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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第290話 それぞれの進む道

 期末テストの話が出てから、教室の空気は少し変わった。


 文化祭の余韻はまだ残っている。


 でも、目の前には試験がある。


 その先には、進級がある。


 そして、人によっては飛び級という選択肢もある。


 昼休み。


 食堂の一角に、いつもの面々が集まっていた。


 文化祭が終わってから、こうして皆で食事をする時間も少し戻ってきた。


 ただ、今日の話題は食事ではなかった。


「で、結局さ」


 ヴィクトルが肉料理を切りながら言った。


「飛び級を狙うやつ、どれくらいいるんだ?」


 その一言で、卓の空気が少し引き締まった。


 飛び級。


 四年生へ進むのではなく、一学年を飛び越えて、さらに先へ進む。


 簡単な話ではない。


 だが、今の三年Sクラスには、それを考えるだけの者が何人もいる。


 最初に口を開いたのは、セレナだった。


「私は目指すわ」


 迷いのない声だった。


「お父様に近づくには、今のままで満足していられないもの」


「ヴァレスト公爵か」


 ヴィクトルが少し感心したように言う。


「目標がでかいな」


「当然でしょう」


 セレナは涼しい顔で答えた。


「目指す相手が低ければ、自分の伸びる先も低くなるわ」


「言い方はきついけど、分かる気はする」


 ヴィクトルが苦笑する。


 エドガーも頷いた。


「僕も目指す」


「エドガーもか」


「資格があるなら、上を目指す。選べる立場にいるなら、挑戦しない理由はない」


 エドガーらしい答えだった。


 派手な言葉ではない。


 だが、迷いもない。


 ナディアは少し手を膝の上で重ねてから、静かに言った。


「私も目指します」


「ナディアも?」


 ミラが顔を向ける。


 ナディアは頷いた。


「父から許されている留学期間は三年です。セルヴァンに戻るまでに、できるだけ多くのことを学びたいんです」


 父。


 つまり、セルヴァン国王。


 その言葉が出ると、卓の空気が少しだけ変わる。


 ナディアは普段、あまり自分の立場を前に出さない。


 けれど、彼女にも国へ戻る日がある。


 それを考えれば、飛び級を目指す理由は十分にあった。


「ナディアが目指すなら、俺も目指す」


 ガイルが即座に言った。


 全員の視線がガイルに向く。


 ナディアが驚いたように瞬きをした。


「ガイルさん?」


「ナディアがいなきゃ、飛び級どころかSクラス維持も怪しい」


「そんなことは……」


「ある」


 ガイルは真顔で言い切った。


「だから、ナディアに助けてもらうためにも、俺も飛び級を目指すしかない」


「理由が正直すぎるだろ」


 ヴィクトルが笑う。


 セレナは少し呆れたように言った。


「もう少し、自分の努力を理由にしなさい」


「努力はする」


 ガイルは頷く。


「でも、助けは必要だ」


 ナディアは困ったように笑った。


「私でよければ、一緒に勉強しましょう」


「頼む」


 ガイルは迷いなく答えた。


 それを見て、俺は少し笑いそうになった。


 ガイルの言い方は不器用だ。


 でも、自分に足りないものを認めて、人に頼ることができる。


 それは、それで強いことなのかもしれない。


 次に口を開いたのはクラウスだった。


「俺も、目指してみたい」


 その言葉に、ヴィクトルが少し目を丸くする。


「クラウスも?」


「ああ」


 クラウスは静かに頷いた。


「正直、自分が飛び級を目指す立場になるとは思っていなかった」


「でも、一学期はかなり良かったわよね」


 ミラが言う。


 クラウスは少しだけ視線を落とした。


「一学期の成績は269点だった。届かない目標でないなら、試してみたい」


「堅いな」


 ヴィクトルが言う。


「でも、クラウスらしい」


「無理に背伸びするつもりはない。ただ、届くかもしれない場所なら、目をそらしたくない」


 その言葉に、エドガーが小さく頷いた。


「分かる」


 ミラはしばらく自分の皿を見ていた。


 それから、ゆっくり言った。


「私も、クラウスに近いかな」


「ミラも?」


「うん。まさか自分が飛び級を考えることになるなんて、前は思ってなかった」


 ミラは苦笑する。


「挑戦はしたい。でも、まずは目の前の期末テストで力を尽くしたいかな。

そこで届きそうなら、その先を考える」


 セレナが頷いた。


「それも堅実ね」


「セレナにそう言われると、少し安心する」


「褒めているのよ」


 ミラは軽く笑った。


 ライオネルは、それまで黙って話を聞いていた。


 彼は水を一口飲んでから、落ち着いた声で言った。


「俺は、飛び級は目指さない」


 ヴィクトルが少し意外そうに見る。


「ライオネルなら狙えるんじゃないか?」


「結果次第では、選択肢には入るかもしれない。だが、俺はこのまま四年Sクラスに進みたい」


「騎士コースか」


「ああ。騎士コースをじっくり学びたい。基礎を飛ばして先へ進むより、今は積み上げたい」


 ライオネルの言葉ははっきりしていた。


 上を目指さないわけではない。


 ただ、急がないという選択だ。


「もちろん、Sクラスには残るつもりだ。努力を怠る気はない」


「それも、進み方の一つだな」


 俺が言うと、ライオネルは小さく頷いた。


 オルドも同じように口を開いた。


「僕も、飛び級は考えてないんだ」


「オルドも?」


「うん。僕は四年Sクラスで文官コースを選ぶつもり。基礎からしっかり学びたいんだ」


 オルドは少し控えめに続ける。


「早く進むことより、土台を作る方が今の自分には必要だと思うんだ」


 エドガーが頷いた。


「文官コースなら、基礎を固める意味は大きい」


「はい」


 オルドは少し安心したように答えた。


 こうして聞いていると、本当に人によって違う。


 飛び級を目指す者。


 四年Sクラスで基礎を固める者。


 迷いながら挑戦する者。


 同じ三年Sクラスにいても、見ている先は少しずつ違っている。


「で」


 ヴィクトルがこちらを見た。


「リオンは?」


 来ると思っていた。


 だが、いざ聞かれると、少し答えに迷う。


 全員の視線が俺に集まった。


 セレナも、エドガーも、ナディアも、ミラも。


 俺は一度、息を整えた。


「家のことを考えるなら、早く卒業したい気持ちはある」


 それは本音だった。


「ハル領のことを考えると、早く戻って領の発展に貢献したい。

今も、やるべきことはたくさんある」


 西の森。

 夜学。

 役場。

 水路。

 道。

 人。


 頭に浮かぶものはいくらでもある。


 俺がいれば、もっと早く進むこともあるかもしれない。


 けれど、今はそれだけではない。


「でも、最近は少し迷っている」


「リオンが?」


 ヴィクトルが言う。


「珍しいな」


「自分でもそう思う」


 俺は苦笑した。


「勉強や実技だけなら、早く進めばいいのかもしれない。

でも、学院にいることで学べることも色々あると思うようになった」


 文化祭のことを思い出す。


 皆で一つの出し物を作ったこと。


 王立学院が、単に授業を受ける場所ではないと感じたこと。


 貴族や商会の人脈。


 先生や学院長の判断。


 同じ目的へ向かって動く仲間。


「それに、卒業したら、今みたいに気軽に王立研究所で手伝うこともできなくなるかもしれない」


 ミラが静かに聞いている。


 ナディアも、少し真剣な顔になっていた。


「研究所で学べることも多い。だから、急いで卒業するのが本当に一番いいのか、まだ決めきれていない」


 言葉にしてみると、自分の迷いが少し整理された気がした。


 早く進みたい。


 でも、残って学びたいこともある。


 どちらも本当だった。


 セレナが少し意外そうに言った。


「あなたが、そういうことで迷うのね」


「俺も迷うよ」


「迷わないとは思っていないわ。ただ、前なら早く進むことを選びそうだと思っただけ」


「それは、そうかもしれない」


 エドガーが静かに言う。


「まずは結果を出してから選べばいい」


「ベルンハルト先生にも、同じようなことを言われた」


「なら、それが一番現実的だ」


 クラウスも頷いた。


「選べるようにするために、点を取る」


「結局そこか」


 ヴィクトルが肩を落とす。


「そこだ」


 クラウスが淡々と返した。


 ミラがこちらを見る。


「迷っていいと思うよ」


「え?」


「前のリオンなら、たぶん一番早い道を選んでいたと思う。

でも、今は少し立ち止まって考えている。それは悪いことじゃないと思う」


 ミラの言葉は、ゆっくり届いた。


「ありがとう」


「ただし、試験で点を取らないと、迷う前に選べなくなるけどね」


「それはその通り」


 ナディアが少し笑った。


「では、やはり勉強会ですね」


「決まりだな」


 エドガーがすぐに帳面を出す。


「試験範囲を分けよう。得意なところを教え合えばいい」


「また役割分担か」


 ヴィクトルが言う。


「文化祭が終わっても変わらないな」


「むしろ、文化祭で慣れたでしょう?」


 セレナが言う。


「受付と景品交換よりは、試験範囲の方が簡単かもしれないわ」


「それはない」


 ヴィクトルが即答する。


「俺には試験の方が難しい」


「でしょうね」


「否定しろよ」


 卓に笑いが起きた。


 ガイルが真面目な顔でナディアを見る。


「ナディア、俺はどこからやればいい」


「まずは前回間違えたところから見ましょう」


「分かった」


クラウスは試験日程を見て、勉強会の日を考えていた。


 ミラは苦手な範囲を書きながら、時々こちらを見る。


 セレナは自分の分を整えた上で、ヴィクトルの雑な書き方に眉をひそめていた。


 エドガーは全体を表にし始めている。


 俺はその様子を見ていた。


 進み方は、それぞれ違う。


 飛び級を目指す者。


 四年Sクラスで基礎を固める者。


 まだ迷っている者。


 でも、今やることは同じだった。


 期末テストで、選べるだけの結果を出す。


 まずは、そこからだ。


 昼食の皿は、いつの間にかほとんど空になっていた。


 だが、卓の上には試験範囲の紙が広がっている。


 食事の時間だったはずなのに、いつの間にか勉強会の準備になっていた。


 それが少しおかしくて、少し頼もしかった。


 文化祭が終わっても、三年Sクラスは止まらない。


 それぞれの進み方を考えながら、俺たちは次の目標へ向かい始めていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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ヴィクトルくん、君はどうするの? うまく相手の情報だけ引き出す商売人さん。
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