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45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: アカメノコバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第274話 王立研究所からの手紙

 食堂の騒動が片づいて、数日が過ぎた。


 ヴィクトルは毎回のように皿を見て、


「うん、今日も足りる」


 と言うようになった。


 ガイルも真面目な顔で頷く。


「これなら午後も動ける」


「……品のないことをする人間は、どこにでもいるのね」


 昼食後、セレナが小さく言った。


「今回は小さいうちに分かってよかったよ」


「そうね。そこは認めるわ」


 セレナはそう言ってから、少しだけこちらを見る。


「ただ、次はもっと早く見つけるべきね」


「うん」


「あなたも、見つけたなら一人で抱えないこと」


「そこも言われるんだ」


「当然でしょう」


 セレナは腕を組んだ。


 少し前までなら、すぐ正面から問いただそうとしていたはずだ。


 でも今のセレナは、怒りながらも順番を考えている。


 食堂の件は、小さな出来事だった。


 それでも、何かが少し変わった気がした。


 昼食を終え、教室へ戻る途中で、俺は右腕を軽く回した。


 もう痛みはほとんどない。


 洞くつで噛まれた傷も、医療班からはもう大丈夫だと言われている。


 体が戻ってくると、逆に思い出すことが増えた。


 崩落。

 落下。

 黒い通路。

 クラウスの腕の痺れ。

 ミラの魔力切れ。

 グランリザード。

 グレイラットの巣。


 俺たちの判断が間違っていたとは思わない。


 転移魔法を使わなかったことも、今でも正しいと思っている。


 三人同時の転移は未経験だった。


 階層も分からない。


 周囲の魔力も重かった。


 失敗すれば、俺一人だけ学院へ戻る可能性もあった。


 それは選べなかった。


 でも。


 転移ではなく、浮遊魔法ならどうだったか。


 落下の勢いを弱める。


 崩れた段差を越える。


 足場の悪い場所で、ミラやクラウスの体を少し支える。


 もし、それができていたら。


 もっと安全に戻れたのではないか。


 俺は窓の外を見た。


 中庭の木の葉が、風で少し揺れている。


 「もっと福嶋亮太の魔法理論を読んでおくべきだったな」


 ◇


「リオン」


 声をかけられて振り返る。


 ミラだった。


「また何か考えている顔ね」


「分かる?」


「分かるわ。最近、そういう顔をする時はだいたい何か見つけているもの」


「今回は、見つけたというより、考えてた」


「何を?」


「洞くつのこと」


 ミラの表情が少しだけ変わった。


 重くなる前に、俺は続けた。


「戻れたのはよかった。でも、次に同じことがあった時、もっと安全に動ける方法がないかと思って」


「次に同じことがある前提なの?」


「ない方がいい。でも、ないと決めるのも危ない」


 ミラは少し黙った。


 それから、静かに言う。


「リオンらしいわね。戻れたのに、もう次のことを考えているの」


「どうしても気になっちゃうんだよ」


「なら、無理しすぎない範囲で考えて」


 ミラはそう言って、少しだけ笑った。


 その横から、クラウスが歩いてくる。


「次を考えるのはいい」


「クラウス」


「だが、一人で抱えるな」


「分かってる」


 クラウスはじっと俺を見た。


「その返事は、まだ少し信用できない」


 クラウスは短く言った。


 その言い方が妙に真面目で、少しだけ笑いそうになった。


 その日の放課後。


 授業を終え、寮へ戻ろうとしていたところで、ベルンハルト先生に呼び止められた。


「ハル」


「はい」


「学院長室へ行け」


 一瞬、食堂の件かと思った。


 でも、先生の表情はそれとは違っていた。


「また何かありましたか」


「食堂の件ではない」


 ベルンハルト先生は短く答えた。


「学院長がお前を呼んでいる」


 食堂ではない。


 なら、何だ。


 胸の奥が少しだけ重くなる。


 洞くつの追加報告か。


 亜空間収納のことか。


 それとも。


 俺は頷いた。


「分かりました」


 ◇


 学院長室へ向かう廊下は、いつもより長く感じた。


 扉の前で一度息を整える。


 中から声がした。


「入りなさい」


「失礼します」


 部屋に入ると、学院長が机の向こうに座っていた。


 ベルンハルト先生も後から入ってくる。


 机の上には、一通の封書が置かれていた。


 厚い紙。


 濃い封蝋。


 そこに刻まれた印を見て、俺は少しだけ目を細めた。


 学院の印ではない。


「王立研究所から連絡が来ている」


 学院長が言った。


「王立研究所、ですか」


「正確には、君が以前提出した魔法理論についてだ」


 その言葉で、頭の中に一つの名前が浮かんだ。


 福嶋亮太。


 日本語で書かれていた魔法理論。


 この世界の魔法とは違う考え方。


 亜空間収納。


 転移魔法。


 そして、さっきまで考えていた浮遊魔法。


 学院長は封書に手を置いた。


「研究所は、君の持ち込んだ理論に強い関心を示している。既存の魔法体系とは異なる発想が含まれている、と」


「……そうですか」


「驚かないのだな」


「いつか、そういう話になるかもしれないとは思っていました」


 まったく驚いていないわけではない。


 ただ、福嶋亮太の理論が普通でないことは分かっていた。


 この世界の魔法を知れば知るほど、あの本の異質さがはっきりする。


 学院長は静かに続けた。


「王立研究所は、君から直接話を聞きたいそうだ」


「俺が、研究所へ行くんですか」


「その要請だ。ただし、強制ではない」


 学院長の声は慎重だった。


「君を研究対象として差し出すつもりはない」


 その一言で、少しだけ肩の力が抜けた。


 だが、学院長の表情は緩まない。


「だが、君の持ち込んだ理論が王国にとって重要である可能性はある。

便利な新技術というだけではない。魔法の考え方そのものに関わるかもしれない」


 ベルンハルト先生が横から言う。


「聞かれたことすべてに答える必要はない」


「はい」


「分からないことは分からないと言え。できることを全部見せようとするな」


 先生の声はいつも通り低い。


 でも、言っていることはかなり現実的だった。


「特に、お前の魔法は目立つ」


「亜空間収納のことですね」


「それだけではないだろう」


 ベルンハルト先生の視線が鋭くなる。


 洞くつで、俺は転移魔法の話もした。


 クラウスとミラには説明した。


 だが、使ってはいない。


「行くこと自体は構いません」


 俺は言った。


「ただ、何をどこまで話すかは、先に決めておきたいです」


 学院長は頷いた。


「それでいい。むしろ、そうでなければ困る」


「研究所には、福嶋亮太の名前も伝わっているんですよね」


「うむ、資料にある範囲ではな」


 福嶋亮太。


 その名前が、久しぶりに部屋の中で形を持った気がした。


 この世界の人間ではない。


 学院長は封書を少しこちらへ寄せた。


「返答は急がない。だが、研究所側は早めの面会を望んでいる」


「分かりました」


 俺は封書を見つめた。


 王立研究所。


 魔法理論。


 福嶋亮太。


 そして、まだ俺が使えない浮遊魔法。


 洞くつで、もし浮遊魔法が使えていたら。


 クラウスとミラを、もっと安全に戻せたかもしれない。


 でも、次に同じことが起きた時、同じ手しかないのは嫌だった。


 知りたい。


 食堂の小さな綻びが片づいたと思ったら、今度はもっと大きな扉が目の前に置かれた。


 俺は封書の封蝋を見つめたまま、ゆっくり息を吐いた。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
福嶋さんが帰還できたかどうかが気になります。 異世界での経験値や記憶を保持したままで、16歳の頃の自分として同じ時間と場所の日常に復帰、なんてのだと、「帰れたのは良いけど、どうするんだ、この能力」「お…
福嶋亮太、前世の記憶を持ってこの世界に転生したリオン君と違ってゲームやTVのある日本から16才という若さで、この世界の200年も昔に転移して46才頃に本を書いた人 王国建国に関わったにもかかわらず王国…
あっちの進捗状況もたまには入れてほしい。
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