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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第15章 王立学院三年 三学期

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第332話 領地を動かす授業

 文官コースの見学日は、思っていたよりも早く来た。


 希望者は午後、四年生が使う講義室へ向かうことになっている。


 騎士コースの見学に向かったガイルとクラウスとは、廊下で別れた。


「リオン、文官コースを見たら騎士コースにも来い」


「今日は文官コースの日だよ」


「明日でもいい」


「まだ日程を決めてない」


「決めればいい」


 ガイルは相変わらずだった。


 その隣で、クラウスが軽くため息をつく。


「ガイル、見学は順番がある」


「順番など、必要なら増やせばいい」


「増やすのはお前ではない」


 そんなやり取りを残して、二人は訓練場の方へ向かっていった。


 文官コースの見学に向かうのは、俺、ミラ、ヴィクトル、エドガー、セレナ、ナディアだった。


 セレナとナディアは魔法コースとも迷っているはずだが、文官コースも外せないらしい。


 エドガーは当然のように落ち着いている。


 ヴィクトルはすでに何かを見定める顔をしていた。


 ミラは少し緊張しているようにも見える。


「大丈夫?」


 俺が聞くと、ミラは小さく頷いた。


「うん。ちょっと緊張してるだけ」


「文官コースって、そんなに怖いのかな」


「課題が多いって聞くから」


 ヴィクトルが横から言った。


「課題が多いのは悪いことじゃない。課題が多いということは、それだけ実務に近いということだ」


「ヴィクトルは嬉しそうだね」


「商人にとって、実務に近い学びほど価値がある」


 実にヴィクトルらしい答えだった。


 文官コースの講義室は、普段の教室より少し広かった。


 壁には王国の地図と、いくつかの領地図が掛けられている。


 棚には帳面らしき分厚い冊子が並び、黒板の横には大きな木札がいくつも置かれていた。


 机の配置も普通とは違う。


 全員が前を向く形ではなく、いくつかの大きな机を囲むように並んでいる。


 すでに四年生らしい生徒たちが集まり、地図を前に話し合っていた。


 静かな座学を想像していたが、まったく違った。


「橋を先に直すべきだ。物流の詰まりを放置すれば、来週には三つの村に影響が出る」


「でも、橋の修繕には時間がかかるでしょう。その間に今不足している食料はどうするの?」


「備蓄を出せばいい。ただし、全部出せば次の雪で詰む」


「護衛を増やす案は?」


「人員が足りない。領軍を回せば、別の街道が薄くなる」


 声が飛び交っている。


 どうやら四年生たちは、前回の課題についてまだ議論を続けていたらしい。


 思っていた以上に、熱い。


 議論というより、ほとんど作戦会議だった。


 講義室の前方に立っていた男性教師が、俺たちに気づいて顔を上げた。


 細身で、穏やかな目をしている。


「前回の話は、ここまでにしましょう。見学の三年生ですね。私は文官コースを担当しているマティアスです」


 俺たちはやや緊張しながら、頭を下げた。


「今日は見学させていただきます。よろしくお願いします」


 マティアス先生は笑顔で俺たちに声をかける。


「よろしくお願いします。今日は座って見るだけではなく、必要なら意見も出してください」


「意見も、ですか?」


 ミラが少し驚いた声を出す。


 マティアス先生は微笑んだ。


「見学とはいえ、ただ座って聞くだけではありません。

地図を見て、数字を見て、その先にある人の暮らしまで考えてください。

それが文官コースの授業です」


 柔らかい口調なのに、言っていることはなかなか厳しい。


 俺たちは空いている席に案内された。


 机の上に、簡単な資料が配られた。


 俺はそれに目を通す。


 課題は、春前の領地運営演習。


 ある伯爵領で、雪解け水によって南部の用水路があふれ、下流の農地の一部が水に浸かっている。


 水門の管理人は、老朽化した水門の修繕を求めている。


 しかし、上流の村では、水を止められると粉ひき用の水車が動かなくなると反発している。


 さらに、浸水した農地では春の種まきが遅れる可能性があり、農民たちからは税の納付時期を延ばしてほしいという訴えも出ている。


 領の予算と人員には限りがある。


 水路の修繕、農地の復旧、上流と下流の村の調整、税の扱いを含めて、対策案を優先順位つきで決めよ。


 資料の下には、いくつかの選択肢が書かれていた。


 水門の緊急修繕。


 あふれた用水路の掘り直し。


 浸水した農地の排水作業。


 農民への種籾の貸し出し。


 税の納付期限の猶予。


 上流の水車小屋への補償。


 水門管理人の増員。


 上流と下流の村長を集めた調整会議。


 どれも必要に見える。


 けれど、全部を選ぶだけの予算も人手もない。


「では、はじめましょう」


 マティアス先生は黒板に大きく三つの言葉を書いた。


 短期対応。


 中期対応。


 再発防止。


「まずは、この三つに分けて対策を考えましょう。

今回の件で言うと、今すぐ困っている農地と村をどうするか。

次に、春の種まきまでに何を間に合わせるか。

そして、来年以降、同じ問題を繰り返さないために何を残すか」


 先生は教室を見渡した。


「地図を見て、数字を見て、その先にある人の暮らしまで考えてください」


 その言葉に、教室の空気が少し引き締まった。


「では、まず四年生の意見から。短期対応で最優先すべきものは?」


 すぐに一人の上級生が手を挙げた。


「浸水した農地の排水作業です。春の種まきが遅れれば、その年の収穫に響きます」


「理由は?」


「食料生産に影響が出れば、一つの村だけの問題では済みません。税収にも関わります」


 別の上級生が反論する。


「排水には人手がいる。今の人員で広い農地すべてを処理するのは無理だ。

先に水門を直して、水の流れを止めるべきだ」


「水門を止めれば、上流の水車小屋が止まる」


「粉ひきが止まれば、上流の村も困る。だが、下流の農地が駄目になれば、もっと大きな損害になる」


「その言い方では、上流の村は納得しない」


 すぐに議論が広がる。


 マティアス先生は止めない。


 むしろ、そのやり取りを楽しむように聞いている。


「よろしい。では、三年生にも聞いてみましょう」


 急にこちらへ視線が向いた。


 思ったより早い。


「君ならどう見ますか?」


 視線を向けられたヴィクトルは待っていましたという顔で資料を置いた。


「水門の修繕と、上流への補償は同時に考えるべきです。

上流の水車を止めるなら、その損失を無視すると揉めます」


 マティアス先生が頷く。


「具体的には?」


「水車小屋への補償を、ただの見舞金にしない方がいいと思います。

領の命令で一定期間水を止めるなら、その間に粉ひきができない分を、領が別の水車小屋や商会に依頼して補う契約にするべきです」


 上級生の一人が身を乗り出した。


「金で補償するだけでは駄目なのか?」


「駄目ではありません。でも、粉が不足すれば上流の村の生活に影響します。

金を渡して終わりではなく、粉ひきの代替手段まで用意した方が不満は減ります」


「なるほど」


 上級生が感心したように頷く。


 ヴィクトルは満足そうだった。


 さすがに、商取引や補償の話になると強い。


「エドガー殿下はいかがですか」


 マティアス先生が自然に呼んだ。


 エドガーは資料から顔を上げる。


「上流と下流の利害を分けて考えすぎない方がいいと思う」


「と言いますと?」


「下流の農地を守るために上流の水車を止める。

上流の水車を守るために下流の農地を放置する。

どちらか一方の言い分だけを通せば、村同士に不信が残る」


 教室が静かになった。


「だから、まず領主側が、これは上流と下流の争いではなく、領全体の水利の問題だと示すべきだと思う。

水門の修繕、排水、補償、税の猶予を別々に見るのではなく、一つの対策として組む必要がある」


 エドガーの視点は、一つの村を越えていた。


 王族として、複数の利害をまとめる目がある。


 マティアス先生は嬉しそうに目を細めた。


「よい視点です。領地運営で恐ろしいのは、問題そのものだけではありません。

問題の処理を間違えた結果、村同士の不信が残ることです」


 セレナが静かに続けた。


「だからこそ、説明が必要です」


「君はセレナさんですね、どうぞ」


「下流の農地を優先して水門を調整するなら、上流の村に理由を説明しなければなりません。

上流に補償を出すなら、下流の農民にも、それが不公平な優遇ではないと伝える必要があります」


 セレナらしい。


 判断そのものだけでなく、貴族としての説明責任を見ている。


「どちらかの村だけが得をしたように見えた時点で、次の不満が生まれます。

領主側は、誰を助けるかだけでなく、なぜその順番なのかを説明できなければなりません」


「その通りです」


 先生は黒板に「説明責任」と書き加えた。


「領地運営では、正しい処置をしただけでは足りません。なぜそうしたのかを伝えることも仕事です」


 ナディアが静かに手を挙げた。


「水の問題は、村の感情に長く残ると思います」


 先生が視線を向ける。


「続けてください」


「水は、毎年必要になるものです。

一度、上流の村が不当に水を止められたと思えば、来年も同じ不安を持つでしょう。

下流の村が毎年水害を押しつけられていると思えば、やはり不満は残ります」


 穏やかな声だが、内容は鋭い。


 ナディアは外交の目で見ている。


「ですから、今年だけの対応ではなく、来年からどう話し合うのか、誰が水門を確認するのか、そういう仕組みも必要だと思います」


 上級生の一人が頷いた。


「確かに、今年だけ金を出しても、来年また揉めるな」


「そうです。水利は一度こじれると、村同士の関係に響きます」


 マティアス先生が頷きながら言った。


「よい指摘です。水の流れは、感情の流れにもつながります」


 教室に小さなざわめきが起きる。


 文官コースの授業は、思っていたよりもずっと活発だった。


 誰かが意見を出す。


 別の誰かが反論する。


 先生が問い返す。


 上級生が補足する。


 そのやり取りの中で、地図の上の用水路が、ただの線ではなくなっていく。


 そこに水が流れ、農地があり、水車が回り、村人の暮らしがある。


 帳面の数字の後ろに、人の生活が見えてくる。


「あなたはどう見ますか?」


 視線を向けられ、ミラが少し背筋を伸ばした。


「私ですか」


「はい。感じたことで構いません」


 ミラは資料を見つめた。


 それから、ゆっくり話し始めた。


「水門の修繕も、農地の排水も必要だと思います。

でも、今困っている人たちが、ちゃんと自分たちのことを見てもらえていると思える形も必要だと思います」


 教室が静かになった。


 ミラの声は大きくない。


 けれど、よく通った。


「下流の農民にとっては、種まきが遅れることは生活そのものに関わります。上流の人たちにとっても、水車が止まれば日々の暮らしに響きます。

どちらも、ただ我慢しろと言われたら納得できないと思います」


 マティアス先生は深く頷いた。


「では、どうすればよいと思いますか」


「すぐに全部を解決できなくても、いつ、何を、どこまでしてもらえるのかを知らせることが大事だと思います。

待つしかない人たちにも、見捨てられていないと分かる形が必要です」


 先生は黒板に「最低限の安心」と書いた。


「大切な視点です。優先順位を決めることは、低い順位の場所を切り捨てることではありません」


 先生は教室全体を見た。


「文官は、数字で考えます。ですが、数字に慣れすぎると、人を数字として扱い始める。そうなれば、領地は必ず歪みます」


 俺はミラを見た。


 ミラは少し緊張した顔をしていたが、どこかほっとしたようでもあった。


 昨日、中庭で話したことを思い出す。


 領地は、ただ家が持っている土地ではない。


 そこに人がいる。


 ミラは、それをちゃんと見ようとしている。


「リオン君」


 マティアス先生の声がした。


 来ると思っていなかったわけではない。


 だが、いざ呼ばれると少し緊張する。


「君なら、どう順番をつけますか」


 教室の視線が集まる。


 俺は資料をもう一度見た。


 水門。


 用水路。


 農地。


 種籾。


 税。


 補償。


 人員。


 村同士の調整。


 全部必要だ。


 だが、全部はできない。


 俺は少し考えてから答えた。


「まず、短期対応として浸水した農地の排水を優先します。春の種まきに間に合わなければ、その年の収穫に影響が出るからです」


「水門は?」


「同時に確認します。ただし、全面修繕にすぐ入るのではなく、まずは水量を調整できる最低限の応急処置をするべきだと思います。

完全に水を止めると上流の水車が止まるので」


 ヴィクトルが少しだけ頷いた。


「上流には、事前に期間と補償を伝えます。

水車が止まるなら、粉ひきの代替手段を用意する。金だけではなく、実際に生活が回るようにする必要があります」


 上級生の一人が言った。


「では、下流の農民への税猶予は?」


「出すべきだと思います。ただし、全員一律ではなく、浸水の程度と種まきの遅れを確認して段階を分けます。

被害が大きい農地には納付期限の猶予、種籾の貸し出し、排水作業への人員支援を組み合わせる」


「確認に時間がかかるのでは?」


「だから、仮認定を出します。まず村長と水門管理人、代官の三者で被害を仮に確認して、後で正式に調整する。全部を確認してから動くと遅いので」


 言いながら、前世の仕事の感覚が少し戻ってくる。


 完全な資料が揃うまで待っていたら、現場が止まる。


 だが、確認なしに動けば不公平が出る。


 だから、仮で動かし、後で精算する仕組みがいる。


「中期対応としては、上流と下流の村長を集めた調整会議を開きます。

今年の対応だけでなく、来年以降の水門操作の基準を決めるべきです」


 俺は黒板の三つの言葉を見た。


 短期対応。


 中期対応。


 再発防止。


「再発防止としては、水門管理人を増やすか、少なくとも補助役を置きます。

一人の管理人の判断だけに頼ると、次も遅れるかもしれません。

それと、雪解け前に水路と水門を点検する日を決めて、上流と下流の村からも立ち会わせる」


 話し終えると、教室が少し静かになった。


 しまった。


 少し話しすぎたかもしれない。


 マティアス先生は俺をじっと見ていた。


 怒っているようではない。


 むしろ、興味を持たれている。


「リオン君」


「はい」


「君は、実務を見たことがありますね」


 やはり、そう来たか。


「少しだけです」


 そう答えると、近くでヴィクトルが小さく笑った。


 セレナもこちらを見る。


 その目は、またその“少し”ね、と言っているようだった。


 マティアス先生も微笑んだ。


「少し、ですか」


「はい。ハル領で、領地のことを少し」


「なるほど」


 先生は深く追及しなかった。


 その代わり、黒板に新しく文字を書いた。


 水利。


 農地。


 補償。


 税。


 調整。


「今の意見には、文官に必要なものがいくつも入っています。

現場を見ること。数字を見ること。水の流れを見ること。人の暮らしを見ること。

そして、今すぐすることと、後で効いてくることを分けること」


 先生は俺だけでなく、全員を見る。


「文官の仕事は、机の上で終わりません。机の上で考えたことは、必ず水路に出ます。

農地に出ます。村に出ます。人の生活に出ます」


 その言葉に、俺は胸の奥が重くなるのを感じた。


 文官コース。


 法、財政、領政、外交、行政実務。


 言葉だけで聞けば、帳面と書類の世界に見える。


 だが、今見ている授業は違った。


 これは、領地を動かす授業だ。


 水を動かす。


 人を動かす。


 金を動かす。


 村同士の不満を調整する。


 春の種まきに間に合わせる。


 剣はない。


 魔法も使わない。


 だが、ここにも戦いがある。


 判断が遅れれば、人が困る。


 順番を間違えれば、不満が生まれる。


 説明を怠れば、信頼が崩れる。


 文官は、ただ帳面を見る者ではない。


 帳面の向こうにいる人を見る者なのだと思った。


 その後も、議論は続いた。


 上級生たちは、俺たち三年生の意見も取り込みながら、対策案を組み直していく。


「排水作業を最初に入れるなら、人員はどこから出す?」


「水門修繕の職人を全部回すわけにはいかない」


「農民自身に作業をさせるなら、その分の補償は必要だ」


「税猶予だけで足りるか?」


「種籾の貸し出しと組み合わせるべきだ」


「上流の水車小屋には粉ひきの代替契約を出す」


「その契約先はどこだ?」


「隣村の水車は使えるが、運搬費がかかる」


「では、その運搬費は領が持つのか、村が持つのか」


「領が持たなければ、上流は納得しないだろう」


「だが、全部領が持てば予算が足りない」


「だから期間を区切るべきだ」


 議論は止まらない。


 先生は時々問いを投げるだけで、答えを押しつけない。


「その判断は誰に説明しますか」


「待たされる村には何を示しますか」


「来年も同じ方法で対応できますか」


「一人の管理人に責任を負わせすぎていませんか」


 問いが投げられるたびに、意見が深くなっていく。


 俺はその空気に引き込まれていた。


 闊達。


 まさにそういう言葉が合う授業だった。


 静かに聞いて、正解を書き写す場所ではない。


 考え、言い、反論され、直し、また考える場所。


 文官コースがこういう場所なら、学べることは多い。


 見学時間が終わる頃には、黒板は文字で埋まっていた。


 マティアス先生は最後に資料を閉じた。


「今日の演習に、完全な正解はありません」


 教室が静かになる。


「ですが、より悪くない選択はあります。より説明できる選択もあります。

領地運営とは、その積み重ねです」


 先生は俺たち三年生を見た。


「文官コースを選ぶ者は、帳面が読めるだけでは足りません。人を見なければならない。

水を見なければならない。時には、選ばなかったものの痛みも背負わなければならない」


 その声は穏やかだった。


 だが、軽くはなかった。


「それでも、領地を動かす側に立ちたい者は、歓迎します」


 授業が終わり、俺たちは講義室を出た。


 廊下に出ると、冬の空気が少しだけ冷たく感じた。


 ヴィクトルが満足そうに言う。


「面白かったな」


「ヴィクトルは特に楽しそうだった」


「補償と契約をどう組むかを考えられる授業は貴重だ。文官コース、悪くない」


「悪くないどころじゃなさそうだね」


 ミラが言うと、ヴィクトルは笑った。


「かなり良い」


 エドガーは静かに頷いた。


「上流と下流の調整は重要だった。利害の違う者同士を、どう一つの領地としてまとめるか。王宮でも同じだ」


 セレナも続ける。


「説明責任の話もね。正しいことをしたつもりでも、伝え方を間違えれば信頼を失うわ」


 ナディアは少し考えるように言った。


「水利の問題は、村同士の関係を長く左右するのですね。単なる設備の話ではないのだと思いました」


 それぞれが、自分の視点で授業を受け取っている。


 ミラは俺の隣を歩きながら、小さく言った。


「文官コース、思っていたより怖かった」


「怖い?」


「うん。帳面の勉強っていうより、人の生活を預かる感じがしたから」


「分かる」


 俺も同じことを感じていた。


 文官コースは、やはり必要だ。


 そう思った。


 ハル領を動かすなら、学ばなければならない。


 領地を良くしたいなら、避けて通れない。


 だが、必要だと思うほど、他の道も切り捨てられなくなる。


 領地を動かすには、守る力もいる。


 魔法の知識もいる。


 研究の目もいる。


 文官を軸にするのか。


 文官を選んだ上で、他をどう補うのか。


 答えは、まだ出ない。


 それでも、今日の授業で一つだけはっきりした。


 文官コースは、机に向かうだけの道ではない。


 領地を動かすための道だ。


 俺は講義室の方を振り返った。


 黒板いっぱいに書かれた言葉が、まだ頭に残っている。


 文官コース。


 やはり、この道は俺に必要だ。


 そう思いながら、俺はまだ空欄のままの希望調査票のことを思い出していた。



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― 新着の感想 ―
揉めるよなぁ 予算の枠と確保、労力をどこから持ってくるか まあ現代日本なら出来るのはここまで 住民の感情論まで見てたら人数大杉て絶対に進まないのは断言できる 出来るのは上記二つを効率よく進めて八分の満…
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