短く言った。


「合っていると思う」  


 リオンはエドガーを見る。


「そう思う?」


「ああ。お前は、ただ作りたいわけではないだろう。

 使えるようにしたいんだと思う」  


 エドガーらしい、飾りのない言い方だった。  


 セレナも頷く。


「昨日の話を聞いていれば、意外ではないわね」  


 ナディアが穏やかに微笑んだ。


「リオンさんらしい選び方だと思います」  


 リオンは少し照れたように視線を落とした。


「ありがとう」


「じゃあ、次は俺だな」  


 ガイルが自分の胸を叩いた。


「俺は騎士コースだ。昨日見て、迷う理由がなくなった」


「ガイルはそう言うと思った」  


 ミラが笑う。

 

「お前、今朝も同じこと言ってたからな」  


 クラウスが言った。


「言ってたか?」


「言っていた」


「なら、もう全員知ってるな」  


 ガイルは悪びれずに笑った。  


 クラウスは肩をすくめる。


「俺も騎士コースにする。個人の剣より、隊で守る動きを学びたい」  


 ガイルが嬉しそうにクラウスを見る。


「同じだな」


「同じ騎士コースでも、見るものは違うと思うがな」


「それでいいだろ。騎士コースなのは同じだ」  


 ガイルはあっさり言った。  


 クラウスは少しだけ笑った。  


 エドガーが続く。


「俺は文官コースにする」


「やっぱり?」  


 ミラが言うと、エドガーは頷いた。


「現場を支える仕事なら、学ぶ意味がある」  


 リオンは自然と背筋を伸ばした。


「エドガーが文官コースにいてくれると心強い」


「まだ決めただけだ。できるようになったわけじゃない」  


 エドガーがそう返すと、セレナが軽く笑った。


「そういうところが信用できるのよ」


「褒めているのか?」


「もちろん」  


 セレナは当然のように答えた。  


 エドガーは少し困ったように目を逸らした。  


 その様子に、ミラがまた笑う。


「セレナは?」  


 ガイルが聞いた。  


 セレナは軽く腕を組んだ。


「私は魔法コースにするわ」


「似合うな」


「当然でしょ」  


 セレナは少しだけ得意げに言った。  


 それから、昨日の見学を思い出すように視線を落とした。


「ただ、昨日見て少し考えが変わったわ。

 魔法をただ力として扱う場所ではなかった。

 だから、もう少し見てみたいの」  


 リオンは頷いた。


「セレナなら、魔法コースでもしっかり見そうだね」


「当たり前よ。中途半端に扱うつもりはないわ」  


 ナディアが続いた。


「私も魔法コースを考えています」


「ナディアも?」  


 ガイルが少し驚いたように見る。  


 ナディアは穏やかに頷いた。


「はい。魔法そのものだけでなく、魔法を使う人の近くにいる者が、どう動くべきかも学びたいと思いました」


「ナディアらしい理由だね」  


 リオンが言うと、ナディアは少し照れたように笑った。


「自分にできることから考えたいので」  


 それぞれの進む先が、少しずつ見えてきた。  


 そこでミラが、軽く手を挙げた。


「じゃあ、私も言うね」  


 リオンはミラを見た。


「ミラも決めたの?」


「うん。私も研究コースにする」


「ミラも?」


「うん。それと、飛び級もする」  


 リオンは思わず目を瞬かせた。


「飛び級も?」


「そんなに驚く?」


「研究コースは合うと思ってたけど、飛び級まで決めていたとは思わなかった」  

 ミラは少し真面目な顔になった。


「昨日の実験、楽しかったの。

 難しい理屈はまだ分からないけど、使う人によって見え方が違うっていうのは分かった」  


 リオンは黙って聞いた。


「まぶしいとか、使いにくいとか、ちょっと怖いとか。

 そういう小さな違いを拾えるなら、研究コースで学ぶ意味があると思ったの」  


 ミラはそこで、少しだけ笑った。


「それに、リオンが研究コースに行くなら、面白いことが起きそうだし」  


 ガイルが笑う。


「理由、それか?」


「大事よ。面白い方が続くもの」


「それは分かる」  


 ガイルが妙に納得したように頷く。  


 セレナが呆れたように言った。


「そこで納得するのね」


「面白いのは大事だろ」


「否定はしないけれど」  


 ミラは明るく笑っていた。  


 けれど、リオンには分かった。  


 ミラは軽い気持ちだけで言っているわけではない。  


 昨日の青輝石の実験で、彼女は本当に使う人の感覚を見ていた。  


 リオンは小さく頷いた。


「ミラが研究コースにいると、助かると思う」


「本当?」


「うん。僕は気づかないことも多いから」


「それ、ちょっと嬉しい」  


 ミラは素直に笑った。  


 その時、ヴィクトルが静かに口を開いた。


「俺も研究コースにする」  


 全員の視線が、今度はヴィクトルへ向いた。  


 ミラが驚いたように言う。


「ヴィクトルも?」


「ああ」  


 ヴィクトルは落ち着いて頷いた。


「飛び級にも挑戦するよ」  


 ガイルが目を丸くした。


「お前までか」


「昨日から考えていた」  


 ヴィクトルは淡々と言った。


「研究コースで学ぶことは、ローデン商会に必要になる」  


 リオンは少しだけ眉を寄せた。


「僕に合わせなくていいんだよ」  


 ヴィクトルはすぐに返した。


「合わせているだけなら、飛び級まではしない」  


 その言葉に、リオンは何も言えなくなった。  


 ヴィクトルは続ける。


「良い品を仕入れて売るだけなら、今まで通りでいい。

 だが、同じ材料から別の価値を作れるなら、商会の仕事は変わる」  


 セレナが静かに聞いている。  


 エドガーも、ガイルも、クラウスも、黙ってヴィクトルを見ていた。


「試作と改良を商会の中に持てば、ローデン商会はもっと先へ行ける。 昨日の青輝石の実験を見て、そう思った」  


 リオンは、昨日ヴィクトルと話したことを思い出した。  


 工房は作る場所。  


 その前に試す場所。  


 売れるか、壊れやすくないか、運びやすいか、使う人が困らないか。


 それを商会の中で確かめる。  


 ヴィクトルは、それを本気で考えているのだ。  


 ヴィクトルは、少しだけリオンを見た。


「それに、リオンといると退屈しない」  


 ガイルが吹き出しそうになった。


「結局、それも理由なんだな」


「大事な理由だ」  


 ヴィクトルは真顔で言った。  


 ミラが笑う。


「分かる。退屈しないって大事よね」  


 セレナが呆れたように、けれど少し楽しそうに言う。


「あなたたち、研究コースを何だと思っているの」  


 ヴィクトルは少し考えてから答えた。


「退屈しない場所だろう」


「答えになっているようで、なっていないわね」


「間違ってはいない」  


 セレナは小さく息を吐いた。


「そういうところ、本当に商人らしいわ」


「商人は、退屈な場所に長くいない」


「それは初耳ね」  


 ミラが笑い、ガイルも声を上げて笑った。  


 昼休みの空気が、少し明るくなる。  


 リオンは、ミラとヴィクトルを見た。  


 二人とも研究コースを選んだ。  


 しかも、飛び級まで受けるという。  


 驚きはあった。  


 けれど、不思議と違和感はなかった。  


 ミラは、人が使った時の感覚を見る。  


 ヴィクトルは、それを商会の未来へつなげる。  


 同じ研究コースでも、二人が見ているものは少し違う。  


 それが、心強かった。


「三人とも研究コースか」  


 ガイルが腕を組んだ。


「変なもの作る時は、俺にも見せろよ」


「変なものって決めつけないでよ」  


 ミラが言う。  


 ヴィクトルが真面目な顔で続けた。


「売れそうなら見せる」


「売れなかったら?」


「見せない」


「そこは見せてあげようよ」  


 ミラが笑う。


「俺は売れるかどうかじゃなくて、面白いかどうかで見たいんだ」


 ガイルが言うと、クラウスが静かに返した。


「お前が面白がるものは、たいてい危ない」


「否定できないな」


「否定しろ」  


 また笑いが起きた。  


 エドガーが、ふと静かに言った。


「進む場所は違っても、見ている先は近いのかもしれないな」  


 リオンはその言葉に目を向けた。  


 エドガーは、いつものように淡々としている。  


 だが、その言葉は不思議と胸に残った。  


 道は違う。  


 けれど、それぞれが昨日見たものを、自分の言葉で受け止めている。  


 昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。  


 中庭にいた生徒たちが少しずつ立ち上がる。


「そろそろ戻らないと」  


 セレナが言った。  


 ガイルが眉を寄せる。


「次の授業、何だった?」  


 クラウスが即答した。


「予定表を見ろ」


「見た。忘れた」


「なら、もう一度見ろ」  


 ナディアが笑った。


「ガイルさんらしいですね」  


 リオンも立ち上がった。  


 昼休み前と、何かが大きく変わったわけではない。  


 それでも、皆の顔は少しだけ違って見えた。  


 リオンは、自室の机に置いた紙のことを思い出した。  


 足りないものを、形にする。  


 その言葉は、もう紙の上だけにあるものではなくなっていた。


「行こう」  


 リオンが言うと、皆がそれぞれ頷いた。



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― 新着の感想 ―
セレナはリオンではなくヴィクトルにちかいのか?混沌としてきたな
高校で選択科目が分かれて、進路もだんだん定まってきて。別々の進路に進むけど同級生!……って気分を思い出しました。良きです。
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