表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
294/399

第284話 危ない遊び方

 研究所へ行った翌日の放課後。


 三年Sクラスの教室では、また文化祭の準備が進んでいた。


 輪投げの場所。

 的当ての場所。

 札合わせの机。

 重さ当ての台。


 景品交換所は、クラウスの指摘通り、出口寄りに移されていた。


「ここなら、遊ぶ人と景品をもらう人がぶつかりにくい」


 クラウスが言う。


「うん。ずいぶん進んできたね」


 俺は頷いた。


 ミラは景品の包みを並べている。


 飴二個を小さく包んだものが、いくつか机に置かれていた。


「ただの飴でも、包むと少し景品らしくなるわね」


「かなりいいと思う」


 ナディアも隣で説明札を書いていた。


「参加した方には、必ずこちらをお渡しします、でいいでしょうか?」


「分かりやすい」


 セレナが札を見て言う。


「でも、もう少し字を大きくした方がいいわ。小さい子も読むのでしょう?」


「あ、そうですね。書き直します」


 ナディアが素直に頷く。


 エドガーは点数表を見ながら、眉間にしわを寄せていた。


「輪投げと的当ての点数差を少し直した方がいい」


「高得点が取りやすすぎる?」


「そうだ。羽根ペンがすぐになくなる」


 ヴィクトルが横から言う。


「高得点が出る方が盛り上がるだろ」


「景品がなくなっても盛り上がるか?」


「……それは困るな」


 エドガーは淡々としている。


 ガイルは重さ当て用の袋をいくつか持ち比べていた。


「これは軽い。これは重い。これは少し紛らわしい」


「ガイルは分かるんだな」


「持てば分かる」


 ヴィクトルが笑った。


「それ、前も聞いたぞ」


「本当だからな」


 その横で、的当ての試しが始まった。


 布を丸めた玉を、板に描いた的へ投げる。


 硬い球は使わない。


 クラウスの案だ。


「じゃあ、俺が試す」


 ヴィクトルが布玉を持つ。


「力を入れすぎないでくださいね」


 ナディアが心配そうに言った。


「分かってるって」


 ヴィクトルはそう言った。


 だが、投げた玉は思ったより速かった。


 的の中心を外れ、板の横に当たって跳ねる。


 近くにいた生徒が、一歩下がった。


 クラウスがすぐに言う。


「強すぎる」


「布玉だぞ?」


「布でも、顔に当たれば危ない」


 セレナも冷たい目で見る。


「本番で今の投げ方をしたら、すぐ止めるわ」


「分かった。少し強かった」


「少しではないわね」


 ヴィクトルは頭をかいた。


 俺は跳ねた布玉を見る。


 研究所の金属片が頭に浮かんだ。


 浮いた。


 けれど、少し力がずれただけで危なくなる。


 遊びも同じだ。


 面白くするために勢いをつける。


 でも、その勢いを間違えると危ない。


「的当ては、投げる線をもう少し離した方がいいかもしれない」


 俺が言うと、クラウスが頷いた。


「それと、投げる人の横には立たせない」


 エドガーが点数表の端に書く。


「注意書きも必要だな」


 ナディアがすぐに紙を取った。


「投げる人の前と横には入らない、ですね」


 ミラが続ける。


「絵もつけましょう。線の内側に入らないように、見て分かる形で」


 セレナが頷く。


「良いわ。注意書きが小さいと意味がないもの」


 ヴィクトルが布玉を持ち直した。


「じゃあ、次は弱めに投げる」


「弱すぎても届かないぞ」


 ガイルが言う。


「難しいな」


 ヴィクトルが苦笑する。


 俺は少し笑った。


「難しすぎず、簡単すぎず、だね」


 その言葉に、エドガーが頷く。


「その調整が一番時間を使うだろう」


 文化祭の準備は、思っていたより順調だった。


 俺がいなくても、みんながそれぞれ動いている。


 それが少し嬉しい。


 同時に、少しだけ寂しいような気もした。


 全部を自分で見る必要はない。


 そう分かっている。


 でも、つい見たくなる。


 しばらくして、今日の作業は終わりになった。


 景品の包みは増えた。


 的当ての注意書きもできた。


 重さ当ての袋も、いくつか候補が決まった。


 みんなが教室を出ていく。


「リオン、今日はちゃんと休むのよ」


 ミラが言った。


「うん」


 セレナがすぐに見る。


「今の返事、少し軽いわね」


「休むよ」


「本当に?」


「……少し歩いてから戻る」


 セレナの目が細くなる。


「怪しいわね」


 ナディアも心配そうに言う。


「無理はしないでくださいね」


「大丈夫」


 クラウスが短く言った。


「大丈夫という者ほど危ない」


「クラウスまで?」


「事実だ」


 返す言葉がなかった。


 俺は教室を出た。


 ◇


 寮へ向かう道を少し歩き、それから足を止める。


 頭の中には、研究所で浮いた金属片が残っていた。


 あれは、前より静かに浮いた。


 でも、まだ物だ。


 人には危険。


 俺はそう言った。


 嘘ではない。


 けれど、俺自身はもう少し先を試している。


 もう少し高く。


 もう少し長く。


 そして、ただ浮くだけではなく、少し動けるのではないか。


 気づけば、俺は訓練所へ向かっていた。


 誰もいないことを確認する。


 俺は訓練所の中央に立った。


「危ない遊び方はするな、か」


 自分で言って、少し苦笑した。


 さっきまで的当ての危険を見ていた。


 なのに、今から一人で浮遊魔法を試す。


 どちらが危ないかと言われれば、こっちだ。


 でも、試したかった。


 体を軽くする。


 浮かせる力を強くしすぎない。


 落ちる力を受け止める。


 風魔法を足元に薄く回す。


 一度目。


 足が軽くなる。


 だが、浮かない。


《浮上未達》

《風圧不足》


 息を整える。


 二度目。


 かかとが少し浮いた。


 すぐに落ちる。


《浮上不完全》

《保持不足》


 まだだ。


 三度目。


 両足が床から離れた。


 本一冊分。


 そこまでは、前にもできた。


 今日は、そこで止めない。


 風を背中側にも回す。


 姿勢が前に倒れないように、胸のあたりを少し起こす。


 足元だけではなく、体全体を軽く支える。


 体が、もう少し上がった。


 膝の高さ。


 腰の高さ。


 息が浅くなる。


《浮上成功》

《高度上昇》

《重心不安定》

《風圧補助》


 視界が変わった。


 床が少し遠い。


 ほんの少しなのに、心臓が速くなる。


 俺は壁を見る。


 まだ近くない。


 大丈夫。


 人ひとり分くらいの高さで、体が止まった。


「……浮いた」


 思わず声が出る。


 足の下には何もない。


 でも、落ちていない。


 風が足元と背中を支えている。


 ただ、かなり不安定だ。


 体が少し傾く。


 慌てて風を足す。


 今度は上がりすぎる。


「違う、強すぎる」


 魔力を絞る。


 少し沈む。


 また支える。


 難しい。


 でも、できなくはない。


 次は、前へ。


 ほんの少しだけ。


 足元の風を後ろへ流す。


 体が前に動いた。


 一歩分。


 二歩分。


 床を歩いたわけではない。


 空中で、体が滑った。


《水平移動未熟》

《姿勢制御不安定》

《落下危険》


 その表示を見た瞬間、体が傾いた。


 まずい。


 右肩が落ちる。


 足元の風が乱れる。


 床が近づく。


 俺は反射的に風を広げた。


 落ちる勢いを逃がす。


 足が床につく。


 片膝をついた。


 大きな音はしなかった。


 でも、心臓はうるさいくらい鳴っていた。


「……危なかった」


 息を吐く。


 手のひらに汗がにじんでいる。


 人ひとり分の高さ。


 ほんの数歩分の移動。


 それだけで、体の中の魔力がかなり持っていかれた。


 俺はゆっくり立ち上がる。


 もう一度やりたい。


 そう思った。


 でも、そこで止めた。


 今日はここまでだ。


 これ以上やれば、たぶん危ない。


 ベルンハルト先生の顔が頭に浮かぶ。


 セレナの目も。


 クラウスの声も。


 大丈夫という者ほど危ない。


 本当に、その通りだ。


 俺は訓練所の床を見る。


 さっきまで自分がいた空中を見る。


 飛んだ、とはまだ言えない。


 自由に動けるわけでもない。


 少し浮いて、少し前へ進んだだけだ。


 浮遊魔法は、また一つ先へ進んだ。


 俺は鞄を持ち直し、訓練所の扉へ向かった。


 文化祭では、危ない遊び方をしないように注意書きを作った。


 その日の終わりに、俺は一番危ない遊び方をしていた。


 笑えない。


 でも、止まれない。


 次は、もっと安全に試す方法を考えよう。


 そう決めて、俺は訓練所の明かりを消した。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人間が浮上でき自由に空中移動できるのなら頑張りたくもなるよな実際リオン君は1メートルくらい?浮上成功したんだよね リスクもなく無理もしないで欲しいものを手に入れる事は難しいさ  安全な池か湖もしくはふ…
中の人はいい歳なのに、オトナ気ないですね(笑)
試さずにはいられない気持ちはよくわかるけれど、この主人公、散々心配・注意してくれている友人や恩師の言葉を軽く見過ぎでは? 既に仲間内から若干呆れられている感じにはなっているけれど、現実ならそのまま見限…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ