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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第285話 文化祭の試運転

 それから二週間ほどが過ぎた。


 毎日が、少しずつ慌ただしかった。


 授業が終われば、文化祭の準備がある。


 輪投げの線を引き直し、的当ての的を作り、札合わせの絵札をそろえ、重さ当ての袋の重さを調整する。


 景品用の飴は少しずつ包まれ、焼き菓子の材料も調理室へ運ばれた。


 その合間に、俺は何度か王立研究所へも行った。


 ベルンハルト先生が同行する日もあったし、学院長から確認の手紙を預かる日もあった。


 研究所では、小さな金属片を浮かせる実験が続いている。


 前よりは、少し安定するようになった。


 そして、夜や早朝には、俺自身の練習も少しだけ続けた。


 うまくいく日もあれば、すぐに姿勢が崩れる日もある。


 それでも、完全にやめる気にはなれなかった。


 浮遊魔法も、文化祭の準備も、止めればそこで進まない。


 そんな日々を繰り返しているうちに、文化祭まで、あと一週間になっていた。


 ◇


 王立学院の空気は、明らかに変わっていた。


 廊下では、上級生が大きな板を運んでいる。


 別の教室からは、劇の台詞を練習する声が聞こえた。


 下級生たちは飾りつけの紙を抱えて走り、調理室の前では、順番を確認する生徒たちが集まっている。


 三年Sクラスの教室の中には、ほとんど形になった遊び場ができていた。


 入口の近くには受付と説明係の机。


 左側には輪投げ。


 奥には的当て。


 窓側には札合わせの机。


 反対側には重さ当ての台。


 出口寄りには景品交換所。


 まだ本番ではない。


 でも、ただの準備中には見えなくなってきた。


 エドガーが手元の紙を見ながら言った。


「それと、料金を取ったり釣銭を渡す流れも確認した方がいい」


「そうか。受付でお金を受け取るんだったな」


 俺が言うと、ヴィクトルが反応した。


「売上が多い方がいいんだろ?」


 エドガーは頷く。


「去年と同じく、文化祭の売上は寄付に回される。売上の多いクラスは学院長から表彰される」


「表彰か」


 ヴィクトルの目が少し輝いた。


「それなら、呼び込みにも力が入るな」


「品のない呼び込みはやめなさい」


 セレナがすぐに言う。


「寄付のためとはいえ、客を煽るものではないわ」


「分かってるって」


「その返事が軽いのよ」


 クラウスは受付の机と景品交換所を見比べていた。


「料金を受け取る場所と景品を渡す場所は分けた方がいい」


「混ざると揉めるね」


「そうだ。釣銭を扱う場所に人が集まりすぎても困る」


 俺は教室の入口から出口までを目で追った。


「受付で料金を受け取る。遊び終わったら点数札を渡す。

その後、景品交換所で点数札を見せてもらう。景品交換所ではお金を扱わない」


 エドガーが紙に書き込む。


「その方がいい。会計係と景品係を分けられる」


 ナディアも受付の机を見て言った。


「料金を受け取る係の近くに、寄付に回されることを書いた札を置くのはどうでしょうか?」


「いいと思う」


 ミラが頷いた。


「ただ遊ぶだけじゃなくて、何のための料金なのか分かる方が、払う人も気持ちよく出せるわ」


 セレナも納得したように言う。


「どのクラスも寄付するのは同じだけど、意外と知らない人もいるかもしれないわね。

その札は、きちんと整えて書きましょう」


 最初に、受付から試すことになった。


 客役のヴィクトルが教室に入る。


 受付の机を見ずに、そのまま輪投げへ向かおうとした。


「待って。最初に受付だ」


 クラウスが止める。


「客は説明を見ないかもしれないだろ」


「それはありえる」


 エドガーがすぐに紙へ書き込む。


「入口の札が弱い」


 ミラが入口の横に立った。


「最初はこちら、という札をもっと大きくした方がいいわね。矢印もつけましょう」


 ナディアも頷く。


「受付と説明係の場所が一目で分かるようにした方がいいですね」


「受付で料金を払って、説明をする。そこまでを最初にやらないと駄目だな」


 俺はそう言って、受付机の位置を少し動かした。


 入口から入った時、最初に目に入る位置。


 そこに置いた方がいい。


 次に、ガイルが客役として入ってきた。


 まっすぐ景品交換所へ向かう。


「焼き菓子はどこだ」


 セレナが無言で見た。


「まだ料金も払っていないでしょう」


「景品が見えたからな」


「それを本番でやられたら困るわ」


 エドガーがまた書き込む。


「景品交換所にも、点数札を持ってきてください、と書く必要がある」


 ミラが景品の見本を少し奥へ下げた。


「見えるけど、直接手は届かない位置がいいわね」


「客の目には入る。でも、勝手には取れない」


 クラウスが頷く。


「その位置でいい」


 今度は輪投げを試す。


 ヴィクトルがわざと線の前へ出る。


「近い方が入るだろ」


「戻れ」


 クラウスが短く言った。


 ヴィクトルは笑いながら戻る。


「怖いな。客役だぞ」


「本番ならもっと早く止める」


 ナディアが投げる線の横にしゃがんだ。


「線の意味が分からない人もいるかもしれません。

この線から投げると、みんな同じ条件で遊べます、と説明した方がいいですね」


「ただ前に出るな、よりいいわ」


 セレナが言う。


「注意だけだと、怒られているように聞こえるもの」


 その言葉に、俺は頷いた。


 止めるだけではなく、理由を伝える。


 文化祭に来る人は、こちらの決まりを知らない。


 知らない人に分かるように作らなければ、決まりはないのと同じだ。


 的当てでは、さらに問題が出た。


 ヴィクトルが投げた後、ガイルが落ちた布玉を拾おうとして前に出る。


 次の投げ手役だったミラが、思わず止まった。


「これ、危ないわね」


 クラウスがすぐに配置を見る。


「玉を拾う係が必要だ」


「客に拾わせない方がいいな」


 俺が言うと、エドガーが頷いた。


「投げ終わったら、係が回収して次の人に渡す。客は線の外で待つ」


 ナディアが注意札を書き直す。


「投げている人の近くには入らないでください、だけだと少し硬いですね」


 セレナが横から言う。


「係が玉をお渡しします、でいいのではなくて?」


「それなら柔らかいです」


 ナディアが嬉しそうに頷いた。


 札合わせは、別の意味で問題が出た。


 エドガーが説明を始める。


「札は全部で十六枚あり、同じ絵柄が二枚ずつある。

順番に二枚めくり、同じ絵柄なら取ることができる。同じでなければ元に戻し――」


「長い」


 ヴィクトルが途中で言った。


 エドガーが眉を寄せる。


「まだ説明の途中だ」


「客役として言うけど、たぶん途中で分からなくなるぞ」


 ナディアも少し考えてから言った。


「最初は、同じ絵を探してください、だけでもいいかもしれません」


 ミラが絵札を並べる。


「遊びながら説明を足せばいいわね。まず一回めくってもらった方が早いと思う」


 エドガーはしばらく黙った。


 それから、紙に短く書き直す。


「同じ絵を二枚そろえる。まずはこれでいいか」


「うん。そっちの方が分かりやすい」


 俺が言うと、エドガーは小さく頷いた。


「詳しい決まりは係用に別で持っておく」


「それがいいと思います」


 重さ当てでは、ガイルが説明役になった。


「同じ袋を持って、どれが一番重いか当てる」


「それだけ?」


 ヴィクトルが聞く。


「それだけだ」


「地味じゃないか?」


「持てば分かる」


「いや、それはガイルだけだろ」


 ミラが袋を一つ持ち上げる。


「見た目が同じだから面白いけど、どれを比べればいいか分かる札がいるわね」


 ナディアも言う。


「軽い、中くらい、重い、の三つにした方が小さい子には分かりやすいかもしれません」


 クラウスは袋を見ていた。


「振る人が出る」


「振る?」


 ガイルが首を傾げる。


「中身を確かめようとする」


 試しにヴィクトルが袋を振ろうとした。


 クラウスがすぐに手を押さえる。


「やはりな」


「客役だって」


「本番で出る動きだ」


 俺は苦笑しながら頷いた。


「袋は振らない。投げない。両手で持つ。これも書いておこう」


 ガイルは袋を見て、少し真面目な顔になった。


「破れたら中身が出るな」


「そういうこと」


「じゃあ、袋の口はもう少し固く結ぶ」


 自分たちだけの試運転なのに、思ったより問題が出る。


 受付。


 料金と釣銭。


 点数札。


 投げる線。


 玉の回収。


 札合わせの説明。


 重さ当ての袋。


 景品交換所。


 直すところは多い。


 けれど、直せばよくなるところばかりだった。


 その後は、全員で一気に仕上げに入った。


 ◇


 その日の後半は、調理室へ移動した。


 飴と焼き菓子を自分たちで用意するためだ。


 参加賞の飴は、すでにかなりの数が包まれている。


 焼き菓子は、食堂の人に教わりながら作ることになっていた。


 ガイルは調理台の前で妙に真剣だった。


「焼き加減は大事だ」


 ヴィクトルが横から覗く。


「味見も大事だな」


 セレナが即座に言う。


「味見は一つまでよ」


「一つで分かるか?」


「分かりなさい」


 ミラが焼き上がった菓子を冷ます場所へ運ぶ。


「包む前に冷まさないと、紙が湿るわ」


 ナディアが包み紙を並べる。


「小さい子が持ちやすいように、あまり大きくしない方がいいですね」


 エドガーは数を確認していた。


「焼き菓子セットは予定数に届く。高得点景品は数を決めて出す。

参加賞の飴も、この分なら足りる」


「足りそう?」


「想定より多めにはある」


 クラウスが保存用の箱を見た。


「当日まで置く場所も決める必要がある」


「そこも確認しよう」


 俺は頷いた。


 焼き菓子の甘い匂いが、調理室に広がっていた。


 文化祭が近い。


 そう感じる匂いだった。


 ◇


 教室に戻る頃には、外は少し暗くなっていた。


 机の上には、包まれた飴と焼き菓子の見本。


 黒板には、役割分担。


 入口には、大きく書き直された案内札。


 受付の机には、料金を受け取る箱と釣銭を入れる小箱。


 その横には、売上が寄付に回されることを知らせる札。


 床には、待つ場所の印。


 的当ての横には、玉を拾う係の札。


 重さ当ての台には、袋を振らないことを示す絵札。


 景品交換所には、点数札を出してください、という文字。


 最初に案を出した時とは、まるで違う。


 ベルンハルト先生が教室に来たのは、その時だった。


 先生は教室の中をゆっくり見回した。


「形になったな」


「はい」


 俺は答えた。


「細かい調整はまだあります。でも、大体はできました」


 ベルンハルト先生は、受付の机と景品交換所を見た。


「金を扱う場所と景品を渡す場所を分けたのか」


「はい。混ざると混乱するので」


「いい判断だ」


 先生は床の印を見た。


「入口から出口まで、人が流れるようになっている」


「クラウスとエドガーがかなり見てくれました」


「他の者も動いているようだな」


「はい」


 先生は少しだけ口元を緩めた。


「なら、あとは本番で崩れないかだ」


 その言葉に、教室の空気が少し引き締まった。


 ヴィクトルが笑う。


「そこは俺の呼び込みで何とかしますよ」


「騒がしくしすぎるな」


「……はい」


 セレナが小さく頷いた。


「本番でも、そこは私が見ます」


「頼む」


 先生は短く言った。


 俺は教室の中を見回した。


 魔法を使わない遊び場。


 最初は、頼りなく見えた案だった。


 子どもの遊びのように見える、と言われたこともある。


 それでも、ようやく一つの出し物になってきた。


 文化祭まで、あと一週間。


 まだ直すところはある。


 けれど、入口から出口まで、人が流れる形は見えてきた。


 三年Sクラスの教室に、魔法を使わない遊び場ができようとしていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
ベルンハルト先生が試しに遊んでる場面も見たかったかな。
2年に進級しているであろう、元クラスメイト達の動向も見たいですね。
他のクラスメイトは何をしているんだろうか?
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