表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
289/381

第279話 魔法を使わない出し物

 授業が終わる頃には、足の重さも少しだけましになっていた。


 完全に戻ったわけではない。


 机の下で足を動かすと、ふくらはぎにまだ変な疲れが残っている。


 昨日の夜、調子に乗りすぎた。


 それは分かっている。


 ただ、授業中も頭のどこかで、浮遊魔法の感覚は動いていた。


 浮かせる。


 保つ。


 風で揺れを抑える。


 そこに、今度は別のものが重なってくる。


 文化祭。


 ベルンハルト先生は授業の終わりに、教卓へ手を置いた。


「では、朝に伝えた通り、文化祭の出し物について話し合え」


 教室が少しざわつく。


「今日中に完全に決めろとは言わない。だが、方向性くらいは出しておけ」


 先生はそう言って、黒板の横に寄った。


 生徒たちに任せるつもりらしい。


 ヴィクトルがすぐに手を上げた。


「派手なやつがいいと思います」


 早い。


 ベルンハルト先生は、表情を変えずに聞き返す。


「派手なやつとは何だ」


「魔法演武とか、模擬戦とか。せっかく三年Sクラスなんですから」


 何人かが頷いた。


 たしかに分かりやすい。


 三年Sクラスは学院でも目立つクラスだ。


 魔法や剣を見せれば、人は集まるだろう。


 セレナも静かに口を開いた。


「三年Sクラスとして見せるなら、魔法演武は分かりやすいわね」


 ヴィクトルが嬉しそうに笑う。


「だよな」


「ただし、雑な見せ物にするなら反対よ」


「そこは分かってるって」


 ガイルは少し考えてから言った。


「食べ物は?」


 セレナがすぐに振り向く。


「またそこなの?」


「大事だろう」


「否定はしないけれど、今は出し物の話よ」


「食べ物も出し物になる」


 ガイルの言葉に、ヴィクトルが笑った。


「一年の時のじゃがバター、評判よかったし、また食べ物でもいいんじゃないか?」


「あれは一年の時の話だよ」


 俺はそう返した。


 じゃがバターは、たしかにうまくいった。


 でも、同じことをもう一度やるだけなら、少し違う気がする。


 ナディアが小さく手を上げた。


「あの、小さい子も楽しめるものがいいと思います」


 ミラも頷く。


「見るだけではなくて、参加できるものも良さそうね」


 エドガーは黒板を見ながら言った。


「展示なら説明文が必要だろう。人が集まるなら、順路も考えた方がいい」


 クラウスも短く言う。


「魔法演武なら、安全管理がいる。距離と防護も必要だ」


 意見が少しずつ出てくる。


 魔法演武。


 模擬戦。


 魔法道具の展示。


 飲食。


 演劇。


 どれも悪くない。


 でも、どこか引っかかる。


 俺は机の上に指で小さく線を引いた。


 人が入る。


 見る。


 立ち止まる。


 後ろが詰まる。


 魔法演武なら、見ている人は動かない。


 展示も同じだ。


 派手ではある。


 けれど、来た人は見る側になる。


 小さい子や、魔法が苦手な生徒は、ただ見て終わるかもしれない。


 文化祭は、強い魔法を見せる場所なのか。


 それとも、来た人が楽しむ場所なのか。


 俺が黙っていると、ミラがこちらを見た。


「リオン、考えている顔ね」


「少し」


「また何か見えているの?」


「見えているというより、考えてるだけ」


 セレナが腕を組む。


「何か案があるなら、言えばいいでしょう」


「案というか……」


 俺は一度、黒板を見る。


 そこには、まだ何も書かれていない。


「魔法を使わない出し物はどうかな?」


 教室が一瞬、静かになった。


 ヴィクトルが目を丸くする。


「三年Sクラスが?」


「うん」


 セレナも眉を寄せた。


「魔法を使わないの?」


「あえて」


「なぜ、わざわざ強みを外すの?」


 当然の反応だ。


 三年Sクラスが魔法を使わない。


 普通に考えれば、目立つ強みを捨てるように見える。


 でも、俺は首を横に振った。


「強みを見せるだけなら、他のクラスでもできると思う」


 ヴィクトルが言う。


「いや、Sクラスの方が派手にできるだろ」


「それはそう。でも、派手にするほど安全確認が大変になる」


 クラウスが頷いた。


「そこは間違っていない」


「それに、見て終わりになる」


 俺は続けた。


「来た人が、自分で遊べる場所にしたいんだ」


 ナディアが少し身を乗り出す。


「小さい子でも参加できますか?」


「できるようにする」


 ミラの表情が少し明るくなる。


「魔法が苦手な人でも楽しめるわね」


「うん」


 俺は黒板の前へ出た。


 ベルンハルト先生を見ると、先生は何も言わずに頷いた。


 話を続けろ、ということらしい。


 俺は黒板に、いくつかの遊びを書いた。


 輪投げ。


 的当て。


 札合わせ。


 重さ当て。


 景品交換。


「こういう小さな遊びを、いくつか置く」


 ヴィクトルが黒板を見る。


「色んな遊びができるってことか?」


「そうなるね」


「でも、輪投げって子どもの遊びだろ」


 ヴィクトルの言葉に、ガイルも頷いた。


「小さい子がやるものだな」


 その反応も分かる。


 この世界には、前世の祭りの縁日のような感覚があまりない。


 簡単な遊びを並べて、大人も子どもも少しずつ回って楽しむ。


 点を競って、景品をもらって、外して笑う。


 そういう場としては、まだ想像しにくいのだと思う。


 セレナも、黒板の文字を見ながら言った。


「三年Sクラスの出し物としては、少し幼く見えないかしら」


「そう見えると思う」


「なら、なぜそれを選ぶの?」


「誰でも分かるから」


 セレナは少し黙った。


 俺は続ける。


「魔法演武は、見ればすごいと分かる。

でも、見るだけになる。輪投げや的当てなら、やり方はすぐ分かる。

小さい子でもできるし、魔法が得意じゃない人でも参加できる」


「でも、簡単すぎたらつまらないでしょう」


「そこは、作り方次第だと思う」


 俺は黒板の文字を見る。


「ただ遊び道具を置くだけなら、たぶんつまらない。

でも、少し工夫すれば、子どもだけじゃなくて学院生も楽しめるようにできる」


 ヴィクトルが腕を組む。


「本当か?」


「試してみないと分からない」


「お、そこは言い切らないんだな」


「まだ試してないからね」


 ミラが少し笑った。


「でも、試してみる価値はありそうね」


 ナディアも頷く。


「小さい子が楽しめる場所があるのは、良いと思います」


 エドガーはすでに別のことを考えている顔だった。


「複数の遊びを回る形にするなら、点数や景品の仕組みが必要になる」


「うん。そこは考えたい」


 クラウスも短く言う。


「魔法を使わないなら、事故は減る。ただ、人の流れは考える必要がある」


「そこも大事だね」


 俺は黒板の端に、簡単な四角を描いた。


「一つの大きな見せ物にすると、人が一か所に集まる。小さい遊びを分ければ、人も分かれる」


 ヴィクトルが感心したように言う。


「もう配置の話になってるのか」


「大事だよ」


「リオンらしいな」


 セレナは、まだ納得しきっていない顔だった。


「でも、魔法を使わないなら、ただの遊び場でしょう」


「ただの遊び場にしないために、俺たちが作るんだよ」


「どういうこと?」


「初めて来た人にも分かりやすくして、でも簡単すぎないようにする。

遊ぶ人が迷わないようにして、見ている人も楽しめるようにする。

それができれば、ただの子どもの遊びでは終わらないと思う」


 セレナは少し目を細めた。


「……作り方次第、ということね」


「うん」


「なら、実際に作ってみないと分からないわね」


「そうだね」


 その言葉で、少しだけ空気が変わった。


 完全に賛成したわけではない。


 でも、最初のように否定だけではなくなった。


 ガイルがまだ黒板を見ている。


「食べ物はないのか」


「この案だと遊び中心」


「少し残念だ」


「そこは顔に出しすぎ」


 ミラが小さく笑った。


 ヴィクトルが言う。


「でも、景品があるなら人は来るかもな」


 ナディアが明るく頷く。


「景品があると、小さい子も喜びそうです」


 ミラも続ける。


「景品札や案内板も必要ね」


 エドガーが言う。


「説明文も必要だろう。遊び方が分からないと、そこで止まる」


 クラウスは教室の広さを見ていた。


「通路をふさがないようにしないといけない」


「うん。入口と出口は分けたい」


 俺が言うと、セレナがすぐに反応した。


「それと、見た目も大事よ」


「見た目?」


「雑な板を並べて、適当に景品を置くだけなら、三年Sクラスがやる意味はないわ。来てくれる方に失礼があってはいけないもの」


 ヴィクトルが笑う。


「遊びに品って必要か?」


「必要よ」


 セレナはきっぱり言った。


「遊びだからこそ、きちんと整えるの。見た目も、説明も、客の扱いも」


 俺は少し笑った。


「それは助かる」


「当然でしょう。やるなら中途半端にはしないわ」


 ベルンハルト先生がそこで口を開いた。


「方向性は出たようだな」


 教室が少し静かになる。


「魔法を使わない遊び場か。三年Sクラスとしては珍しい」


 先生は黒板を見た。


「だが、悪くない」


 ヴィクトルが小さく拳を握る。


「よし」


 ベルンハルト先生は続ける。


「ただし、正式決定ではない。次回までに、内容、配置、必要な道具、担当をまとめて提出しろ」


「はい」


 俺は返事をした。


 その瞬間、何人かがこちらを見た。


「いや、俺だけじゃなくて」


 ヴィクトルが笑う。


「でも、まとめるのはリオンだろ」


「そういう流れにしないでほしい」


 クラウスが短く言う。


「分担すればいい」


 ナディアも頷く。


「私、説明文なら手伝えます」


 ミラが続ける。


「案内板と景品札は、私も見ます」


 エドガーが言う。


「点数表とルールなら作れる」


 ガイルは少し考えてから言った。


「重さ当ては見る」


 ヴィクトルが胸を張る。


「呼び込みは任せろ」


 セレナは腕を組んだまま言う。


「全体の見た目は私が見るわ」


「全部見るのか?」


「当然でしょう。来てくれる方に失礼があってはいけないもの」


 それぞれの役割が、自然に決まっていく。


 ベルンハルト先生はそれを見て、少しだけ頷いた。


「なら、今日はここまでだ。次までに形にしろ」


 話し合いが終わると、教室の空気は少し軽くなった。


 文化祭。


 さっきまでただの連絡だった言葉が、少しずつ自分たちのものになっていく。


 俺は席に戻り、紙の端に簡単な配置を書き始めた。


 入口の近くには、初めて来た人に遊び方を伝える場所がいる。


 遊びは一か所に固めすぎず、人が少しずつ流れるように置いた方がいい。


 景品を渡す場所は、最後に寄れる位置にしたい。


 待つ場所も考えなければならない。


 ただ、それ以上の細かいことは、実際に試してみないと分からない。


 輪投げは本当に盛り上がるのか。


 子どもの遊びに見えるものを、学院生でも楽しめる形にできるのか。


 まだ答えは出ていない。


 でも、試す価値はある。


 王立研究所にも、また行くことになる。


 浮遊魔法の練習も続けたい。


 やることは増えている。


 けれど、頭の中ではもう、教室に人が流れ込む景色が見え始めていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

続きが気になったら、ブックマークで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
パチンコとか? スマートボールなら実現できそう
リオンを真ん中にセレナとミラが立っているイメージが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ