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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第280話 遊んでみれば分かる

 翌日の放課後、三年Sクラスの教室には、まだ多くの生徒が残っていた。


 黒板には、昨日の話し合いで出た案が残っている。


 輪投げ、的当て、札合わせ、重さ当て、景品交換。


 魔法を使わない出し物。


 方向性は出た。


 でも、それが本当に文化祭の出し物として成立するのかは、まだ分からない。


 文字だけを見ると、かなり単純に見える。


 魔法演武でもない。


 模擬戦でもない。


 派手な魔法道具の展示でもない。


 ただ、遊ぶための道具を並べるだけ。


 そう見えてしまうのも、無理はないと思う。


 俺は昨日の話し合いで出た案を、紙に書き出していた。


 まだ配置と呼べるほどのものではない。


 ただ、輪投げや的当てを本当に出し物にするなら、何が必要になるのかは確かめておきたかった。


 ヴィクトルが黒板を見ながら、少し首を傾げた。


「なあ、リオン」


「何?」


「これ、本当に盛り上がるのか?」


 思っていたより、はっきり聞いてきた。


 ガイルも頷く。


「輪投げって、小さい子が遊ぶやつだろう」


 セレナも黒板を見たまま言う。


「私も、そこは少し気になっているわ。三年Sクラスの出し物としては、少し幼く見えないかしら」


 その意見は、たぶん正しい。


 この世界では、輪投げや的当ては小さい子の遊びとして見られやすい。


 子どもが気軽に遊ぶもの。


 大人や学院生が本気でやるものではない。


 そう思われても仕方がない。


 ナディアが少し遠慮がちに言う。


「私は、小さい子でも遊べるのは良いと思います。でも、学院生も楽しめるかは、少し工夫が必要かもしれません」


「そうだね」


 エドガーは、昨日から書いていた簡単な下書きを見ていた。


「ルールを作れば成立すると思う。ただ、今のままだと、面白さが伝わりにくい」


 クラウスも短く言う。


「見ただけでは分からない」


 俺は頷いた。


 説明しても、たぶん完全には伝わらない。


 なら、やることは一つだ。


「じゃあ、実際にやってみよう」


 ヴィクトルが目を丸くする。


「今から?」


「うん。試してつまらなければ、別の案を考えればいい」


 セレナが眉を寄せる。


「準備もできていないでしょう?」


「本番用じゃない。試すだけなら、簡単に作れる」


 俺は教室の隅に置いてあった古い紐を手に取った。


 それを丸く結び、輪を作る。


 きれいな輪ではない。


 少しゆがんでいる。


 でも、試すだけなら十分だ。


 次に、練習用の木の棒を数本借りて、机の上に立てた。


 棒が倒れないように、エドガーが本を重しにして支える。


 ミラは机の位置を少し直した。


「ここだと、投げる時に通路側へ飛ぶかもしれないわ」


「じゃあ、こっち向きにしよう」


 クラウスがすぐに机を動かす。


「投げる方向に人が立たないようにした方がいい」


「そうだね」


 俺は床に紐を一本置き、そこを投げる位置にした。


「ルールは簡単。ここから輪を投げて、棒に入れば点が入る。近い棒は低い点。遠い棒や太い棒は高い点」


 ヴィクトルが輪を持つ。


「やっぱり子どもの遊びじゃないか」


「まずはやってみて」


「よし。じゃあ最初は俺だな」


 ヴィクトルは軽い調子で構えた。


 周りの生徒も、少しだけ面白そうに見ている。


 一投目。


 輪は棒の手前で落ちた。


「……あれ?」


 ヴィクトルが首を傾げる。


 二投目。


 今度は棒に当たったが、入らずに跳ねた。


 三投目。


 少し強すぎて、机の奥へ転がった。


 ガイルがぼそりと言う。


「力が強すぎる」


「いや、今のは輪が軽すぎるんだ」


 ヴィクトルが言い返す。


 セレナがすぐに言った。


「道具のせいにするのは早いわね」


「じゃあ、セレナもやってみろよ」


「私は確認するだけよ」


 セレナはそう言いながら、輪を受け取った。


 姿勢はきれいだった。


 投げる前から、外しそうには見えない。


 だが、一投目は棒の横を通り過ぎた。


 二投目は、手前で落ちた。


 セレナの眉が少し動く。


 ヴィクトルが笑う。


「今の、入ると思っただろ」


「もう一度」


「本気になってないか?」


「確認しているだけよ」


 三投目。


 輪は近い棒に引っかかった。


 完全に入ったわけではないが、ぎりぎりで止まる。


 ナディアが小さく手を叩いた。


「入りました!」


 セレナは少しだけ表情を緩めた。


「……距離で、ずいぶん変わるのね」


「そう。近ければ小さい子でもできる。でも、遠くしたり、棒を細くしたりすると難しくなる」


 俺が言うと、セレナはもう一度、遠い棒を見た。


 どうやら、少し悔しいらしい。


 次にガイルが輪を持った。


 ガイルは投げる前に、輪の重さを確かめるように指で揺らした。


「軽いな」


「軽いと難しい?」


「遠くへ投げると流れる」


 ガイルは軽く投げた。


 一投目は近い棒に入る。


 二投目は遠い棒を狙ったが、横へそれた。


 ガイルは輪を見ながら言う。


「輪の重さを変えれば、難しさも変わると思う」


「それ、いいね」


 俺は紙に書き足した。


 小さい子には扱いやすい輪を用意する。


 上級生には、少し狙いにくい輪を用意してもいい。


 同じ遊びでも、道具を変えれば難しさを調整できる。


 クラウスも試した。


 無駄な力を入れず、近い棒を堅実に狙う。


 一つ入った。


 だが、遠い棒は外した。


「投げる位置は固定した方がいい」


 クラウスが輪を戻しながら言う。


「近づきすぎる者が出る」


 エドガーも頷いた。


「点数を決めるなら、投げる位置は動かせない方がいい。そうでないと、同じ条件にならない」


「投げる線を作ろう」


 俺は床の紐を見る。


「本番では、床に分かる印を置く。小さい子用の線と、普通の線と、難しい線を分けてもいい」


 ナディアが手を上げる。


「小さい子用の線には、絵を描いた札を置くと分かりやすいかもしれません」


「いいと思う」


 ミラも黒板を見ながら言う。


「輪の色も分けましょう。どの輪を使えばいいか、見ただけで分かるように」


 遊びが、少しずつ仕組みになっていく。


 ナディアも試した。


 少し緊張していたが、近い棒には入った。


「これなら、小さい子でも楽しめそうです」


「うん」


 ミラも投げる。


 遠い棒は外したが、近い棒にはきれいに入った。


「見ているより、投げてみる方が難しいわね」


「そこが大事だと思う」


 俺は教室の中を見る。


 最初は、みんな少し疑っていた。


 でも、今は違う。


 投げる人を見ている。


 外れたら声が出る。


 惜しいと、もう一度やりたくなる。


 入ると、少しだけ空気が明るくなる。


 反応は悪くない。


 ただ、このままだと人が投げる場所の近くに集まってしまう。


 本番では、待つ場所をきちんと分ける必要がある。


「見る人が近づきすぎると危ないね」


 俺が言うと、クラウスがすぐに頷いた。


「投げる人の横には立たせない方がいい」


 エドガーが黒板に追加する。


「待つ列は横ではなく、後ろに作る。ただし、投げる人のすぐ後ろだと邪魔になる」


 ミラが考え込む。


「景品交換所は、輪投げのすぐ近くに置かない方がよさそうね。遊ぶ人と景品をもらう人がぶつかるわ」


「出口の近くに置いた方がいい」


 俺は頷いた。


「遊びを回って、最後に景品交換。それなら流れが切れない」


 ヴィクトルが輪を拾いながら言う。


「これ、呼び込みしやすいな」


「どういう感じ?」


「一番遠い的に入れたら高得点、とか言えば集まりそうだろ」


 ガイルが真面目に言う。


「遠い的は難しい」


「だから盛り上がるんだよ」


 セレナがすぐに釘を刺す。


「騒がしくしすぎないこと」


「分かってるって」


「本当に?」


「本当に」


 ヴィクトルは笑っている。


 たぶん、少しは騒がしくなる。


 でも、呼び込み役としては悪くない。


 人を集める力はある。


 問題は、集めすぎた時に詰まらせないことだ。


「呼び込みの言葉も決めよう」


 俺が言うと、ヴィクトルが驚いた顔をした。


「そこまで決めるのか?」


「大事だよ。人が集まりすぎても困るし、通路で止まられても困る」


「リオンらしいな」


 それを聞いて、セレナが少し笑った。


「でも、そのくらい決めておいた方がいいわ。品のない呼び込みになったら困るもの」


「また品か」


 ヴィクトルが言う。


「当然よ」


 セレナはそう言ってから、もう一度輪を持った。


 今度は、一番遠い棒を見ている。


「まだやるの?」


 俺が聞くと、セレナは顔をそらさずに答えた。


「確認よ」


 ヴィクトルが小さく笑う。


「完全に本気だな」


「黙りなさい」


 セレナが投げた輪は、遠い棒にかかりかけた。


 だが、最後に外れて床へ落ちる。


 教室のあちこちから、惜しい、という声が出た。


 セレナは落ちた輪を見つめる。


「……もう一度」


 その一言で、ヴィクトルが肩を震わせて笑った。


 ナディアも楽しそうにしている。


 ミラは、輪と棒を見比べていた。


「これ、的の高さも変えられそうね」


「高さ?」


「低い的は入りやすくて、高い的は難しいとか」


 エドガーがすぐに反応する。


「それなら点数の差をつけやすい」


 ガイルも言う。


「重い輪なら高い的は難しい」


 クラウスは安全面を忘れない。


「高くしすぎると、輪が跳ねて人に当たる」


「そこは上限を決めよう」


 俺は黒板に、的の高さについても書き込んだ。


 最初は子どもの遊びにしか見えなかった。


 でも、実際にやると、どんどん調整する場所が見えてくる。


 近い的は入りやすくする。


 遠い的は挑戦用にする。


 輪の重さや大きさを変える。


 投げる位置を分ける。


 待つ場所と見る場所を決める。


 景品交換は出口側へ回す。


 一つずつ決めるたびに、ただの遊びが出し物に近づいていく。


 ベルンハルト先生は、教室の後ろでその様子を見ていた。


「思ったより形になっているな」


 先生が言うと、ヴィクトルが胸を張った。


「やってみると、意外と面白いです」


「最初に疑っていたのは誰だったか」


「確認です」


 ヴィクトルがそう言うと、セレナが少し目を細めた。


「それは私の言葉よ」


 教室に小さな笑いが起きた。


 ベルンハルト先生は黒板を見る。


「遊びそのものより、運営の方が大変そうだな」


「はい」


 俺は頷いた。


「魔法を使わないから簡単、というわけではなさそうです」


「だろうな」


 先生は短く答えた。


「だが、それも学びだ。続けろ」


「はい」


 先生が教室を出ていくと、また話し合いが始まった。


 エドガーは点数表を作り直している。


 ナディアは、説明文をもっと短くできないか考えていた。


 ミラは、輪の色分けと案内札の位置を相談してくる。


 クラウスは、机の置き方で通路をふさがないように確認していた。


 ガイルは、輪の重さを変える方法を試している。


 ヴィクトルは、呼び込みの言葉をいくつか考えてはセレナに却下されていた。


 そしてセレナは、遠い棒にもう一度輪を投げていた。


 今度も外れた。


 だが、さっきより少し近い。


「次なら入るわ」


 セレナが静かに言う。


 ヴィクトルが笑いをこらえる。


 俺はその様子を見ながら、黒板に書いた案を見直した。


 子どもの遊び。


 最初は、そう見えた。


 でも、投げる場所や的の形を変え、もう一度やりたくなる形にすれば、ただの遊びではなくなる。


 魔法を使わなくても、人はちゃんと熱くなる。


 大事なのは、強い魔法を見せることだけではない。


 来た人が自分で手を伸ばし、失敗して、もう一度やりたいと思えること。


 たぶん、そこに面白さがある。


 俺は紙の端に書き足した。


 難しすぎず、簡単すぎず。


 それが、たぶん一番難しい。



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