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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第288話 文化祭で感じたこと

 文化祭が終わった後、王立学院の講堂には、まだ熱が残っていた。


 片付けを終えた生徒たちが、クラスごとに集まっている。


 疲れた顔をしている者も多い。


 それでも、誰もがどこか落ち着かない様子だった。


 文化祭の売上集計が発表されるからだ。


 ここでの売上は恵まれない人たちへの寄付に回される。


 そして、売上の多かったクラスは学院長から表彰される。


 三年Sクラスの面々も、講堂の一角に集まっていた。


 ヴィクトルは腕を組み、落ち着かない様子で足を揺らしている。


「いけるんじゃないか?」


「まだ分からない」


 エドガーが冷静に言う。


「他のクラスの売上を見ていない」


「でも、かなり客は入っただろ」


「それは事実だ」


 ガイルは小さく唸った。


「焼き菓子は、もっと作るべきだったな」


「それは何度目?」


 ミラが笑う。


「何度でも言う。足りなくなりかけた」


「追加で間に合ったからよかったです」


 ナディアがほっとしたように言った。


 セレナは前を見ている。


 表情は落ち着いているが、少しだけ緊張しているようにも見えた。


「ここまで来たなら、できれば一位を取りたいわね」


「セレナがそう言うと、本気に聞こえるな」


 ヴィクトルが言う。


「本気よ」


 セレナは淡々と返した。


「寄付に回るお金が増えるのも良いことだし、あれだけ準備したのだから、結果も欲しいでしょう」


「だよな」


 ヴィクトルが嬉しそうに頷いた。


 俺も同じ気持ちだった。


 表彰されたい気持ちはある。


 あれだけ皆で準備して、最後まで回しきった。


 できることなら、一番という結果も欲しい。


 やがて、学院長が壇上に上がった。


 講堂が静かになる。


 学院長は生徒たちを見渡し、穏やかに口を開いた。


「今年の文化祭も、無事に終えることができた。まずは、全ての生徒に礼を言う」


 その言葉に、講堂の空気が少し和らいだ。


「どのクラスも、よく工夫していた」


 学院長は手元の紙を見る。


「では、売上第一位を発表する」


 ヴィクトルが息を止めたのが分かった。


 ガイルも前のめりになる。


 俺も自然と背筋を伸ばしていた。


 学院長が言う。


「第一位は、五年Sクラス」


 講堂に拍手が起きた。


 五年Sクラスの生徒たちが立ち上がる。


 さすが最上級生のSクラスだ。


 悔しいが、納得もあった。


 ヴィクトルが小さく声を漏らす。


「二位か……」


 続いて学院長が言った。


「第二位は、三年Sクラス」


 今度は、俺たちに向けて拍手が起きた。


 ヴィクトルが悔しそうに顔をしかめる。


「あと少しだったのかよ……!」


 ガイルも眉を寄せた。


「焼き菓子だな」


「それだけではない」


 エドガーがすぐに言う。


「客の回転数、景品の数、受付の処理。まだ改善できる」


「終わったばかりで反省が早いな」


「反省は早い方がいい」


 クラウスは静かに頷いた。


「大きな事故はなかった。それは成果だ」


 ナディアが小さく言った。


「悔しいです。でも、たくさんの方が楽しんでくださいました」


 ミラも頷く。


「そうね。あの教室の空気は、悪くなかったと思う」


 セレナは少しだけ唇を引き結んだ。


「負けたものは仕方ないわ。でも、悔しいわね」


 俺も悔しくないわけではなかった。


 ここまで来たら、一位を取りたかった。


 けれど、不思議と胸の中には、悔しさだけではないものがあった。


 学院長は、五年Sクラスへの表彰を終えた後、もう一度こちらを見た。


「売上という数字では、五年Sクラスが第一位だった」


 そこで少し間を置く。


「だが、来場者が最も楽しげに過ごしていた場所は、三年Sクラスだったように思う」


 講堂のあちこちで、少しざわめきが起きた。


 学院長は続ける。


「魔法を使わない遊び場。最初に聞いた時は、ずいぶん思い切った出し物だと思った。

しかし、実際には小さな子どもから大人まで、長く楽しめる場所になっていた」


 俺たちの方に視線が集まる。


「受付、説明、客の流れ、景品交換。どれもよく考えられていた。

何より、客が笑っていた。それは、売上とは別の価値として、しっかり評価したい」


 胸の奥が、少し熱くなった。


 隣でヴィクトルが小さく呟く。


「……褒められたな」


「そうね」


 セレナも静かに答える。


「でも、二位よ」


「分かってる。分かってるけどさ」


 ヴィクトルは悔しそうに笑った。


「嬉しいのも事実だろ」


 セレナは少し黙ってから、頷いた。


「ええ。それも事実ね」


 結果発表が終わり、講堂の空気は少しずつほどけていった。


 五年Sクラスを祝う声が聞こえる。


 他のクラスも、互いに健闘をたたえ合っている。


 三年Sクラスの面々は、まだ悔しさを残しながらも、どこか満足げだった。


 俺は、その様子を見ながら、前世のことを思い出していた。


 短い期間で目的を決め、人を集め、役割を分ける。


 途中で問題が起きる。


 その都度直し、最後に成果を見る。


 文化祭は、まるで短期のプロジェクトのようだった。


 ただ、前世と少し違うことがある。


 今回は、俺が一人で無理やり進めたわけではない。


 振り返ると俺だけではあの教室は回らなかった。


 俺一人なら、もっと早く形にはできたかもしれない。


 でも、あれほど多くの客を笑わせる場所にはならなかった気がする。


 それは、ハル領でも同じなのかもしれない。


 今までは、俺が見つけて、俺が考えて、俺が改善することが多かった。


 もちろん、それで進むこともある。


 けれど、一人でできることには限界がある。


 領地を長く良くしていくなら、俺が陣頭指揮を執って直すだけでは足りない。


 一つの目的に向かって、皆が自分の役割を考える。


 足りないところを認め、補い合う。


 うまくいかないところを見つけても、誰かを責めるのではなく、次にどう直すかを考える。


 文化祭で俺たちがやってきたことは、たぶんそれだった。


 ベルンハルト先生が近くに来た。


「ハル」


「はい」


「悔しいか」


「はい。少し」


「少しか?」


「ええ。悔しい以上に色々と学ぶことが出来たと思います」


 先生は短く笑った。


「それでいい」


 俺は先生を見る。


 先生は、講堂の中でまだ話しているクラスメイトたちを見ていた。


「皆も良い顔をしているな」


「そうですね」


 俺は自然と頷いた。


「満足もしています」


「なぜだ」


 少し考えてから答えた。


「皆で一つの方向へ進めたからです。

お客さんに楽しんでもらう、という目的に向かって、全員がちゃんと動けた。

そこにはとても満足しています」


 ベルンハルト先生は、しばらく黙っていた。


 それから、低く言った。


「それを学べたなら、二位の価値は十分にある」


「はい」


 その言葉は、すっと胸に落ちた。


 結果は大事だ。


 一位を取れなかった悔しさは、ちゃんとある。


 でも、結果だけでは測れないものもある。


 信頼できる仲間と、一つの目的に向かって動くこと。


 その中で、自分だけでは見えなかったものに気づくこと。


 それを学べただけで、俺はこの学院に来てよかったと思えた。


「リオン!」


 ヴィクトルがこちらに手を振る。


「反省会するぞ。焼き菓子の数からだ!」


「まだそこ?」


 ミラが笑う。


「そこは大事だ」


 ガイルが真面目に頷いた。


 エドガーも帳面を持っている。


「実際、改善点は多い」


 セレナが呆れたように息を吐く。


「終わったばかりなのに、もう次の話なのね」


 ナディアが少し楽しそうに言う。


「でも、そういうところも三年Sクラスらしいです」


 クラウスも短く頷いた。


「次にやるなら、もっとよくなる」


 俺はその輪の中へ歩いていった。


 文化祭は終わった。


 結果は二位だった。


 悔しさはある。


 でも、それ以上に、確かな手応えがある。


 一人ではできないことがある。


 信頼できる仲間となら、そこへ届くこともある。


 それを感じられただけで、この文化祭には十分すぎる意味があった。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
前年はあった来場者投票順位と基準不明の総合評価による学院長賞は何処行ったんだ?
主人公の成長の話としてはよいのでしょうが、45歳社長をやってたのにコレを学びと言われると何してたんだ?って思ってしまいますね。
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