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【感謝!1000万PV達成!】45歳社長、転生先でハズレスキル「綻びの目」を武器に没落領地を再建する  作者: コバチ
第14章 王立学院三年 二学期

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第264話 第四層の標識

 階段は古かった。


 石の端は欠け、ところどころ黒い苔のようなものが張りついている。


 クラウスが先頭。


 ミラが足元を照らす。


 俺は後ろを警戒しながら上った。


 下には、倒れたグランリザードがいる。


 戦闘音も響いた。


 血の匂いも出ている。


 いつ別の魔物が寄ってきてもおかしくない。


「急ごう。でも、足元には気を付けて」


 クラウスが短く言った。


「分かってる」


 ミラの光が階段の段差をなぞる。


 俺も壁に手をつきすぎないようにしながら進んだ。


 長い階段ではなかった。


 上り切ると、少し乾いた通路に出た。


 黒い岩肌は同じだが、空気が違う。


 さっきよりも湿り気が薄い。


 風もある。


「少し上がったみたいだな」


「でも、安全とは限らないわ」


 ミラの言う通りだった。


 壁には爪痕が残っている。


 横穴もある。


 俺は《綻びの目》を軽く使った。


《魔物通過痕:古》

《崩落危険:低》

《短時間休息可》


 通路の脇に、小さな横部屋があった。


 入口は狭い。


 奥は浅い。


 隠れるには向いている。


「ここで少しだけ確認しよう」


「長くは止まれないぞ」


「分かってる。怪我と残りの道具だけ見る」


 三人で横部屋へ入った。


 中には壊れた木箱の跡と、錆びた金具が転がっていた。


 壁際には、使われなくなった魔力灯の台座らしきものもある。


 昔は人が使っていた場所なのかもしれない。


 今はただの空き部屋だ。


「クラウス、腕は?」


「痺れは残っている。だが、剣は振れる」


 クラウスは右腕を軽く回した。


 動きは悪くない。


 だが、さっきの衝撃は残っているはずだ。


「無理はしないで」


「ああ」


「ミラは?」


「光は出せるわ。ただ、さっきみたいに強く弾けさせるのは、何度もできない」


 ミラの顔にも疲れが見えた。


 俺も同じだ。


 魔力弾を続けて使ったせいで、頭の奥が重い。


 亜空間収納から替え石と薬草を確認する。


 回復薬もまだある。


 ただ、余裕があるとは言えない。


「次からは、相手次第だけど、できるだけ戦わない」


 俺は小声で言った。


「倒せても、消耗が大きすぎる」


「同感だ」


 クラウスが頷く。


「あの一体で、かなり削られた」


「私も光の使い方を絞るわ。必要な時だけ強くする」


 短く確認を終え、俺たちは横部屋を出ようとした。


 その時、ミラの光が壁の奥を照らした。


「待って」


 ミラが足を止める。


 壁に、割れた石板が埋まっていた。


 古い標識だ。


 文字は削れている。


 だが、一部は読めた。


『第四層 管理通路』


 ミラの顔から血の気が引いた。


「……第四層?」


 クラウスも標識を見つめる。


「ここが、四層目なのか」


 俺はすぐには答えられなかった。


 俺たちは二層目から落ちた。


 階段を一つ上って、今いる場所が第四層。


 なら、さっきまでいた黒い通路は。


 グランリザードがいた階段の下は。


 少なくとも、四層目ではない。


 もっと下だ。


「五層目……」


 ミラがかすれた声で言った。


 その言葉で、横部屋の空気がさらに重くなった。


 ベルンハルト先生は言っていた。


 三層以下には降りるな。


 三層から下は、魔物の質が変わる。


 俺たちは、そのさらに下まで落ちていた。


「上へ行こう」


 クラウスが先に言った。


 声は硬い。


 だが、折れてはいない。


「ここが四層目なら、次は三層目を目指す」


「うん」


 俺は頷いた。


「三層目まで上がれれば、先生たちと合流できるかもしれない」


「でも、三層も安全じゃないわ」


「分かってる」


 安全な道はない。


 ただ、上へ向かう道はある。


 それだけで十分だった。



 二層目の崩落地点では、救助の準備が進んでいた。


 他の班は入口へ戻され、補助員たちが点呼を取っている。


 崩れた穴の前には、ベルンハルトと管理人がいた。


 床に広げられた古い図面を、二人が見下ろす。


「この辺りが二層目東側です」


 管理人が指で示す。


「崩落先は?」


「穴の角度から見て、三層で止まったとは限りません。古い管理通路へ落ちた可能性もあります」


「下層図は正確か」


「正確とは言えません。封鎖された通路もありますし、崩れた場所も多い」


 ベルンハルトは図面から目を離さなかった。


「穴を広げるのは?」


「危険です。二次崩落が起きれば、下にいる者を巻き込む可能性があります」


「なら、別ルートだ」


 ベルンハルトは顔を上げた。


「三層以下に入れる教師と補助員を集めろ。魔力灯、ロープ、回復薬も追加。王都側にも連絡を出せ」


「はい」


 補助員が走る。


 管理人が不安そうに穴を見る。


「生徒たちは……生きているでしょうか」


 ベルンハルトは少しだけ黙った。


「ハルがいる」


 短い言葉だった。


「動けるなら、あいつは考える」


 その声は静かだった。


 だが、焦りがないわけではない。


 ベルンハルトは崩落穴の奥を一度だけ見下ろし、低く言った。


「待っていろ。必ず見つけるからな」



 俺たちは標識の前に立っていた。


『第四層 管理通路』


 その文字を見てしまった以上、もう楽観はできない。


 だが、立ち止まる時間もない。


「進もう」


 俺は標識から目を離した。


 通路の先は二手に分かれている。


 左は広い。


 だが、壁の爪痕が多い。


 右は狭い。


 その代わり、かすかに乾いた風が流れている。


 俺は《綻びの目》を使う。


《広路:魔物通過頻度高》

《狭路:通行可能》

《上昇気流微弱》


「右だ」


 俺はすぐに言った。


「狭いけど、風がある」


「分かった」


 クラウスが前に出る。


「光は抑えるわ」


 ミラが光球を胸元へ寄せた。


 第四層。


 その文字を見た以上、もう甘く考えることはできない。


 俺たちは二層目から、想像以上に深い場所まで落ちていた。


 けれど、上へ続く道はある。


 細くても、危なくても、進める道がある。


 俺たちは第四層の標識を背にして、さらに上を目指した。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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