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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第313話 帰る前の誘い

 トラウゼン侯爵主催の冬の集まりは、思っていたよりも和やかな空気で終わった。


 だが、夜会が終わればすぐに休める、というわけではなかった。


 客たちが帰り支度を始める中で、俺のところへ何人かの貴族が声をかけてきたのだ。


「リオン殿」


 最初に声をかけてきたのは、先ほど街灯の話に興味を示していた宿場を持つ家の者だった。


「あのリバーシという遊戯だが、我が家にも一組用意してもらうことはできるだろうか」


「ありがとうございます。ただ、今こちらにあるのは、トラウゼン侯爵家へお贈りした一組だけです」


「そうなのか」


「はい。ハル領へ戻り、工房と相談した上で、準備が整い次第お届けできるようにいたします」


「それで構わない。ぜひ頼みたい」


 そう言われ、俺は礼を返した。


 すると、別の貴族も声をかけてきた。


「我が家にも一組お願いしたい。若い者たちが、ずいぶん気に入っていたようでな」


「こちらもお願いできるだろうか」


「屋敷に置いておけば、客人との話題にもなりそうだ」


 思っていた以上に、反応が大きい。


 手土産として持ってきたものが、夜会の最後にあれほど盛り上がるとは思っていなかった。


 俺が一つ一つ返事をしていると、エリアスが自然に横へ来た。


「リオン様。私の方で控えます」


「頼む」


 エリアスは小さな板と筆を取り出し、相手の家名、必要数、送り先を確認していく。


「子爵家、一組。男爵家、一組。宿場町の屋敷宛てに一組……」


 その動きに迷いはない。


 誰が何を求めたのか。


 どこへ送るのか。


 あとで混乱しないよう、その場で記録していく。


 俺一人だったら、途中で分からなくなっていたかもしれない。


 こういう時、エリアスがいてくれるのは本当にありがたい。


 やがて、トラウゼン侯爵もこちらへ来た。


「リオン殿」


「はい」


「このリバーシだが、トラウゼン侯爵家としても追加で頼みたい」


「追加で、ですか」


「ああ。屋敷用だけでなく、いくつか控えとして置いておきたい。今夜の様子を見る限り、今後の集まりでも使えそうだ」


 侯爵は少し考えてから言った。


「十組ほど、用意できるだろうか」


「十組……」


 俺は内心で少し驚いた。


 一組や二組ならまだ分かる。


 だが、十組となると、手土産というより正式な注文に近い。


 とはいえ、ここで慌てて安請け合いするわけにはいかない。


「ありがとうございます。ただ、すぐにお届けできるとはお約束できません。

ハル領へ戻り、工房と相談した上で、準備が整い次第、送らせていただければと思います」


「それでよい。急ぎではない」


 トラウゼン侯爵は満足そうに頷いた。


「丁寧に作らせるとよい。

あれは、ただ駒と盤があればよいというものでもなさそうだ」


「はい。盤の線や駒の数、説明書も含めて、きちんと整えます」


「うむ。楽しみにしている」


 エリアスがすぐに記録する。


「トラウゼン侯爵家、十組。準備が整い次第、改めて送付」


 その横で、ハーウェイ侯爵も口を開いた。


「我が家にも一組頼めるだろうか」


「もちろんです」


「ミラも気に入っているようだ」


 ハーウェイ侯爵がそう言うと、ミラは少しだけ表情を明るくした。


「父上。私だけではありません。父上も、もう一局やりたそうでした」


「ハハハ、実はそうなんだ」


 ハーウェイ侯爵が穏やかに笑う。


 周囲にも小さな笑いが広がった。


「では、ハーウェイ侯爵家へ一組。こちらも準備が整い次第、お送りいたします」


「頼む」


 エリアスがまた記録する。


「ハーウェイ侯爵家、一組」


 その後も、何人かから同じような声がかかった。


 すぐに作れる数ではない。


 そもそも、今ある完成品はトラウゼン侯爵家へ贈った一組だけだ。


 ハル領に戻れば、工房長と相談しなければならない。


 盤の大きさ。


 駒の作り。


 箱。


 説明書。


 届ける順番。


 価格をどうするかも、父上やエリアスと相談する必要があるだろう。


 ただの遊び道具だと思っていたものが、外との新しいつながりになり始めている。


 そのことに、少し驚いていた。


 夜会が終わり、俺たちは用意された部屋へ戻った。


 ミアが飲み物を用意し、ノルは護衛の確認を終えてから部屋の近くに控えた。


 エリアスは、夜会の間に書きつけた板を机の上に並べている。


「思ったより多いね」


 俺が言うと、エリアスは頷いた。


「はい。現時点で、確実に希望を示されたものだけでも、かなりの数になります」


「手土産のつもりだったんだけどね」


「手土産として良かったからこそ、欲しいと思われたのだと思います」


 エリアスは落ち着いた声で言った。


「今夜の場では、リバーシが会話を生みました。

貴族家にとって、客人との話題になるものは価値があります」


「なるほど」


「ただし、今後は品質をそろえる必要があります。

侯爵家や周辺領へ届けるものですから、盤や駒の出来に差がありすぎるのは避けた方がよろしいかと」


「工房に相談だね」


「はい。それと、説明書も整えた方がよいかと思います。

今夜はリオン様が説明できましたが、届け先ではそうはいきません」


 たしかにそうだ。


 ルールが簡単とはいえ、最初の置き方や、挟んだ駒を裏返すことは説明が必要だ。


 角の大切さまでは説明書に書きすぎなくてもいいかもしれない。


 そこは遊びながら気づく方が面白い。


「父上にも相談しよう」


「それがよろしいかと」


 エリアスは記録をまとめながら、さらに言った。


「それと、今回の問い合わせは急ぎではないものの、返答は早い方がよいでしょう。ハル

領に戻り次第、工房の見込みを確認し、納期の目安を伝えるのが良いかと思います」


「分かった」


 こうして書き出されると、夜会で起きたことがただの盛り上がりではなく、仕事になっていくのが分かる。


 前世で会社をやっていた時も、似たようなことはあった。


 小さな反応が、次の仕事になる。


 ただし、喜んでばかりはいられない。


 ちゃんと形にできなければ、期待は失望に変わる。


 外との付き合いは、夜会が終わった後にも続いていくのだ。


 ◇


 翌朝。


 トラウゼン侯爵家の屋敷は、夜とは違う静けさに包まれていた。


 昨日の広間の賑やかさが嘘のように、廊下は落ち着いている。


 使用人たちは静かに動き、朝の支度を整えていた。


 俺たちも、ハル領へ戻る準備を始めていた。


 ミアが荷物を確認する。


「リオン様。お召し物、書簡袋、身の回りのものはそろっております」


「ありがとう」


 ノルは外で馬車と護衛の確認をしている。


 エリアスは、昨夜の問い合わせを改めて一枚の書面にまとめていた。


「リオン様。リバーシの希望数と送り先は、ひとまずこちらに整理しました」


「ありがとう。帰ったら父上に見せよう」


「はい」


 今日は、トラウゼン侯爵へ挨拶をしてから、ハル領へ向かう予定だった。


 帰りの道中もある。


 あまり遅くなるわけにはいかない。


 そう思っていたところへ、家令が訪ねてきた。


「リオン様。ハーウェイ侯爵閣下がお話ししたいとのことです」


「ハーウェイ侯爵が?」


「はい。お時間をいただけますでしょうか」


 俺はエリアスを見る。


 エリアスは小さく頷いた。


「伺いましょう」


 案内された部屋へ向かうと、そこにはハーウェイ侯爵とミラがいた。


 朝の光が窓から入り、昨日の夜会とはまた違う落ち着いた空気がある。


 俺は姿勢を正し、礼をした。


「ハーウェイ侯爵閣下。おはようございます」


「おはよう、リオン殿。昨夜は見事だった」


「ありがとうございます」


「リバーシのこともそうだが、夜会での振る舞いもな。

初めての場にしては、よく周りを見ていた」


 そう言われ、少し驚いた。


 トラウゼン侯爵にも似たようなことを言われた。


 自分では、ただ必死に失礼がないようにしていただけだった。


「まだ、分からないことばかりでした」


「ハハハ、謙遜するな」


 ハーウェイ侯爵は穏やかに言った。


「ところで、今日ハル領へ戻る予定だと聞いた」


「はい。その予定です」


「トラウゼン殿にも了承をいただいている。もし急ぎでなければ、昼食を共にしないか」

「昼食、ですか」


 思わず聞き返してしまった。


 ハーウェイ侯爵家からの誘い。


 それは、ただの食事というだけではないはずだ。


 ミラは父の横で、少しだけ表情を明るくしていた。


 嬉しそうに見える。


 だが、夜会の時と同じように、きちんと侯爵家の令嬢として控えている。


 俺はすぐに返事をせず、エリアスを見た。


 エリアスは一歩後ろから、小声で言う。


「失礼には当たらないかと。むしろ、ありがたいお誘いです。

出発は午後になっても、大きな支障はありません」


 ミアは何も言わなかったが、少し安心したような顔をしていた。


 俺は改めてハーウェイ侯爵へ向き直る。


「ありがとうございます。ぜひ、ご一緒させていただきます」


「そうか。それはよかった」


 ハーウェイ侯爵は穏やかに笑った。


 ミラの表情が、ほんの少し明るくなる。


「リオン、昼食なら夜会ほど堅くはないわ」


「それでも緊張はするよ」


「そうでしょうね」


 ミラは小さく笑った。


 その笑顔に、少しだけ学院で見るミラの雰囲気が戻る。


 ハーウェイ侯爵が俺に興味を持っている。


 昼食の席では、昨夜よりも近い距離で話すことになるだろう。


 ハル領のこと。


 学院のこと。


 ミラとの関係。


 何を聞かれるのかは分からない。


 帰るだけだと思っていた朝に、もう一つ予定が増えた。


外との付き合いは、夜会が終わったところで終わるわけではないらしい。


 俺はミラの隣に立つハーウェイ侯爵を見ながら、もう一度姿勢を正した。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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リバーシ大当たり~ これ貴族連中から広まるんじゃないの 特許申請して商品化?
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